何処にでも行きたい、何処までも行きたい。
人の為に、誰かの為に。
世界の何処にでも、行きたい。
どんな人とでも、居られるように。
人が広く、生きて行く為に。
ねぇオールマイト。
――ボクは……
――世界が青に満たされていた。
街並みが、空気が、全ての光景が、暴力的なまでの「青」に侵されていく。透明なはずの空気に色がつく。
見上げた空は先ほどまでの澄んだ青ではなく、
今この空間を支配している「青」に塗り替わっていた。
あらゆる電子機器が停止する。
世界中に”個性”という超常が現れた現代も、コンピュータに依存しきった社会の構造は変化していなかった。
ならばコレはその代償なのか。
世界中の電子機器が、次々とその動作を停止させていく。
インターネットを介してのクラッキングを受けているのだ。
あらゆるセキュリティは意味をなさない。
ファイアーウォールはまるで紙のように粉砕された。
電子機器が制御不能となれば、当然乗り物も制御不能になる。
現に世界で飛行中だった航空機は、ほとんどが墜落している。
自動車や電車も例外ではない。次々に引き起こされる事故。そして誘発する火災。
スプリンクラーなどの設備も当然作動していない。消防車は動こうにも動けない。
何よりも連絡手段がない。
そして同時に広がっていく人間の意識喪失。
それを可能にしているのはこの「青」か。
電子機器に干渉できる個性が無かったわけでは無い。
だがしかし。
今現在進行しているこれほどの現象を、果たして予測しえただろうか。
あくまで電脳上で起きているはずの侵攻が、現実世界までにも影響を及ぼしている。
意識喪失の広がりがまさにそれだろう。
疑う余地もない。
これが目の前の泣きじゃくっている幼子の仕業。
その個性の暴走であると相澤消太は理解し、個性”抹消”を行使するが
「……!?消せない……だと?……ぐあっ」
意識が遠のいていく。
これも彼女の個性なのか。大量の情報が脳に送り付けられて来る。
まるでインターネットのDOS攻撃のように。
相澤の目に映る世界がより深く「青」に染まっていき、0と1の羅列に変換されていく。
――あなたは何を知りたいの?
目の前の幼子にそっくりの青い少女がどこからともなく現れる。
それは無数に増えていき、その全てが相澤に問いかけてくる。
――知りたいことは何でも教えてあげる。ねぇあなたは何を知りたいの?
あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。
あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。
あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。あなたは何を知りたいの。
「ぐああああああああ!!!」
頭の中に膨大な情報が無秩序に流れ込んでくる。
まるで無理やり物を口に入れられるように。
頭の中をぐちゃぐちゃにかき回されるような感覚。
夕焼けが、星が見える。雲が、雨が、空、渓谷、森、雪原、砂漠。街に町に村に犬に猫に鳥に人。
あらゆる世界で起きている全てが、頭の中に書き加えられていく。
――全てが一つになる。
天と地も分からず世界に自分が居ることすらも忘れてしまうような。
そんな時
「もう大丈夫! 私が来た!」
彼が来た。
――結論から言うとこの事件は彼によって解決された。
振るわれたその拳は幼子を枯葉のように吹き飛ばし、少女の意識を刈り取る。
暴走していた個性は停止した。
世界に色が戻る。浸食していた「青」は、まるで幻のように消え去った。
個性が引き起こした史上最悪の事件。
地球規模で起きたこの災害の被害額は億を遥かに超え、亡くなった人は数千万人に及んだ。
後にこの事件は「青の世界」と呼ばれることになる。