青の少女のヒーローアカデミア   作:かたやん

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第33話

side--青石ヒカル--

 

 深い闇の底に彼女は居た。

 ひんやりと冷たい床に、目の前に有るのは檻。

 今まではレギオンを閉じ込めていた巨大な檻。だが今は青石ヒカルが閉じ込められている。

 それもこれも現実ではない。あくまでも彼女の脳内で展開されているイメージ。

 電脳上の出来事であり、”現実”ではない。

 レギオンから嫌がらせの様に情報が流されてくる。

 青石ヒカルという存在の真相。

 青石ヒカルという”キャラ”は、毎日生まれては死んでいた。

 外面さえ整えてしまえば、中身(たましい)など誰も目もくれない。

 誰もそれに気づかない。本人ですらも、記憶と思考が全く一緒なのだから気付きようがなかった。

 

 ではここにいる”私”とはいったい誰なのか。

 彼女は考えるが分からない。

 なぜ私は私なのか。

 毎日毎日、再構成された”青石ヒカル”という人格が今の彼女だ。

 だが今までの記憶はハッキリと思い出せる。相澤さんらとの思い出に、シアンに甘えていた記憶。

 教室で授業をうわの空で聞いていた聞いていた記憶。

 轟との出会い、過酷だった訓練の日々。

 それら全ての記憶は全て彼女自身のではない。

 それはかつて存在していた別人の彼女が体験した事実であり、ここにいる青石ヒカルは実際にそれを体験していた訳では無い。

 そして最初に思考はループする。

 

 ではここにいる”私”とはいったい誰なのか。

 なぜ私は私なのか。

「何やってるんだろボク」

 膝を抱えてうずくまる青石ヒカル。

 彼女の心に入ってくるのは大量の0と1のデジタルデータ。

 それから、今世界中の人間が昏睡病にかかっている事が見える。

 人が大勢死んでいく。データとしてまさに今、はっきり見えている。

 同じ結論がレギオンでも出せている筈。

 なのに彼女が止まらないのは何故なのか。

 考えてもそれも分からない。

 彼女はさきほどレギオンに言った言葉を反復する。

「……夢は結局、夢でしかない。いつまでも夢は見ていられない。

 いつか夢から覚めて、現実と向き合わないといけない時が来るんだから。

 そう、だから……」

 先ほどから何を考えても、何一つ分からない。

 自分の事、レギオンの事。今まで分かっているつもりでいた。

 自分のことは自分が一番よく知っているつもりでいた。

 彼女は分かり合いたかった。出来るだけ多くの人々と。

 スターレインの為に死ぬことは覚悟は出来ていた。

 ならせめて、己が救う人たちがどのような人達なのか、分かっておきたいと思った。

 けれども、そんな考えは傲慢だったのかも知れない。

 彼女は他の人はおろか、自分自身のことすら分かっていなかったのだから。

「ボクは、ボク達は……最初から夢なんて見るべきじゃなかったんだ」

 ぼそりと呟いた言葉は闇の中に消えていく。

 それを拾う人間など誰も居ない。そう思っていた。だが

「ええ、あなたがそう思ったのならそうなのかも知れないわね。

 でもこの子は決して納得していないようだけど」

「えっ……?」

 檻の外に人影が現れる。彼女の心象風景に過ぎない筈の空間に、居る筈のない人が姿を現す。

「青ちゃん!」

「お茶子ちゃん!?」

 そこにはレギオンとは違うアズライト、それに麗日お茶子が居た。

「どうしてここに……? ここはあくまでボクの心の中のはず。どうやって……」

「私の力を使ったのよ。アズライトの本来の力。忘れてはいないわよね」

 彼女の疑問にアズライトが答える。軍服のような恰好でいて丈の短いスカート。

 前に見た緑谷の側に居たアズライトだ。

「……人と人の心を繋ぐ個性。そのための”電脳感覚”を得る力」

「ええ。麗日さんの脳とあなたの脳を繋げさせてもらった。

 結構苦労したけどね、おかげでだいぶ演算能力を割かざるを得なかったし」

「ごめんね」

 緑谷のアズライトに謝る麗日。彼女は手を振って答える。

「いいのいいの。これが私達、本来の使われ方だし。個性冥利に尽きるものよ。

 でもあまり時間は残されていない。

 麗日さん、後は頼んだわよ」

「うん、任せて」

 麗日が頷くと、緑谷のアズライトは闇の向こうに消えた。

 麗日が青石ヒカルに向き直る。

 互いに檻を境にして向き合った。

 二人っきりになり、視線と視線がぶつかる。

「話をしよう、青ちゃん」

 

…………

 

………

 

 

side--緑谷出久--

 

「あああああ!!!」

「緑谷君!」

 全身を強く打ち、激しい痛みに悶える緑谷。緑谷のアズライトが近くに寄る。

 今度は青い結晶体が全身を包んだ。

 肉体をイメージに同化させ、”現実”を彼女が演算する”イメージ”に書き換える。

 結晶が弾け、そこに現れる元の姿の緑谷。

 彼はまた、原子レベルで完璧に復元される。

「オールマイト……オールマイト!!!」

 口から怒気と怨嗟の声をまき散らし、再び緑谷はオールマイトに向かっていく。

 憧れは失望に。尊敬は侮蔑に。

 彼の中でオールマイトという偶像が崩れ去り、新たなオールマイトの虚像が生み出される。

 がむしゃらに拳を振るう。もはや基本としての型も何もない。

 気迫こそ籠っている。が、それでは彼には届かない。

「ふんっ」

「ぐっ!」

 容易く受け流される攻撃。フェイントも混ぜない直線的な動き。

 元々緑谷は格闘技術をかじってすらいない。

 格闘技術はおろか、その基礎の体づくりの段階すらも未熟。

 長年(ヴィラン)と戦い死線を潜り抜けてきたオールマイトに、そのような攻撃が通じるはずも無い。

「緑谷少年。君に、なぜ私は力を託してしまったんだろうね。

 君より相応しい人なんて幾らでもいた。

 継承者が君でなければならない理由なんて、一つとして無いんだ。

 ヘドロ事件の後、君に対する違和感はどんどん膨らんでいった。

 ヘドロ事件の真相を、隠蔽すると決めたのは私だ。

 けれども君は爆豪君に対して、なんの罪悪感を抱いていない様に思えた。

 ワザとでないにしても、ヘドロの(ヴィラン)を逃がしてしまった一端に君は関わっていた。それも分かっていた筈なのにね」

「悪いのはヘドロの(ヴィラン)だ! 僕じゃない!」

 緑谷の言葉にオールマイトは返事をしない。

 まるで聞こえていないかのように言葉を続ける。

「そしてもっと疑問に思った事が有った。

 緑谷少年、君は――何のためにヒーローになりたいんだい?」

「何のためって……なるんですよ! なりたいんです! ヒーローに僕は……」

「だから私は聞いているんだ。君は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私が聞いているのはヒーローで何をしたいのかという”目的”だよ。

 ヒーローとは職業。”手段”でしかないのだから。

 ……ずっと感じていた違和感は、それだったのかもしれない」

 オールマイトの言葉に鼓動が早くなる。ずっと目を背けていた場所が暴かれるような感触。

 緑谷の触れられてくない場所を、彼は言葉で容赦なくえぐる。

「緑谷少年、君はヒーローになって何をしたい?

 ()()()()()ヒーローになりたいんだい?」

「……何のため……? 僕は、僕はただ……」

 分からない。答えられない。

 緑谷は努力した。懸命にヒーローを目指して。

 けれども”何のために”と改めて聞かれると、途端に分からなくなる。

「君と出会った時の事今でも覚えているよ。

 君はこう言った。

 個性のない人間でもあなたみたいになれますか?

 人を(たす)けるのってめちゃくちゃかっこいいって思うんです、と」

「……そう、言ったかも知れません」

「私は今まで君と一緒に居た中で、”(たす)ける事は格好良い”という言葉は何回か聞いた。

 だけどね、人を(たす)けたいという言葉は()()()()()()()()()()

「それが何だって言うんですか!?」

 苛立つ緑谷にオールマイトは見透かしたように。

 癇癪を起した子供を諭すように言う。

「きっと君は人を(たす)けたいのではない。

 それは君が格好良くなりたい。

 格好良いヒーローであるための”手段”であって、人を(たす)けるという”目的”ではない。

 君は自分が格好良くあるために、ヒーローになるために、人を(たす)けるという手段を取るだけだ。

 緑谷少年にとって人助けとは、自分が格好良いヒーローであるための”手段”でしかない。

 最初に出会った日に私は言ったよ。

 人を助ける事に憧れるのなら警察官って手も有ると。

 その時緑谷少年はどんな顔をしていたと思う?」

「……そんなの知る筈無いでしょう!」

 緑谷は攻撃するが当たらない。オールマイトは涼やかに余裕をもって回避する。

「君は、きっと――」

「言うな!」

 オールマイトの言葉を遮る。裂帛の気合を入れ拳を叩き込む。

 ワン・フォー・オールの100%の力を注いだ渾身の一撃。

「っ!」

 流石にオールマイトも顔色を変える。

 当たりこそはしなかった。

 が、その衝撃は彼の後ろのレギオンに襲い掛かって……。

「ふっ……」

 彼女が片手を事も無げに振るうと、その衝撃も呆気なく相殺される。

「ねぇ、八木さん。もうお話はいいでしょう。

 私退屈だわ。早く外の世界に行きましょう?」

「ああ」

「逃がすわけないだろ!」

 ワン・フォー・オールの力をギリギリまで見極めて再び拳を放つ。

 だがまたも受け止められた。

 緑谷はまだ基本的な体が出来ていない。

 いくら衰えたとはいえ、極限まで鍛え上げられたオールマイトに勝てるはずも無かった。

 レギオンが閉じていた口を開く。

 まるで虫けらを見るかのような目で緑谷を見た。

「ねぇ、緑谷君。さっきから鬱陶しいわ。

 いつも思ってたんだけど、オールマイトオールマイトうるさいわよ。

 憧れていた人が自分の思ったような人で無かったからと言って、癇癪(かんしゃく)を起すなんて見苦しいだけだと思わない?

 ここに居るこんな人はオールマイトじゃないって、現実逃避しているしているようにしか見えないわよ」

「黙れ!!」

 緑谷の言葉にも彼女は「ふふ」とほほ笑む。そして小首をかしげて、頬に人差し指を置く。

「なぜここに居る、ありのままの八木さんを受け入れてあげられないの?

 あなた達はどうしてそんなに、”平和の象徴”に縋りつくのかしら?

 オールマイトは格好良くないと駄目?

 オールマイトは絶対に負けない。絶対に悪に屈しない。

 どんな時も笑顔で、皆を助けてくれる無敵の存在。

 そんな存在じゃなくちゃいけないの?

 ふふふ、笑っちゃう。本当にそんな存在居る訳ないわ。現実を見てよ。

 あなた達がそんな風だから、八木さんは疲れ果ててしまったんじゃない。

 もう、ゆっくり休ませてあげてよ」

「うるさい! 現実が見えていないのは、今もこうやって世界中に死を振りまいている、君の方だろ!」

 緑谷の言葉が頭に来たのか、彼女の顔色が変わる。

「そう。よっぽど酷い目に遭いたいのね、あなたは。

 私、暴力は嫌いなのよ。どうしてあなたは……あなた達は八木さんと私に暴力を振るわせるのかしら。

 理解に苦しむわ」

 彼女の周りの空間が殺気で歪む。

 緑谷はどんな攻撃が来てもいいよう身構え……

「だーるまさんがこーろんだ」

「えっ……」

 体が浮遊感に包まれ落下する。踏ん張ろうにも踏ん張る両足の感覚がない。

 もがこうとしても手の感覚も無い。

 地面に落ちて横たわる。鮮やかなクローバーから新緑の香りが鼻に届く。

 視線を動かすと、肩から先が無い。両足も付け根から無くなっている。

「う、あ……あああ!」

「安心して、止血はしてあるわ。それこそ完璧に。だから死にはしない。

 でもね、あなたは手足が有ると人に暴力を振るい始めるもの。

 そんな危ない人には、手も足も必要ないでしょう?」

 声の方を見るとレギオンが緑谷から一瞬で奪った四肢を両手で抱えていた。

 次の瞬間その手足は一瞬で燃えて灰になる。

「でも、関係ないわね。緑谷君は緑谷君のアズライトに治して貰えるもの。

 あら……そう言えば、緑谷君のアズライトは何処に行ったのかしら?」

 緑谷の側からいつの間にかアズライトの姿が消えていた。

 一体何処に行ったというのか。

 この一分一秒を争うときに、何をしているというのか。

「まぁ関係ないわね、じゃあ。八木さん……」

「待てよ」

 急激にその場が寒くなった。巨大な冷気がその場を覆う。

 地面がパキッと音を鳴らしたと思った瞬間、

「何ッ!?」

「きゃぁ!?」

 青の少女とオールマイトは巨大な氷塊に包まれた。

 冷え切った空気の向こう側から話声が聞こえる。

 オールマイトと青の少女ではない。

「緑谷。状況はどうなってる。……って見れば分かるな。

 ひでぇやられようだ」

「おい、クソデク、何ちんたらやってやがる! ぶっ殺されてぇのか糞ナードが!」

「かっちゃん……轟君!」

 1-A内で随一の戦闘力を持った二人が来た。

 轟の横に緑谷のアズライトが居る。

 彼女は緑谷の様子を見て顔を青くした。

「済まない緑谷君、遅くなった!」

 だるま状態になった緑谷を誰かが抱えてくれる。

 顔を上げると委員長の飯田だった。

 緑谷のアズライトが側に来る。緑谷は青い光に包まれ、その後一瞬で藍銅鉱に似た石に覆われる。

「ありがとう」

「いいえ、今の私に出来る事はこれくらいしか無いから」

 元の手足が復活した緑谷はアズライトに礼を言う。

「かっちゃん、轟君、飯田君、助けに来てくれたんだね。ありがとう!」

 緑谷は駆けつけた面々に礼を言う。

「私もいましてよ」

「八百万さん!」

 副委員長の八百万も駆けつけていた。先ほどまで一人っきりで戦っていた。

 だがクラスでも特に頼りになる仲間たちが来てくれた。

 これほど心強い援軍が他に有るだろうか。

 今の緑谷には万のヒーロー達より、彼らが頼もしく思えた。

 

…………

 

………

 

 

side--轟焦凍--

 

「っ……この程度で倒せるはずねぇよな」

 轟は苦虫をかみつぶす。それとほぼ同時にオールマイトとレギオンを包む氷塊が砕けた。

 一同は咄嗟に距離をおく。

 轟にとってもオールマイトがまさか(ヴィラン)になるとは思っていなかった。

 だが全然予想していなかったかと言うとそれもない。

 何しろエンデヴァーというナンバーツーヒーローが長年何を家庭でしてきたのか、それを目の当たりにしていたのだから。

 ヒーローも人間だし、間違いを犯す。分かってはいたが実際にオールマイトと敵として戦わなければならないとなると、動揺は隠せなかった。

「この子はただ自由になりたいだけなんだ……邪魔をしないでくれ」

「分かっていたが……無傷か」

 氷を割って出てきた両名にダメージは見受けられない。

 オールマイトは当然のこととして、レギオンもそうだ。

 彼女の個性を”架空(ゆめ)を現実にする個性”とアズライトは言っていた。

 セルリアに以前聞いた話とほぼ同じ。制限もあるらしいが、具体的に何が出来ないのか聞けていない。

 轟が喋り始める。

「オールマイト。緑谷との会話は、皆聞いていた。

 緑谷のアズライトが直接届けてくれていたからな。

 青石ヒカルってのがどんな存在だったのか。

 そんな事も全部聞いている」

 緑谷が驚いて轟を向く。轟は目配せして同意する。

 周囲の生徒も頷く。緑谷が爆豪に目をやると「ケッ」と顔を背けていた。

「……そうか、なら話は早い。そこを退いてくれ」

 オールマイトの言葉に轟は首を横に振る。

「そいつを自由にしてやりたいって、あんたの気持ちも分かる。だが……」

「だからと言って、人々の命と生活を犠牲にしてはいけない!

 僕達は人を助ける為のヒーローなのだから!」

 轟の言葉を引き継いで飯田が言う。

 けれどもオールマイトの意思が変わる気配はない。

 轟はオールマイトに言う。

「オールマイト、俺達はそいつをぶっ飛ばして、青石ヒカルを取り戻す。

 本来の人格がそいつだとか、そんなの関係ねぇ。

 俺達にとって、本物の青の少女(そいつ)はレギオンじゃねえ」

 青の少女の目つきが厳しくなった。

 八百万がその視線に負けじと主張する。

「私達にとって本当の青石ヒカルさんとは。

 図々しくて、気まぐれで、空気も読まなくて、授業中も寝てばっかりいる。

 とても破天荒で、滅茶苦茶で……。

 そんな非常識な青石ヒカルさんなのです」

 彼女の言葉にオールマイトは激しく言葉を荒げた。

「それは、()()()彼女じゃない! 本当の彼女は!」

「それが私達にとって()()()”青石ヒカル”なんです!

 例え作られた人格であっても、偽物の心であっても!

 私達にとって”ありのままの”姿なんです!

 短い間だったけど確かに共に過ごしていた、”本物の”彼女の姿なんです!」

「……!」

 オールマイトの言葉を生徒たちは否定する。

 オールマイトにとってのありのままの彼女と、生徒たちにとっての青石ヒカルとは全く違う。

「だから取り戻す。そのための敵がナンバーワンヒーローのあんたでも。

 ……俺たちは、そいつを救う」

「たかが生徒の力で何ができる!?」

「轟君!」

 オールマイトが轟の方に向かう。緑谷は焦り声を上げた。

 だが轟は落ち着いている。仕込みは既に完了していた。

 そして()()()を彼は解放する。

膨冷熱波(ぼうれいねっぱ)

「ぐっぅ!?」

 凄まじい爆熱がオールマイトを襲い吹き飛ばす。

 先ほどの氷結で冷やされていた大気が、熱で爆発的に膨張したのだ。

 轟焦凍の個性”半冷半燃”。今まで使用していたのは左側の氷結の力。

 彼は右側の炎の方は氷を溶かす時にしか使用せず、忌まわしいものとして封印していた。

 その右側の力を解き放つ。

「あんたは言ったな。守りたいものが有るんだと。

 俺も同じだ。守りてぇものが有る。そのためになら、糞親父の力だって使う。

 あんたが守りてぇ青石ヒカル(そいつ)と、俺が取り戻してぇ青石ヒカル(あいつ)は違うみたいだけどな」

 吹き飛ばされたオールマイト。彼はゆっくりと立ち上がる。

 彼の体の端々から蒸気のようなものが吹き上がっていた。

 レギオンは冷ややかに生徒たちを見る。

 そんな懸命な彼らを嘲笑うかのように彼女は言った。

「本気で私に勝てるなんて思っているの?」

「勝つ……勝ちます! 勝って一緒に平和な毎日に帰ります!」

 宣戦布告を宣言する八百万。

 八百万が”創造”で作ったのは銃。

 (ヴィラン)が襲撃に使用していたものと同じM16だ。

 普段ならもう少し時間がかからないと作れない代物。だがアズライトのサポートにより、生徒たちの個性は大幅に増強されている。

 創造の個性で作ったM16を容赦なく発砲する。

「止めて、暴力はいけない事よ。それに効かないと分かっているのかしら?」

 彼女が手を前に出すと、銃弾はことごとく見えない壁に縫い止められる。

 だがそれは囮。

「あなたは、な――がっ!?」

「効いた!」

 レギオンの背後に一瞬で回り込んでいたのは飯田。

 彼の脚は「青」に光っている。レギオンの後頭部に容赦なく蹴りをくらわしていた。

 追撃を加えようとするが、それは彼女が少し離れた位置に瞬間移動され回避されてしまう。

 レギオンは自らの後頭部に手をやる。彼女の手には血がべっとりついていた。

「ああ、そういう事……。目には目を。「青」には「青」という事ね」

 レギオンは傷も一瞬で治してしまう。

「全く、鬱陶しい……なんで、なんでよ。

 私はただ自由になりたいだけなのに。八木さんと一緒に幸せに暮らしたいだけなのに!

 どうしてあなた達は邪魔をするの!? やめてって言っているでしょう!?」

 彼女の激高に生徒たちは怯まない。何を為すべきか。

 それを既に胸の内に、迷わないための指針として決めている。

 これからする事がどれ程残酷な事であっても、彼らは自分の為、世界の為。そして青石ヒカルを救うため。

 成し遂げるのだと決めたのだから。

 だから迷わない。

「行くぞ」

 生徒たちとレギオン、オールマイトは激突する。

 互いに譲れないものを持ち、守りたいものの為に戦う。

 そのための手段が、どれ程醜く汚らしいものであったとしても構うことは無い。

 お互いが自らの正義の旗を掲げ、命を燃やす。

 この場には、ヒーローも(ヴィラン)も居ない。

 そこに有るのは、守りたいものを守るため戦う”人間”の姿だった。


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