青の少女のヒーローアカデミア   作:かたやん

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第42話

「いやー圧倒的だね。青石君はもちろん分かっていたけど。

 緑谷君もなかなかどうして」

「根津校長、それは?」

「何ってポップコーンさ。いる?」

 根津校長と八木は観客席から体育祭を見物していた。

 オールマイトの姿は痩せこけた姿だ。

 この姿がオールマイトだとは一部の人間にしか知られていない。

 もしマッスルフォームで観客席に居ようものなら大変だ。

 騒ぎで競技どころではなくなってしまう。

「いや結構ですが……本当に良かったんですか?」

 彼が聞いているのは当然、青石ヒカルの事だ。

「正直な話。まぁ、良くは無いね。

 青石君も、そして緑谷君も。力が有る生徒が居るのは当然嬉しいけどさ。

 パワーバランスが崩れるのは良くない。

 強いにしても、そうだね。轟君くらいが丁度いい。

 爆豪君みたいな例外じゃないと、挑む気すら湧かなくなってしまうからね。

 向上心がなくなってしまうのは、良くない」

「……では何故参加させたのです。青石君を。

 緑谷少年は、まだあの段階では分からなかった。ですが青石君は違う。

 理由なら幾らでも付けられたはず

 このままでは彼女が圧倒したままで終わる。

 雄英体育祭が彼女の力を、誇示するだけのイベントになってしまう。

 それは最初から分かっていた筈では……」

「まぁ同情してたっていうのが大きいかな。

 でも八木君。君の心配は無用さ。

 ()()()()()()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()()

「は……? そんな筈無いでしょう……彼女の力は本物だ。

 彼女にかかればハチマキなど、それこそ一瞬で」

「そういう問題じゃないさ。……まぁ見ていたらすぐに分かる筈だよ。

 多分見られるはずさ。人間の悪意って奴をね」

 校長の寂しげな笑みに、オールマイトは不安を隠せない。

 先ほどの校長の言葉。もう一度思い出す。

 何も出来ずに敗退する。何も出来ずに。

 次の競技は騎馬戦。チームは15分の交渉時間を使い、自分で作るないし入れて貰わなければならない。

(……待て、騎馬戦は障害物競走から上位42名。

 そして騎馬の人数は2~4人……。

 ……! まさか、いやしかし……!

 生徒達がその事に、果たして気付くか? 気付いたとして、実行するか?)

 オールマイトの予感は後に的中する事になる。

 

……。

 

「くそっ……くそ!」

 遠くで爆豪が悔しがっている様子が見えた。

 青石ヒカルはぽけーっと次の競技の説明を待っている。

 正直彼女は自信が有る。どんな競技が来たところで負ける筈無い。

 自惚れているつもりすらない。

 現に彼女は周りを圧倒できる個性(ちから)を持っている。

「予選通過は上位42名! 落ちちゃった人にもまだ見せ場は有るわ。

 安心しなさい!」

 ミッドナイトの説明が始まった。

 結局障害物競走の結果は、概ね予想通りだった。

 一位は青石ヒカル。二位が緑谷。三位に轟。四位が爆豪だった。

 青石はてっきり飯田は三位辺りになると思っていたのだが、6位だった。

 それでも十分上位だ。

「そして次からいよいよ本選よ! ここからは取材陣も白熱してくるよ!

 第二種目は……騎馬戦!」

「……騎馬戦?」

 青石ヒカルは騎馬戦を知らない。頭にクエスチョンマークが浮いている。

 実際に浮いている訳では無いが、第三者から見て明らかに分からない風の顔をしている。

「参加者には()()()()()()()()を組んで、()()()騎馬を作ってもらう。

 基本は普通の騎馬戦と同じ、けれど違う点は……。

 先ほどの結果に従い各自に、ポイントが振り分けられることね」

「ポイント制だと!?」

 青石は昨日見た、アニメの登場人物のセリフを使ってみる。

 全身が白い人で、イマイチ頼りにならない人だった。

 最後は仲間を庇って死んでいくが、その仲間も結局死んであまり良い所が無かった。

 一緒に見ていたシアンはきっぱりと「無能ですね」という始末だ。

 でも青石は例え無能でも、一生懸命だった人なので割と好きだ。

 頼りにならないとは感じたが。

 それはさておき、ミッドナイトの説明は続いている。

「ポイントは下の順位から5ポイントずつ振り分けられるわ。

 42位は5ポイント。41位は10ポイント。という具合にね。

 そして――」

 ミッドナイトの視線が青石に向けられる。

「一位に与えられるポイントは1000万!」

 一斉にこちらに向けられる視線。青石は少したじろぐ。

 だがそれが何だというのか。

 青石は心の中で自分を鼓舞する。

 ミッドナイトは更に説明を続ける。

「競技の制限時間は15分。振り分けられたポイントの合計が騎馬のポイントとなり、

 騎手がポイントを表示されたハチマキを装着。

 終了までハチマキを奪い合い、ポイントを稼ぐのよ。

 取ったハチマキは首から上に巻く事。

 そしてハチマキが全部取られても、騎馬が崩れても、失格にはならない。

 最後の最後までチャンスは有るわ!

 当然、個性の使用は有り。でも悪質な崩し目的の攻撃はレッドカード!

 そして、最終的にポイントが多かった()()()()()()

 その騎手とメンバーが、決勝へと駒を進められるのよ!」

「ふむふむ……」

「それでは()()()()()()()。チーム決めの交渉時間とします」

「ミッドナイトさん!」

 青石は手を上げて質問した。

「何?」

「もし15分で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 まぁ、自分がそうなるとは思っていないが、一応聞いてみた。

 ミッドナイトは薄く笑って。

「……ええ、()()()()()()()()()! ()()()()()()()()退()()()

 せめて何処かに入れてもらえるよう、交渉頑張りなさい

 これは君たちのコミュニケーション能力も、同時に計っているのよ」

「大丈夫です!」

 騎馬かなんだか知らないが、要はハチマキを取られなければいいのだ。

 実力は皆分かってくれたはず。自分が居るだけでそのチームの勝ちは確定だ。

「――では、交渉時間始め!」

 

……。

 

「ヒカルが敗退する? ……本気でおっしゃっているのでしょうか。法月様」

「少し考えれば分かる事だ。100%ではない。絶対はない。

 だが、そうなる確率は低くない。そう踏んでいる」

 法月の言葉に耳を疑うシアン。

「考えても見ろ。他の生徒から見たら青石ヒカルとはどのような存在だ?

 正体不明の訳の分からん個性を振りかざす、素行不良のならず者だ。

 その分際で先生達からは目を掛けられている。たかが個性に恵まれたぐらいで。

 大半の生徒はそう思っているのだ。

 だとすると、集団競技の中に放り込むと、周りはどういう反応を示すと思う?」

「……彼女と組めば勝つのは確定します。それでも組む人はいるでしょう」

「それがそうはいかん。奴らは曲がりなりにもヒーローを目指している。

 各々必死だ。勝ったその先の事も考えている。

 仮に青石ヒカルと組んで決勝に上がったとしても、彼女がいる限り優勝は不可能な話だ。

 そして彼女がいる限り、雄英体育祭は正常な運営など出来ん。

 奴が勝つことが誰にでも分かり切っているからだ。

 それではエンターテインメントにはならん」

「……それが、なにか」

「よく考えろシアン。なぜ騎馬戦に出場できる人数が42人なのだ?

 最大で4人のチームが組めるというのにだ。

 なぜチーム決めの交渉に、15分の制限時間を設けていると思っている?」

「……まさか、生徒達が()()を結託して行うとでも」

「雄英は進学校だ。それもトップレベルのな。

 その程度の頭、皆持ち合わせている。

 条件は整った。やらない理由があるまい。

 まぁ奴がチームを組めたら組めたで、考えは有る。

 それはその時の想定の対応をするまでだ。

 可能性は低いと思うがな」

「っ! ……ヒカル!」

 シアンは走った。今恐らく青石ヒカルは絶望の中に居る。

 例え何も出来なくても、少しでも彼女の支えになりたかった。

 観客席から見るしか出来なくても、何もしないという選択肢は彼女の中に無かった。

 

 

……。

 

「ねぇ!? なんで誰も組んでくれないの……ねぇ!?」

 青石ヒカルが入れてくれるチームを求めて、右往左往している。

 その様子を見て、物間寧人(ものまねいと)は、ほくそ笑んだ。

(くくく……奴はここで落ちる。皆の結束の力でね!)

 相変わらず青石ヒカルは、ただ彷徨っている。

(くくなぜ奴は気付かないんだろうね。なぜ皆入れてくれないか。

 入れる筈無いだろう!

 ……簡単な話。まず騎馬戦に参加できる人数。

 それが42人という中途半端で、不自然な数だった。

 この騎馬戦では最大で4人のチームが組める。

 だが三人以下の人数で組むメリットは、ほぼないと言っていい。

 一人入れるだけで、その個性で対応できる幅も広がるし。

 騎手を支える重量も分散できる。人数は多いに越したことはない。

 だけど全員が、4人チームに入る事は出来ない。

 総勢が42人なわけだから。4人ずつで組んでいくと、2人余る計算になる。

 つまりこれは、組むことを悠長にしている奴が、炙り出されて不利になる仕組み。

 そういう事)

 青石ヒカルは辺り構わず声を掛けている。だが誰も取り合わない。

 物間がその()を広げておいたからだ。

(チームは2人から組める。つまり逆に言うと、他の全員で結託し。

 1人しかチームに入れていない状態を作れば……。

 その1人だけを失格に追い込むことが出来る!

 そいつがどれ程の力を持っていようとね。

 その状況を作るには、青石を除いた41人。

 その41人全員が、チームに入っている状況を作る。

 つまり4人チームを8組。3人チームを3組作ればいい!

 これなら青石ヒカルを除いた、41人だけがチームに所属して。

 青石ヒカルだけを排除した形になる。

 全員で口裏を合わせていけば、不可能な話じゃない。

 皆それに気づいている。

 それに気づかない残念な頭の人間なんて、ここにどれだけいるんだろうね。

 皆あの力を恐れている。彼女を排除できる、絶好の機会を逃すはずがない。

 ……本当は緑谷出久も排除したかったが、それは出来ない。

 やつまで炙り出そうとして、4人チームを10組作って余りを2人にしたら。

 その残った2人がチームを作ってしまうからな。

 だから緑谷は妥協するしかなかった……)

「ねぇ!? 誰か! ねぇ!?」

(だが、青石ヒカルは排除できた。十分!

 ははは、怯えろ、竦め、個性の性能を活かせぬまま、死んでいけ!)

 

……。

 

「どうして!? どうして誰も組んでくれないの!?」

 青石は組んでくれる人を求めて彷徨う。

 最初は轟に言ったが、彼は青石と戦う事を望んでいる。

 そして飯田を含んでいる、4人チームを既に組んでしまっていた。

 だから諦めた。緑谷も麗日も、すでに彼らで4人チームを結成していた。

 八百万も既に組んでしまっていた。

 もうこの時点で、仲のいい知り合いとは組めない。

 彼女は手当たり次第に声を掛け始める。

 だが全然ダメ。

 何処の誰もチームに入れてくれない。

「ヒカル!」

 観客席から声が聞こえてきた。何回も何回も聞いてきた声。

 紛れもなくシアンだった。

 青石はシアンも間近に寄る。

 手を互いに伸ばせば触れられる距離に来る。

「シアンさん! あのね……誰も、誰も入れてくれないんだ!

 ボクどうすればいいの!?」

「ヒカル落ち着いてください。時間は後、どれくらいありますか?」

「……五分くらい」

「ヒカル、あなたは強い。あなたを入れたら絶対に勝てるという事。

 それは皆分かっています」

「ならどうして!?」

「……恐れているのですよ」

「恐れている?」

「あなたには決して勝てない、次の決勝(たたかい)を踏まえた上で、勝てない相手を確実に蹴落とすための選択をしている。

 そういう事です」

「そんな……それじゃボクはどうすれば……」

「……今は高圧的にならず、下手に出るしか有りません。

 そして、知り合いをとにかく探しなさい。

 あなたの人となりを深く知るものなら、助ける選択をしてくれる人も居る筈です」

「……分かった。とにかく頑張ってみる」

「はい、頑張って下さい。ヒカル」

「うん! シアンさんありがとう!」

 青石ヒカルは再び、生徒達の群れの中に飛び込んだ。

「誰か! 誰か組んでくれる人は居ませんか!? お願いします!」

 彼女の声が、生徒達の喧騒の中消えていく。

 彼女と組んでくれる人は、まだ居ない。

 


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