三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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(※) 園田海未との飲み会編 02

(園田海未との飲み会編 後半)

 

 LINEで表示される名前欄を見ると、その人の個性が出る。

 海未なんかはフルネームで園田海未だし、何に影響されたのか穂乃果はほのっちである。

 私も以前まではエリーチカだったのだけど、酔っ払った亜里沙が

 

「私が仕事でアリーチカと使うので、姉さんはエリーにしてくらさい」

 

 と、ロクに呂律も回ってない口調で言ったので、それ以来エリーにしている。

 高校時代(と言っても同じ時間高校にいたことはないけど)には

 アリーチカ、エリーチカで仲良し姉妹だね、とか言っていたのにエリーチカお姉ちゃん悲しい。

 

 

エリー:海未がやばいので連れて帰ります

アリーチカ:部屋の掃除をするので少々お待ちください

エリー:そんな猶予はないので、部屋は汚いままでも良いです

アリーチカ:姉さんが汚した後始末をしているんです!

エリー:海未がこのLINEを見て、亜里沙は変わりましたねと言いました

アリーチカ:えー

エリー:嘘です

アリーチカ:(親指を逆さにしたマーク)

 

 妹が怖い。

 とは言え、駅前で買った経口補水液の消費は早い。

 お互いに酔っ払っていることも手伝ってか、タクシーの中では無口だ。

 恐らくだけど、無駄に口を開けば海未は全部吐く(色んな意味で)

 

 亜里沙からのLINEも途切れてしまったので、仕方ないから遅い時間に起きてそうなメンバーに

 暇つぶしの会話を求めることにした。

 

エリー:起きてる?

コッティー:嫌な予感がして10分前に起きました

エリー:えー、何よ嫌な予感って

コッティー:徹夜で仕上げたデザインが白紙になってる夢

エリー:職業病ね……私にはわからない世界だわ

コッティー:朝起きたらオンラインゲームのサービスが終了した感じ

エリー:よくわかったわ

 

 ことりも私のことをよく把握している。

 高校卒業後、単身パリへと留学しデザインの勉強をしていたことりは帰ってくるなり、

 某有名デザイナーに弟子入りしたかと思ったら独立、今は新進気鋭のデザイナーとしてあらゆる場所で活躍している。

 μ'sの中では一般の知名度もかなり高く(一番は多分凛)その可愛さも手伝って、世界一可愛いデザイナーの一人とされている。

 また、胸のサイズが一番変化したのも彼女で、私はあっという間に追い抜かれた、パリで何をしていたのか。

 

 

エリー:今は、海未と一緒にタクシーの中なの

コッティー:絵里ちゃんタクシー代あるの?

エリー:亜里沙に借りるからだいじょうぶ

コッティー:それは世間一般にだいじょうぶとは言わないよ

エリー:それでその、海未のお見合いの話は聞いた?

 

 ことりからの返信がちょっと滞る。

 

コッティー:聞いたけど、海未ちゃんを元気にはできなかったよ

エリー:そう、私も励ましたけど、あんまり上手には行かなかったわ

コッティー:海未ちゃんお酒もほとんど飲まなかったよ?

エリー:そうなの? 私の前では吐く勢いで飲んで今ピンチだけど

コッティー:それなら多分、海未ちゃん結構元気になったんだと思う、絵里ちゃんには敵わないなあ

エリー:先輩のさだめね

コッティー:先輩らしく就職したらもっと格好いいのに……

 

 思わぬところからの反撃に思わず唸る。

 μ'sの中で一番社会に擦れてしまったのは穂乃果あたりで、凛もかなりその純真さを失ってしまったけど――

 ことりもかなりダークサイドに落ちてしまったらしい。苦労していると言われればそれまでなのだが。

 

コッティー:絵里ちゃんにことりも悩みを聞いてもらおうかな?

エリー:私に解決できる悩みだったら聞いてあげてもいいわ

コッティー:そういえば真姫ちゃんに聞いたけど、男の人とか紹介しようか?

 

 何を聞いたのか。

 そして真姫は何を喋ったのか。

 

コッティー:まあ、それは冗談として

エリー:本当に冗談だったの? 迫真の演技だったの?

コッティー:私、お洒落なバーを見つけたんだ、そこで今度飲むことにしましょう

エリー:お高いのではないでしょうか

コッティー:もちろんおごり! 悩みを聞いてもらうから!

エリー:後輩におごってもらうわけには……

コッティー:絵里ちゃん、亜里沙ちゃんはその後輩以下の年齢なんだよ(汗マーク)

 

 そ、その汗は涙を表しているのではないでしょうか……?

 

エリー:うん、わかったわ、穂乃果たちに言えないような悩みなら、私が聞きます

コッティー:それと、来る時は新しい下着をつけてきてね?

エリー:何をさせるつもりなの!?

コッティー:だいじょうぶ、もし一人じゃ恥ずかしいって言うなら、私もついててあげるから

エリー:深夜テンションでおかしくなってない? だいじょうぶことり?

コッティー:(某深夜アニメのかしこまりデースのスタンプ)

 

 冷や汗をかきながらことりとの会話を終えると、海未がこちらをじっと見ているところだった。

 

「ごめんなさい、ちょっと亜里沙に連絡を取りつつ、ことりの暗黒面を見たわ」

「ことりですか」

 

 キョトンとした表情をする海未。

 ことりと連絡を取っていることがそんなにも意外だったのかしら。

 それともことりは海未とかに、あんなクソニートさっさと[ピーーー]ばいいのにとか言っているのか、あのふわふわボイスで。

 

「ことりは以前絵里を褒めていましたよ。とても賢い生き方をしていて羨ましいと」

 

 それは多分褒めてない。 

 

 

 海未からの好感度は高校時代から変わってないことが確認できたけど、ことりは――

 

「ふう、それにしてもずいぶん楽になってきました」

「その油断が命取りよ海未、私の目の前で吐いた人たちもよくそう言っていたわ」

「それはμ'sのメンバーですか」

「オンラインゲームのメンバーも居るけど、お酒を覚えたての真姫は酷かったわ……」

 

 あの強がりが得意なお嬢様は、宅飲みでもお店でも毎回のようにトイレとお友達だった。

 その彼女に毎回のように付き合っていた私や花陽は、もうちょっと褒められてもかまわないと思う。

 そういえば、μ'sでお酒が強いメンバーは就職に縁がないな……

 

「真姫ですか、そういえば一度、私と絵里と真姫で飲んだことがありましたね」

「そんなこともあったかしらね」

「アニメの主演が決まった真姫が全員に集合をかけて、結局私と絵里しか来なくて」

「白箱を見たのよね……」

「ひどい……アニメでしたね……」

 

 あのアニメは途中で打ち切られるという伝説を残していて、それに出演した声優の殆どは現在見ない。

 主演を果たした真姫だけが女性陣では活動を続けていて、なんというか、華やかな世界の陰を見た気がした。

 

「お客さんスクールアイドルやってたμ'sの方々なんですかい」

「え、ええ、ご存知でした?」

「いえね、娘もそこそこ有名なスクールアイドルをしていたらしくて、当時は仕事が忙しくて娘の晴れ舞台も見れませんで」

 

 運転手さんの名前を見ると、名字が統堂とあった。

 ごめんなさいお父さん、その娘さんとは以前飲んだばっかりです。

 

 家の前までたどり着くと、もうすでに亜里沙が待ち構えていた。

 吉祥寺駅からここまで来るのに1万円以上かかったから、それのお金を立て替えてくれるのだと思う。

 飲み会と経口補水液の確保でお財布はすっからかんになっていたから、とても助かる。

 

「申しわけありません亜里沙、今度お金は返しますから」

「いえ、海未さんにそんなことをして貰う必要なんてありません! どうせお姉ちゃんが海未さんのペースも考えずに飲み散らかしたんですよね!」

 

 ――ん?

 

「どうしたのお姉ちゃん、亜里沙の顔に何かついてる?」

 

 主に嘘がいっぱい。

 などと言えば、海未が見えないところで脛を蹴飛ばされるのは確実だったので。

 

「本当、いけないわ……お酒のペースは考えないと」

「まったくもう、本当にそうですよ? みんながみんなお姉ちゃんみたいにお酒が強くはないんですから」

「いえ、そうではないのです亜里沙、絵里には相談に乗ってもらっていまして、むしろ私が付き合わせたと……」

「海未さん大丈夫ですか、顔色があんまりよくないです、お手洗いに行きます?」

「い、いえ、今行くと確実に……」

「海未さんに汚されるならトイレも本望です! ささ! 行きましょう行きましょう!」

 

 海未の腕を取り引きずっていく妹。

 最初は抵抗していた海未も、亜里沙のペースに根負けしたのか素直に応じている。

 私は一人で、夜空を見上げながら

 

 ああ、気がつかなかった. こんやはこんなにも. つきが、きれい――――――だ――――――.

 

 海未がトイレと友だちになっている折、亜里沙はリビングでお酒を飲んでいた私に向かって

 

「姉さん? 今日もお酒は許しますが、特別だということを忘れないように」

「え、ええ、それはもちろん、その、亜里沙も飲む?」

「海未さんが戻ってきたらお付き合いします、私も仕事がありますので」

「こんな時間まで仕事……? ことりもそうだし、体を壊さないでよ?」

「別に大したことはしません、仕事で付き合いのある子たちは寝ていますし」

 

 子?

 

「それに明日……と言うより今日はオフですから、ゆっくり休みます」

「そんな不規則な生活を送ってると私みたいになっちゃうわよ?」

「それは冗談ですか、とても笑うことが出来ないんですが」

 

 やばい、このままの調子で、実はことりとの飲み会が決まっているんですとか言えない。

 海未が戻ってくれば、亜里沙も素は出せないから、わぁー、お姉ちゃん、大人ですーとか言って許してくれるかも知れないけど。

 もし、そんなことをすればパソコンを人質に取られることは確実。

 

「ね、ねえ、海未が戻ってくる前に言っておきたいことが」

「また飲み会ですか」

「わ、わぁー、理解が早くて助かるわぁ……」

 

 絶対零度の視線を向けてくる妹に苦笑いで応じるしか無い。

 

「もうそろそろメンバーも限られてくるはずですよね、希さんか、穂乃果さんか、ことりさんか……」

「ことりです」

「2枚サインを貰ってきてください、憧れている子がいるので」

 

 最近サインを求めてばっかりだな亜里沙。

 

 顔色も多少良くなった海未が戻ってくると、亜里沙は満面の笑みを浮かべながら

 

「何か食べます? お酒の後ですから、さっぱりしたものか、麺類が良いですよね?」

「いえ、亜里沙。私はそろそろお暇……」

「海未、今日は泊まって行きなさいな、長い時間タクシーにも乗ったし、疲れてるでしょう?」

「いえ、絵里、これ以上お世話になるわけには」

「海未さん、泊まっていかれないんですか……?」

「…………泊まっていきます」

 

 亜里沙大喜び。

 久方ぶりに見る子どもっぽい態度に安堵しつつも、この天使は明日には堕天使に替わるかもしれないと思うと恐ろしかった。

 

「わーい、では亜里沙、お布団ひいてきますね!」

「いえ、私はソファーでもなんでも構いませんから」

「お客様にそんな対応できません! この日のために買っておいた羽毛布団があるんです!」

 

 初耳。

 

「しかも! 夫婦仕様です!」

「ご両親でも泊まりに来るのですか?」

「一ヶ月後には」

 

 爆弾が投下された。

 両親が来るということは、私はここにはいられないということである。

 特に父とは、お前の顔は二度と見ないと言われているし……。

 憂鬱になるのを必死で抑えようと意識するも、どこまで出来ているのか。

 

「絵里、顔色が良くないですよ?」

「ちょっと酔ったかしらね、水でも飲んでこようかしら」

「お付き合いしましょう、亜里沙は布団を敷いてきてください」

「はーい!」

 

 

「ご両親との関係は相変わらずですか」

 

 と、海未が切り出してくる。

 私はどこか遠くを見る気分のままで頷いた。

 妹の脛をかじっている私を両親がどう思っているのかは想像に難くない。

 おばあちゃまの体調もあまり良くないと聞いているし、もし何かあれば御見舞いにもいけない。

 

「そうね、私のことなんてロクデナシくらいに思っているでしょうね」

「……私自身の個人的な感想ではありますが、あなたは立派です」

 

 あまり聞き慣れない言葉に、海未の顔をじっと眺めてしまった。

 

「就職をするしないが、人間の価値を決めるわけではありません。

 社会で働くことが完全たる善ではないことは私は知っています

 価値というものはそんなもので計るものではなく

 人とどう付き合い、どう過ごしていくかによるものだと考えます

 今の絵里は、亜里沙とよく付き合い、μ'sやA-RISEのメンバーとも

 とても良く付き合っているではありませんか

 ――私の前では、そのように辛い顔はしないでください」

「ありがとう海未、その言葉で――就職しなくても良い気がしてきた」

「できれば就職活動はしてください」

 

 えー。

 

「では、そろそろ戻りましょう、亜里沙に怪しまれます」

「ええ、かなり元気になったわ、ありがとう海未」

「もし――もし、ここにいられないという話でしたら、私の家に来ると良いです」

「ん?」

「雑用でもなんでも、仕事はたくさんありますので」

 

「海未さん! お姉ちゃん! お酒いっぱい用意しました!」

 

 リビングにあるテーブルにはお酒が数多く乗せられていて、その端っこの方におつまみもある。

 共同の冷蔵庫には入っていないお酒とおつまみばかりだったから、亜里沙の部屋にある冷蔵庫に入っているものか

 もしくは私達がタクシーで帰っている途中で何処かから取り寄せるなり買ってくるなりしたものだろう。

 

「いえ、亜里沙、私たち飲んできましたので」

「海未さんは亜里沙が注ぐお酒を飲めませんか……?」

「飲みます」

 

 押しに弱い海未ちゃん。

 

「海未さんにお酌ができるなんて、亜里沙は幸せものです」

「そういえば、大人になってから飲んだことはありませんでしたね、今度飲みに……と、亜里沙は忙しかったですね」

「ハラショー! 海未さんのためなら有給を取ります! いつでも構いません!」

 

 お姉ちゃんがお願いしたところで絶対に有給なんて取ってくれない、私はさめざめと一人、心の中で泣いた。

 

 

 

 

「ただ、なかなか土日は休日が取れなくて……それ以外の日でしたら」

「わかりました、ではそのように調整しましょう」

「土日に忙しいって、まるでにこみたいね」

 

 学生相手の仕事だと、むしろ世間が休日の日に忙しいらしい。

 しかし、私の何気ない台詞に亜里沙の表情はたいへん引きつっていた。

 

「も、もう! お姉ちゃんコップが空だよ! お酒飲んで飲んで!」

「ちょ、これはアルコール度数が50度のウイスキー! ストレートで飲んだら死んじゃう! せめてソーダ割りに」

「ロシア人ウイスキー大好き、ロシア人嘘つかない」

「亜里沙、嘘をつかないのはインド人です」

「そうでした!」

「では、私が亜里沙のコップにお酒を注ぎましょう、どれがいいですか?」

「甘いのが好きです!」

 

 なんというか、ほのぼのしていい感じの空気ね……

 と、私は何の考えもなくコップに入っていたお酒を飲んだ。

 

「あっつ!」

 

 しまった、まだ割ってなかった……。

 



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