三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
<< 前の話 次の話 >>

22 / 108
(※) 東條希との飲み会編 03

 

 

「希ちゃん、こんなこと言うのは差し支えがあるんだけど……」

「おお、どうしたんことりちゃん、ダイエットの方法ならエリちに聞いて」

 

 ――ダイエットという言葉にことりの表情が笑顔になる。怖い。

 

「その、運勢を占ってほしいの」

「なにか悩みが?」

「年をとると不安が増すの、このままで良いのかって」

 

 ほぼ全員の耳がダンボになる。

 みんなアラサーだから、将来に対する漠然とした不安が強くなる時期だ。

 ニートって宿題が終わらない状態の8月31日を延々と過ごしている感じだから

 こう、たまには占いも頼りたくなる気持ちもわかる。

 わりかし不安定要素の強い"有名人”という括りの凛や真姫。

 自営業で安定しているかと思えば突然のお見合い決定(覆ったけど)が尾を引いている海未。

 お店が潰れて無給状態になってしまった穂乃果、就職先が決まらない花陽。

 唯一安定しているとも言っても良いにこだけが、しょうがないわねぇみたいな顔をしている。

 

「せやな……じゃあ、ちょっとみんなの運勢を占ってみよか」

「え、みんないいの?」

「もちろん、こうなるかと思ってちゃんと占い道具も持ってきたし」

「ささ! 順番決めよう! 一番は言い出しっぺのことりちゃんとして、二番目以降はお給料の金額で決めよう!」

 

 それ必然的に私がラストになっちゃうやつじゃん。

 そして穂乃果も微妙にあとの方になるやつじゃない?

 

 

 希の占い教室は2時間ほど続いた。

 残すは、海未、花陽、私の順番となっている。

 真姫は、心機一転、エッチなゲームにも出よう! と言われて凹んでいるものの

 他のみんなは表情が晴れ晴れとした雰囲気を出している。

 言い出しっぺのことりは技術をお金に変える職業で、不安に思う要素は何一つないと励まされたし

 ノリノリだった穂乃果は、そろそろ転職を考える機会かもねなどと言われてリクルート雑誌を千歌ちゃんに頼んだ。

 安定しているにこは占いなんて、と最初の方は言っていたけど、体を壊さないように注意され表情が引き締まる。

 

 凛は結婚運が非常に高まっているらしく、相手をきちんと選ぶことを注意されてた。

 もうお相手とも出会っているみたいで、高校時代ウェディングドレスを着た凛が……とか言ってた。

 

「さて、次は海未ちゃんやね。そういえばお見合いなんて話もあったんやて?」

「え、ええ。あまり口外はしていませんでしたが、そんな話もありました」

「受けなくて正解よ、海未ちゃんは元から結婚運が絶望的で、恐らくしても不幸になるだけだったから」

「……ぜ、絶望的ですか」

 

 大学を卒業してからあまり表情を変えない海未が珍しくたじろいでいる。

 私にもツバサのところに行ったら不幸になるからやめろくらいのことは言ってほしい。

 

「でも、園田の家って女の子しかいないから、せやなあ……養子でも取る?」

「家族の状況は希に言ったことありましたっけ?」

「……スピリチュアルやね」

 

 何をごまかすつもりなのか。

 

「まあ、良縁さえあれば背中を押してもええけど、でもね海未ちゃん、親の言うことばかり聞いてもいかんよ」

「そ、そうですね……」

「一人の自立した大人なんやから、そろそろ自分の意見を持っといたほうがええと思うよ」

 

 

 海未の次は花陽。

 元から何事にも緊張しがちな花陽ではあるけど、今は顔面蒼白で凛に支えられて立ってるのがやっと。

 

「は、花陽ちゃん? そない緊張するんやったら、後日でもええで? お宅伺うし」

「だ、だいじょうぶ……! 希ちゃん! お家に伺うなんてそんなことまでしてもらったら、花陽倒れます!」

「今も倒れそうなんやけど……じゃあ、さしあたりのないことから行こうか」

 

 との希の言葉通り、仕事運が低調。恋愛運が厳しい。食あたり注意と言われている。

 最初の方は、うんとか、あーとかしか言えなかったみたいだけど、

 だんだんと元気を取り戻してきて、逆に質問を返すようにもなってきた。

 

「あ、それから花陽ちゃん」

「はい?」

「脱いだらあかんで?」

 

 全員の空気が凍る。

 みんなアラサーになってきて、その、お金が厳しい女性が最後の頼みとして就職する職業が想像できてきた。

 花陽は可愛いし胸も大きいからさぞかし人気になる……かもしれないし、そうでないかもしれない。

 

「希ちゃん、なんで知ってるの?」

「その会社、最初はモデルとかアイドルとか言って女の子をかき集めて、やがてエッチ方面の仕事を斡旋する質悪いところで」

「かよちん! そんなことがあったんならなんで凛に相談しないの!」

「だって、迷惑かなって」

「ばか! かよちんのためなら芸能界を引退したって良いもん! 凛がかよちんを想う気持ちを……甘く見ないで!」

 

 何処かで聞いたことがあるセリフだと思ったけど、感極まって泣いている花陽を見て自重する。

 

「まあ、注意するのはそれくらいやね、それから家から出たほうが良いよ」

「ええ……でも行くところが」

「凛のところに来なよ! ちゃんと毎日帰るようにするし!」

「何言ってるのよ、花陽が来るのは私の家」

「なんで凛とかよちんの話に西木野さんが割り込んでくるの!」

「に、西木野さんって(´・ω・`)」

 

 

「さて大トリのエリちやけど」

「あ、私は良いのよ、しばらくニート生活だろうし、未来を不安に思う要素は何も」

「その発言を聞いて言わなあかんって思うたわ、さ、みんな! エリちを逃げられんように拘束!」

 

 みんなから、体を四方八方抑えられた。

 抑える所がないメンバーは見張り役として近くにやってきて

 自分が占われているときよりも真剣な面持ちをしている、なーぜ! とーどけてせーつなさーにはー!

 

「ちょ、ちょっとことり、どこ掴んでるの、セクハラよ?」

「同性無罪だよね♪」

「背中に当たってるんだけど……」

「当ててるのよ♪」

 

 ことりが壊れた(ことり回に引き続き2回め)

 

「さて、エリちの現状は皆も知っての通り、ヒモでニートで酒ばっか飲んでるね」

「い、家では飲んでないし……」

「妹の亜里沙ちゃんの職業は、まあ安定している方だし将来に対する不安もない。優秀だし」

「そ、それほどでも」

 

 なんて小ボケをしてみると、ほっぺたの両端が引っ張られた。

 

「いひゃいいひゃい」

「ふざけないの、希の話をちゃんと聞きなさい」

「さてエリちは今、岐路に立たされとる。運勢的に見ても、今変わらないとどうにもならない」

「運勢的というか、もはや年齢的にやばいじゃない、30にもなろうかっていうときに職歴もないとか」

 

 そう断言されると、ちょっと私としても危機感煽られちゃうなあ……

 

 

「エリちには、この先3つの選択肢がある」

「ゲームじゃないのよ希、と言うか3つもあるのね……」

 

 はい、いいえ、どちらでもない。

 とかなら随分楽なんだけど。

 

「もうすぐご両親が来るらしいやん? その時に亜里沙ちゃんから住む場所の紹介があると思うんや」

「ええ、いま交渉中とか言っていたわね」

「その場所にご厄介になって、ちょっと働き始めるのが第一の選択肢」

 

 は、働くのか……。

 何ていうか、何かの制服に身を包み働くとかまるで想像できない。

 

「でも、亜里沙ちゃんの知り合いってアイド……むぐっ!」

「何言ってんのよ凛! 今何も聞いてなかったわよねエリー!」

「え、ええ……なんか、不穏当な言葉が聞こえた気もするんだけど」 

 

 哀奴とかなんとか……亜里沙ってもしかして、調教師とか何かなんだろうか。

 調教師のキャリアウーマンというのを想像して、SMの女王様しか浮かばなかった私は震えた。

 

「二番目は、海未ちゃんにお世話になるパターンやね」

「いつでも歓迎しますよ、絵里」

「海未、気が早いわ、と言うか来る前提で物を考えないで」

 

 以前も言われたことがある、海未の家にお節介になるパターンか。

 でもご両親はなかなか厳しいみたいだし、ニートだと知られればビシバシとしごかれてしまうのでは?

 

 

「さて、最後やけど。これは鉄板やね。ツバサちゃんのところでマネージャーす」

「わーわー!」

「誰かエリちの口塞いで、うん、頑丈に、ガムテープでいいから

「ごめんなさい、静かにするのでガムテープは勘弁して……」

 

 第三の選択肢は、以前ことりに紹介して貰ったマスターのもとで修行するものだと……。

 なんかやけに気に入られているし、もうすでにLINEの登録までされて――

 亜里沙が以前よろしくお願いしますと言いに行ってしまったことまであった。

 

「結果的には亜里沙ちゃんが一番喜ぶんじゃないかなあ」

「そうかしら? だってあの子の仕事芸能関係じゃないんでしょ?」

「……あ、そうだったね、うん、これはウチの勘違いや、ごめんごめん」

 

 確かにお給金的には一番高そうだし、亜里沙も一人暮らしを始められるかもしれない。

 隠れて姉のお世話なんて飽きた! とか思っているかも……。

 

「でも一番安定して、一番収入があるって言うのは魅力的やろ?」

「マネージャーなんて何をするかもわからない職業に未経験者がついていいと思う?」

「ええやん、ドラマでありがちやで」

 

 何その創作脳……。

 

「ツバサちゃんの好感度が高すぎてそっち方面が心配やけど、エリち彼女に何したん?」

「別に同じギルドに誘われてからずっと一緒ってだけよ」

「あー……ツバサちゃんにとってはA-RISEの解散はダメージが大きかったんやろうなあ……」

 

 

 その後、恋愛運も結婚運も進展なし、もはや女の子と結ばれたほうがいいレベル。

 などという、こころちゃんが大喜びしそうな診断内容を打ち付けられた後で夕食がやってくる。

 旅館側も、もうすでにお酒を6時間以上飲んでいるというのを把握しているのか、とても軽いメニューだった。

 

「エリち」

「あら、希。どうしたの? 食べ足りないのなら」

「温泉入ったらサシで飲もか」

「え? ああ、別に構わないけど、なに? まだ私を凹ませる気?」

「そうかもしれないし、そうでないかもしれんなあ」

 

 希と一緒に温泉に向かう道中での会話。

 ちなみにお酒が抜けない真姫と、あんたらと入るなんて絶対に嫌と宣言したにこがお留守番。

 もう恥ずかしがる年齢でも……はっ!

 

「もしかして、にこと真姫は本当に結ばれ……」

「エリち酒が抜けてないんやったら温泉やめる?」

「やめない!」

「まあ、7人もおるんやから誰か一人倒れても平気か」

 

 大浴場「桃源郷」の女子風呂に入っていると、ことりが近づいてきて。

 

「絵里ちゃんはやっぱり大きいよ、ウエスト細いし、本当にニートなの?」

「スタイルにニートは関係ないんじゃ……」

「これを見て」

 

 防水加工を施された(個人的にはあんまりお風呂での使用は歓迎できない)スマホを見せることり。

 そこには――

 

「結婚できない女の特徴?」

 

 

「へえ、ことりちゃんこういうの見てるんや」

 

 希が近づいてくる。

 その様子を見て、どこかから舌打ちのような音が聞こえてきたけど……

 花陽が苦笑いをしているのが見えただけだった。

 

「結婚できない女の特徴……なになに、まず……家事手伝い」

「つまりはニートだね、ニートは結婚できない!」

 

 ビシィ! とことりに指さされる。

 まあ、結婚する気もないけど……そういえば私は結婚式って参加したことないな。

 式会場での司会なんて仕事も凛や真姫は何度か体験したみたいだけど。

 μ'sのメンバーはほとんど縁が無さそうだし、ルビィちゃんや理亞さんと言ったアイドルの子は恋愛禁止だろうし。

 

「勉強ができて賢い……?」

「そう! 偏差値60以上の大学の卒業生は結婚しづらい!」

 

 その場で回転したことりが先程と同じように指をさす。

 

「エリちの大学の偏差値って?」

「64くらいだったかしら? あんまり覚えてないけど」

「次の文章を読んで!」

 

 スマホの画面を指でスライドさせて見る。

 

「スタイルが良くて、外国語が堪能……?」

「この文章書いたのって……まさか……」

 

 希がそう言ったので、私も文末を見る。

 文責:T.K.Revolutionと書いてあった。

 T.K……何処かで聞いたような……?



※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。