異世界転生譚-1st. World Trigger   作:無狼

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RE第12話 [孤独な偽善/密かな身支度]

[ボーダー医療チームの看護師、橋下 文雅の回想]

 

 

私は俗に貧血と言われる、虚弱体質の体だった。

 

幼い頃は言われるままに、いい子を演じてみた。

だけど、無意識のうちに心を歪めてしまうし、

疲れに気がつかなくて豹変したかのように、

周りの見る目が途端に様変わりする。

 

皮肉にも、親もそんな私に呆れた。

みんな、初めからワガママなんだ。

自分が一番で、他人なんて、自分が生きる為に演じて、

作り上げた仮面を使って、理性という檻で閉じ込める。

 

 

私には「社会」が理解できなかった。

けれど、物事を覚えることだけは得意だったから、

お世辞や他人の求めてる感情を察してそれとなく動けた。

 

 

この看護師の仕事だってそうだ。

親の言う通りに。学校の先生の言う通りに。

家庭教師の先生や、ゼミ講師の言う通りに。

 

だけど、本当に私は何がしたいんだろう?

全部、「他人のせい」にしつつ、「言われたまま」に、

偽物の夢を語って、希望なんて抱かずに生きてきた。

 

…貧血だったからのだろう。

昔っから、自殺を何度も抱いた。希死念慮、鬱、死。

リストカットや飛び降りとかしたから、自然と医学の道に興味も抱いた。

 

 

…だけど、疵だらけの躯で、憂鬱に卑しく溺れる私に、

思いがけないキッカケと偶然を与えてくれた。

 

 

【ネイバーがもたらした三門市の惨劇】

 

 

県外にいた私は、軍や国、NPO法人、

国境なき医師団が活動するそのニュースを見て、

私は確信した。…戦場に身を預けたいって。

 

 

でも、私は戦える体じゃない。

体が弱いだけじゃなくて、要領が悪くて、

動けるようになるまで人一倍、すごく時間が掛かる。

 

 

そんな私にどんな武器があったって?

…今まで知ってきた、止血の仕方と血管の傷つけ方。

今では自殺癖は昇華して、救命の意思に変わったの。

 

 

私のささやかな祈りは、誰かの為の癒しのために。

命は救えなくていいの。ただ、安心させられればいい。

だって、私はずっと寂しかったんだもの…

---

 

 

ここは見慣れた?病室の天井。

白く清潔なベットの上で、空は横になっていた。

 

空の腕にはいくつものチューブが繋がれ、

輸液や輸血液パックがいくつも垂れ下がり、

よく見れば脚側…どうやら、腹辺りにも管が見えた。

 

 

「おはようございます。お目覚めになられましたか?」

 

 

聞きなれない、いや聴いたことの無い女性の声色だ。

もう忘れ果てるほど、長いことボーダーには居るが…

 

 

「…良かった、もう死ぬか生きるかの瀬戸際だったんですよ?」

 

 

 

…ここはどこだろうか。

確か、あいつらとやり合っていた時に、後ろをやられて…

 

 

「…ええ。そうです。空さん。」

「もう臓器がぐちゃぐちゃで、ほんとうだったら、」

「もう現場への復帰不能なレベルだったんですよ?」

 

…そうか。三雲たちと三輪隊はどうなった?

 

 

「そんな急がなくても。…大丈夫、みんな無事ですよ。」

「迅さんが一枚噛んでいて、三輪隊のみんなは負けてしまいましたが…」

 

 

…そうか。

 

 

体を起こそうと上体を動かす。

…ピリッとした痺れを感じるが、問題ない。

 

 

「あぁっ、ダメです。安静に。」

「容体が安定していますけど、無理しちゃダメです。」

 

 

うら若きボーダー装飾の看護師に寝かしつけられる。

 

 

「…無茶しちゃダメですよ。命あっての物種なんですから。」

 

 

…分かった上で、無理をしないといけない時があるのさ。

 

 

「うーん、それはちょっと分からないですね…」

「とにかく、精密検査をするまでは動かないこと。めっ。」

 

 

分かった。…今は何日だ?

 

 

「え? ええ、15日ですよ。」

 

 

…一日寝ていたようなものか。

 

 

「そうですね。…死んでもおかしくない状態だったのに、」

「ほぼ完治してしまうなんて、ありえない事なんですが…」

 

 

……。

 

 

「うーん、きっとトリオンの特殊体質だからなのでしょう。」

「羨ましいですよ。私にはとっても。」

 

 

彼女はにこやかに、私の手を取って囁きかける。

…まぁ、特にすることがあるわけでもないが、

夕方には「三雲たちと顔を合わせておきたい」。

 

…それと、もう一つの能力に目覚めたようだ。

それが影響してか、今までの「視点」と、かなり違ってみえる。

 

 

…【スキャニング(走査視)】。

 

 

 

 

全て、今の私に見えているもの全てが、

可視化された映像を注視すると、【数値化】されて見える。

 

不可視である抽象的なものですら、恐らく看護師の、

「彼女の心?」が、XYZTの4次元座標が、観える。

 

 

「…? どうかしました?そんなに私を見つめましても…」

 

 

…頭が少し痛い。

ちょっと、鈍い感じが、する。

 

 

「え、ちょっと待ってくださいね…?」

「かなり高熱ですね。先生を呼びますから。…大丈夫。」

 

さっと取り出した赤外線式体温計が示す数値は、

40度だ。普通なら慌てふためくと思うが、…うーむ。

4つの2,3桁に忙しなく変動する数値では、さっぱり分からん。

 

 

…だが、言える事がある。

自分の体を意識した所、「バイタル数値」のような、

感覚的に分かりやすい数値が観えたように感じた。

 

なるほど。強く意識すれば、数字の意味を限定できるわけか。

とすると、今の体の血管内数値…そういうことか。

 

 

 

ふと、目の前の看護師の「心理」を捉えてみる。

彼女は冷静に振舞っているが…ほほう、

冷静を装っているのか。なるほど、実に分かりやすい。

 

 

 

「先生。空さんの容体が変わりました、」

悪性高熱で頭痛を訴えております。」

 

(…理性、感情、論理、人格のうち、感情の数値が高いのは、そういうことか。)

 

…ほほう。

男の医師の方はやはり、感情の数値は低いな。

となるとこのナース…首かけネームから「橋下」さんは、

けっこう感情的なタイプなのだろう。

…今は流石に疲れてるから、過去を視る気にならないが。

 

 

…しかし、私自身の時の状態は見れなかった。

前提条件や定義の定まらない場合、数値の挙動がおかしくなる。

 

 

 

 

その後、空に下された高熱の頭痛は、

「サイドエフェクトによる脳の過負担の発熱」とされた。

またトリオン検査の結果、「臓器は青く変色し、

高温状態、破裂したままになっているが、機能は正常」

であり、最も特異性が認められた、

 

【チアノーゼによる酸素不足と思われたが、

全く別の"青い粘液状の血液"が循環する様による現象】

 

であった為、調べても酵素が含まれているとしか分からず、

身体機能としては正常なため、更に謎が謎を呼び、

医療チームに疑問が深まるばかりであった。

 

 

…トリオン機器による精密検査が終わった昼前、

空は医療チームの制止を聞かずに、勝手に、

 

開発部門の寺島チーフの所へとテレポートしていく。

 

 

 

 

橋下「…あっ! ま、待ってて、って言ったのに!」

---

寺島チーフの"いつもの作業部屋"にまで来た。

もちろん、今の姿は白の患者服のまま。

 

 

その様子に驚いている寺島をよそに、

私は"とあるトリガーの開発"の依頼を持ちかけていた。

 

 

 

寺島は黙ってメモ帳にペンを走らせ、

…それから、ようやく口を開く。

 

 

寺島「…"簡易トリガーで戦う"なんて、正気かい?」

「確かに、無いよりはあればいいけども…」

 

空 「ああ。…色々考えがある。」

「生身でも、私の能力だからこそできる事だ。」

 

寺島「空さんができる事、…って?」

「まさか、テレポートとか言わないですよね。」

 

 

空 「そのまさかだな。私の能力は"転移"、」

「…つまり、物を飛ばして攻撃も出来る。」

 

 

寺島「うーん…じゃ、どのぐらい有効か、調べさせてよ。」

「実データから研究して、それから見繕うよ。」

「なら、一つ、僕からも頼み事いいかい?」

 

空 「ん、頼み事か。」

 

 

寺島「うん。君の特殊なサイドエフェクト、」

「"空さんは能力"って呼ぶけど、その転移能力。」

「ボーダーに実装したら強いし、転用させてもらってもいいかい?」

 

 

空 「あぁ、わかった。…ところでアレ、進んでるか?」

「旧式トリガーホルダーの"デバイス"のアレだ。」

 

 

寺島「あぁ、トリオンハンマーと停滞トリオンボールだね。」

「進んでるよ。他に何か追加しておくかい?」

 

 

空 「そうだな…それなら、」

「"ハンドガン用のストック"を用意してくれないか?」

 

 

寺島「ハンドガンにストック?」

 

 

空 「あぁ。スチェッケンのような、ホルスターにもなるやつだ。」

「ギムレットとするなら、ライフル代わりにもしたくてな。」

 

 

寺島「…分かった。それも作ってみるよ。」

 

空 「よろしく頼む。…後は時を操作出来るようなトリガーも欲しいんだが…」

 

 

 

空と寺島チーフの長きに渡るトリガー相談が終えた後、

仮装トリオン空間内で「空のテレポート/アポート」

が精密に測定、実験された。

 

その十数分後に、医療チームの橋下にこっぴどく叱られ、

開発部門のルームを後にするのであった。

 

 

これが後のテレポーター(試作)への開発の糸口へと、

空は繋がると知った上で部屋を後にした…


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