(没作品集) 異世界転生譚-1st. World Trigger   作:無狼

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第7話「4年後の記憶/4年前の空白」

 

翌朝。平成25年6月2日。

まだ朝日の心地よい暖かさが続く新緑の時期を迎える。

 

「おはよう、寝ぼすけさん。」

誰かの声で私の意識が目覚める。

 

目を開けると、脈拍とバイタルチェックを測定するための医療ピンチと、その先に伸びている測定器モニターの画面が確認できた。

 

正常な「心拍数」「最高・最低・平均血圧測定値」。 ほか「トリオン量」「生体血液レベル」「免疫反応チェック」「脳波」「水分状態」「血中濃度のブドウ糖数」……など。見慣れない文字と図の配列が並んでいた。

 

その隣には、カードホルダーとは別に医療用デジタルメモでカルテを記入する小神林と、もう一人病院の看護婦が点滴液パックを交換していた。

 

透明な維持液と、また新しい血色の製剤パック「抑制剤」を点滴棒から取り替えてくれた。

看護婦がナースセンターに戻る頃に、物語は再開する。

 

 

小神林「一応は健康そのものだね。後遺症も見受けられなかった」

   「点滴が終わったら、もう出歩けるようになるよ。」

お、もう大丈夫なのか。

   「うん。ああそうだ、窓口で会計しなくて平気だから。」

   「ボーダーの隊員はトリガーホルダーで管理されてるから、」

   「もう帰宅して大丈夫。・・・その前に、」

   「点滴が終わったら、業務用エレベーダーで地下に来て。」

わかった。・・・ところで小神林。

   「ん、なに?」

4年前の・・・鬼塚やレイランドに、清水は元気にしていたか? 忍田本部長に城戸司令に・・・迅や林藤支部長も。  

 

  「ああ、そのこと。みんな元気だよ。」

   「地下に来たらそれも含めて『メモリー』で、と思ってたけど。」

   「悠一と林藤支部長は今も『あの場所』でやってるよ。

   「玉狛支部でレイジも、桐絵もいるよ。3年前に烏丸と宇佐美が入った。」

そうか、4人ともいつも通りか・・・変わらないな。烏丸と宇佐美は・・・あの子たちか。

 

   「・・・実は、3年ぐらい前なんだけど、ちょっとあって。」

うん?ちょっとあったとは何だ。

 

   「迅さんが持ってた風刃、覚えてる?」

ああ。ボーダーの本部に納めてたあれか、あの黒トリガーがどうした?

   「・・・あの風刃の争奪戦があって。」

   「初めは本部に置いて緊急時に、誰にでもー・・・って話だったんだけど、」

   「城戸司令が『使える物を使わないでどうする。』って事になってね、」

 

   「風刃は強力でもちろん多くの人が扱えるけど、最上さんの形見といえば・・・」

ああ、迅が最初から持っていただけに、思い入れもあるわけか。その心は?

   「・・・城戸司令は迅に持たせたかったのはそうなんだけど、口実が必要で。」

   「後は、ある程度強くなったみんなと競わせて、全体の部隊力の確認とかあったけど・・・」

   「無事に悠一が勝てたんだけどね?・・・けど、城戸司令がS級隊員を設けちゃって、」

   「特に太刀川と一条と、他の人たちともランク戦できなくなって、距離ができちゃってね・・・」

ああ。

 

そのことか、それなら心配しなくていいだろう、迅も知った上で”勝つ”事を選んだんだ。 大丈夫。”迅は戻ってくる”から、それまでは迅の好きにさせてやってくれ。

 

   「・・・ああ、うん。・・・」

納得はいってないかもしれないが・・・その先の未来で、迅は必ず戻る。

   「・・・まるで悠一みたいな言い方。」

   「そういう大事なところだけは、無駄に覚えてるんだから・・・」

ははは、悪いな。俺が”外からやってきた住民”で。

   「・・・いい。未知の確率に賭けるよりは、安牌を選ぶ。」

   「蛇足だけど・・・まだ建悟の秘密、明かされてないから。気をつけて。」

もちろんだ。・・・物わかりがよくてオジサン泣いちゃうよー

   「急な年寄りになるな!もっと若くなりなさい!」べしっ

あいた、本気で殴らないでくださいよー。・・・ま、迅たちのことは心配いらないさ。

   「とかいいながら、ふざけてるくせに・・・んで、忍田本部長と城戸司令は相変わらずよ。」

   「やたらと近界民の排斥が気になるけど、忍田本部長がいいストッパーに。」

そうか、忍田本部長はお疲れ様だな・・・なんか送っとくか。

 

   「林藤と3人でラーメン屋にでも行っちゃえば。またラーメン屋が新しくできたし。」

お、そうか。その案で行こう・・・小神林は?

   「・・・あたいも行こうかしら。たまには。」

よしきた、それでは今日午後イチか夕方だな。

   「午後イチ・・・いるよね、うん。」

いるだろう、何も起きてなければ昼ぐらい。

   「そうね・・・城戸司令、密航事件にかなり熱を入れてたから、いるといいけど・・・」

城戸さんもたまに息抜きさせないと、貯めに溜め込んで晩酌やらかすからなぁ。

 

・・・あとはどうだ?

 

   「あたいたちのこと? 清水は・・・ボーダーでシューターの指南役やりながら、」

   「ちゃんと『防衛ラインのシフト』に遅刻せずやってるよ。元気にしてる。」

そうか、・・・たまに泣いてたりしなかったか?   「うん、泣いてた。何日かしたらすぐに戻ったけど、やっぱり心配だったと思う。」

 

   「あのレイランドも心配してたよ、鬼塚は・・・なんか済ませた顔だったけど。」

お、そうか。鬼塚は・・・まぁどうじないからな、山みたいな男だし。

   「レイランドと鬼塚は・・・んー、何やってるか分からないけど、とりあえず元気。」

   「二人は建悟が居ない間、車とバイクで遠征してたよ。ここしばらくは・・・何も無かった。」

そうか、それならよかった。

 

・・・小神林はどうなんだ?

   「え、あたい?あたいはほら、見たとおりじゃん。」

   「研究も捗ってる。今は・・・無人機のトリオン兵の運用を研究してるところ。」

   「予備隊の存在で、正隊員の子たちの負担が軽くなってるのは事実なんだけど・・・」

   「やっぱり、準備に時間が掛かってしまうのも事実だし、常にいるとは限らないしね。」

ふんむ。・・・運用の研究ってことは、既に実用段階を終えたってことか?

   「終わったよ。ルミネセンサー事件が落ち着いた頃で、予備隊の創設と同じぐらい。」

   「一体あたり、正隊員のノーマル・トリガーホルダー6本分とコスト高いけど・・・」

   「防衛用トラップよりも融通性あって、継続運用が24時間いつでもできる。」

   「今は『防護』をコンセプトに考えてる。予備隊がいても、壁が無いとね。」

ほう、身代わりの肉盾ってところか。

 

   「うん、グラスホッパーを取り入れた高反発性シールドと孤月を基準に、」

   「今後はスナイパーモデルや迫撃砲型とか、火力支援も視野に入れてる。」

ふむ、問題は予備隊とどう折り合いをつけるか、か・・・。

 

強すぎても、予備隊のメリットを殺してしまうし、逆に信用性や耐久性がなければ、動かない壁となってしまうわけか・・・ あくまでガードがメインで、アタックは補助的なものかな?

   「今のところはそれで考えてる、防御オンリーは・・・」

   「考えたけど、市民救助や護衛も兼ねてるし、ある程度の自衛力を持たせたいかなって。」

ふむ・・・いっそのこと、私の隊の中でのみ、運用を限らせていいかもしれないな。

 

本部に支給したとしても、御厨の技術をすぐ提供できるわけもないし、三門市内でロボット関係の事故が起これば面倒だろう。防衛用と言っても、とらえ方次第で戦争兵器と見做されるだろうし。

 

   「・・・そうだね、本部に一度伝えて保留にさせてみる。」

   「城戸司令はかなり喜んでたんだけど、忍田本部長が懸念してるみたいだから。」

ふむ・・・私たちの部隊で運用を確立させてから、本部にあげるべきかテストしてみよう。 実地訓練場で出してみたことはあるのか?

 

   「うん、あるよ。太刀川や緑川と、あとは冬島隊も、風間隊も、三輪隊も。」

   「けっこう戦いがいあるって。あたいの作った学習情報共有システムが、」

   「遠征先の人型ネイバーを相手してるようで、毎回対処が違ってやっかいだとか。」

ほう、学習したことを共有するのか?面白い発想だが・・・その欠点は?

 

   「・・・親機がつぶれたら、共有サーバが機能しなくなること。」

   「司令官の機体と子供の機体を取り入れてみたら偶然できたんだけど、」

   「その親機がリンク先としてそれぞれ子機がアクセスしてダウンロードするの。」

   「その親機から通信状態がよければ1キロ以上はいけるんだけど・・・離れちゃうと、」

   「各機体で得られた情報がアップロードできなくて。」

   「だけど各機体が保存できた学習情報さえ直前まで更新できてれば、」

   「幾らかはいける。オフになった途端・・・各機ごとになっちゃうし。」

   「命令プログラムの付与も各機ごとやらなきゃ、だし。」

 

・・・かなり進んでるな。

自律プログラムでも完成したのか?

   「当然でしょ。人間情報のプログラムも完成したし、擬人モードも問題ない。」

   「一応人に似せるために、擬似生体皮膚や人体様シリコンでオーダーメイドすれば、」

   「生身の人間に近づけられる。必要な生体外器とかつければ、より人間っぽく。」

・・・もはやバイオロイドの域だな、さすが御厨だ。

   「褒めても何も出ないよ、・・・必要なら作るけど?えろい方面の。」

いやいや、私には興味ないよ。

 

・・・だがなるほど、そういう需要で作れば「密偵や暗殺」も行けなくはないか・・・記憶の植え付けもできるのか?それこそ人っぽく。

   「当然できる。いちから作って戸籍登録さえしちゃえば、子供だって作れる。」

   「・・・成長まではさすがにプログラムでいけても、物理的に出来ないから、」

   「子供の状態から大人までの成長、ってのは難しいかな。」

   「物理的に替えていいなら、似せて遺伝子操作した擬似生体ユニットを組み込めるし。」

・・・かなり脱線したな。現状はそういったところか・・・

 

 

小神林「うん、みんななんだかんだで元気だよ。大規模な侵攻も無かったし・・・」

・・・そういえばなんだが、本目支部か?いつから出来たんだ。

   「うん?ああ・・・4年前の冬ごろよ、あの事件終わったあたり。」

   「他にも一人・・・もう一体含めれば、部隊としては全員で7人だよ。」

ふむ。・・・確か支部なんてなかったはずなんだが、私が作ったのか。

 

   「そうだよ。出来た後に・・・、他の支部ができたんだ。」

   「他の支部はどちらかっていうと、事務所みたいなかんじ。」

   「募集事務とかスカウトをメインでやってるみたいだけど。」

 

そうか。

・・・山の上に有ると聞いたが、私の支部はどんなところなんだ?

   「えーと、・・・地下のメモリーで教えるね。その方が早いかも。」

   「建悟には『時間が無い』って、何度も言われていたから・・・?」

時間が無い?

   「ええ。建悟ともう一人の建悟にしか分からない、何かだと思う。」

・・・あいつか。

 

【向カエ】

 

っ!?

私はとっさに後ろを振り向いた。

   「!、ど、どうしたの?」

・・・なんでもない。…いや。小神林。

   「あ、はい。」

・・・後回しにしたら嫌な予感がする。今からでもいいか?

   「え、でもまだ安静にしないと」

いいから。

 

・・・きっと自分【御前】のカン【役目】だから。

   「・・・。」

 

小神林は何も言えなかった。

 

 

建悟に言われるまま、朝の病院食を済まさせず、地下の「トリオン生体医科学研究科」まで病院関係者の直通・専用業務エレベーターで降りていく。

 

エレベーターで揺れ動く中、建悟は思い出す。

もう一人の存在「Xnij」を。

 

大事な事を思い出して、いや『思い出させられていた。』

既に私は「生き死にを繰り返して、”この世界”に戻ってきたのだと。」

 

始まりの世界。初めて建悟が訪れた、一番最初の「ワールドトリガー」。

 

この世界でやり残したことがある。

 

私は”まだ、ここでやらなくてはいけない事”が残っている。

『吾は彼奴に、果たさねばならぬ誓いを思い出させねばならぬ。』

 

 

 

《To Live To Think》

【toℓivετoτhιηκ】


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