(没作品集) 異世界転生譚-1st. World Trigger   作:無狼

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RE第9話「人の正義とは絶対ではない。悪も時に必要だ。」

 

翌朝の6時。

一方別の話では、三雲と迅、後をつける米屋と三輪が互いに合流する日だ。

 

 

 

 

空は眠りから目覚めた。結局、深夜3時までやっていたのもある。

・・・しかし、「身体の眠り」が必要と無くなったこの身体では、

肉体の為の休眠は意味をなさなくなってしまったのだろう。

 

・・・理由は分かっている。

 

「時の乖離」

 

どういう原理か、まだ私の中では解答を得ていない。

もたらす影響はどうやら、肉体と精神の乖離によるもので、

「精神と器が噛みあわず、器の肉体が疲れを忘れている」ようだ。

・・・つまり、状態を知覚できず、無理な過労によって急に倒れる意味を指す。

 

腹も空かない疑問も、喉が渇かない疑問も浮かばなかったのは、このためか。

 

「・・・厄介だな。感じないのはいいが、体調管理が必要か・・・」

 

アナログの時間で「生きる肉体」。

デジタルの時間で「繋がる精神」。

いつ、この世界から精神を手放すか分からない、恐怖。

 

・・・だが、恐れていては進めない。

 

 

「・・・いまさら、か。」

 

 

 

 

用意されていた、ボーダー刺繍の入った白ワイシャツと黒ズボンに着替える為、

部屋のバスルームを借りて入浴しようとする。・・・まずは身支度をしよう。

 

ついでに右眼の眼帯と義眼の調子を見ようと、一度取り外す・・・・・・そうとした、時。

 

 

その右眼には

 

蒼く、くすぶる灰燼をまとい、

 

うつろに輝く、

 

蒼き灰燼の炎を・・・眼窩に宿していた。

 

 

 

 

「!?」

「・・・これは、なんだ?」

 

 

思わず、触れてみようとする。

・・・温度も感じない。眼窩の何も無い感覚も分かる。

【透視】で骨格、筋肉組織、内臓もスキャンするように、

右眼周辺を眺め視たが・・・何も無い。・・・鏡越しでも見えるのか。

 

 

「・・・・・・」

かつてこの前の世界で立ち寄っていた、薬局屋の歯ブラシと歯磨き粉を、

手元に鋭角時間の歪み空間で「アポート」を行ってみた。

 

・・・右眼の蒼き灰燼の炎は、揺らめいた。

・・・不完全ながら、ティンダロスの猟犬の混血としての力らしい。

 

ティンダロスの猟犬。・・・遙か昔、確か『2度目の命』を得た頃の世界。

前の世界に現れた存在は、全て「猟犬」たちだ。

全て、「生命の時間に忌み嫌われた、存在消滅者の総称」であり、

生物としての存在すら消えれば、非常に不快な捕食者のモンスターに成り代わる。

元人間だったものもいるが・・・、破綻した倫理観と失われた理性に支配されている。

 

 

「私は、誰の「記憶にも無い存在の男」、か。」

「はは、・・・猟犬にはなりたくないな。」

 

 

身体はまだ、人間なのだ。

今はまだ人間なのだと、心の中でそう思いたい。

既に何回も死に、輪廻している時点で、人間を辞めているが・・・

 

 

「・・・・・・。」

 

 

今は、まだ人だ。

だが、何を持って今を生きている。

全てを忘れつつある記憶、今を刻みつつある記憶、

・・・「矛盾ばかり増えていく、つじつまのあわない思い出」

 

 

「・・・・・・わたしは、おれは、誰だ?」

「・・・何のために戦い、生きて、死んだ?」

「繰り返されるのは、ごめんだ、なぜ、おわらない」

「・・・・・・終わってたまるか、今を、生きたい・・・・・・」

 

 

入浴を済ませ、ひげを剃り、「三分の坊主頭」に髪を刈り落とす。

着替えをすませれば・・・もう7時。食事に向かうか。

この時間帯は確か、食堂のおばちゃんが窓口を開けているところだ。

 

そのためには、金か・・・。

 

「・・・。」

 

 

この世界では、私の存在は無かったようなものだ。

名入りの身分証を別に作ってもらっているが、

今持っているボーダー身分証は「登録順番号」のみが記載されている。

 

・・・名前不明、出生年不明、戸籍不明、出生場所不明、経歴不明、

あまりにも、「存在証明」が無いと、不便なことこの上無い。

まぁ、今なら政府のインターネット・サーバーに侵入できるし、

クラッキングして「架空人物上の記録」の作成もできる。

 

・・・だが、「物理」、つまり紙媒体の出力は無理だ。

特に卒業証明、戸籍に関する膨大な資料、それらは組織の力が必要だ。

 

 

物や金なら実際、どうにでもなる。

今の「猟犬」としての力なら、閉まったレジから紙幣をかすめ取ることも、

カジノや銀行の金庫からいくらでも「証拠無く取り寄せられる」し、

「金の浄化」をすれば痕跡を抹消することも、複数の口座に入れる事もできる。

 

 

「・・・何を考えているんだろうか。」

「今はすべきではないはずだが・・・」

 

 

・・・だが、そんな気分ではない。金を持っていても不自然だ。

水分は済ませたが、腹が減っているわけではない。

自分のために食べなければならないが・・・朝ぐらい、抜いても問題無い。

 

 

・・・それに、「携帯電話」や「運転免許証」、

日本での「戸籍と住所」、「パスポート」、「クレジットカード」、

最低限それらがあれば、この世界ではうまくやっていける。

 

まずは「携帯電話」と「運転免許証」を確保しにいくか。

 

 

トリガーホルダーと共に置き手紙を置き、【座標地点】を憶えてから、

ボーダー身分証を持ち、部屋を出ることにした。

 

――――――――――

 

 

今は静かな界境防衛機関の2階フロア。

そろそろ学生達が1階で集まるか、ここから学校まで通うはずだ。

 

 

・・・トリガーホルダーを使うことができれば、光学迷彩で身を隠せるんだが・・・

常に発信器や監視がついているようなもののため、悪用はできない。

 

 

・・・新弓手町駅最寄りの公衆トイレ先まで、ワープする。

 

 

――――――――――

 

 

よくワープする先の一つ、個室の中で【透視】と【千里眼】を試みる。

・・・まずは金と財布。・・・1km先のコンビニレジから、1千円札と1万円札を1枚ずつ。

近くの衣服販店から・・・財布と、肩掛けカバン、長袖白Tシャツ、茶系の帽子、白眼帯、

ハンカチ、ナイロンベルトと青いジーパンを手元に転移させた。

 

 

「・・・・・・」(ごそごそ)

 

これに着替え、一般人っぽく装う。この姿の方がラフだし、

普遍的な方が「警察に追われるような事件が起きても、攪乱しやすい。」

 

 

 

 

着替えを終え、外に出る。・・・コツコツと革靴の音を響かせる、

サラリーマンやサラリーウーマン。・・・そうじゃない若者や、学生。

老人、赤子を連れた女性、カップル、不良、・・・・・・誰もが、生きている。

 

羨ましい、と思った。普通が、こんなに羨ましいとは。

 

 

「・・・(さて、まずは携帯だな・・・連絡手段が欲しい。)」

 

 

携帯電話を持っているか持っていないかで、インターネット上の信用が段違いだ。

特に携帯会社のメールアドレスだった場合、それだけで信用に足るとして扱いが良い。

・・・「それに、何度も利用している」。

 

 

とある大手の「通信の信頼性が高い」携帯会社のビルのテナントにやってきた。

よく訪れたこの販売店は、記憶に強く残っていたし、「なんとなく動きが分かる。」

それに今の朝の時間帯は開いていない。侵入するにはちょうど良い。

――――――――――

 

音も無く、「侵入者対策用警報」すらすり抜けて、店内に入る事ができた。

さて、起動するか・・・・・・(【過去視】で、パスワードや、店員の動きを見ていく)

 

 

空は悪意に手を染め、「当時のiphone5」を手に入れる事ができた。

自身の携帯番号を登録し、【架空の個人情報】を登録し、操作を完了させた。

 

 

「・・・次に行くか。」

【過去視】で自分が訪れた"前"の様子に戻しながら、パソコンを落として、消えていく。

 

――――――――――

 

次は・・・運転免許センター。だがその前に「証明写真」を用意する必要があった。

これは生前の知識から「自分で三脚を立てて、スタジオライティングにして撮れば」

いいが、「プリントする」場所が必要だし、わざわざその労力をするのも面倒だ。

 

 

証明写真の営業を行っている写真館で撮ってもらい、

自動車免許用の写真サイズを何枚か印刷させ、USBメモリにデータを入れてもらった。

 

 

・・・そして、ここからは遠いが、【東京都】の運転免許センターまでワープする。

・・・このワープの感覚、気がついたらそこにいたほど、もう慣れてしまったな。

 

――――――――――

東京都外のとある運転免許センターでの昼休みになる頃、

「本当のぼや騒ぎ」が発生する。

 

全職員と交付予定者達が逃げ惑い、大きな火災に消防隊が駆けつける自体となる。

・・・一体なぜ火災が起きたのか、原因は不明だが、タバコの消し忘れだろうと言われている。

 

・・・その裏では、とある男が火事場に紛れて、運転免許カードの製造を行っていた・・・。

――――――――――

夕方になり、冬の時期で既に日が暮れて暗くなった頃。

茶系の帽子に白の薄い長袖Tシャツに、青ジーパンと黒肩掛けカバンの男が・・・

都内のチェーン店の席で、コーヒーを片手に一息ついているところである。

 

 

・・・今頃、ボーダー隊員総出で"ラッド"の駆除に動いているところだろう。

明日の朝は・・・確か、空閉と雨取、三雲が出会うはずだ。

一応、手紙にも書いた通り「明日には帰ってくる」と書いてあるし、

・・・それに、私が向かわないと「雨取は攫われる。」

 

私が向かうことで、空閉が合流できる時間を短縮でき、三雲とも合流できる。

「アフトクラトルの連中」の、ラービット(プレーン体)が一体送られてくるからだ。

どういう口で知ったか知らないが、雨取の膨大なトリオン量のことを知っており、

 

「金のひな鳥」として初めから狙いに来ている。・・・ラービットはそのテスターだ。

空閉が対応したところで、・・・ハイレインとミラの漁夫の利で、誘拐される。

雨取はこの世界ではキーマンであり、「このボーダー」全体が実は危うくなる。

 

・・・今の能力なら、仮に攫われたとしても、一方的に取りかえせるだろうが。

 

 

「・・・・・・とりあえず、疲れたな。」

 

 

淹れたてのコーヒー豆のアメリカンコーヒーと共に、

卵入りサンドイッチを食べて流し込んでいく。

明日、どう動こうか考えつつ、「古き未来の記憶」を掘り起こすのだった。

 

 

 

 

ポッケの「iphoneと大型普通自動・大型自動二輪運転免許証」を確かめてから、

店の外に出る。道行く道路の人々と歩きを合わせながら、暗い裏路地に入る。

男が消えた先は・・・・・・今度は「旧弓手町駅」前へと。

――――――――――

 

 

あの日から放棄されている、駅前の小ぎれいな一軒屋の家に入り、身を休ませる。

・・・昔、そば屋だった店の2階だ。店主が生活していたらしき、家具が多くある。

畳敷きの部屋の上に寝っ転がり、窓ガラスから見える真っ暗な星空を眺める。

 

 

9時をまわり、もうそろそろ寝静まる頃だろう。

・・・毛布を借り、カナディアンウィスキーを少しだけ嗜んで身体を温める。

 

「・・・そういや、メビウス吸ってなかったなぁ・・・。」

ずっと忘れていたが、メンソールのタバコを吸わなくて久しい。

 

 

・・・明日にでもしよう、と心を切り替えて、明日に備えて眠るのだった。


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