(没作品集) 異世界転生譚-1st. World Trigger   作:無狼

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前回、空は意識を手放した。
オマケではありますが、

彼を語る上で何度も出てくるティンダロスの猟犬とは?
「繰り返し」とは?

を強めたお話となります。
胸糞+過激な戦闘となりガチです。


RE第15.5話「β-虚空」

 

 

 

今、私は意識の海に閉じ込められている。

脳内…いや、脳と呼んでいいのかさえ怪しい、

 

精神空間の中に私は止まっている。

真に「死んだ」わけではないが、仮死に近い。

 

本来の仮死なら「温かい」ものであるが、

私の目の前に広がるこの空間は…何も、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、これこそが私なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

何故か?こんな事を思いついたのは…そうだな。

今、「私自身」は誰なのだろうな。

 

 

 

これまで、私は何らかの目的を持って生きてきた。

だが、そうしなければならない、

そう、義務のような思いだ。

 

 

 

 

 

 

だが、私ではない。この思いは違う。

違う私が呼び掛けている。

 

 

 

 

 

 

「……私は、もう一人いたのか?」

 

 

 

 

 

昔…そう、邪神ニャルラトホテプ…アイツのせいで、

大切だった世界が、"私自身"が壊され、

大切だった仲間が、誰かの存在が消えて、

 

記憶が朧げになって、輪郭すら忘れてしまった。

この身に「忌々しき血の穢れ」まで冒されて。

 

 

もう前の世界の記憶は無い。

だから朧げだ。

 

 

 

 

「前にこんな感覚あったんだろうな」、ってやつだ。

 

 

 

 

もう、失ったものはもう思い出せない。

誰かがいたとしても、「居たような」気がするだけだ。

 

 

 

「…気のせいだが、目の前に誰かいるような…?」

 

 

 

 

 

失われた消失した前の世界と記憶、

後悔と懺悔の記憶。凄惨と絶望の日々。

だが、色褪せてはいるが、少しづつ思い出してくる。

 

 

この記憶は…そうか、思い出した。

 

 

 

 

思い出した途端、虚無から風景へと変わる。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

延々と広がる、光すら差さぬ暗黒の沼。

どこまでも、果てなき穢れた黒陽の大地。

煌々と陰る、不穏な青の光苔とさざ波の音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここは、転生を望んだ時、初めに来た世界か…?」

 

 

 

 

一番初めに死んだ時、転生するまでの間、

確かに過ごしたような記憶がある。

 

 

いや、だがここに来た覚えは無い。

ただの気のせいなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

幾度と繰り返される漣の音に身を委ねながら、

向こうの世界の身体が覚醒するのを待っていると、

少しづつ…暗闇に引っ張られる感覚にまた襲われる。

 

 

「!?」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

世界が変わった。

これは…またどこだろうか。

 

 

 

あたりを見渡せば、青き光に包まれた未知の廃墟群。

空は暗く閉ざされ、星のような粒子が舞い降りてくる。

 

 

不意に黒い雨が気紛れに降り、大地は黒く染まる。

遺構からは蒼き明滅を繰り返し、漆黒を照らす。

 

廃墟…否、「角ばった構造群」の広がるこの世界は、

「丸み」という形を見つける事が殆ど難しい。

円や螺旋の表現に、全て鋭い角度をわざわざ付けている。

 

 

「ここは…ーーーーーー、なぜここに。」

 

 

 

 

デジャヴから導き出された、【過去視】からの情報。

 

 

「ワールドトリガーの世界」に存在してはいけない、

今すぐにでも立ち去らねばいけない場所が、なぜここに?

 

 

 

「…しかし、どう出るか。"門"があるといいが。」

 

 

 

 

ここはーーーーーー、

彼らの住処にして、…………に断絶された始原の世界。

 

 

…霊魔術エーテル環空間により構成される大気には、

大アルカナのエリクシールが気化し、惑星レベルで、

核分裂連鎖反応がミクロ単位で発生し発光している。

 

 

本来、あらゆる生命が「その崩壊熱と毒性」で死に、

生存が許されない死の環境のはずだが……

 

 

何とも無い。

 

 

どうやら、今の私はアストラル体か、

幽体離脱による精神体の状態だからなのだろう。

 

これならば、「別次元」の時間に存在する此処に、

何故ーーーーーーに居るのかも説明がつく。

 

 

…不思議なのは、【知らない】はずなのに、

どこか、なぜか懐かしさをおかしくも覚えている。

 

 

「……クソ、化けモンにますます近付いてやがる…」

 

 

 

 

…【祝福され、永続する曲線の時を得た生命を憎む】、

断続するとびとびの時間に生きる、鋭角の時の猟犬は

存在そのものが超常的存在だ。魔術的と言っていい。

 

 

 

 

「……(はぁ〜っ。クソッ)」

 

 

 

 

その汚れた猟犬の血が流れ始めたが故に、

理解したくなかった事を知り始めつつある。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは…この世界は「時が止まってしまっている」。

 

 

同時に私は、いや俺は、この事を識ってしまった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

本来、世界には「Yes or No」の二極性を顕しており、

更に時空間、世界の認識が加わり、世界の理が定まる。

形而上学的な原理・事象も存在するが、これは省く。

 

 

 

これによってタイムトラベルや歴史改竄を可能とし、様々な世界や可能性が数多に分岐している理由だ。

必ず結果とその過程、つまり因果律に帰依する。

 

 

「因果律が存在しない」世界はありえないのが、

前提条件であり、世界の理〈仕組み〉だ。

だが、例外がある。あってしまった。

 

 

 

「イエスでもノーでもない世界」、

 

 

 

 

これが一番難題であり、至難な存在だ。

 

 

 

 

 

世界の理の3すくみ、因果律、時空間、世界の認識。

 

 

 

 

ある世界観という舞台があり、

世界の何年何月何日何時何分何秒かを定め、

ある事象に対して、原因と結果が追随し、繰り返す。

 

そして起きた/記録された事は、

その時系列として起こり/精巧に全て記録し、

世界が認知し/歴史として遺され、時刻へと刻まれる。

 

その事象/記録/因果律はすべて、

何の時間/時刻/時系列かを調べれば判明でき、

世界は再認知/再記録/再認識させ、繰り返し繰り返す。

 

 

 

 

これが「ひとつでも欠けてしまえばどうなるのか?」

 

 

答えは簡単だ。消滅し、狂い、崩壊する。

 

 

そこに補完する役割を担うのが、

「イエスでもノーでもない世界」だ。

 

 

 

 

人々はこれを「可能性/仮想/疑似科学/IF/もしも/怪異」

とあらゆる名付けを行い、意味を定義しようとしているが、

 

 

包括的なこの概念は残念ながら、言葉の次元に落せない。

言葉遊びはいくらでも出来るが、そうだな…

俺は【システム】と仮称しておこう。

 

 

 

 

何らかの要因で世界の理に欠落が生じた場合、

修復機能としてシステムが欠損部分を補う。

 

実際に起こりうる事象や時間を埋め合わせ、

その後で世界が何度も再認識させることにより、

不自然が排除され違和感無く繋ぎ合わされている。

 

 

これによって、タイムリープ(繰り返し)が防止される。

時間遡行は可能でも、一方通行をただ逆走しただけ。

 

 

だから「永続する我々の曲線時間」には、

何の疑問も抱かず、結果、時間、歴史を信じられるのだ。

 

 

 

だが一定数は「システム」に気がつく者がいる。

 

 

賢察な科学者、天才な(PSI)超能力者、稀代の霊能者、

精巧の技術者、天賦の武人や学徒、聡明な人格者……

ありとあらゆる者達が存在するが、ある道を極めた者、

 

究めた知見を求める者は、これの一端を見つける。

そして手段や方法を見つけて彷徨してしまう。

 

実際に例を挙げれば、タイムトラベル。

時間を「場所」として扱えば、望む因果律(時間軸)が

起こる時間(その時間軸の世界)に訪れられる。

 

もちろんタイムパラドクスも生じるため、

世界の理の正常反応としてシステムが機能する。

 

そう、タイムトラベルのように、

我々は既にシステムの概念に触れている。

 

だが、悪魔の証明や量子力学の観測問題のように、

全てが正しく、全てが異なる故に、次々と分岐する。

 

 

 

 

故にあらゆる世界、出来事、可能性が存在している。

この不確定要素を「定める」のもシステムの役割だ。

だが、同時に脆弱性を孕んでしまっている。

 

 

 

 

 

それが【観測者】という、ジョーカーの存在だ。

 

 

 

観測者とは、文字通り第三者の存在だ。

科学者か、神か機械か、原理にせよ、

存在自体はなんだって成り得る。

 

 

モニターの前に居る誰かや、作者すら全て該当する。

(…妙だな、俺の近くには、誰もいないはずなんだが)

 

 

 

観測者がシステムに気がついた途端、

【観測者の理解/知覚/認識】が起こり、それは限定、

つまり物事の認知に、前提条件が発生してしまうからだ。

 

 

世界の理から外れる上に、不可逆的にシステム修復が

行えなくなり、権限がほぼ全て観測者に移りやがる。

 

 

 

 

……ここまで来ればもう分かるだろう?

 

 

 

 

つまり、俺の「繰り返しの人生」ってのは、異常だ。

人為的に引き起こされたイレギュラーであって、

悪意ある事故を観たがっているやつがいやがる。

 

 

 

 

ーーーーーー(ティンダロス)の猟犬という、

大掛かりな「別世界のシステム」を持ち込みやがって、

しかも奴らのこんな世界まで用意しやがった。

 

 

 

聴き覚えのある、いや…

絶対に忘れるわけがない、裏切り者で憎むべき奴、

俺の転生を囁いて陥れやがった邪神のせいだ。

 

あのニャルラトホテプのせいで、転生はしても、

滅茶苦茶に騙され陵辱され殺されーーーー(発音不明)

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「……とにかく、奴のせいだ。奴しかいない。」

「…ん、何か思い出したが、なんだったか…?」

 

 

怒りに染まるあまり、大切な事を思い出したはずだが、

すぐ忘れてしまった。忘れるぐらいだ、些細な事だろう。

 

 

 

……つまり、タイムループとは「悪意ある事故」なのだ。

その事にひとつ、次元の移動を思いついた。

 

 

 

「…だが待てよ、今の俺なら、移動できるか?」

 

 

 

 

 

…"前の世界に居た"ティンダロスの猟犬は、

時空間を無視して世界の狭間「次元」を移動できる。

 

 

その事を思い出し、それに変わりつつある俺(私)の体に、

時を跳べ、獲物を探しに世の理を超えろ、と念じる。

 

 

「世界の狭間と時の断片」に意識を集中し探した。

 

 

 

 

……が、ここから辿れそうな時が見つからなかった。

 

 

 

「…チッ、んだよ。…」

 

 

 

再度試みたがダメで、元の世界に向かう事が出来ない。

前の世界には戻ろうにも、その行き先も分からない。

 

 

 

「……あークソッ、戻りてぇっ…」

 

 

がくりと膝をつき、行き場の無い感情が地面に向かう。

このままでは、帰れないかもしれない。

 

 

そう思った途端、強い孤独感と閉塞感を感じた。

色々抑えていたものが、無意識に、無意識に。

 

…ガァン!と地面に拳を叩きつけても、何も変わらない。

 

 

 

 

……長居すべきでないと、本能が告げる直感から、

この場を離れる為に、前に進むことに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

とにかく立ち上がり、自分の状態や持ち物を確認する。

 

 

特に何も無く、何も持っていない状態だが…

 

 

 

 

これからどうしようか、いよいよ歩き出すと途端に、

周囲から「ヤツら」の気配が現れはじめる。

 

 

隠しきれない、鼻にツンとくる刺激臭と死骸のドブ、

死の腐敗臭が辺りにどんどん強くなってくる。

…左目で普通に見えるほど、近くまでやってきた。

 

 

 

「…"条件が同じ"だから、ワープできないんだよなぁ…」

 

 

同じ「鋭角の時間」に生きる種族。

比重がまだ曲線に近い自分には、圧倒的に不利だ。

 

互いに転移できないが、地の利は向こうにある上、

移動がスムーズに出来ず、パワーも十分伝わらない。

 

山の頂上から深雪を軽やかに走るスノーボーダーに、

山を徒歩で降りて追いかけるぐらい、かなり違う。

 

 

 

 

 

 

「…やれやれ、詰んだか。」

「だが、死にたくないな。夢の中だったとしても…」

 

 

 

 

奴らはもう近づいてきている。

 

 

 

猟犬とあるが、捕食形態に「噛みつく方が都合が良かった」

だけで奴らは犬型ではない。成り損ないの人族だ。

奴ら猟犬を飼い慣らすのが「住民」であり、人間だ。

 

住民どもは西洋魔術と酷似した術式回路を組み、

魔術現象を引き起こしてくる厄介な人種だ。

ドラキュラでいう真祖と眷属なら分かりやすいか。

 

 

 

 

「…ん、確か奴らは思念を喰らうんだったな。」

 

 

ティンダロスの猟犬は、肉体ではなく精神を喰らう。

青か灰色に近い紫系の肌と毛を持つ奴らは、

思念で攻撃をイメージし、相手の精神を削ぎ喰らう。

 

現実においては「捕食者」のイメージが帯びる為、

対象にも依るが「犬型・狼」等に近くなるようだ。

…"成り損ない"なので、一つ目で、4足歩行をする、

毛むくじゃら人間を矮小化させたような見た目だが。

 

 

 

そんな、ヤツらが、冒涜的な猟犬どもが、めのまえに

 

 

「クソッ!丸腰なのをいいことに!」

 

 

だが、答えを得る前に『舌』が飛んできた。

言った通り、「捕食」の為、舌は注射器みたく鋭利だ。

 

 

足に泥がまとわり付くように、うまく動けず、

心臓が貫かれるのを辛うじて避けた。左腕に刺さる。

 

 

「ッぐ! 離せ、っ」

 

 

右手で振り落とし、叩くもうまく払えない。

奴らにとっては、痛くも痒くもない。

 

 

 

まだ、【猟犬ども】に

近づき   ある    身体  から、耐

「精神」が吸わ、

気   飛びそう   

だ。

 

 

 

最初の一匹が鋭舌で穿ったのをいい事に、

続々と背後から2,3,4,6,10と次々に飛んでくる。

 

 

脳、目、視床下部、鼻、小脳、口、首、脊髄、胸、

心臓、腹部、腕、脚、手足……

 

 

後から、物理的な傷みが、

                痛みが

    やって            くる

 

 

 

「ッ  ーッ、ガぁ   ッグァぁンッォアッ!?」

 

 

 

無意識的に、「捕食」「思念」「攻撃」の記憶から、

「攻撃する為の捕食形態」を脊髄反射で喚び興す。

 

 

「(ク)そ…っ     コロがァ!」

 

 

 

無意識のまま、無理やり身体を捻って左腕を振るう。

物理的な損傷が更に広がるが、アストラル体の為、

血も出なければ機能不全で動けなくなるわけでも無い。

 

 

気がつけば、舌ごと断ち切り、薙ぎ払っていた。

 

かなりボロボロで今にも崩れ落ちそうな左手には、

一振りの血染め小太刀が握られていた。


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