三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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(※) 東條希との飲み会編 04

 

 

 ことりが、つまり私は結婚できるの! しないだけ! ねえ、希ちゃん! 

 なんて突っかかり始めたので、私はいそいそと退散。

 最初は凛たちに挨拶でもしようかと思ったけど、

 その彼女からあっち行けというふうな視線で見られたので

 やっぱり退散をすることにした。

 

「穂乃果、海未」

「絵里ですか、どうです? そろそろ家の仕事内容を確認しますか?」

「海未ちゃぁん! 穂乃果も転職させてー!」

 

 穂乃果が海未に抱きついている。

 これはお邪魔をしてしまったかな? いや、別に仕事の話をしたくないからじゃないよ?

 いそいそと後ろを向けて一人で落ち着こうかと思ったら、髪の毛をぐいっと引っ張られた。

 

「話は終わっていませんよ、絵里」

「その笑顔が怖いわぁ……」

 

 海未の攻撃で首が痛い。

 流石に強く引っ張り過ぎなのではと思ったけど、エリーチカ大人だから言わない。

 だってさっきから穂乃果は左手でアイアンクローをされている状態だから。

 

「さて、騒がしいのも落ち着きましたし……朝は5時起きです」

「本当に仕事の内容を説明しだした……」

「まずは道場の掃除から始めていただきましょう、なに、2時間で終わります」

「一人でやらせるの!?」

「もちろん、絵里は新人ですから」

 

 

 海未の話をくどくど聞いているうちに、だんだんと湯あたりの前兆を感じてきた。

 

「ごめんなさい海未、ちょっと暑くなってきたわ」

「そうですね、名残惜しいですがそろそろ上がりましょうか」

「がぼがぼがぼ……」

 

 穂乃果は海未が話をしている間中ずっとアイアンクローをされたままだった。

 せめて離してとか、痛いとか言えばいいのに……。

 

 脱衣場に戻ると、にこと真姫がいた。

 着替えている二人をちょっと観察してみたけど、赤い痕跡などは見られなかった。

 やれやれ一安心。

 

「何ジロジロ見ているのよ絵里、にこの体なんてジロジロ見ても仕方ないでしょ」

「にこも需要があると思うわ!」

「死に腐れ! 金髪外道!」

 

 ひどい。

 私の精一杯のフォローは相手に伝わらず。

 でも負けない、エリーチカは女の子だもん!

 

「絵里、たいてい金髪巨乳と来ると人気投票では3番目以降になりがちだわ」

「何の話よ」

「つまり、絵里ルートアフターは発売されないのよ!」

「ごめんにこ、真姫酔っ払ってない?」

「嫌なことを思い出したからお風呂はいるって聞かなくて……」

 

 何を思い出したのだろう……?

 

 

 大宴会場には布団が敷かれている。

 なんだか9人で寝るって言うと、まるで合宿のようだ。

 高校時代に何度ともなく行ったμ'sでの合宿を思い出して、笑う。

 

「あ、もしかして絵里ちゃんもμ'sのこと思い出しちゃった?」

「ええ、穂乃果も? 懐かしいわね、確か一回目は枕投げとかして」

「海未ちゃんの顔に当てて大変だったね!」

「もう枕投げなんて恥ずかしくてできない年齢でしょう? だから準備をするのはやめなさいふたりとも」

 

 初心に帰るっていうのは……結構良いことだと思いまして……。

 

 お風呂から上がってきたみんなが続々と部屋に入ってくる。

 和気藹々と話していると肩をポンポンと叩かれる。

 

「希、そろそろ時間?」

「んー、本当ならみんなが寝てからって思ったけど、そんな雰囲気ないし」

「そうね」

 

 唯一寝ているのは、お酒を美味しい美味しいと言いながら飲んでいた真姫だけ。

 ものすごい幸せな表情で花陽の膝の上に頭を載せて、凛に睨みつけられている。

 もし仮にまきりんぱなでルームシェアなどしようものなら、三角関係で一日持たないかもしれない。

 

 

 希とともに部屋から退場し、私たちは地下にある――

 

「バー……Bar Bar Bar……大当たりってこと?」

「マスターはギャンブル好きで年に数回ラスベガスに行くらしいやん?」

 

 業務を放り出してまで行くラスベガスとは。

 融通が色々と聞くのだろう。

 貸し切りにしてくれるし、お酒飲み放題だし。

 それまでに様々な準備をしているかと思うと、なんというか、働くのって本当大変やんな。

 

「何飲む?」

「任せて、常識ではオレンジブロッサムを頼むのよね」

「どこの世界の常識なんや、聞いたこともないけど。チョコレートのカクテルもあるよ」

「へぇ、奥深いのねカクテル」

「なんやよくわからんけど奥深いって言っておけばいいっていう風潮エリちの中でない?」

 

 そ、そんなことない。

 カクテルは……遊びじゃない!

 と、よくわからない話をしているうちにカウンターにカクテルが置かれる。

 

「甘いもの系が多いなら、穂乃果が喜びそうね」

「穂乃果ちゃんたちはじつは昨日から来ててな……花瓶のことも知ってて」

 

 なら私が花瓶の中に誰かがいることに気づいた時に教えてくれれば……真姫は……。

 

「で、何か悩み事?」

「はー、エリち、時折賢くなるのやめへん? せめて一生涯賢いか、ポンコツでいるかどっちかに」

「私のどの時がポンコツだったのよ」

「生徒会長挨拶の時に一人立ち上がって拍手していたときは、えらいポンコツやなあっと思って見とった」

 

 後日海未に熱でもあったんですかと言われて凹んだときやん?

 

 

「まあ、悩みってほどでもないけど、ウチ、恋人を作ろうと思うてん」

「作ろうと思えば作れるものなの……?」

「正確に言えばパートナーがほしい、あ、エリちと違うよ? なんかドヤ顔しとるけど」

 

 のぞえりは人気のカップリングだって、真姫も言ってたから誤解しちゃった。

 

「自分に釣り合う人がほしいってこと?」

「うん、有り体に言えばそう。マネージャーはおるけど、こっち方面全然詳しくないし」

「なかなか希の知識についていくのは難しいでしょうねえ」

 

 この世ならざるものが見えるとか、人の将来がなんとなくわかっちゃうとか

 統計学ではない占いができる人なんて、恐らくはごく少数なのではないかと。

 

「目をかけた子はたいてい独立してしまうし、ほら、ウチは意外と寂しがり屋やし」

「まだ治ってなかったの?」

「人間の本質なんてそうそう変わらないよ」

 

 それはまあ、たしかに。

 私の賢さとか高校時代と何一つ変わっていないものね!

 ……あれ? 希の視線がなんとなく憐憫を含んだものになったけど、どうして?

 

「将棋の世界じゃないけど、弟子でも取ったら」

「弟子か、なに、スピリチュアル小学生でも探す?」

「別に小学生でもそうじゃなくてもいいけど……あ、このカクテル美味しい」

「意外と酔うから気いつけや、よく言うやん? 鉄は熱いうちに打て。これ世の中の真理やと思うねん」

 

 本当は飲み干したいほど美味しかったけど自重。

 甘いアルコールって飲みやすいけど度数が高いってパターンが多いけど、

 それは男の人の欲望が生み出したとかそういう理由じゃないわよね?

 

 

「それで、打てそうな鉄は見つかりそうなの?」

「卦は出とるけどなあ、案外μ'sとか、A-RISEのメンバー……だからエリちとは違うて」

 

 のぞえりは人気の(ry

 

「花陽は?」

「素直で可愛いが飛び抜けとるけど、こっちに来てくれるかなあ?」

「占いには飛びついてたじゃない、別に急ぎで弟子を取ろうとかそういうわけじゃないんでしょ?」

「花陽ちゃんは料理も上手やし、なんでも食べるし、働きものだし、申し分ないんやけど」

 

 断られたら凹むなあ……と、希がポツリと呟いた。

 

「最初から駄目だったときのことなんて考えてもしょうがないわ」

「うん、それはそうなんやけど」

「お試し期間でもなんでも作ればいいのよ、例えば一ヶ月とか」

「それは海未ちゃんの家にお世話になる期間やろ?」

 

 え、もうすでに海未ルート決定? どれだけフラグ立てたのかしら……。

 

「希が言いにくいなら、私が言ってもいいのよ?」

「いや、ウチが言ってみるよ、ありがとうなエリち」

「どういたしまして」

「そういえば先日占った時に、亜里沙ちゃんに不幸の卦が出ててん」

「亜里沙に? なにかしら……うちの両親が永住しちゃうとか?」

「ありえそうな話やね」

 

 それ、私が亜里沙と一緒に暮らせなくなるじゃん……。

 

 

 仕事帰りのタクシーの中で、亜里沙は両親からの電話を受け取っていました。

 

「え? 私のアパートに住む? どうして? 一時的に来るだけじゃなかったの?」

「いいじゃないか、もう一度家族3人揃って暮らすというのも」

 

 お父さんは会社を定年退職して、最近は家にこもりがちになっていると言うし

 お母さんも子育てを卒業して趣味に没頭し始めていると聞いている。

 

「あのね、亜里沙は……」

「亜里沙、もうあの不出来な娘の面倒を見るのはやめなさい」

 

 思わず体が強張った。

 目つきも厳しくなったのか、隣りにいた仕事先でお世話している子も表情を凍らせる。

 ……ああ、でも、もしかしたら電話の言葉が聞こえてしまったかな?

 

「プロデ」

「亜里沙さんでいいわ、もう仕事場じゃないんだし」

「……はい、亜里沙さん。お酒ならお付き合いしますよ」

 

 なんとなくツインテールまでシナシナとしている気がする。

 最近ゲームも自重して仕事も好調な彼女を見ながら亜里沙は会話を続けた。

 

「亜里沙、なぜお前はあの娘に仕事の一つも紹介しなかった、お前にならできたはずだ」

「私は死体蹴りという言葉や、死者に鞭打つという言葉は嫌いです」

「聞けば、家にこもり友人と酒会ばかり開いているそうじゃないか、金食い虫にはそろそろ栄養過多で」

「それ以上言ったら親子の縁を切ります」

「亜里沙、お前ももう大人だ。私が言っている方が正しいと気づいているだろう?」

 

 亜里沙は奥歯を噛んで言葉が出てくるのを我慢した。

 

 

「大学4年生の時に、あいつに最後のチャンスを与えたのは覚えているね?」

「はい」

「だがあいつは無能だった、私はチャンスを与えたことを後悔したよ」

「それは……」

 

 お姉ちゃんが大学四年生の時。

 私がもう今の仕事場でお手伝いして数年っていう時だったからよく覚えている。

 唐突にスーツと手土産を持って現れた父が、今から行く場所にいけと有無を言わせず言い放った。

 その場所はとある有名企業――確か、リニアを作っているとかなんとか。

 

 帰ってきたお姉ちゃんは何も言わなかったけど、亜里沙は今でも覚えている。

 私の胸に泣きついて一時間以上も泣いたことを。

 嫌だ嫌だと何度も声を上げながら、ひたすら――自分が元μ'sであることを後悔し続けていた。

 

「お父さんは……お父さんはいきなり全く未体験の場所に放り込まれてちゃんと働けるの?」

「私は社会人だよ、あいつとは違う」

「あの時のお姉ちゃんは大学生だったの! そこを勘違いしないで!」

 

 思わず大きな声が出た。

 

「ずいぶん姉に入れ込んでいるようだが……あいつに何ができると言うんだ」

「どうして……どうしてお父さんはお姉ちゃんを信じてくれないの?」

「裏切られたことを許せとでも言うつもりか?」

「お姉ちゃんは裏切ったんじゃない! お父さんは知らないの! あの企業が一年後セクハラとパワハラと過労死の問題で警察の調査が入ったことを!」

「いいか亜里沙、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントと言った言葉はまやかしだ、そんなものは存在しない」

 

 通話を切ってしまいそうになった。

 私は霞んだ視線で前を睨みつけたまま、ひたすらに心のなかで叫んだ。

 もう、どうにもならないくらい感情が抑えきれなかったから。

 

 

「あいつの話になると、亜里沙とはどうしても喧嘩になってしまうね、やはりあいつは不幸の子だ」

「通話を切ります、今日はありがとうございました」

「待ちなさい、お母さんに代わろう。同じ女性同士気兼ねなく話しなさい」

「……わかりました」

 

 心が痛くていたくてしょうがなかった。

 本当はこのまま消えてしまいたいと思うほど、自分が情けなかった。

 

「もしもし、亜里沙?」

「お母さん……あのね、私ずっと聞きたかったことがあるの」

「なあに唐突に」

「お母さんは、お姉ちゃんのこと好き?」

「好きに決まっているじゃない」

 

 ならどうして――どうしてお父さんの言いなりになってしまうの?

 

「でもね亜里沙、亜里沙にはちょっとわからないかもしれないけど」

「?」

「私はお父さんのほうが大事よ、愛してしまったんだもの。恋人だったの、亜里沙もきっと愛する人ができればわかるはずだわ」

「それは……その……」

 

 どういうこと? という言葉はすんでのところで出さずに済んで。

 私は心が冷めていくのを感じたまま、機械的に母親との会話を終えた。

 

 

「亜里沙さん……」

「LEAH?」

「は、はい!」

「私、歩いて帰るから、その、一人でも大丈夫?」

「待ってください、今の亜里沙さんを一人にしておくことなどできません。みんなに集合をかけます」

「どうしようもないとこ、見せてしまうかもしれないよ?」

「もしもそれで亜里沙さんを軽蔑するような子がいれば、私が引っ叩きます」

「お姉さんでも?」

「ええ、やってみせます……運転手さんすみません、この住所に行ってもらえますか?」

 

 霞んだ窓の景色から見上げる月は、今日も煌々と輝いていた。 

 



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