アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

17 / 199
(※) 高坂穂乃果との飲み会編 01

(高坂穂乃果との飲み会編)

 

 以前少しだけ亜里沙の職業が気になったけど、忙しかったからスルーしてしまっていた。

 そのことを不意に思い出したので、希にLINEを送ってみる。

 私以上に忙しくて暇もないだろうから返信は期待していなかったんだけど――

 

のぞみん:気になるんやったら直接聞いてみればええやん?

 

 20秒足らずで既読がついて、更には返事が返ってくる。

 自分で話題を振ってしまった手前、何も言わない訳にはいかない。

 

エリー:それがね、有名企業だけど芸能関係では絶対ありませんって言うの

 

 私が睨んでいる限り、亜里沙の職業は有名企業なんかでは絶対にないはず。

 朝早く出かけたと思ったら昼前には帰ってきたり、深夜に出かけることもしばしばある。

 定刻に出社して帰ってくるなら、サラリーマン(亜里沙はマンではないけど)という可能性も無きにしもあらずかな?

 

のぞみん:そんなに芸能関係ではないと念押しされるん?

エリー:そうよ、絶対絶対絶対違うって言うの

のぞみん:なら今度、亜里沙ちゃんがオフの日に以下の住所に行ってみると良いよ

エリー:あら、東京の一等地じゃない、だいじょうぶ? 通報されない?

のぞみん:エリち何があったんや

 

 その後差当りのない会話をして、じゃあ今度飲みにも行こうやん? なんてメッセージで幕を閉じる。

 グーグルで検索をしてみると、その一等地にある建物は――

 

「ハニワプロ……?」

 

 眠そうな亜里沙に朝食を作っている途中、テレビで芸能情報をチェックしていた彼女を眺めながら

 

「亜里沙、ハニワプロって知ってる?」

 

 なんて声をかけてみる。

 しかし、亜里沙は体をビクンと揺らし椅子から崩れ落ちた。

 

「し、知らない! なにそれ、聞いたこともない!」

 

 勢いよく全否定するので、これは怪しいと思う。

 ははーん? これは知っている流れだな?

 恐らく亜里沙はその事務所のアイドルのファンなのだ、だって以前ポロッと鹿角理亞ちゃんの名前を出したし。

 しかし、私近辺のスクールアイドル「り」がつく確率高くない?

 鹿角理亞しかり、絢瀬絵里、絢瀬亜里沙、桜内梨子、小原鞠莉、星空凛。南ことり。

 他にもいるかもしれないけど、思い出せないので考えるのをやめた。

 

「知らないって、テレビで特集されているのがハニワプロだけど……」

「そ、そうだったねー、いやあ、初耳だよー、所属しているアイドルも知らないよ!」

「別にアイドル事務所ってわけでもなさそうだけど」

「お姉ちゃんお金欲しくない? 2万でどう?」

 

 ごまかすには援助交際っぽくないですか、我が妹よ。

 そういえば、日本に来た当初に亜里沙に対し、男の人に向かって声をかける時は2万でどう? 

 って挨拶をしろと教えやがった女子高生がいたな……。

 

「くれるなら遠慮なく貰うけど……ちょっと遠出するし」

「そ、そう! 食費交通費なんでも言って! お酒飲みたいならもっと出すよ?」

「亜里沙、お金大事に」

 

 

 

 朝食を採ってから、下準備をした後で出かけることにする。

 自分の中では割合いい服装をしていった、間違っても全身980円のジャージではない。

 

「そういえば姉さんどこに行くの?」

「ハニワプロ」

「な、なんで!? ……じゃなかった。そんな不良がたむろする場所に行ったらいけません!」

 

 一昔前のゲーセンじゃないんだから。

 

「ちょっと会社の手前に行くだけよ、スカウトとかされるかもしれないし」

「武内さ……じゃなかった、怪しい人にスカウトとかされたらどうするの!?」

「だいじょうぶよ、私には芸能関係者の知り合いがいるんだから、怪しい場所ならすぐ分かるわ」

「いい、私は知らないけど、武内とか赤羽根とかそういう苗字の人がいたらすぐに逃げること!」

 

 うん、もしも会ったら挨拶しておこう。

 亜里沙の知り合いではないにせよ、凛とか希の知り合いの可能性は十分にある。

 それにハニワプロに行ったら、鹿角理亞ちゃんに会えるかもしれない。

 彼女は誰がプロデュースしているのかは分からないけど、ハニワプロ所属だから。

 

「あ、ちょっと待って姉さん、菓子折りとか持っていかなきゃ」

「長居する気満々じゃない……」

「社会の常識! ま、まあ、姉さんなんて相手にされないとは思うけどね!」

「相手にされないなら、なおさら菓子折りなんて」

 

 部屋の奥に行った亜里沙がやたらでかい紙袋を2つ持ってきて渡すまで、そう時間はかからなかった。

 

 

 相当大きな事務所であることは想像していたけど、自社ビルを二つも並べているとまでは思わなかった。

 さすがアイドルだけで40人はいる事務所である。

 

「こんなところにニートがいたら本当に通報されやしないかしら……」

 

 しかも両手には大きな紙袋(思い出してみると、電車内の理亞さんみたいだ)を抱えての登場。

 よもや中にまでは入れやしないだろうから、こうして外から眺めるだけだけど。

 ……入れないわよね?

 

「ここででっかい声を上げて、りーあーちゃん! あーそーぼ! とか言ったら、中には入れそうだけど」

 

 もしくは通報されて警察のお世話になるかどっちか。

 先ほどから警備員と思しき男性がチラチラとこちらを見ながら挙動を探ってるし。

 最近はテロ対策とかもあって、この二つの紙袋を置いていったりなんかしたら――

 

 うん、間違いなく事件になるわね。

 亜里沙には悪いけど、この紙袋はもう少し彼女のところでお留守番することになるだろう。

 せめて事務所内部にまで入れればこの菓子折りを渡す機会もあろうものだけどねえ……

 なんてなことを考えながら踵を返そうとすると

 

「……」

 

 目の前にガタイが良くてやたら背の高い男性が名刺を差し出していた。

 

「アイドルに興味はありませんか?」

「……え?」

 

 男性――もとい、武内Pに案内されたのは、全面鏡張りのレッスンルームだった。

 こんな場所をかつてUTXに行った時に見たことがある。

 そのときには、地区予選でA-RISEにまさか勝つなんて思いもよらなかったけれど。

 

「……もう少ししたらアイドル候補生たちがやって来ます」

「えーっと、そうしたら私はお邪魔なのではないかなあと」

「安心してください、同期ともなろう子たちですから、そういえばまだお名前をお伺いしていませんでしたね」

「あ、すみません。絢瀬絵里と申します」

「……絢瀬?」

 

 怪訝そうな表情をする武内P。

 ここは偽名で矢澤とか、星空とか言ったほうが良かったか……?

 

「もしかしてあり」

「あーーーーーーープロデューサーがまた女性を口説いてる!!」

 

 ドーンと扉が開いて、元気一本印と言わんばかりの少女が入ってくる。

 そんな少女(恐らく10は歳が離れている)の背後には、なんとオトノキの制服を着た子がいた。しかも二人も。

 

「せっかくミッキがレッスンしに来たのに、女の人口説いているとかどういうこと!?」

「星野さん、あらかじめ言っておきますが、これは口説いているのではなく、スカウトを」

「そんなのどうでも良い! 金髪キャラがかぶる!」

 

 確かに目の前の少女は金髪……ハーフかクォーターか。純血日本人ってことはなさそう。

 もし仮に私がデビューするなら、彼女は全力でハードルとなるだろう。そんな気は全く無いけど。

 

「それにおっぱいが大きい! 85……いや……88……ううん……90……それ以上!?」

「……」

 

 武内Pが私の隣でため息を付いていた。

 

「右から、星野さん、如月さん、三浦さんです」

 

 綺麗に整列した三人の女の子。

 右の星野さんはこちらを敵意を持った視線で見ている。

 どうやら本当に私がアイドルデビューするものと考えているらしい。そんな気はまったくない。

 真ん中の如月さんも、やはりこちらを敵意を持った視線で見ている。

 ライバルが増えるかもしれないと考えているのか、それともバストサイズに差がありすぎると考えているのか。

 ――多分だけど、にこよりも小さい。

 左の三浦さんは余裕の表情。

 私がニートだから下に見ているのかと思ったけど、単純にのんびり屋さんらしい。

 久方ぶりに見るオトノキの制服は、私がいた時代よりも微妙にデザインが豪華になっていた。  

 

「なんか急に連れてこられて戸惑ってるんですけど、私は、アイドルデビューするつもりは」

「そう言って、プロデューサーを誘惑しようとしているんでしょ! その胸で!」

 

 星野さんは私の胸しか見ていない。

 そういえばμ'sが9人になってからすぐ、希も胸しか見られてなくて凹んでたわね……。

 あの子ダンス経験もないって言ってたのに、私の振り付けについて来られていたし、謎だ……。

 

「3人ともダンスで結果を出したらどうですか? この絢瀬さんよりもできるとわかれば、何も問題はないはずです」

 

 あーだこーだ考えていると、新しい人が入ってきた。

 長身の眼鏡のイケメンだけど、基本的に男の人に縁がない私には特に響くものもなかった。

 

「どうも、赤羽根と申します」

「絢瀬絵里です」

「……そういえば絢瀬、絢瀬さんと言えば……」

 

 口元に手を当てて考え込む赤羽根P。

 何のことだかはわからないけど、ひとまず目の前の少女3人がμ'sを凌駕するようなダンスを見せてくれれば解放される!

 

 期待は――したんだけど。

 

「うーん……」

 

 正直な話、彼女たちよりも踊れるスクールアイドルはたくさんいると思う。

 多分だけど、ファーストライブの穂乃果たち3人よりも踊れていない。

 基礎体力の問題なのか、振付師の問題なのか、ともかく彼女たちの動きはぎこちなかった。

 

「まあ、スカウトして2ヶ月ならこんなものですよ」

 

 私が怪訝そうな表情をしていることに気づかれたのか、赤羽根Pがフォローを入れる。

 ――ファーストライブまで一ヶ月なかったはずの穂乃果たちになんか一言。

 

「ど、どう! 絢瀬さん! 私たちのダンスは!」

「えーっと……そう、ねえ……よく踊れていたんじゃないかしら」

「上から目線!」

 

 星野さんの敵意の視線が強まった。

 

「じゃあ、絢瀬さんが踊って見せてよ!」

「えー……もう10年くらい踊ってないんだけど……」

「10年だろうがなんだろうが、私たちのダンスを上から見たってことは踊れるってことでしょう?」

 

 んー……そういうつもりは、なきにしもあらずかもしれないけど。

 まあ、恐らくだけどブランクがあるとは言え彼女たち以上の動きはできるだろう――

 

「赤羽根さん、μ'sの曲はありますか?」

「もちろん、伝説のスクールアイドルですからね」

「ではKiRa-KiRa Sensation!で」

「わかりました」

 

 ここでアキレス腱でも切ったら亜里沙にドヤされるってレベルじゃないな。

 柔軟は念入りにしておこう。

 

 

 私は一度曲を全部聞いてから踊るスタイルだ。

 ブランクもあったし、それくらいは許してくれるはず。

 曲を聞いていると、高校時代を思い出してちょっとだけ泣きそうになる。

 ああ、絢瀬絵里の全盛期はここにあったのね――

 今はニート……いやいや、ギルドマスターだけど! 元はスクールアイドルなのだ。

 ちょっとスカウトされて、鼻高々になっているだけの子たちには負けない!

 

 ラブライブ会場でのラストライブを思い出しながら、私は踊った。

 全然覚えてないから、コケたりしたらごめんねなんて言っていたけど、そんな気はサラサラ無い。

 もちろん高校時代の時に比べたら全然踊れてなんかはいられなかったけど。

 まあ、最低限μ'sの名は汚さずには済んだかもわからない。

 

「さすがは元μ'sですね……」

「そんな彼女が紙袋を持って会社の前に立っているとは思いませんでした」

「まあ、これで3人のお尻にも火がつくでしょう、いい仕事でした武内さん」

「いえ、でも、彼女は本当にスカウトできませんかね」

「妹さんに殺されます」

 

 はあ、Pたちが小さな声で何か言っているみたいだけど、やっぱりアレね。

 

「ツバサでも呼び出そうかしら」

 

 2年前までトップアイドルグループだった彼女なら、この場でカリスマ性を発揮するくらいわけない。

 まあ事務所が違うし、そんなことをすればどやされるのは分かりきっているのでしないけど。

 

「あ、あ、あ……な、なんで……?」

「どうだった、星野さん、言っておくけど、昔はもっと踊れたわ」

「ど、どれだけ化物なのよ……」

 

 私が踊りきると驚愕の表情を貼り付けた星野さんがこちらを見ていた。

 如月さんも、三浦さんもびっくりしているみたい。

 でも正直な話、柔軟が全然できなかった頃の凛にも劣るわね……もうちょっとダンス続ければよかったかしら。

 

 なんてなことを考えていると、ドアの方からパチパチパチと拍手する音が聞こえてきた。

 あの子は確か、鹿角聖良さん。以前会った理亞さんのお姉さん。

 

「さすがですね、絢瀬さん。10年ぶりとは思えない」

「10年前の10分の1くらいだけどね……」

「それでも、今のトップスクールアイドルと同程度は踊れています」

 

 そんなことはない、と思う。

 μ'sやA-RISEがいた頃と比べても、今のスクールアイドルは普通のアイドルと遜色ない(と、亜里沙が言ってた)

 

「誰?」

「鹿角聖良さん」

「んー、ミッキ知らない」

「同じ事務所の先輩くらい覚えましょう」

 

 アイドル候補生の3人はと言えば、不穏な会話をしている。

 10年ブランクがある、私のダンスを見て多少はショックを受けたみたいだけど。

 まだまだその性根を叩き直すには時間がかかりそうだ。

 

「やっぱりツバサを呼び出すしか無いわね」

「呼び出せるんですか?」

「LINE送ってみる」

 

 一時間もしないうちにやって来たツバサは、ハニワプロにKiRa-KiRa Sensation!を巻き起こす。

 はえー、さすがは元トップアイドルは扱いが違いますね。

 

 


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。