青の少女のヒーローアカデミア   作:かたやん

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第52話

『さぁいよいよ始まるぜ決勝戦!

 青石ヒカルVS爆豪勝己』

 気合十分といった顔つきの爆豪に対し、青石は興味なさげだ。

「ふあ……」

 青石は大きな欠伸をしてうーんと背を伸ばす。

 爆豪の眉間にしわが寄る。鬼のような形相をしている爆豪にも構わず、彼女はどこ吹く風。

 あくまでマイペースに構えている。

 緊張の欠片も見当たらない。

「……舐めやがって」

 普通なら聞こえない小さな爆豪の呟き。

 だが青石はそれを耳に入れている。

 だからといって態度を変える気も無い。

「まさか決勝に来るなんて、驚いたよ着火マン。

 てっきり八百万さん辺りが来ると思ってた。

 本当に強いんだね」

「はっ! 思ってもねぇことを」

「ううん、強いと思ってるのは本当だよ」

 爆豪は強い。青石そうは思っているし評価している。嘘偽りは無く本当に。

 もっとも彼は、彼女の言葉を信じていないようだが。

 

 これから行う戦いは一瞬で終わる。

 爆豪の個性”爆破”。強力な個性ではある。

 だが青石と戦うには荷が重すぎる。

 彼女に一矢報いるのなら、初戦で青石と戦った心操の様な個性でないと厳しい。

 純粋な戦闘力に特化した個性では、彼女には勝てない。

『じゃあ始めるぜ。3、2、1……スタート!』

 青石の視界がゆっくりになる。

 爆豪の突進をゆるりと青石は眺めた。

 彼女の頭の中に有るのはこの戦いではない。

 先ほど相澤としていた会話を思い出していた。

 

 ……。

 

 青石は相澤に、思う存分に甘えていた。

 シアンはここには居ない。

 先ほどシアンに連れてこられて、ほどなくして相澤が来た。

 会話は無い。

 無言のまま時間が過ぎる。だが意外に雰囲気は悪くない。

 青石はただ、相澤と一緒に居られる時間をただ心地いいと思う。

 ずっと永遠に居たいと思う。だが、それは許されるべきではない。

「ねぇ、相澤さん」

「……何だ」

 青石は相澤の目を見据える。

 相澤も彼女を見つめ返した。

 不思議な気分だ。

 さっきまでは心の底にヘドロのようにこびり付いていたもの。それが綺麗さっぱりと霧散したように感じられる。

 どうしても考えずにいられない。

 緑谷との試合中で感じた”人間”への疑問。

 自分の生い立ちへの呪い。不安焦り、怒りに悲しみ。嫉妬に後悔。

 様々な感情が混ざり合って彼女自身分からなくなっていた気持ち。

 それらが一つの感情に塗りつぶされる。

 彼を見ているだけで、全てを忘れられる。彼と一緒なら、どんな困難にも立ち向かえる。

 どれだけの苦しみや、終わりのない痛みを抱いても耐えられる。

 今まで青石が頑張っていられたのは、きっと側に彼が居てくれたから。

 この感情をなんと呼ぶのか既に知っている。

 彼女は自嘲した。存外自分は複雑そうに見えて、実は単純な性格をしているのかも知れない。

 青石は振り返る。

 自分の為すべきこと。自分の為してきたこと。自分がやりたいこと。

 バラバラだった気持ちが一つになって固まっていく。

 色々な事が見えすぎて決められなかった指針。

 それを明確に己の中に定めていく。

 彼女の中の迷いが晴れていった。

「体育祭。優勝して、やりたい事があるんだ」

「どんなことをだ」

「うん、えとね……」

 

 彼女の口から語られた言葉。相澤の目が見開かれた。

 表情から分かる。彼は青石がやろうとしている事に賛成していない。

 青石が語り終わるや否や、案の定相澤は首を振った。

「駄目だ。そんな事をしたらお前は……」

「相澤さん!」

 いつにもない強い口調で青石は遮る。

「これがボクがしたい事なの。ボクがしなくちゃいけない事だって。

 そう思うの」

 相澤は怯んだ。

「やってしまったら後には引き返せないぞ」

「いいよ、もうボクは逃げない。逃げたら駄目なんだ。

 こうやって皆が集まってる。

 テレビだって全国に放送されてる。今しかないよ。このチャンスを逃がしたら、きっとボクは一生後悔するって思う」

「それは今じゃなくても良い青石!」

「ううん、今じゃなくちゃいけないんだ。

 むしろ遅すぎたんだ。本当はもっと前にしなくちゃいけなかったんだ」

 青石の言葉に押し黙る相澤。

 彼女の覚悟が分かったのだろう。

 吐き捨てるように呟いた。

「好きにしろ」

「ありがとう相澤さん」

 感謝の言葉を言う青石の顔は静かに笑っている。

 対照的に相澤の顔は浮かなかった。

 

…………

 

………

 

 

『勝者! 青石ヒカル!』

 審判の声が競技場に響いた。

 青石ヒカルはボーっとした頭で状況を捉える。

 ああ、そうだった。

 雄英体育祭の決勝戦を、つい何秒か前に開始したんだった。

 それを思い出す。

 先ほどの相澤との会話で頭が一杯になっていた。

「糞がぁ……!」

 場外に放り出された爆豪が悪態をつく。

 そう、決勝戦に上がってきたのは爆豪だった。

 爆豪はその前青山優雅と戦って勝ち上がったはず。だがその試合は青石は見ていない。

 自分の悩み事でいっぱいいっぱいで、とても気にしている余裕も無かった。

 それに誰が勝ち上がろうと、己が勝つことは分かり切っていた。

 興味も沸きようがない。

 現に今青石は、路傍の小石を蹴り飛ばしたような感覚。

 あるいはたかる虫を追い払うような感触で、爆豪に勝利している。

 歯牙にもかけない。鎧袖一触。

 緑谷との試合だって、本来はそのくらいの差があった。

 周りからはいい勝負に見えても、残酷なまでに力の差がある。

 文字通りアリとゾウ程までに。

 だから特段感慨はない。

 戦いに勝つこと。それに価値を彼女は見いだせていなかった。

 彼女にとって、力で相手をねじ伏せる事に意味はない。

「あっ……爆豪君! ごめんなさい! 大丈夫!?」

 爆豪の頭から血が流れていた。

 慌てた青石は急いで爆豪の元に走る。

 個性を使って傷の状態を確認する。

「止めやがれ!」

 彼女の治療に爆豪は受け入れようとしない。

 だが青石は無理やり個性で傷を治癒した。

「Code Blue……」

 幸い大した怪我では無かった。だが青石は反省する。

 もし、打ちどころが悪かったら骨の一本や二本簡単に折れていただろう。

 青石なら治せる。けれど青石は爆豪に痛みを与えた事に罪悪感を覚えていた。

「治ったよ。ごめんね着火マン、もっと気を付けていれば怪我なんて。

 痛くしないで済んだのに……」

「……」

 爆豪からすれば屈辱でしかない。

 勝者からそんな気遣いの言葉をかけられても、情けなくなるだけだ。

 だが青石にはそれが理解できない。

 

 彼女が思う価値のある事。

 それは互いが理解し合えること。

 戦って勝つのは、あくまで手段でしかない。

 彼女にとって重要なのはここからだった。

 

 ……。

 

「それではこれより表彰式に移ります!」

 雄英体育祭は、あまりにもあっけなく終わった。

 青石ヒカル。彼女の力は底すら見えない。

 しかし危なかった場面はあった。

 騎馬戦の組み合わせの時。それと心操との戦いの時。

 だが純粋な力と力の激突の際に、彼女が押し負ける事は一切なかった。

 障害物競走ではぶっちぎり。

 騎馬戦でもハチマキを結局は独占した。

 しかも彼女のやる事なす事、全てが早すぎて目で追えない。

 それが一番の問題だ。

 凄いのには間違いない。

 だがどう凄いのか、目で見ても理解できない。

 まだ緑谷の領域は分かりやすく強い。

 けれども青石ヒカルは既に、それより数段上の次元に居る。

 素人が見ても彼女が凄いというのは分かる。

 しかしどう凄いのかが分かりにくい。

 ともあれ。

 彼女が次世代のトップヒーローになるだろう逸材。

 ほとんど全員その意見で一致している。

 彼女に向けられるカメラの数は凄まじい。

 これらで撮られた写真や映像が日本に、そして海外にまで広がっているのだろう。

 青石ヒカルは先に個性を使用する。誰にも見えないように。

 カメラの回線を通じインターネットを、密かに己の支配下に置いていく。

 誰もそれに気づかない。表彰にメダル授与はつつがなく行われていく。

 青石ヒカルは優勝なので、授与は最後だ。

 彼女あまり周囲の声を聴いていない。

 ただ空を見上げる。

 今から青石ヒカルがやろうとしている事。

 相澤はそれに反対した。だがそれを押し切って青石はしようとしている。

 確かに黙っていた方が良いのかも知れない。

 だが……。

「優勝おめでとう」

 目の前に立つ人物に目を戻した。

 メダル授与を行うのはオールマイト。

 カメラのシャッター音が聞こえた。

 ナンバーワンヒーローと次世代のナンバーワンヒーロー。

 多分その絵面に食いついているのだ。

「ありがとうございます」

 青石の返事はよそよそしい。オールマイトは寂しげな顔になった。

「きっと君は立派なヒーローになるんだろうね」

 瞬間、頭が沸騰した。

 だが気持ちを押さえつける。湧き上がる衝動を理性で制御する。

 青石は首を横に振った。

「いいえ、ボクはヒーローにはなりません。……ヒーローにはなれません」

 周囲がざわざわし始める。

 人々の困惑が嫌でも伝わってくる。

 当然だ。仮にも彼女は、ヒーロー科に所属している生徒だ。

 力だって申し分ない。なのに何故そんなことを言うのか。人々は分かりかねている。

「ボクは、ボクの罪を明かします。

 今までずっと隠していた罪を。決して許されない咎を」

 青石は個性を使用した。

 彼女により世界そのものが”青”に染められる。

「なっ!?」

 悲鳴が上がる。

 彼女は自身の意思で力を振るう。

 レギオンと思考が共鳴する。

 彼女は世界へ向けて意思を発信し始めた。

 

…………

 

………

 

 

 世界の皆様。

 ボクの名前は青石ヒカルです。

 今ボクは、ボクの個性を使って、世界中の皆様に意思を直接届けています。

 なぜこんな事をしているかと言うと、どうしても伝えなければならない事があるからです。

 

 ボクは――ボクの罪を告白します。

 

 本当に、申し訳ない事をボクはしてしまいました。

 どれだけ謝っても、決して許されないことをしてしまったんです。

 

 突然の事で皆驚いていると思います。

 ですが、どうしても伝えなければならない事があるのです。

 

 最初に言います。これから伝える話は全て真実です。

 とても信じられないかも知れません。ですが全て本当の事です。

 

 ――今から約十年前。大きな災厄が世界を襲いました。

 それは”青の世界”と呼ばれています。

 

 それを引き起こした犯人は、既に捕まった。

 そう皆さまは聞いていると思います。

 ですが、皆様が犯人だと思っていた人は無実です。

 真犯人は別の人です。

 ボクはそれを誰よりも知っています。

 

 何故なら十年前の災害を引き起こしてしまった犯人。

 それは他でもない、ボク自身だからです。

 ボクはその事件を引き起こしてしまった、真犯人です。

 ボクが、数千万人の人を至らしめてしまったんです。

 

 オールマイトが救ったというのは本当です。

 個性で暴走したボクを止めてくれたのは、他でもないオールマイトでしたから。

 

 世間一般には情報が改ざんされ、真実は隠蔽されています。

 

 そもそもボクは自然に生まれた存在じゃありません。

 世界に来る災いを、跳ねのける為に作られました。

 

 5th(フィフス)スターレイン。

 それがボクが対抗する災いの名です。

 何もしなければ地球に流星群が降り注いで、文明は崩壊し人は絶滅します。

 だけど、大丈夫です。

 心配しないでください。

 スターレインは、ボクが何とかしますから。

 その為に、ボクは生まれてきたのですから。

 

 ボクは許されない事をしてしまいました。

 

 数千万人の方々が亡くなられたのです。ボクはワザとではなかった。

 でも、そんなの言い訳になりません。

 いくら謝っても決して許されない事です。

 

 ボクは卑怯者です。

 ボクは自分の罪からずっと逃げ出して。

 ずっと真実を世界の皆さんに隠し続けてきました。

 

 ボクは怖かったんです。

 皆さんに真実を話して、どのように受け止められるのか。

 いったいどんな目で見られるのか。

 それを受け入れる自身が無かった。

 

 本当はもっと前に、こうやって真実を明かすべきだった。

 だけど弱いボクは、ずっと逃げ続け、今まで真実を伏せ続けていたんです。

 

 もう一度言います。

 十年前の青の世界。

 それを引き起こした犯人は――ボクです。

 青石ヒカルです。

 数千万人の命を奪ってしまった、史上最悪の(ヴィラン)

 それがボクの正体です。

 

 ……。

 

 スタジアムは静まり返っている。

 緊張で高まる鼓動で青石の心臓は破裂しそうだ。

 今、青石は告げた。告げてしまった。

 もう後戻りは出来ない。取り返しもつかない。

 法月らが隠蔽していた真実。

 それを世界中に告白した。

「信じられないと思います。でも全部本当です」

 青の少女は繰り返す。

 自身が十年前の災厄を引き起こしてしまった事。

 数千万人の命を奪ってしまった犯人だという事。

 そして二週間前の事件。

 それも自分のせいで起き、収めてくれたのは同じクラスの友人たちである事。

 

 ――話せる事は全て話した。

「本当に申し訳ありません」

 頭を下げる青石。

 周囲に音が戻ってくる。

 いつの間にか世界から”青”は消え去っていた。

 彼女の懺悔の言葉は世界へと届いている。

 勿論、このスタジアムにいる人達にも。

 ざわざわと周囲から声が漏れ出す。

 

 そして観客席から飛んできたたった一言。

 青石の心に深く突き刺さった。

「人殺し!」

 その言葉に同調して次々と罵倒雑言が青石に投げられる。

――人殺し

 青石はそれを受け止める。

 最初からそのつもりだった。

 だがこうして人々の憎しみを一身に受けていると、やはり辛い。

 それでも青石は曲げない。

 ずっと隠してきた真実。

 でもそれは世界中の人達が知るべき真実だと、そう思っているから。

「君は……」

 オールマイトに目をやる。彼は困惑しつつも納得したような。そんな顔をしている。

 ずっと隠蔽していた事実。

 だが思わぬところで、それは漏れ出るもの。

 スタジアムは騒然としている。

「あれは事故だった……!」

 オールマイトの言葉は静か、だがよく響いた。

 民衆たちも彼の言葉で黙りこくる。

 ナンバーワンヒーローの全身から放たれる圧。それが民衆たちを黙らせた。

「君はまだ幼くて、とても制御なんて無理だった。

 勝手にそんな力を押し付けられて。

 君はどうしようも無かったんだ。()()()()()()()()()

()()()()()()()、人が死んでも良いんですか!?」

「そうは言ってない。だが君は(ヴィラン)じゃない!」

「ボクは数千万人の命を奪ってしまったですよ!

 (ヴィラン)じゃないなら、何なんですか!?」

「……それは」

「ボクが(ヴィラン)じゃない?

 なら……。じゃあ(ヴィラン)とはなんですか!?」

 彼女は問いかける。

 (ヴィラン)とは何か。

 彼女は自分自身を(ヴィラン)だと定義している。

 数千万人の命を奪った、史上最悪の(ヴィラン)だと。

 決して許されることは無い咎人だと。

 だから雄英(ここ)から出てはいけない。

 人並みの幸せを求めてはいけない。

 使命のため生きて、使命に殉じて死ぬ。

 そうあるべきだった。

 だから分からなくなる。

 いざ死ぬ必要がなくなって、未来が拓けたとしても。

 何のために生きればいいのか分からなくなる。

 まるで果てのない荒野に、突然放り出されたようだ。

 青石ヒカルは、スターレインを迎撃し、終わったら死ぬ。

 その前提に従っていれば良かった。従っている方が楽だった。

 己の罪も、死んでしまえば祓われる。永遠に続く良心の呵責から逃れられる。

 青石ヒカルは処分される筈だった。むしろ彼女自身がそれを受け入れ、それを望んですらいた。

「分からない」

 オールマイトは首を振った。

 (ヴィラン)とは何か。それは誰も分からない。あまりにも誰もなにも知らない。

 自分たちはあまりに無力で無知であることを、彼は知っている。

 辿り着いたと思った答えも、間違いかも知れない。

 世界には何一つ確固たる基準など無く、絶対的なものなど存在しなかった。

 だから言えない。

「なら……」

「皆さん!」

 オールマイトが大声を張り上げた。

 スタジアム中の視線が彼を向く。

 きっとカメラを通して世界中の人がオールマイトや青石を見ている。

「彼女の言った事は全て真実だ」

 彼の言葉に怒号が飛んだ。

 嘘を吐いたのか、騙したのか、そんな言葉が四方八方から浴びせられる。

「だが誤解しないで欲しい!

 彼女は十年前、まだ幼かった! とてもこの強大な個性を制御できる年齢ではなかった!

 彼女は意図して、十年前の災害を引き起こしたのではない。

 アレは事故だった、それを忘れないで欲しい!」

「でも!」

 言いよどむ青石の頭にオールマイトは手を置いた。

 大きくて暖かい手だった。

 相澤とはまた違う、優しさと温もりがあった。

「君は、人を思いやる心を持っている。

 暴力を憎んで、人と分り合いたい気持ちがある。

 君は確かに大きな災害を起こしてしまった。

 だが関係ないさ。

 君はヒーローになれない?

 馬鹿馬鹿しい。

 いったい誰がそんなことを決められる?

 罪を犯したことの無い人間なんて、どこにも居やしないさ」

「ボクは! だけどボクは!」

 青石ヒカルは涙を流した。

 彼女はずっと苦しんでいた。罪に押しつぶされそうになり、だが弱音を吐くことも許されない。

 誰にも彼女の苦しみは理解されず、理解も出来ない。

 オールマイトは

「もう、君は君を許して良いだろう。……君は――ヒーローになれる」

「……遅すぎるよ。なんで……なんで今更、本当に馬鹿」

 馬鹿と言いながらも彼女は笑う。

 なぜそんな顔になるのか、彼女自身分からない。

 だけど、胸の奥にずっと抱えていた物が一つ解放された気がした。

 

 青石はそれからの事をよく覚えていない。

 ただわんわん泣いてしまった事は覚えている。

 そしていつの間にか放課後になって、いつもの部屋に戻って一日が終わった。

 自身が暴露した事実の重さ。それを改めて実感するのは後日の話。

 彼女は行くべき道を一つ見つけた。

 ヒーローになれるとオールマイトは言ってくれた。

 だが、青石は本当になれるとは思っていない。

 まだ、その為の資格を獲得していない。

 

 青石は罪を告白した。世界中から憎しみを集めて、そして一人に許された。

 

 世界中の人全員が、彼女を許してくれることは、まずない。

 これから先、様々な悪意や憎しみが彼女に降りかかるだろう。

 それでも青石は進み続ける。

 青石は真実を、世界の人々が知るべきだと考えた。

 彼女には夢がある。

 人の為に、誰かの為に。

 そういう存在でありたい。優しくなりたいと。

 青石の中で本当に優しい人間とは、我が身可愛さで真実を隠蔽することを絶対にしない。

 公明正大でなければならない。

 だから後悔などしていない。

 

 過ちを犯さない人間など居ない。

 そして、人は犯した過ちを乗り越えた時にこそ、強くなれる。

 青石はそう思っている。

 罪が有るのは、罰を受ける為ではない。

 罪を贖うために必要なのはきっと、罰以外の何かだ。

 なら青石は、罰以外の何かで贖い続ける。

 全ての人達に、そして自分自身に胸を張れるように。

 今日の夕焼けもまた、あの日と同じように金色に輝いている。

 光を受けて、蝶の羽が煌めいていた。

 

 世界は大きな変革の時を迎えようとしていた。


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