アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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(※) 東條希との飲み会編 02

 

 

 

「あ、かよちん! 真姫ちゃん! 絵里ちゃん!」

「凛ちゃん!」

「凛!」

「ちょっと凛! この前私の現場に差し入れ持ってきたでしょ! 処理するのに困ったのよ!」

「人身御供は何にしたにゃ?」

「クソ作品を作った脚本家と監督」

 

 凛も自分の料理が上手にいってないという自覚があるなら渡さなければいいのに。

 それは何ていうか、無自覚テロと言わんばかりの行動なのではないかと……。

 

「そういうときはスポンサーに渡すにゃ」

「金づるにお前はクソですなんて言えないでしょ」

「聞いてはだめよ花陽! 就職するのが辛くなるわ……!」

「え、絵里ちゃん……! 耳! 耳は弱いのぉ!」

 

 旅館の前で騒いでいると従業員と思わしき女の子が出てきて、

 

「お客様、もしかして……元μ'sの」

「人違いです」

「ちょっと何否定してんのよ絵里!」

「東條希で予約を入れていると思うんですけど」

「あ、はい。その方の名前でご予約を頂いております。そうじゃなくて、私、μ'sの大ファンで」

「な、なんだ、ファンの子かぁ」

 

 警戒を解く。

 なんというか、私が元μ'sだと知られると意外と面倒なんだ。

 就職を斡旋されたり、仲良くもないのにメッセージを送られてきたり。

 ファンの子はそこら辺の線引がはっきりしている子が多いから安心なんだけど。

 

 

 高海千歌ちゃんは元Aqoursのリーダーで、現在は実家を出ての一人暮らし。

 長いこと友人にも会っていないとかで、最近は寂しい寂しいとばかり言っていた。

 

「ちなみに誰派なの?」

「穂乃果ちゃんの……大ファンで……」

 

 私たち四人の空気がぴしりと固まる。

 高校時代にファンに一番囲まれていた穂乃果は、大学入学時にとあるトラウマを作ったらしく

 その、人との線引をはっきりしていた。

 

「それ、穂乃果の前で言っちゃ駄目だから」

「あー……」

 

 千歌ちゃんの表情が一気に固まる。

 ああ、もう手遅れだったか……荒れてないと良いんだけど。

 

「私、今日はいい日だなって思ったんですけど、やっぱりファンはファンとしての自覚を」

「いいじゃない今日はお酒の席だし、お酒を交わせば、穂乃果とも仲良くなれるわ」

「え、でも私まだ仕事中で」

「私たちしかお客さんはいないんでしょ、平気よ平気、どちらにしろ顔を合わせるなら酔わせて機嫌取っちゃえばいいのよ」

「絵里さん……! 私、絵里さんを2推しにします!」

 

 一番にはなれない運命か。

 ――私たちが案内された場所は、本当だだっ広い宴会場だった。

 もうすでに穂乃果、ことり、海未、にこの4人が到着していて、お酒を酌み交わしていた。

 

「ほら、千歌ちゃん」

「はい! 穂乃果さん! お酒お注ぎします!」

 

 でもみんな、まだ昼の12時よ?

 昼間から飲むお酒は大変美味しいというけれど、ニートの私には気まずいだけだわ!

 

 

 現在時刻は13時。

 最初は我慢をしていた私も、周りのメンバーが盛り上がっているにつれて、

 

「千歌ちゃんビールある?」

「もちろんです! 絵里さん!」

 

 お酒を飲み交わす。

 ああ、やっぱりこの一杯のために生きているって感じだわ。

 右隣には海未、左には花陽。

 今気づいたけど、うみぱなえりって相当珍しい組み合わせじゃないかしら?

 

「そうですか、20連敗……大変ですね、花陽」

「もっと自分の身代に合った職場を選ぶべきじゃないかなって、最近では思うよ」

「アルバイトをしながら面接を受けて、頭が下がる思いです」

「受かれば格好いいんだけどね、もうそろそろ実家から出ろオーラが出てきてね」

 

 世知辛い。

 センターにいる私を無視して就職談義に花を咲かす二人。

 私はといえばアドバイスもできないし、かといって話をかき回すこともできないし。

 おかしいな、元は海未と並ぶくらい真面目なメンバーだったと思うんだけど? 

 これが時間の流れというのは残酷だってことかしら。

 

「実家から出る……私も絵里みたいになれば実家からでなければいけなかったでしょうか」

「このまま追い出されたりしたら、どうしようって思うよ。

 そのときには凛ちゃんが面倒見てあげるって言ってくれているけど」

「難しい選択ですね……凛も忙しいですから」

 

 この場を離れるべきか、留まるべきか。

 難しい選択だ……。

 

 

 時刻は14時。

 席順が少しだけ変わっていた。

 右隣には真姫、左隣には穂乃果。

 まきほのえりというこれまた珍しい組み合わせ。

 

「ええ? 穂乃果の仕事先閉店しちゃったの?」

「そう、結構繁盛してたけどね、最近は食品管理が厳しくて」

「ああ、私もよ穂乃果、今回もDVDの売上が芳しくなくて爆死よ!」

 

 髪の色と同じように真っ赤になりながら、それでもジョッキを離さない真姫。

 今回のタイトルは有名なろう小説の念願のアニメ化で、元のファンも多いんだけど。

 それでも爆死をしたってことは、もう、何か呪われているとしか……。

 

 そういえば、希が遅いわね。

 キョロキョロと周りを見回してみると、花瓶と目があった気がした。

 おかしいわね、酔っているのかしら……?

 

「ねえ、真姫、あの花瓶動いてない?」

「何言ってるのよ、私の世界は全て揺れているわ!」

「真姫ちゃんほどほどにね? そろそろ自重してね?」

 

 うーん……?

 たしかにあの花瓶、なんか不自然に穴のようなものが見えるし

 顔の部分だけくり抜かれているとしか思えないし。

 

「ねえ、穂乃果、やっぱりあの花瓶、希に見えるんだけど」

「希ちゃんがそんな花瓶の中になんて入るわけ無いでしょ、酔ってるの絵里ちゃん」

「そうよねえ……」

 

 

 時刻は15時。

 先ほどと同じように席順が変わっていた。

 右隣はにこ、左隣は凛。

 にこりんえりという、割とよく見たような組み合わせ。

 

「凛は相変わらず忙しそうね」

「にこちゃん少し痩せた?」

「お互い様でしょ」

 

 この中で唯一忙しくないメンバーの私は、ビールではなく日本酒を飲んでいた。

 先程からチラチラと花瓶に見られている気がして落ち着かない。

 

「絵里も就職してしまうし、こんなふうに飲むこともできないわね」

「え、何そのガセ情報」

「ツバサさんからは逃げられないにゃ」

「たしかにあの子に追われて逃げられなかったプレイヤーは数多くいるけど……」

 

 そしてツバサに追われて垢バンされたプレイヤーも数多くて。

 彼女は不正チートなんて利用していないのに、追われたプレイヤーはどうしようもなくて……。

 

「芸能関係者からも有名だよ、ツバサさんって逃げれば逃げるほど追いかけてくるって」

「去るものは追うタイプね、でもそれくらい強引じゃないと就職しないって」

「凛は仕事を貰わないと食べられないのに、絵里ちゃんには仕事が勝手に入ってくる」

「理不尽ねえ……」

 

 その仕事は私が全く望んでいないので、厄介事でしかないんですが……

 ああ、お酒が美味しい……。

 

 

 宴も後半戦――かもしれない。

 16時になり、ついに宴を催した希がやってきた。

 なぜかところどころ顔が黒い。

 まるで花瓶にでも入ってたみたいね! はは! 

 と言った真姫が今はお腹が痛いともだえ続けている。

 

「ほんま、スピリチュアルやね」

 

 それはスピリチュアルではなく、プロクリャーチエと言うものではないかと。

 まあ、彼女の原因不明の腹痛は食べ過ぎとか飲み過ぎによるものでしょう、おそらく。

 

 席順もめまぐるしく立ち代わり、今はことのぞえりという組み合わせ。

 高校三年間でことりが希と絡んだのを見たのは、おそらく二桁行っていないから

 かなりレアな組み合わせではないかと言わざるをえない。

 

「そういえば今度、真姫ちゃんあまえちゃんの声をやるそうやんな」

「あまえちゃん 好きー!」

「言われる方よ! あいたたた……」

「ああもうじっとしてなさいよ!」

 

 そういえば、にこまきというカップリングがあることを教えてくれたのは、真姫自身だったっけ。

 あのときはどういう気分で私に告げたんだろうか……膝枕をされて至福の表情の彼女を見るに想像できない。

 (注・本来のあまえちゃんの声の担当はルビィ役の降幡愛さん)

 あんなに、ひたすら気持ち悪い、とにかく気持ち悪い、何があっても気持ち悪いと評判の漫画の声を担当するなんて

 にこに対して気持ち悪いと言い放った彼女が担当するとは……声優というのはわからない世界だ。


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