輝かしいこの世界を   作:人参天国

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102番道路

 

 早くもコトキタウンを出発したコウイチ達。今いる102番道路は101番道路と同じく、比較的短い街道なので、順調にいけばトウカシティには明るいうちに到着できる……らしい。急ぐ旅ではなかったのだが、トウカジムが気になり過ぎて、たった一日で二つ目の町まで行くという強行軍となってしまったのだった。

 

「オダマキ博士、トウカジムのジムリーダーと知り合いだって言ってたなー」

「チャモチャモ」

「ノーマルタイプのジムとしか教えてくれなかったけど、どんなジムなんだろうな?」

「チャモッ。チャモチャー♪」

「楽しみだなー」

「チャモー。…………チャモ?」

 

 そんな話をしながら歩いていると、チャモモが突然立ち止まった。

 

「どうしたチャモモ?」

「チャモチャモッ! チャーモ、チャー」

「……なんか見つけたか?」

「チャモ!」

 

 チャモモがそう鳴いて、道端の木に近づいて行くのを見たところで、コウイチもソレに気が付いた。木の実がたくさん生っている。しかも、どんぐりの様な見た目の……人の頭よりもでかいヤツがだ。あまりのサイズに不安すら覚える。

 

「な、何だこれ。ちょっと大き過ぎるだろ!?」

「チャモチャモ」

「これ食えるのかな? スイカ並のサイズのどんぐりって……うーん?」

「チャモチャー!」

「……とりあえず採れってか?」

「チャモ」

「そ-だな、まずは収穫してみっか」

 

 枝にぶら下がった実のうちの一つを下から支えてみると、中身が詰まっているのかズッシリと重たい。どんぐりを食べるならすり潰して粉にするのが良いとコウイチは聞いたことがあるが、この大きさのどんぐりだと粉末にするのも一苦労だ。粉にしたらどうしようか。パン、クッキー……どんぐりコーヒーなんてものもあった気がする。作るのは大変そうだが、夢は広がるばかりだ。

 実を掴んで捻る様にして引っ張ってやると、思いの外簡単に枝から離れた。

 

「ほら、見ろよチャモモ。この木の実、お前ぐらいでかいぞ」

「チャモー♪」

「じゃあ一個持って行くとすっか……ん? なんだこの……模様? みたいなの」

「チャモ?」

 

 木の実を180度回転させてやると、変な模様を見つけた。この実の特徴かとコウイチが思った時だ。なんとその模様が開き、出てきた目の様なものがコウイチの視線とかち合ったのだ。

 

「うおわぁっ!!?」

「チャッ?!」

 

 思わずコウイチは木の実を放り投げた。

 

「なんだぁ!? ま、まさかコレ、ポケモンか!?」

「チャモ!? チャモチャモー!」

「…………」

 

 放り投げられた木の実の様なポケモンは立つのに苦労しているのか、コロコロと転がっている。コウイチがポケモン図鑑を向けてみると。

 

『タネボー。どんぐりポケモン。木の枝にぶら下がって栄養と水分を吸収している。木の実そっくりで、近づいて来たポケモンを驚かせて喜ぶ。一日一回身体を葉っぱで磨いているようだ』

 

「本当にどんぐりポケモンなのか。一応凶暴な感じではないのかな。……あ、突然投げちゃってゴメン。今立たせるよ」

「…………ネー」

「声かわいいなオイ」

 

 なんとも言えない容姿のポケモンだが、かわいい声で鳴いて見上げられると、コウイチとしては良評価を下さざるを得ない。

 

「チャモチャモ?」

「ネー、ネー」

「チャモチャ、チャモー♪」

「ネー♪」

「なんか話してる……うーん、和むなぁ」

 

 しかし、ふと気が付く。そういえば、さっき木には大量の木の実が生っていたんだった。これがポケモンだったということは……

 風の音なのか、どこからか聞こえてくるヒューヒューという音が、妙に不安を掻き立てる。おそるおそる振り向いて……コウイチはゾッとした。木にぶら下がった全てのタネボーが、こちらをじっと見ていたのである。心臓が止まりそうなほどビビった。

 

「おいチャモモ、チャモモ……! あれ、あれぇ……!」

「チャ? ……チャモッ?!」

 

 さしものチャモモも、この光景には驚いた様だ。

 

「は、ははは……ごっ、ごめんな邪魔して。俺達はもう行くからサ……」

「チャモ、チャモォ……」

「じゃあ、ごゆっくり……」

 

 闘う闘わないを抜きにしても、流石にこの数相手だと不安しかないので、とにかくこの場を離れることにしたコウイチ達。足早に去ろうとしたそんな彼らの背中から。

 

「「「(ボトボトボトボトッ)」」」

「ヒッ……」

「チャッ……」

 

 大量の何かが地面に落ちた音が、背後から聞こえてきた。歩くスピードは、更にアップ。

 

「「「(コロコロコロコロ……)」」」

 

 続いて聞こえてきた、何かが転がる音に、思わずコウイチ達は振り返ってしまった。

 

「「「ネーネーネー♪」」」

「ひええええ!?」

「チャモモモモ!?」

 

 たくさんのタネボー達が、転がりながら追いかけて来ていた!

 

「はっ、走れチャモモー!」

「チャモーッ!」

「「「ネー♪」」」

 

ーーコノハハハ!

 

 先程から聞こえてくるヒューヒューという音色の中に誰かの笑い声が混じっていたことに、コウイチ達は気付かなかった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「はあ、はあ……」

「チャモォ……」

 

 タネボー達から逃げ出したコウイチ達は、どこかで道を間違えたのか、森の中の道無き道を進んでいた。完全に迷っているのだが、何故かその自覚がなく、憔悴した様子でただただ歩いている。

 

「逃げなきゃ、逃げなきゃ……」

「チャモ、チャモ……」

「逃げ……あ」

 

 注意が散漫になっていたコウイチは、地中から出ていた太い木の根に足を引っかけ、転んでしまう。

 

「いっ……てぇ~~!!」

「チャモッ!?」

「ベタンといったぞチクショウ! 血ぃ出てないよな……って、あれ? ここどこだ?」

 

 どうやら痛みで正気に戻ったらしい。チャモモもコウイチの声で我に返ったようで、周りをきょろきょろと見回している。

 

「ここ、どう見ても街道じゃないぞ……やっべぇいつの間にか道に迷ってる!」

「チャモ?! チャモッ、チャモチャ-!?」

「まっ、待て待てまずは落ち着け! オダマキ博士も言ってたろ! 迷子になったらまずは冷静になることが大事だって」

「チャ、チャモ~……」

「いいか、とりあえず深呼吸だ」

「チャモ」

「「(スゥー……ハァー……)」」

「……ふぅ、今日も良い天気だな!」

「チャモ~!(ゲシッ)」

「いてっ、蹴るなよ! ちょっとした冗談だろ!」

「チャモチャモ!」

 

 チャモモをからかって冷静になれたところで、コウイチはポケモン図鑑とコンパスを取り出す。

 

「ポケモン図鑑なら、大雑把な現在地がわかるはず……ん、一応トウカ側に近づいてるな。コンパスはこっちが西か。よし、こっちだチャモモ!」

「チャモッ」

 

 ひとまず何とかなりそうだが、気になるのはどうしてこんな所に来てしまったかだ。いくらなんでも、気付かないうちにこんな森の中に入り込んでしまうほど無我夢中になった覚えはないのだが。どうも何かおかしい気がする。

 しばらく歩いていると、森の中にひらけた場所があり、いくつもハスの葉っぱが浮いた大きな泉が湧いているのを見つけた。

 

「おおっ? なんだここ。すげぇ綺麗な場所だな!」

「チャモッ!」

 

 木々に覆われて薄暗い中、木漏れ日が澄んだ泉の水に差し込んでキラキラ光っている光景は、とても神秘的だ。人の手がまったく入っていないので、尚更そう感じる。

 

「チャモチャーモ!」

「……休憩していくか。なんか疲れたしな」

 

 コウイチ達は泉の傍に行き、水中を覗き込んでみる。浅い所なら水底が見えるくらい綺麗な水だ。念のため水質検査用のキットを使ってみたが、十分飲み水に適していた。

 

「よし、大丈夫そうだから飲んでいいぞ」

「アチャ!」

「じゃあ俺も…………はぁ〜、生き返るな〜」

「チャモー♪」

 

 冷たくておいしい水を飲み、水辺に座り込むと、ようやく人心地が付けた。さっきまではどうなることかと思っていたが、チャモモが水を蹴って遊んでいるのを見ていると、どうにでもなりそうな気がしてくる。

 

「チャモモー。お前炎タイプなんだから、水遊びは程々にしろよー」

「チャーモー」

 

 どうやらチャモモも元気を取り戻したようで、良かった良かった。せっかくなので、コウイチもチャモモと一緒に遊ぶことにする。

 

「ここに飛び込んで、思いっきり泳げたら気持ちいいだろうなー……」

「チャー?」

「お前はやっちゃダメだけどな?」

「チャモ……」

「ははは、しゃーないしゃーない。お、ハスの葉が流れて来てる。……そーいやどうしてこう見事に浮くもんなのかな」

 

 なんとなく気になったコウイチが、ハスの葉っぱに手を伸ばした時。

 

「(チャプ)…………」

「………(またこのパターンかよぉ)」

 

 葉が水面から少しだけ持ち上がり、真下から現れた小さな目と視線が合ってしまった。

 

「……チャモモ、こっち来い。この葉っぱもポケモンだったわ」

「チャモォ〜……」

「(またそのパターンかって顔してんな、コイツも)」

 

 いやまあ、知らないポケモンと出会えるのは歓迎するところだが。

 頭にハスの葉をのっけているらしいそのポケモンは、何処と無くマヌケな感じの丸い目で、コウイチ達をじっと見つめている。

 

「…………」

「…………」

「…………アチャ?」

「…………ハボー」

 

 鳴き声もちょっとマヌケな感じだ。やがてのっそりと岸に上がって来たポケモンに、コウイチは無言でポケモン図鑑を向ける。

 

『ハスボー。うきくさポケモン。綺麗な池や湖に浮いて暮らす。頭の草が枯れると弱ってしまうが、陸地を移動して棲み家を探すこともあるようだ。たまに小さなポケモンを草に乗せて運んであげている姿が目撃されている』

 

「……ハボ」

「へー、面白いポケモン」

「チャモチャモチャーモ?」

「ハボ? ……ハボー」

 

 二匹で何の話をしているんだろうか。コウイチが試しにクチバシみたいな口の下を撫でてやると、気持ち良さげに目を細めている。

 

「……よく見たらお前、虫ポケモンでもないのに六本足なのか。変な感じだなぁ」

「……ハボー?」

「ん、なんでもないよ」

 

 抱き上げてやると、短い足を空中でちょこちょこと動かしている。カワイイ。水棲ポケモンなだけはあって、肌に若干ぬめりけがあるみたいだ。

 

「お前達はこの泉に住んでるのか? 突然お邪魔しちゃってごめんな」

「ハボ」

 

 気にするな、と言ってくれているような感じだ。水面からこちらを覗いているハスボー達も、特に何かするわけでもなく、ボンヤリとした目でコウイチ達を見ている。

 

「ありがとう。ちょっとの間、ここで休ませてもらうな」

「ハボ」

「ハーボ」

「ハボー」

 

 ハスボー達は歓迎してくれているのか、口々に鳴いている。どうやら危ないことにはならなさそうだ。

 抱いていたハスボーを下ろしてやると、オレンの実をのせた葉っぱが、スーッ、とコウイチ達の方へ流れて来た。

 

「……もしかして、俺達にくれるのか?」

「チャモ?」

「「「…………」」」

「……え? どうなの?」

 

 ハスボー達は何故か返事をせず、オレンの実と葉っぱをじっと見つめている。

 

「えーと……とりあえず、取るぞ……?」

 

 差し出されたオレンの実をコウイチが取ろうとした瞬間!

 

「ハロロォォォ!!」

「ぎゃああああ?!」

「チャアアアア?!」

 

 葉っぱの下からカッパの様なポケモンが勢い良く飛び出してきた! コウイチ達は悲鳴を上げて尻餅をつく。その姿を見て、ポケモンは大笑いしていた。

 

「ハロハロハロ!(ケラケラ)」

「なっ、なんだあコイツは!?」

 

 ポケモン図鑑を向けてみると。

 

『ハスブレロ。ようきポケモン。ハスボーの進化形。身体中ヌルヌルした粘液で覆われている。夕暮れ時に活動する夜行性で、川の中からひょっこり現れては人を驚かせて遊んでいる。川底の石についた水苔を食べているようだ』

 

「ハスブレロか! どうやらハスボーとは違ってイタズラ者のポケモンみたいだな。今のはもしかして、『驚かす』って技か?」

「コーノハハハ!」

「今度はなんだぁ!?」

 

 森の中から蔓に掴まった茶色い影が、高笑いをしながら飛び出して来た! その影は空中を軽やかに舞いながら、ハスブレロの隣に着地して互いにハイタッチする。

 

「コノハー!」

「ハロー!」

「コノコノコーノ♪」

「ハロハロハーロ♪」

「知らないポケモンがまた増えたぞ……」

「チャモモ?」

 

『コノハナ。いじわるポケモン。タネボーの進化形。木登りが得意な森に住むポケモン。コノハナが奏でる草笛の音色は人を不安にさせる。尖った長い鼻を握られると体の力が抜けてしまう』

 

「コイツもイタズラ者みたいだな……ハスブレロと肩組んで仲良さげだし、気が合ってるのかも。……いや待てよ、不安にさせる草笛?」

 

 そういえば、さっき森の中で変な音を聞いていたような気がする。その音のせいで、だんだん思考力が落ちていったような……

 

「……チャモモ、お前も森の中で草笛の音を聞かなかったか?!」

「……チャモ?! チャモチャモー!」

「やっぱりか。おいコノハナ! まさかお前が俺達をこんな所に誘導したのか?!」

「コノハハー♪」

「……どうやらそうみたいだな。得意げにしやがって……ん?」

 

 背後の木の陰からガサガサと物音が。振り向いてみると、今度はタネボー達がぞろぞろと歩いて来ていた。コウイチ達の位置からすると、挟み撃ちにされる形である。

 

「……ま、まさか! これはアレか、『本当は怖い草ポケモン』的なやつ! 獲物を殺して養分にするって展開!?」

「チャッ、チャモ〜〜〜〜ッ?!」

 

 ハスブレロとハスボーは水・草タイプなので、チャモモの苦手な水タイプの技を使えるに違いない。タネボーとコノハナは相性的には有利だが、それでも数が多過ぎる。絶体絶命だ。

 

「「「ネーネーネー♪」」」

「どうする、どうする……!?」

「チャモチャモ〜!?」

 

 あわや、俺達の冒険はここまでか、と思った時だ。たまたまなのかわざとなのか、タネボー達が次々とすっ転び始めた!

 

「「「ネー♪」」」

「……ええ?」

「……アチャ?」

 

 どこぞの童謡を思い出させるような勢いで、タネボー達がころころと転がっていく。コウイチ達はスルーして、そのまま泉の中へポチャンポチャン。呆然とそれを見ていると、ハスボー達がタネボー達を頭にのせて浮かんできた。

 

「……ハボ♪」

「ネー♪」

 

 どちらも楽しそうにしている。どうやら危険はなさそうだ。

 

「……はぁ、寿命が縮んだ気がする」

「……チャモチャ」

 

 タネボーとハスボーは放っておくとしよう。平和なポケモンみたいだし。

 なんだかどっと疲れてしまった。あとの問題はコノハナとハスブレロだが……

 

「……じゃあ俺達もう行くから。お前らもイタズラはほどほどにしろよ」

「コノコノ?」

「ハロ?」

 

 コノハナとハスブレロは顔を見合わせて。

 

「「(ベロベロバー!)」」

「いらっ☆」

 

 コウイチの怒りのボルテージが上がっていく!

 

「ほほーう、そうくるかイタズラポケモンども。それならちょっとお仕置きしなくちゃいけないなぁ……」

「チャ、チャモ……? チャモチャモ……」

「チャモモ!」

「アチャ?!」

「あいつらにお灸を据えてやるぞ! ポケモンバトルだ!」

「チャッ、チャモ!」

「コノコノ〜?」

「ハロハロハロッ!」

 

 コノハナとハスブレロは乗り気のようだ。腕や首を回して準備運動しながら前に出てくる。……二匹一緒に。

 

「(やべ、流石に一対二はキツいわ……)」

 

 バトルを挑んでおきながら、情け無いにも程があった。

 

「(と、とりあえず交渉して……いや、すごくカッコ悪いぞソレ。今更一対一にしてくれって言うのは。仕方ない、ここは……)」

 

 コウイチはできるだけ好戦的な笑みを浮かべて(できているかどうかは別問題)、コノハナとハスブレロに言い放つ。

 

「お、おお? なんだ、二人掛かりじゃないと勝つ自信がないみたいだな。お前らはどっちも十分強いと思ってたけど、二対一じゃないと戦えないなんて……はぁー、がっかり」

「コッ、コノコノーッ!?」

「ハロハロォッ! ハロッ、ハーロッ!」

 

 コノハナとハスブレロは、地団駄を踏んで怒っているようだ。コウイチの挑発が効いているらしい。

 

「コノッ! コノハーッ! コノハハッ!?」

「ハロッ! ハローッ! ハロハロハロ!?」

「(わかるように喋ってくれ……)」

 

 コノハナとハスブレロは、互いに怒鳴り合う様に話した後、コウイチの方に話しかけてきた。息を荒くして返事を待っている所を見るに、もしかして今質問をされたのだろうか。だったら今の話の内容は、

 

『俺があいつと戦う!』

『いや俺だ!』

『俺だ!』

『俺!』

『『あんたはどっちと勝負したい!?』』

 

 といった感じか? コウイチとしては、相性で有利なコノハナを先に倒して、相性が不利なハスブレロに余裕を持って挑みたいところだ。この男、打算のカタマリである。

 

「じゃあ、まずはコノハナとバトルするぞ」

「コノッ!」

「ハロッ?!」

 

 コノハナ、思わずガッツポーズ。ハスブレロはそれを悔しげに見つめていた。

 

「よーし、チャモモ。これでタイマンになったぞ! あとはコイツらに勝つだけだ!」

「チャモ。チャモ……」

「(……うん?)」

 

 さっきまでのやる気がある表情とは打って変わって、今のチャモモは……なんだか複雑な表情をしていた。これまで何度か見てきた、呆れの表情ではない。どこか安心したような、だけど寂しそうな……何かを言いたいけれど、何も言えないような。そんな表情。コウイチが今のチャモモの気持ちを読み取るには、色々なものがまだ、足りない。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「開始の合図は、この石ころが地面に落ちた瞬間だ。いいな?」

「アチャ」

「コノッ」

 

 コウイチ、チャモモのコンビとコノハナが向かい合う。周りのポケモン達も興味があるのか、ハスブレロだけではなくタネボーとハスボー達も彼らのバトルを見つめていた。

 

「じゃあ……いざっ」

 

 コウイチが放り投げた石ころが地面に……落ちた!

 

「コノーッ!」

「チャモモ、『鳴き声』だ!」

「チャモ〜〜♪」

「コノハッ!?」

 

 動き出そうとしたコノハナに先んじて、チャモモが可愛らしく鳴いてみせた。コノハナはその様子に尻込みしているみたいだが、それでも気を取り直して攻撃に移る。頭の葉っぱをブンブンと振ると、そこから葉っぱが次々と飛んできた!

 

「コノッ、コノッ、コノーッ!」

「(これは『葉っぱカッター』だな!?)チャモモ、『火の粉』で撃ち落としちまえ!」

「チャッ、モー!」

 

 チャモモが放った『火の粉』は相殺の形で『葉っぱカッター』を弾いてみせたが、コウイチとしてはタイプの相性的に押し切りたかったところだ。これでも『鳴き声』の効果で威力は落ちているはずなので、やはり相手は格上だったということだろうか。

 

「もう一度『火の粉』だ!」

「チャモモッ」

「コノコノー♪」

「チャモチャモー!(ぷんぷん)」

「うっ、コイツ結構すばしっこいぞ……」

 

 『火の粉』をひょいひょいと避けられて、チャモモは憤慨しているみたいだ。森に住んでいるだけあって、コノハナはかなり身軽だ。

 

「コー……ノッ!」

「アチャッ!? チャモッ!」

 

 飛んでくる『葉っぱカッター』を危ういところで回避する。

 

「(なんとかスキをみつけて『火の粉』を叩き込めたら……あっ、そういえば!)チャモモ、接近戦だ! お前のフットワークを見せてやれ!」

「チャモッ!」

「コノッ? コノハハーッ!」

 

 迎え撃つコノハナが、チャモモを『はたき』落とそうと腕を振り上げる。

 

「チャモモ! 『ひっかく』で腕を弾いて、鼻を引っ掴んでやれ!」

「アチャッ!!」

「コッ?!」

 

 振り下ろされた腕を、チャモモは踵落としの様な蹴りで見事に弾いてみせた。その勢いを利用して更に一回転し、コノハナの長い鼻をガシッと掴む!

 

「コノ〜〜〜〜〜〜ッッッ!!?」

「うげっ、あれ絶対いてぇヤツだ……!」

 

 ポケモン図鑑によると、コノハナは鼻を握られると弱いらしい。それでスキを作ろうと思ったのだが……考えてみたら、チャモモの筋張った足で鼻を掴まれたら誰だって痛いと思う。指示しておいてなんだが、コノハナには悪いことをした。

 コノハナは必死に頭を振って引き剥がそうとしているが、その分チャモモも必死にしがみついているので、ますます痛々しいことになっている。

 

「チャ、チャモモ! 今だ、思いっきり『火の粉』を喰らわせてやれ!」

「チャッ、チャー……モーッ!!」

「ハ〜〜〜〜ッ!?」

 

 ガードする余裕もなかったコノハナに、至近距離からのチャモモの『火の粉』が炸裂した。効果は抜群だ。コノハナが大きく吹っ飛んだためにチャモモは足を離してしまったが、相当なダメージを与えられただろう。

 

「コ、コノォ……!」

「今のは効いたはずなのに、あいつまだ動けるのか!」

「チャモ! チャモーッ!」

「コノッ……コノハーッ!!」

「「!?」」

 

 どうやらかなりのダメージを受けて、コノハナは完全に怒ったようだ。そのまま攻撃に移るかと思いきや、コノハナは腕を広げて目をつぶり、まるで光を浴びるようなポーズをとった。

 

「(なんだなんだ、『光合成』? まさか『ソーラービーム』!?)」

 

 しかもなんだかコノハナの身体が一回りくらい大きくなっているような。何をしているのかはわからない。わからないが、とりあえず……!

 

「チャモモ、もう一発『火の粉』だぁ!」

「チャッ、モー!!」

「コペペペぺッ?!」

 

 まあ、スキも作らず棒立ちしてたらいい的でしかない。

 

「ハ〜〜……」

「目を回してる……勝ったみたいだぞ、チャモモ!」

「チャモーッ♪」

「ふぅ……しかし今のはなんだったんだろうな」

 

 コノハナが使った技は『成長』という、自分のパワーを上げる草ポケモンの技だったのだが……今回はコウイチも気付かないままだった。

 

「ハロハロッ」

「コノ〜……」

「ハロッ! ハーロ、ハロハロー!」

「コノコノ……コノ、コノ……ハ……」

「ハローッ?!」

「(こう言うのもなんだけど、なんか茶番感がする……)」

 

 バトルを見守っていたハスブレロが、コノハナを助け起こそうと手を差し伸べるが、その手を弱々しく握りしめたコノハナは何かを伝えた後、くたりと倒れてしまった。慟哭するハスブレロ。一応死んでないからな? そいつ、今チラチラこっちを窺ってるからな?

 

「ハロ……!」

「(そんな、『仇を取ってやる』って顔されても……)」

「チャモチャモ~……」

「何不安そうな顔してんだ……あいつ普通に生きてるぞ。横目でめっちゃこっち見てるぞ」

「チャモッ?!」

「ハロッ?!」

「お前も驚くんかい」

 

 ハスブレロがコノハナの所へ走り出す。コノハナは慌てて目をつぶって死んだフリを続けるが、何もせずにじーっと見つめるハスブレロに焦れたのか、薄目を開けて様子を窺おうとして……当然そこでバレた。

 

「…………(ゲシッ)」

「コッ?!」

 

 ハスブレロは無言で立ち上がり、横になっているコノハナに一発蹴りを入れてから、またコウイチ達の方へ戻って来た。後ろではコノハナが起き上がって抗議の声を上げている。

 

「ハロハロ」

 

 さっさと始めよう、と言っている気がする。

 

「あー……チャモモ、連戦だけどいけるか?」

「チャモ!」

「オッケー、じゃあ勝負だ!」

「アチャーッ!」

「ハロッ」

 

 ハスブレロが落ちていた石ころを拾い上げて、放り投げる。そして石ころが地面に落ちた瞬間。

 

「チャモモ、『火の粉』!」

「チャーッ!!」

「ハロローッ!!」

 

 まずは小手調べとばかりに、チャモモの『火の粉』とハスブレロがブクブクと吹き出した『泡』攻撃が激突した! 相性で圧倒されるかと思いきや、『火の粉』でも泡ぶく程度なら割ってしまえたので、どうやら威力を弱めるくらいは期待できるみたいだ。

 

「ハロハロハローッ!」

「むっ? なんだ?」

「チャ?」

 

 大きく息を吸い込んだハスブレロが、今度は頭を振り回しながら『泡』を吹き出し始めた。大量の泡ぶくは空中を漂い、あっという間にコウイチ達の視界を妨げる。

 

「やっ、やべえ! ハスブレロを見失っちまう! チャモモ、お前も『火の粉』を撃ちまくって泡を壊すんだ!」

「チャ! チャッモー!」

 

 ハスブレロの真似をして、チャモモも頭を振りながら火を噴いていくが、泡に紛れて近づいて来た青い影には気付けなかった。

 

「チャモモ、左だーっ!」

「アチャ?!」

「ハロロォッ!!」

「チャモ~ッ?!」

「まずい、チャモモ!?」

 

 ハスブレロの『驚かす』でひるんでしまい、尻餅をついたチャモモに追撃の『泡』攻撃が放たれた。チャモモには回避する間もない。直撃だ。

 

「そんな、チャモモッ!?」

「ハロハロ~ッ♪」

 

 水タイプの技を食らってはひとたまりもない。そう思って倒れたチャモモに駆け寄ろうとしたコウイチは、その小さな体から白い煙が立ち昇っていることに気が付く。耳をすませば、シューシューという音も聞こえてきた。

 

「白い煙……いや、もしかして蒸気かこれ!?」

 

 よろめきながらも、瞳を闘志で燃やしながら、チャモモが立ち上がる。今は普段以上の高熱を放っているのか、濡れた体が見る見るうちに乾いていった。

 

「(凄い勢いで水分が蒸発しちまった! たぶん今のチャモモの体はよっぽど熱いんだろうけど、いつもはそんな体温じゃ……いや、もしかして!)」

 

 コウイチはチャモモの『特性』を思い出す。

 

「『猛火』! 逆境でこそ強くなる特性!!」

「チャモォォォッ!!」

「ハロッ?!」

 

 チャモモの凄まじい気迫に、今度はハスブレロがひるむことになる。

 

「いけ、チャモモ! 『火の粉』だ!」

「チャーッ!!」

「ハ、ハロローッ!」

 

 再びぶつかり合う火と泡だが、今度の『火の粉』は火力が違った。ハスブレロの技に完全に押し勝ち、そのまま命中させたのだ。これにはハスブレロも慌てたのか、またしても空中に『泡』を放って隠れようとするが。

 

「そんな暇は与えねぇ! チャモモ、『火の粉』だ! 撃て撃て撃てーっ!」

「チャーッ! チャーッ! チャッモーッ!!」

「ハ~~~~ッ!!?」

 

 ハスブレロ自体は水・草タイプなので、炎タイプの技はしっかり通る。加えて今のチャモモがお見舞いする連続攻撃の直撃だ。それこそひとたまりもない。遠くから見ていたコノハナの所までうまい具合にぶっ飛んだハスブレロには、もう闘う体力は残っていなかった。

 

「コノ!? コノハーッ!?」

「ハ……ハロォ……」

 

 互いにボロボロになって気遣い合う二匹だったが、気が付けば目の前にはそれをした恐ろしいポケモンと、そのトレーナーが。

 

「コ、コノハ~……(ガタガタ)」

「ハロ~……(フルフル)」

「…………はぁ」

「「(ビクッ!)」」

 

 身を寄せ合って震える二匹。コウイチがついたため息に、より大きな身震いを一つしたが……次いで徐に下ろされたバックパックからキズ薬を取り出したのを見て、目を丸くした。

 

「……悪かったよ、ちょっと俺も熱くなりすぎてた。今手当してやるからな」

「チャーモ、チャモ、チャモ」

「コノ……?」

「ハロ……?」

「でもお前らも、これに懲りたらあんまり人に迷惑かけんなよ?」

「……コノ。コノハハー」

「ハロハーロ。ハロハロ」

 

 頷くコノハナとハスブレロ。

 

「それならよし。チャモモも頑張ったな! 最後の技もすげー威力だったぞ!」

「チャモッ! チャモチャモー!」

「よしよ……アッツ!? めちゃ熱いなお前!」

「チャ? チャモチャー♪(ケラケラ)」

「笑ってんじゃねえやい。ほら、これ食って体力戻せ」

「! チャモーッ♪」

 

 好物のオレンの実をチャモモに渡すと、むしゃむしゃと喜んで食べた。かなりダメージを受けたはずだが、思ったよりはまだまだ元気そうなので、コウイチも安心だ。

 

「……よっしゃ、手当完了! お前らどうだ、立てそうか?」

「コノー」

「ハロハロ」

「大丈夫みたいだな、良かった良かった。さて……だいぶ時間が経っちゃったな。チャモモ、どーしようか。トウカシティまでどのくらいあるかわかんないし、今日はこの辺で野宿するか?」

「チャモ~……」

「夜の森は歩くべきじゃないって、オダマキ博士も言ってたもんなあ……」

「……ハロ?(クイックイッ)」

「ん? どーしたハスブレロ」

「ハロハロ?」

「んー? ……事情を話せって言ってたりする?」

「ハロ」

「俺達、本当は今日の明るいうちにトウカシティに行くつもりだったんだよ。ただ、今どのへんにいるのかわからないから、いっそここで野宿しようかなーと」

「コノハハハ! コノコノ! コーノ!」

「え、なに?」

「ハロハロ。ハロ、ハロ?」

「コノハッ」

「ハーロッ!」

「チャモチャモ? チャモチャー、チャモー」

「コノー♪ コノハー!(ピョンピョン)」

「ハロハロー♪(パチパチ)」

「チャモッ! チャモチャモチャモ♪ チャーモ、チャモチャモ~♪」

 

 三匹で何かを話しているみたいだが、内容はさっぱりわからない。

 

「なあ、チャモモ? 一体何の話だ?」

「チャー! チャモチャモ、チャモモー!」

「ハロー♪」

「コノ~(フフン)」

「ふむ……何言ってんだお前ら?」

「「「…………(ゲシゲシポカポカ)」」」

「いてっ! 蹴るな殴るな! しかたねーだろわかんないんだから!」

 

 それでもジェスチャーや絵を描いてもらったおかげで、なんとか三匹の意図を知ることができた。どうやらコノハナは、ここからトウカシティまでの近道を知っているらしい。今から出発すれば明るいうちに辿り着けるので、案内してやる、とのことだ。

 

「本当か!? それはありがたい。よろしく頼むよ!」

「コノハー!」

「あっ、ちょっと待てよ!?」

「チャモチャモ-!」

 

 コノハナが手招きをして、すぐに森の中へと入っていってしまう。コウイチが慌ててバックパックを背負い直して周りを見ると、ハスブレロだけでなくハスボーやタネボー達もコウイチ達を見送ってくれていた。

 

「ハロハロ~ッ♪」

「「「ハボ~♪」」」

「「「ネー♪」」」

「……じゃあな、みんな! またいつか会おうぜ!」

「チャモ~!」

 

 そう言って、コウイチ達はコノハナを追いかけていく。時間にしてみれば僅かな間の出会いだったが、それでも楽しく、熱くなるひと時だった。新しい思い出をまた一つ手に入れ、コウイチ達は再びトウカシティを目指す。


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