(没作品集) 異世界転生譚-1st. World Trigger   作:無狼

8 / 58
P:ESD/DATA05 ⦅PSR/RR/2009.06.14⦆⦅PSR/RW/2013⦆

―――――――――――――――――――――

[PROFILE:SECRET RECORDS/2013.--.--] ⦅READER/WHITE⦆

[「」]

 

俺は気が付いてしまったことがある。

例えば、普通に過ごしていたとしよう。"普通"ならそれまでの過程を覚えている事が当たり前なんだ。

 

…俺にはどうも、その普通が異常だ。

なぜ俺はそれまでの過程を覚えていない?

ここに書いた事以外の事があっていいはずだ。だが、覚えていない。

 

城戸指令、もし万が一の事があれば俺を消してください。

俺は一度死んでからおかしくなってしまったのかもしれない。

 

「 俺 は お か し い の か 」

―――――――――――――――――――――

 

 

[PROFILE]

[EDICT,SANCTION DOCUMENT/DATA05]

―――――――――――――――――――――

[PROFILE:SECRET RECORDS/2009.6.14] ⦅READER/RED⦆

 

ゲートが発生している街中にバイクで向かっている中、俺は一つ考えたことがある。

 

よく考えれば逃げればいいのではなかったのかと。

だがその考えはすぐに払拭されてしまった。

 

確かトリオンモンスターこと雨取千佳だ。原作の彼女は確か…気配を消せていたのか?

あの彼女だったら俺の考えていた事が実現できたのかもしれない。だが失念していた。

「俺がいつ転生キャラみたいなチート能力を持っていると錯覚していた?」

 

 

……これは激しく自責した。確かに高校3年生の始まり頃からネイバーに一度狙われた事は分かっていた。卒業した辺りで偵察みたいな見たことのない小型トリオン兵がいて、たまたま壊そうと目を狙ってみたら倒せたことが2,3回あった。

 

……なぜ俺はトリオン兵やネイバーに対抗できる能力を持っていたと勘違いしていたんだ?

それにだ、旧ボーダーの人たちは「何時どこで」現れるのか分からない。そもそも「二日で東三門が壊滅」だ。……何を考えていたんだ、俺は。

 

しかもだ、主人公の空閉はまだ来ていないし、三雲も確か蓮乃辺で…どうだったんだ?何もなかったのか? 雨鳥は…分からないが、確かその兄は今よりも前に消えたはずだ。

 

……『なぜ俺はトリオン体に対処できる能力がある』と思い込んだ? 空閉の自動車との接触事故からの発想か?

いや待てよ?

それはつまりある一定のトリオンがあくまで戦闘体でなく護身用トリガー程度だったとしたら……

 

あり得た、のか?

 

まだ答えが出ていない中でバイクを走らせていたときには、もうチャンスは逃していた。橋を通り越してしまった。

……はは、三門市の人間たちが蹂躙されちまってるよ。警察は……あぁ、機能してないな。

 

ああやっぱり、車の方が簡単にひしゃげちまってる。ダメだ……逃げないと。

逃がせるといった手前、どうやって逃がす? 俺には何もできないじゃないか。啖呵切ったのに…

「死ぬな?」

 

無理だ。俺は甘く見すぎた、…はははそうか、ここまで怖かったんだな、そりゃ三輪もおかしくなるわ…

 

 

最後に映った本目の瞳には。市民を誘導する警察官が必死に呼びかけて自分を犠牲に四肢を捥がれ胸を穿たれるまで避難誘導をする姿。

後ろから遅れて自衛隊がたどり着き、数えきれない戦車や車が銃声と砲音を轟かせて防衛線を構築するも、既に無駄と分かっていたが光景に映っていた。

 

10式戦車の起動輪がアスファルトコンクリートの道路を切り裂いてノロマなバンダーの目にめがけて集中砲火を浴びせ、高機動車が対空射撃を始めるも…あまりにも無力で、虚ろな乾いた音が弾丸を貫けず……

始めは機動性で勝っていた自衛隊の兵器も、戦闘用のトリオンで構成されたトリオン兵の装甲には全て無意味に等しかった。10機の戦車砲が炸裂弾と徹甲榴弾の雨を浴びせても……ヒビすら入らなかったのだから。

バムスターとバンダー。その違いは「捕獲用」か「捕獲がついでにできる砲撃型」か。どちらも今の建悟にとっては無意味に近かった。

 

本目はただ茫然と、道路のど真ん中で立ち尽くしていた。自衛隊の隊員がど真ん中で逃げずついに最後の一人となった青年に何か呼びかけようとしていたが、その声が届かず……バンダーの砲撃を受ける前に、真後ろで戦車砲の轟音が建悟の身体を震撼させた。…数えきれないバムスターの前に玄海の兵器を駆逐していくバンダーの砲撃が、カウンターと言わんばかりに正確無比に、後ろにいた戦車ごと巻き込んで……

 

―――。

 

 

―――俺は動けなかった。

―――怖かった。

―――死んだときの事を思い出していたからだ。

―――右目を抉られ続けた死の痛み。動けない苦痛。凌辱されていく咀嚼。

―――俺は悔しかった。

―――悔しい?

―――俺に何ができた?

 

何かに気が付いたものの、新たな疑問へ費やすための時間が無くなってしまった。

彼は2度死んだ。バンダーの砲撃と戦車の爆発から……跡形もなく肉体が消えていた。

 

撃て、撃て!と後方から続く戦車と戦闘車両に戦闘ヘリ、民間の救急車に消防車……

全てが果たすべき使命を抱えて地獄の門を潜り抜けていくが、あまりにも無慈悲に、情状酌量すらなかった。

 

……物語はここで終わる。

…ここで終わりだと?

約束が違うぞ。

 

 

この世界の理から外れた『空』の観客席で観覧していた復讐の女神メガエラ。

メガエラは狂った作劇家の演劇を見ていて疑問に思った。

 

たったこれだけか? まだ何もしていないではないか。

もう少しだ。もう少し先を楽しませろ。…そうだ、復讐だ。

 

 

復讐の女神メガエラは観客席から降りて玄海へ顕現する。もはや魂ごと木っ端微塵にされてしまった憐れな人の仔に、人ならざる力を与えるために。人の仔は神に好かれてしまった。

 

 

 

―――おかしい。一度消えたはずだ。この感覚は…

―――「人の仔よ。」

―――誰だ?お前は…

―――「…、悪事を罰する者。復讐者。復讐の三女神が一柱、『嫉妬する者、メガエラ』。」

―――悪事?復讐?女神?

―――「苦しいのではないか? 理不尽ではないか? 弄ばれ、死してゆくことに」

―――。

―――「御前はまだ死なぬ。だが消えるだろう、気紛れに邪神が本を破きおったからな」

―――どういう意味だ、邪神…?

―――「ニャルラトホテプ。お前がこの世界に転生するハメになった原因。」

―――「望まぬ運命を歩まされたその原因。」

―――「御前は恨まないのか。何もしてくれぬどころか、お前を殺すよう仕向けたのだ。」

―――どういう意味だ、メガエラ…俺は何も知らない、ニャルラトホテプ?

―――「…あぁ、記憶が消されているのか?覚えておらぬのか。」

―――記憶が消されている?…どういう意味だ?

―――「…考えよ、されば真の理へ近づかん。」

―――「妾を欲せ。復讐せんと望んだときに。メガエラのその名を。」

―――待った、よくわからないんだg

―――「仮初の器をくれてやろう。もう一度生き残れ、呼べば応えよう」

―――いやどういう意味だ……

 

 

不意に意識が戻った。…咽る、のどに何か…うえぇぇっ!?

血だ。しかも肉片か?気分が悪い、体中が痛い。なんだったんだ今の声といい状況は……!?

 

立ち上がろうとする前に体の確認をする為、動けるか確かめながら周囲を見ていたところ…生首と表現できない、損壊してしまった人体の頭の肉塊を見てしまった。

血やグロテスクな部位は見慣れていたからパニックにはならなかったが……これは酷い、俺は死んだ

「!? あ、くっそ…くそ…」

 

思い出してしまった。俺はそうだ…あぁ、爆風に巻き込まれて細切れになるような火傷に激痛に…死ぬって、あんな…だっけ?

「…くそが!」

思わず、近くにあったコンクリート片に拳を思いっきりぶつけた。…コンクリート片?

俺はハッと上を見た。……ビル、あったはずだよな。

遅れて周りを見渡す。……何も、ない。おいおい、一瞬で瓦礫に…?いや待った、何時間経っている?

 

俺は携帯を取り出そうとした。…だがそこに無かった。

『俺は服を着ていない素っ裸だった。火傷痕も無く骨は折れていないが、ところどころ傷まみれだった。』

 

 

「…ははは、こまったな…本気で俺死んだのに。また生き返ったのか?」

「ま、よくわかんねえからいいや……」

 

俺は当てもなく歩くことにした。遠目に見ればバムスターやバンダーがまだ交戦しているのがわかる。だけど音が届いてこ……遠目?

 

俺はふと疑問に感じた。…ついさっきも周囲を見回したが、トリオン兵の姿なんてなかった。どういうことだ?

 

「…ん、これ俺のバイクのか?こんだけぶっ壊れてたら…あのバックもショットガンも…」

俺は気にしないことにした。…バイクのタンクだったフレーム部品を見つけた建悟はもはや自分の荷物を探すことも諦めた。

 

「にしても俺って死んだのか?…お。」

近くで水たまりを見つけた。…水道管でも破裂したのか、倒壊したビルのがれき周りに湖のようなとても浅い水たまりができていた。俺はそこで自分の姿をハッキリと見る事が出来た。

 

 

「…俺本気で死んだんだろうか。」

確かに体は全て元通りのような姿になっていた。…右目は義眼を入れたままの状態だったため、見えないままだが。

「…復讐の神のメガエラ、ねぇ。」

ぼそりと呟き、何も起こらないからやっぱりかと思い過ごしながら、近くに服が無いか探すことにした。案の定「仏」がたくさん埋まっていたわけで。

 

「すまねぇな、借りてくよ…俺が不甲斐ないばっかりに、ごめんよ…」

俺と同じぐらいの体格で綺麗な「仏」を見つけて、ジーパンとTシャツだけを拝借した。

「…他人の服、着たくないんだけどなぁ…仕方ねえか…」

「……これでいいか。ごめんよ、借りていく。後で供養するよ」

 

よく見ると背中を貫かれて血が付着していたが、他は破れていたり血まみれだったりとまともなものがなく、仕方なく肌着のようなぴっちりと伸縮性のある白Tシャツに長く履かれて色あせてきたが破れていないジーパンを履いた。

靴下は…靴も借りていくか、うえぇ。

 

「くそったれ、本当なら死んで終わりの方がよかっただろうに…」

毒づきながら他人の不潔で血と汗に汚れた服を借りていく。…だが感謝をするため合掌して九字を唱えてから、俺はここから立ち去ろうとする。

 

 

「さーてどーすっかなぁ…緑川爺は知らないし、…あ゛」

思い出してしまった。…父さんは?母さんはどうなった?

 

「…くそっ!こんなところに来るんじゃなかった!無事に逃げているといいんだが…」

最悪だ。全て俺の選択が間違ったというのか。せめて今生きているのが…奇跡なぐらいなんだが。いや死んだが。

 

 

「……。!?」

俺は咄嗟に身を隠す。近くで物音がしたからだ。崩落して危険だが隠れるに持って来いな倒壊したビルの柱に隠れる。

…だが待っても何も現れない。勘違いか?

 

俺は音がした辺りを『よく見よう』と意識した。

すると『肌色の何か』を俺は見てしまった。突然の事に驚いて尻もちをついてしまった。

……もう一度見てみると確かに何にもない瓦礫の光景だが、かなり遠い先に…積み重なり折り重なった瓦礫の中に…動いている?手?人か?

俺は隠れている柱から出てすぐそばの瓦礫、…どこかアパートだったらしい軽い木や倒木に金属片などの瓦礫に近づくことにした。

 

 

「……?」

隠れていたビルの柱からアパートの残骸まで数百メートル離れていて普通見えないはずなんだが、俺はどうも見えたらしい。いよいよおかしくなったか?と思ったが、どうも意識してみると遠いものが手元にあるかのように視えるらしい。

2,3分ほど歩きながら自分の身に起こった違和感を確かめつつ、目的の場所にたどり着いた。…たまたま開けた場所で見えていたらしい。瓦礫より先の光景は流石に見通せないらしいな、これは。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「~~! ~~!」

「え、大丈夫ですか!?」

 

俺は何重にも積み重なった木々や金属物を除けていく。その下にやはり誰か埋まっていたらしく、なんとかして出ようしていたらしい。

ようやく瓦礫に胴体ほどの隙間を作ったところで、マンホールだったらしい空間の隙間で埋もれていた小柄な女性を見つけた。

といっても中が暗く2M弱も高さがあったので、顔も姿も見えないのだが。

 

「さぁつかまって! もう少しだ!」

「はい! 助けて、んっ~!」

 

必死に手を掴んで引っ張り上げると、中学生か高校生ぐらいの黒髪で腰上まで伸びている、140cm台とちいさく、人形のように凛として可愛らしい女性だった。よく見てみると…うん?

 

「あ~やっと出れた! ありがとうございます!」ぺこり

「…あれ、清水先輩?」

「え。なんで私の名前を?」

 

 

 

思い出した。俺が高校時代のサバゲ―部で3年生になってから部長を務めるまでやっていた、前部長の清水麻理だ。

卒業して以来は「喫茶店を開くのが夢だったの!」とか言って、専門大で調理師を取るとか言っていたなぁ。実際、実銃に匹敵する知識量ならサバゲーフィールドやエアガンのオーナーになってよかったとは思うんだが、そこは何か違ったらしい。

 

「まさかここで出会うなんて…建悟ですよ。清水先輩こそ何でそんなところに?」

「え、あー…なんというか、うん。」

 

気恥ずかしそうにして答えない辺り…これはそういうことか。

 

「"また"運が良かったんですね?」

「ち、違うもん! 逃げようとしたらマンホールに落っこちちゃって…あっ」

 

一人で色々弁解しようとして結局頭から煙が出ているあたり、清水の変わらない一面である。

清水麻理。彼女は不思議なほど運がよく、最も例えやすい例が「自動販売機の前で100円を落としても、その下に1000円札が落ちていた」、「宝くじを1等連続で当てる」、「適当に鉛筆を転がしても合格する」とかそのぐらい強運の持ち主だ。

きっとこの地獄の中でも運よくマンホールに落っこちて気絶でもしたかやり過ごせたかだろう。

 

「あ~なるほど。」

「だから違うってばぁ!(ぷんすか)」

「ごめんごめん、あまりに先輩の運の良さがここまで来るなんて…」

「もー建悟ってば前からそうなんだから…あれ?それ…血?」

 

清水に指摘された。背中の血は転んだときのかすり傷だと言ったが、どうやら違うらしい。

「そうじゃなくて…口元の。血がついてる。」

…口に血? 俺は言われて手で拭ってみた。……本当に血だ。

「…えっと、どこか怪我とか…」

「大丈夫だ。何も心配はいらない。それよりも…ここからどう出るかだな。」

「えっと、そうだね。うん、ここからどう出よっか。…本当に大丈夫なの?」

 

こてりと首をかしげる清水。やはり気になって仕方がないのだろう。だが俺は不調でもなければ違和感を覚えたこともない。…いや待てよ?

違和感?あっ。

 

俺は一つ気が付いた。「口に何か入っていた」ことに。…いや考えないでおこう、気にしない方がいいに違いない。

「……。」

彼女が心配そうに見ている。

「大丈夫だよ。ここから出る事をまずは考えようか。」

「そうだね…うん。」

 

 

立ち去る時に不意に脳裏を過ぎった。

俺は本当に死んだのだと。

なぜならば、吐き出したあれは。

 

「舌と歯が融けて肉塊になってそのまま焦げた、死んだ自分の亡骸のナニカ」だった事を、

俺は嫌でも憶えていたのだから。思い出してしまったのだから。

死んだことを、自覚した。


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。