(没作品集) 異世界転生譚-1st. World Trigger   作:無狼

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(次回投稿、今週末?と思われます、
安定した投稿期間が作れず、ペースの維持が難しいものです。)


RE:11話「何回目かの戦闘、しかし」

「…ごばッ、!!」

 

 

明暗を繰り返す意識の中、強烈な血の匂い。

目の前に広がる腹先に、【破裂した臓物の鮮紅血】。

 

記憶が遠ざかり、感情が近づいてくる。

止まった脳に傷ついた血流が周り、思考が開始する。

遅い痛みと共に、耳元で通信音声が徐々に聴こえて。

 

 

 

 

『ちょ、ちょっと、空さん!? 逃げて!』

 

 

沢村さんの通信が聞こえる。…遅れて。

エンストした脳を繋ぎ直して、意識にリンクさせる。

 

 

恐らく、"確かに倒したはずのヤツ"が、

私の腹を後ろから掻っ捌いている。

…痛覚と共に視界は嫌なほど明るくなり、

頭が醒めて、耳が冴える。状況が視えてきた。

 

 

理由はよく分からないが、なぜ、

「…1体だけ、倒せていない…か…?」

 

 

…考えるだけ無駄だ。

今できる事に集中しよう、それが最善の一手。

目標のトリオン供給器官、距離にして1m。

 

 

応射は可能だが、アイビスの射線をずらされて、

いらぬ被害を被る可能性が高い。

何より、"生身"の状態だ。…こういう時にこそ、

簡易トリオンナイフがあれば、不意打ちも簡単だが。

 

 

 

「・・・・・・!」

 

血を失い、もうろうと薄れてゆく意識の中で、

もう一度だけ「トリオンの戦闘体へ換装」を試みた。

 

……Trigger,transform.

......

...

Success.

【界境防衛機関としてのシンボル】を汲んだ、

番長を彷彿とさせる、大正時代のバンカラスタイル。

 

 

同時に、トリオン戦闘体換装時の特性として、

「ラービットの腕からズレた地点」に出現した。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

びゅぅ、となびく風の音に、翻る外套の衣摺れ音。

 

時代錯誤な「大正風の学徒」の、静かに腕を組む姿。

 

着古されて破れたように見える黒服に、

黒く周りを寄せ付けない重圧なマント。

ズボンの下から覗かせる、粗末な木の一本下駄。

 

 

そして、学生帽と…右目に何重も巻かれた白き包帯。

 

 

沢村 『無茶よ! いくらトリオン体に戻っても、死に急ぎよ!』

『嵐山隊を向かわせてるから、今は退いて!』

 

 

ラービット「…!」

 

「…ふんっ。」

 

 

沢村補佐の通信を気にも留めず、直立不動のまま、

 

振り返る。…ラービットの血に染まった右腕が、空へ…

 

 

"空の左側へと、軽く捌かれた。"

 

 

 

 

 

 

軽く捌かれてしまったその右腕は、

地面に突き刺さり、相手も分かったようにすぐ引き抜く。

 

 

互いに睨みを利かせ合う中、ジリジリと擬音が聴こえてきそうだ。

…ラービットから動いた。

 

距離を詰めつつ、両手で攻守の構えを取る動きに対し、

番長スタイルの空は腕を組んだまま、突っ立っていた。

 

 

構えを取らず、されど「咄嗟に動ける」自然体は、

回避にとても適しており、反撃の機会を望める。

"衝撃を受け止める防御"にはあまり向かないが…

 

 

「…脆いッ!」

空はラービットが突き出した右腕を文字通り、

 

 

一本下駄で"右腕ごと蹴り飛ばす"。

間髪入れず、背後に【エスクードを展開して】、

右手に【固定したシールド】を展開し、

…ラービットのトリオン供給器官ごと打ち砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

トリオンの煙が上る直前に到着した嵐山隊はただ、

空のその戦闘スタイルに畏怖を覚えるだけだった…

------

沢村の警告や嵐山隊の心配をよそに、

空は何も言わず、お得意の鋭空間のテレポート能力で

その場を後にする。

 

開発本部の「トリオン医療部門」に一人で訪れる。

 

…前の世界では「トリオン体化」、

いわばサイボーグ手術に等しいレベルまで進んでいたが、

この世界のトリオン医療技術は、果たしてどうか……。

 

 

「(…血を失い過ぎたか、トリオン体でも頭が回らん…)」

 

 

傍目には何とも見えないが、

生身の身体は多量失血と臓器破裂の重篤状態。

 

 

だんだん覚束なくなり、トリオン体がチラつきだし、足取りがおかしくなっていく中…扉を開けて、中に入る。

 

 

 

---

ここはトリオン技術を医療、生体研究に転用する部門エリア。

開発部門の小さな、しかし重要なトリオン医療部門だ。

 

 

現役の医師、歯科医師、看護師、生化学研究者などからなる、

生身への医療技術のスペシャリストからなる、

30名のこのチームは、延命処置まで確立させている。

 

 

医療チームに所属する[橋下 文雅]は、

ボーダー創設期から入る救急医療科の看護師だ。

 

初めはボーダー専属の准看護師として採用され、

才覚とその献身性から期待されて職員として所属した。

4年前こそ、常に物もトリオンも不足し、

トリオン医療技術が不確定で血に染まる事もあったが、

 

今では手順も方法も確立され、治療期間も短くなった。

生身の状態で四肢欠損や臓器の代替えは不可能だが…

 

多量出血による出血性ショックや、熱中症の治療、

また軽微な怪我の回復が見込めるようになっている。

重症患者や救急搬送の対応にも備え、夜間組も居る。

 

 

 

 

…トリオン医療部門の自動スライド扉が静かに開いた。

おぼつかない足取りで、だがトリオン戦闘体の…

 

橋下「うん? どうさ……ちょ、ちょっと!?」

 

 

トリオン体が解け、腹部が大きく裂かれて腸が露出し、

ポタポタと血が垂れ落ちていく空が崩れ落ちるまま、

そのまま意識を手放す。

 

 

ここで彼の記憶が途切れたようだ。


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