青の少女のヒーローアカデミア   作:かたやん

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第59話

「ほら皆ー! 早く早く!」

「ったく元気なもんだな」

 隣で元気よく青石ヒカルが手を振っている。

 1-Aのクラスメイト達が彼女の元に集まる。

 彼女の有り余る元気に皆苦笑いだ。

 青石は雄英の校舎の屋上に、ブルーシートを広げていた。

 そこに相澤は胡坐で腰を下ろし、青石はいわゆる女の子座りしている。

 色々なお菓子や飲み物をずらりと並べ、まるで遠足みたいだ。

 今日は午後この買い出しに相澤も付き合わされた。

「とうとう今日ですのね。長かったような短かったような」

 一段と気合を入れた格好の八百万が青石の隣に来る。

 首には双眼鏡が下がっていて、背中にはリュックをしょっている。

 これから登山にでも向かうつもりなのか。

「うん! もうすぐで始まるよ、スターレイン!」

 青石ヒカルの言葉が響いて、一段と皆のテンションが高くなった。

 そう、今日は早くもスターレインが来る日だ。

 青石ヒカルの手により隕石群は粉々になり、地上には降り注がない。

 細かくなった破片は、大気圏で燃え尽きるからだ。

 そしてその燃えカスは、地上から流れ星として見える。

 この事を知った企業はスターレインを商業的チャンスととらえ、様々な施策を行ったりしている。

 政府はスターレインの害はなくなったとの広報に、忙しく過ごした。

 特に青石が忙しかった。

 スターレインを迎撃し、粉々にした本人として、CMやテレビ番組の出演。

 プレゼント・マイクのラジオ番組にも出るなどした。

 相澤もヒーローとしてその手のCMに引っ張り出されたりした。

 青石に連れ添い、傍らで見守ったのは相澤だけだからだ。

 おかげで世間の認知度も急上昇。

 青石との関係も当然、毎日世間で話題にされている。

 青石が相澤に恋愛感情を持っているのは、もう誰の目にも明らかだからだ。

 中には青石を信じずに、終末論で本気になって暴れ出すものも居た。

 だが当然そこはオールマイトなどのヒーローの出番だ。

 特に問題もなく鎮圧されている。

 青石が出るまでも無い。

「やぁ、青石君、こんばんは。相澤君も」

「あ、お……じゃなかった八木さん。こんばんは」

「おう」

 痩せこけたオールマイトが姿を現した。

 相澤も首を振ってあいさつに応じる。

 青石の後ろの方に彼は陣取る。

「このところ忙しかったみたいだね」

「うん。あんまりテレビとか興味ないけど……。

 なんかプロデューサーさんとか必死だったし断り辛かったんだ」

「大事な仕事さ。手抜きせずにした分偉いぞ」

「むぅ……でも何だかコレジャナイ感? それがあってね。

 本当にコレで良いのかなぁって。だってつまんない」

「ちゃんとマスメディアに対応するのは大切な事さ。自分を皆に知ってもらう。

 そういう事だからね。知らない人の言葉より、知っている人の言葉の方が胸に響く。

 青石君も、相澤君と他の人の言葉の重みは違うだろう?」

「うん」

「皆が青石君の言葉を聞いてくれるようになるには、地道に努力を重ねるしかないんだ。

 例えそれがつまらない事でもね」

「うん。分かったよ」

 青石は基本的に情に訴えられると弱い。

 断られると会社を首になるかもとか、養っている家族がどうとか。

 テキトーに泣かれると、青石は直ぐに首を縦に振る。

 世間に青石が徐々に認知されてきて、どうやら性格も皆分かってきたらしい。

 一言で表現するなら、チョロい。

 騙されやすいので、将来詐欺に遭わないか心配だ。

「なんか有名になるって大変だね。お買い物するだけで時間かかっちゃうし」

 青石も何だかんだ進展が有った。

 なんと普通に買い物が出来るほどまでに成長した。

 彼女は今超が付くほどの大金持ちだ。

 もう一生遊んで暮らせる額が、彼女の口座にある。

 どれほど凄い金額なのかは、彼女はまだ分からない。

 今現在で3千億円ほど。だがまだまだ放っておけば増えるだろう。

 そう言えば、そのお金の一部数億円ほど麗日にあげようとしたらしい。

 当然断られたようだが。

「ホント、飯田君が顔を隠したコスチュームなのも納得できるよ」

「まぁそういうコスチュームは、プライベートを守ったりするためにあったりするからね。

 機能的な都合は当然だけどね。

 まぁ顔出しした方が親近感も沸く。実際人気のヒーローは顔出ししてる方が多いし。

 顔出しするかしないかは、個人の自由さ」

 飯田が青石の言葉に応える。

 確かに彼は全身を覆うコスチュームだ。見た目より機能を重視するなら、全身を走行で覆う方が良い。

 彼らしい良いコスチュームだと相澤は思う。

「そっかー」

 青石は納得した風で、どこまで理解しているのだろうか。

 頷いている青石の側に影が差す。

 相澤が見上げると。

「やっほ青ちゃん」

「お茶子ちゃん、やっほ」

 次に麗日がやってくる。彼女達が和気あいあいと会話している。

 青石を何となしに見る。

 彼女は余りにも小さい。

 一応年は16だ。緑谷達1-Aと同い年だというのに小学生程の体格しかない。

 こんな体に世界を滅ぼせるほどの力が有るのだ。

 今更ながらとても信じられない。

 マスコミでも度々その事は取り上げられる。

 まぁその小ささは、概ね好意的に捉えられている。

 身長も低いし胸も平坦で、ミニマム。

 態度もかなり子供っぽい。

 彼女が余りに小さいせいで、相澤にロリコン疑惑が浮上しているが

(俺にそんな趣味は無ぇよ)

 生憎と相澤には彼女に恋愛感情はない。

 側に居てと彼女が願う限り、側には居るつもりだ。だが彼女がこの先どんな成長をするのか。

 それは誰にも分からない。

「あっ! 始まったよ! スターレイン!」

 辺りから声が上がる。

 クラスメイトのテンションが最高潮になった。

「綺麗……」

 星の雨が降っている。

 月がない闇の奥から、光の筋が空を横切り消える。

 一つや二つでは無い。

 幾重にも幾重にもそれは重なる。

 夜空をキャンパスにして、数多の星が思い思いに流れて消える。

「なるほど……スターレイン。これは青石さんの”個性”にピッタリですね」

「え? なんで?」

「なるほど」

「えっ? 相澤さん分かったの?」

 青石は教えてと体を揺さぶってくる。

「流れ星に消えないうちに願い事を三度すると、願い事が叶う。そういう言い伝えが有るんだ」

「願いが……叶う……あっそっか」

「青石さんの個性は”夢を現実にする”。

 言い換えれば”願い事を叶える”個性じゃ有りませんか!

 これは青石さんに相応しい天体ショーですわ!」

 八百万の言葉を青石はどう噛み締めているのだろうか。

 青石は空を見上げる。

「青石さんはまさに今、世界中の人達の願いを叶えているのですわね」

「皆の分の流れ星有るかなぁ?」

「多すぎて余るぐらいだろう」

「えへへ。願い事が叶う。そっかー。じゃあボクもお願いしてみようかな」

 青石は両手を組んで空を見る。

 彼女の目に流れ星が映っているのが見えた。

 彼女は一体何を願っているのだろうか。

「まぁ青ちゃんのことだからね。何を願ってるなんて分かり切ってるけど」

「お前達には分かるのか?」

 麗日が怪訝な顔つきをする。そこまで変な事を言った覚えは無いのだが。

「むしろ先生は分からないんですか!?」

 麗日が聞いて来て相澤は考える。

「……分からん。世界平和……か?」

「ええ……」

 何故かそこらから落胆した声が上がる。

 青石は聞こえていないのか、真剣に目を瞑って願い事に集中していた。

 今世界中に星の雨は降る。

 星の雨は止むこと無く続く。

 知らせでは約一週間は、夜の間続くらしい。

 世界中の人が流れ星を見て、願い事をするだろう。

 全人類が願っても有り余るほどの流れ星。

 それを見て人類は何を思うだろうか。

 これはきっと彼女の願いの形そのものだ。

 彼女はその気になれば放置して、世界を滅ぼす事すら出来た。

 だが世界は終わらない。彼女の慈悲の元で世界は続いていく。

 明日も、明後日も、来年も。

 世界は止まることなく動いていく。

 彼女はどんどん人を知り、変わっていくだろう。

 彼女は宇宙開発をするヒーローになると決めた。

 人の醜さや愚かさ。人間の持つ本当の醜悪さを、きっと青石は知る事になる。

 これから先、ヒーローとして活躍すると決めた以上は。

 そして何も醜いのは(ヴィラン)だけではない。

 彼女にこびへつらい、もしくは利用しようとする人間もこれから先出てくる。

 いや、むしろ今まさに出てきている。

 テレビ局の人達がまさにそうだ。視聴率命の彼らは、何としてでも彼女の情報を捉え。

 あわよくば番組に直接出演させようと必死になっている。

 そして各国の動きもそうだ。

 この前はアメリカの上院議長。その他の国のトップクラスの権力者が、彼女に面会した。

 彼女の国籍を日本から移そうと提案した国すらも有る。

 当然丁重に断らせてもらったし、本人も直々に拒否した。

 願い事が終わったのか、こちらを向いている青石と目が合う。

 だが、これから先のそんな苦労も知らないように。青石は笑顔になった。

 星の雨の下で青石が笑っている。

 あの部屋の中で独りぼっちだった少女が。笑顔のやり方すら知らなかった彼女が。

 彼女は流れ星にどんな願い事をしたのだろうか。

 きっとそれは彼女の個性ですら無しえない。相当に困難なものに違いない。

 相澤はそう思う。

「えへへ、さっそくちょっぴり叶っちゃった」

「は?」

 呆ける相澤をよそに青石はご機嫌だ。

「何でもなーい」

 青石は相澤と手を重ねてきた。冷えた彼女の指先は人の未来を担うには、あまりに小さい。

「なぁ青石……お前は」

「うん?」

「いや……忘れてくれ」

「――相澤さんは何を知りたいの?」

 青の少女の目が光る。

 彼女の中のスイッチが切り替わる音が聞こえた気がした。

 周りのどんちゃん騒ぎが遠く聞こえる。

 二人だけの時間が流れ、息をするのも忘れる。

「お前は何を願ったんだ?」

「……内緒」

 弾むような声で彼女は言う。結局教えないのかと相澤は内心思う。

 だがそう言えば願い事は人に言ってはいけない。

 そんな言い伝えもあった覚えが有る。

 まぁ青石は流れ星の願い事を知らなかったので、図らずもといったところか。

 青石は更に肩を寄せてきた。

 首を相澤の肩に乗せてくる。

「おい」

「えへへ」

 周りから冷やかしの声が聞こえるが、青石は気にしていない。

 むしろ見せつけるように体を更に密着させてくる。

「やめろ」

「やめなーい」

 無理やり引きはがそうと思ったが、彼女のあまりに幸せそうな顔に躊躇った。

 結局相澤は青石にされるがままになる。

 相澤はこれから先も、青石の願いが、夢や希望が、どうか変わらないように。

 このまま、人の幸せを願う優しい存在で有れるよう。

 流れ星に祈った。

 青石の顔を盗み見る。

 彼女は笑っていた。

 相澤も釣られて頬が緩んでいた。

 幾千万の星が降る。

 まるで相澤には、十年前の犠牲になった魂が、再びこの世に現れてそのまま降り注いでいるのではないか。

 死人に思いを馳せる人に一人では無いと、語りかけるために。

 そんな思いすらも抱かせるような幻想的な風景で。

 一生忘れられない、思い出になった。


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