三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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鹿角理亞ルート 30

 私に親しげに話しかけていることで、

 多少なりとも理亞ちゃんからの司令への視線は氷属性風味。

 ツバサや理亞ちゃんといった私と親しい人間に限らず、基本的に誰かが私をディスると、どなたかからフルボッコを食らうフラグが立つ。

 芸能関係者なんかだと亜里沙の耳に私の悪口を言った件が入ろうものなら、下手すると番組のレギュラーを失ったりする。ハニワプロなんかだと何日間か出勤停止ねみたいな扱いを受け、程度が酷いとそのままさようなら。別に亜里沙が絶大な権力を握っているからというわけではなく、迂闊に人の悪口を言うような人間は、ツイッターでポロッとつぶやいた言葉で炎上してしまったり、何かしら問題を起こすケースが多いとの説明を受けたんだけど、別に私をディスるくらいなんともない事にして欲しい。

 基本的に友人や自身を慕っている人間が多い星空凛あたりにも、私をディスった情報が入るとえらいことになる。凛と共演NG扱いされると、派生的にタレントやアイドルの共演NGを食らう、学校でもなんでも人の悪口は言っちゃダメだよみたいに習うものだけど、凛の場合は率先して自らから絢瀬絵里をディスるからタチが悪い。

 なお、絢瀬亜里沙と星空凛の両方に絢瀬絵里をディスった発言を伝えられてしまった黒澤ルビィちゃんは未だに芸能界で生き残っており、一番芸能界で強いのは誰かって言ったら、私はルビィちゃんを挙げたい。

 今度何かしらで出会う機会があれば、悪口キャラで売ってみたらどうかと言ってみたい、私が言った所で頷いてはくれないだろうし、絢瀬絵里に関しては事実の列挙だと言って否定するに違いない。

 

「で、この子は誰? 新しい恋人?」

「そのように誤解を生む発言はやめてください、

 私に恋人なんてできたためしないでしょう?」

「絵里ちゃんそれ、すごく言ってて悲しくならない?」

 

 すごく悲しくなる。

 事実の列挙とは言え指摘を受ければ悲しいし、

 気分が悪くなるかと言えばなるものである。

 それを自分から言ってしまうと、

 微妙に場の空気がひんやりとしたものになり、

 敵意を司令に向けていた理亞ちゃんも、

 え、あ、ごめんなさいって感じで完全に牙が抜けた感じ。

 期せずして喧嘩になることはなかったけれど、

 私の評価が上がったかと言うとむしろ下がった気もする。

 

「そっか、鹿角理亞ちゃん……ええと、

 ダイプリだと誰になるのかな? こんな子いたっけ?」

「ツインテールで一番人気のない人です」

 

 反応に困る自身の表現法が理亞ちゃんにも伝播中。

 事実ではあるけれど、聞いている方からすると、

 あ、はい! って頷けば良いのか、

 そんなコトないですよって否定をすれば良いのか分からないはず。

 希の自身が地味に通じる表現であり、

 恥ずかしげもなく説教かましたケースも数度あるんだけども、

 みんなそう言ってくれるけど、自分ではと言っていたので、

 今度会う時には胸ぐらでも掴んでイエスと言わせるつもり。

 

「あー……あの、うさちゃんが二役やってる?」

「そうです、声だけがメインヒロインって言われてるアレです」

「理亞ちゃんやめよう!? そろそろ自虐ネタはやめよう!?」

 

 ついつい私も自虐に走ってしまうけれど、

 周囲はこのような気持ちになるのかと思い、少しばかり自重の方面に走ることに決めた。

 司令とアイコンタクトをして話題の転換に踏み切り、

 彼女から貸し一つねみたいなことを言われたけど、

 恐らく言われるコトは分かっている、お孫さんに会えって件だ。

 

「コホン、理亞さん、あなた声の出し方に癖があるわね?」

「え? そうなんですか?」

「うん、こういうのは矯正が難しいけど、

 この人例にして指導するからちょっとやってみない?」

 

 この人って誰やんなぁ? と、希みたいに首を傾げたけど、

 この場に三人しか居ないんだから該当するのが私しかいない。

 貸しを作ってしまった手前、

 じゃあ切なく喘いでみてよと言われれば、

 本当に申し訳なく喘がなければならない。

 

「まず、人間が声を発する時に重要なのが舌です」

「舌?」

「そう、ちょっと絵里ちゃんあっかんべしてみて」

 

 なんでそんなことをと思いつつ、

 司令に向かってポーズをとるのは申し訳なかったので、

 理亞ちゃんに向かってあっかんべをすることに決めた。

 

「絵里先輩、舌長いですね?」

「そう?」

「ううん、理亞さん、舌というのはこれほど長いのよ?」

 

 司令が言うには舌根と呼ばれる部分が発声の際に障害になるらしく、

 理亞ちゃんがロリ声を出す際に銃で撃たれたゾンビみたいになってしまうのもソレが原因であるみたい。

 過去のルビィちゃんであったり、Re Starsの面々が恐怖を覚えてしまうほどの声を司令は矯正すると言うけれど、とてもそれができるとは思えない、割れた瓶には水は入らない。

 

「絵里ちゃん」

「なんですか?」

「スプーンある?」

 

 いちおう調理室であるのでスプーンの一つや二つ存在する。

 これが、スプーンじゃなくてスプーとか言われれば、私が自信の絵の技術で生み出さねばならないけれど、あいにく出番が存在せず。

 言われた通り大きめのスプーンを持ってきて、何に使うんだろうねえみたいな話を理亞ちゃんとする。

 

「発声の矯正のコツは無理矢理」

 

 世にも恐ろしい台詞を吐く司令。

 ただ、強制的にチカラワザでどうにかしよう――というわけではなく、癖になったモノというのは無理矢理手を加えないと矯正というのは大変難しいものであるらしい。

 昔ハイトーンボイスだった声優さんが、年齢を追うに従ってローボイスに落ち着いたりするのも、このままだと喉を痛めて廃業しなければならなく恐れがあるためであるらしい、単純に仕事が無くなって声を保てない人もいるという世知辛い話は聞かなかったことにした。

 

「絵里ちゃん、人体実験好き?」

「いえ、実験動物みたいに扱われるのはちょっと」

「うん、ありがとう絵里ちゃん協力してくれて」

 

 了承をした覚えはまったくないんだけれども、とても残念なことに了承したことになってしまう不思議。

 理亞ちゃんのためには一肌脱ぐ所存ではあるけれど、どこまで私の身体が保ってくれるかは不明、スプーンを使って何をするのかも分からないけれど乱暴だけはやめて頂きたい。

 

「発声の際、軟口蓋であるとか、喉を開くっていうのは――

 いろいろコツがあるんだけどね?

 

 このスプーンでね、絵里ちゃん舌出して」

「あえ」

 

 言われたとおりあっかんべをしながら、司令の言われるがままの人形と化してしまう絢瀬絵里。

 理亞ちゃんはそんな私を不安そうに眺めながら、とりあえずは止めない、危機が迫れば止めてくれる可能性がある。

 

「絵里ちゃん、えずいて吐きそうになったら左手振って」

 

 こくんと頷く私。

 舌を出した姿勢のまま固まっているので、多少もどしそうになっているのはあるんだけれども、ここで左手を振ってしまうとお腹に膝蹴りでも入って悶絶してしまいそうなので。

 

「理亞さん舌根もそうだし、軟口蓋であるとか、喉を開く時には脱力するのも大事――でもね?」

「はい」

「発声というのは、息を大きく吐く――そして何より、身体全体を使って口から何かを吐き出すイメージが常に大事―― 

 

 それを覚えるのは、無理矢理」

「そこ格好良く言う必要ありました?」

 

 魔貫光殺砲でも撃つみたいに、指を額に当ててポーズをとる司令。

 声優を長いことやっているせいで二次元キャラみたいな仕草を取ることもあるけれど、舌を出している私のことを思い出して欲しい。

 

「では絵里ちゃん」

 

 スプーンを構えた司令が私の口の中にソレを突っ込み、基本的に折れ曲がって収納されている舌を無理矢理――例えるなら舌根を前方に押し出そうと半強制的に吐き出させようとしているため、私は先程から左手をふりっぱなしである、吐く! 吐く! 弱音ハク!

 

「理亞さん、えずいて吐いたことある?」

「お酒ではそれほどないですけど」

「うん、発声でいちばん大事なのは、自然な形で口から何を出すということ、よくあくびの口を形をして喉を開くとか言うけれど、出すんならね、吐き倒して、感情を、言葉を、身体を使って」

「……」

「きっとこれから、理亞さんはすごく辛い目にも遭うと思う、あなた一人ではなく、必ず、その時にあなたの心に浮かんだ言葉を、身体全体を使って訴えるの、そうすれば必ず誰かに伝わる」

「……その時に絵里先輩は」

「いないと思う」

 

 私の口の中にスプーンを突っ込みながらシリアスな話をし始める二人に、私は涙目でテレパシーを飛ばしてみることにする。

 誰に聞こえるわけでもないけれど、誰か助けて――

 私の話をしているにもかかわらず、

 私がまったく参加がかなわない状況には慣れているけれど、理亞ちゃんが勝手に、じゃあ今度璃奈さんと会いますなんていうので、頑張ってそのフラグを折り続けていた私の許可くらいはとってほしい――

 

「あ、絵里ちゃん」

「……なんですか?」

「今の作業、理亞さんにやってあげて、容赦なくね」

 

 理亞ちゃんが早々に出ていってしまったため、なんとなく司令と二人になった私に告げられる言葉。

 

「彼女に残せるモノは優しいなにかだけじゃない、あなたがいなくなった世界で、あの子が一人で立っていけるよう、誠心誠意尽くしてあげて、相談なら聞くわ」

「……でも、どれほど辛く当たれば良いのか」

「あなたがいなくなることが、あの子には一番辛い。いい、絵里ちゃん、愛情は容赦なく伝えなさい、これは命令」

「不安です」

「絵里ちゃんが自身を信じられないのならば、理亞さんを信じて、必ずあの子は立ち上がる、かつてのループであなたが経験したすべてを、理亞さんに授けてあげて」

「……私が信じられなくても」

「信じなさい、あなたが信じる鹿角理亞さんを。

 残されたみんなを信じて、あなたができることをなさい」

「分かりました、誠心誠意尽くします」

「いい子ね、あなたは私の孫みたいに可愛い

 ――あなたみたいないい子がもっとまっとうに生きられる世界が

 私が望むべきものなのに……なんで上手くいかないのかしら」

 

 誰しもがそうです――  

 なんて白々しく言おうと思ったけれど。

 聞かなかったふりをして部屋から出ていく。

 

 理亞ちゃんにダイヤモンドプリンセスみたいな側面を見せつつ、

 とりあえず、スプーンだときついから指突っ込んでいいって言ったら、二人っきりなら良いですよと言われたので、今度やってみようかと思う。



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