三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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(※) 飲み会編 エピローグ 01

「ごめんなさい、家に帰るわ。今の時間ならギリギリ電車も出てるでしょ」

「亜里沙ちゃんが心配?」

「もちろん、今や血を分けたたった一人の家族よ?」

 

 バー Bar Bar Bar から出ていこうとすると、希が腕を引く。

 どうしたのだろうと思って見てみると

 

「お金もないのに行ったら捕まってまうで、これ、出世払いでいいから」

「近い未来かしら?」

「初任給で焼肉もつけてやー」

 

 旅館の大宴会場に戻る。

 すでに大きな電気は消されてしまっていたので、暗い明かりを頼りに荷物をまとめていると。

 

「帰るのね、エリー」

「起きてたの? 真姫」

「と言うかみんな起きてる」

 

 その言葉に布団をババーっと蹴飛ばすメンバー、投げるメンバーがまちまち。

 なんかこう言うのを見ていると

 

「μ'sを思い出すわね」

「絵里ちゃん! じゃあ、μ'sミュージックスタート! やっちゃう!?」

 

 穂乃果のテンションが高い、誰かに飲まされたな……?

 

「希がいないわ」

「ウチならもうおるで?」

 

 いつの間に帰ってきたのよ、と言うかすぐ来るんなら一緒に帰りましょうよ。

 少しだけ呆れながら、私は笑う。

 

「じゃあ、穂乃果、音頭はお願いね」

「任された!」

 

「えー、絵里ちゃんの就職を祝いまして……μ's!」

「「「「「「「「「ミュージックスタート!!」」」」」」」」」

 

 まだ決まってない――と思ったけど、口には出さなかった。

 もう、腹を決めなければいけない時期だと思ったから。

 

 

 わやわやと話していたらあっという間に終電の時間が終わってしまったので、 

 タクシーで自宅に帰ることにした。

 最初は一人で帰ろうと思ったんだけど、それでは寂しいでしょうということで海未が同行してくれる。

 

「不幸の卦? 亜里沙が? それは心配ですね」

「ええ、仕事場でなにかがあるのかしら……それとも……」

 

 私みたいに険悪と言うまではいかないかもしれないけど――

 そろそろ両親から連絡の一つも入っていても良いはず。

 電話がある日には目に見えて不機嫌になる亜里沙だから、家に帰ればだいたい状況はわかるはず。

 

「そういえば、絵里は亜里沙の仕事は知らないのですよね?」

「ええ、ちょっと見当も付かないわね、やたら芸能関係者と知り合いなのが怪しいけど」

「ふふ、では私が言ってしまうのは芸がありませんね」

「そういえば以前に亜里沙と海未は一緒に飲んでいたのよね……」

 

 海未が帰った後、実に幸せな表情をしたまま

 

「海未さんと一晩過ごしてしまいました! 亜里沙は大人になりました!」

 

 と、言っていたのを思い出す。

 意味を分かっているのか分かっていないのかわからない素っ頓狂な言い回しは、中学時代を彷彿とさせる。

 

「絵里は、その、ご両親との仲が」

「あまりよろしくないわね」

 

 よろしくないというかほぼ絶縁状態。

 まあ、元から仲が良かったかというと、少しだけ疑問符が残るけどね……

 

 

「その、寂しいという気持ちはありませんか」

「父に関してはないわね、辛いという気持ちは全部お前の被害妄想だと言われた時に縁を切ったわ」

「では、お母様には?」

「……母は、そうね。子どもよりも父のほうが好きよ。私達がよくおばあちゃまの話をしていたのは知ってる?」

「ええ、今になって思えば、なぜお祖母様のお話ばかりなんだろうと思うべきでしたね」

 

 優しい優しいおばあちゃま。

 まあ、傍から見れば優しいというよりも厳しいと言ったほうが良いのかもしれない。

 ○○してもいいとか、許可を得られた経験はほとんどないし、何ていうか注意ばっかり受けていた。

 ピロシキの作り方だって見て覚えなさいだったし、というか、あの店の料理のほとんどは私と亜里沙は見て覚えたはず。

 日本で言う職人気質だったのかもしれない、古い人と言われればそれまでなのかもしれない。

 でも確実に、おばあちゃまには両親にはない私たちに対する愛情があった。

 

「私の両親もお婆上も大変厳しい人です」 

「それは海未を見ていればわかるわ、でも相手が悪いとはいえ、気軽に叩いてはだめよ?」

「反省しています……言い訳をするならば、私も若かったのです、自分が正しいと思えば何をしても良いのだと」

 

 正しさとはなんだろうと考える時がある。

 なんかそれはまるで、自分の戦いが正しいのか考える正義のヒーローみたいだけど。

 

「おばあちゃまが言っていたわ、正しい人よりも優しい人でありなさいって」

「本当に……そうかもしれませんね」

「あえて自慢してしまうわ……本当は自慢というのは自分以外にはしてはいけないんだけれど」

 

 

「深夜ですが……妙に静かですね?」

「亜里沙はいないのかしら? LINEを送っても既読にならないし、海未もそう?」

「ええ、あんまり送ると迷惑になるかもしれないので、自重はしていますが」

 

 私からのLINEは時々既読スルーを決める亜里沙だけど、海未のものとなる別だ。

 一言だろうが、長文だろうが必ず返事を送るし、忙しい時に来た場合は誰かは知らないけど代筆を頼んでいるらしい。

 そういう傾向すらないときなんてことは今までになかったのでさすがに焦る。

 

「とりあえず部屋の中に入ってみます?」

「これで部屋で寝ているだけなら安心なんだけどね……」

「靴がないですからそれはないでしょう、何かメモ書きでも残っているかもしれませんし」

「ああ、それなら海未が見てきてくれる? 私は部屋に入るの禁止されているから」

 

 海未は委細を承知しているらしく、特に何も言わなかった。

 

「さて、じゃあ私はツバサに連絡でも取ってみましょうか」

 

 味方にすると頼りになるし、敵にするとこれ以上厄介になる相手もいない。

 まるでどこぞのラスボスみたいなキャラだなと思いながら、LINEを送った。

 

エリー:深夜遅くにごめんなさい、ツバサ起きてる?

TSUBASA:あらこんな時間に珍しいわね、最近は規則正しく過ごしていたんじゃないの?

エリー:ええ、ちょっと緊急事態で、妹を探しているんだけど何か知らない?

TSUBASA:エリーは私を探偵か何かだと思ってる? 一応職業アイドルなんだけど

エリー:ごめんなさい、さすがに分からないわよね。ツバサならなんとかしてくれるかもって思ったんだけど、気が動転してたわ

TSUBASA:信頼は嬉しい。でも……と言いたいところだけど、案外知っちゃっているのよね

エリー:あなた本当はアイドルじゃないんじゃないの? 

TSUBASA:この前、アイドルが固まって、たむろしていたから声をかけたらモーセの十戒にみたいになったわ

 

 

TSUBASA:さっきね、とある敏腕プロデューサーから収集をかけられたのよ

エリー:へえ、大変ね。ツバサの担当の人なの?

TSUBASA:本音を言うなら担当してほしいけどね……本当に優秀で心優しく仕事も早い。

エリー:まさか私の知り合いとか? なーんて、そんなわけ無いわよね

TSUBASA:うん、まあ、それはいいけど。そのPと一緒にいたアイドルが事情を説明してくれてさ

エリー:ふうん? その事情私も興味あるわね

TSUBASA:久々に頭にきてさ、というか、その場にいたアイドルの8割怒って大変だったのよ

エリー:でも8割しかいないのね、その場にいた全員じゃなくて

TSUBASA:残りの二割は私を含め家に乗り込もうとして、全力で止められたわ

 

 何をしているのか。

 アイドルなのに血気にはやるとはこれいかに。

 でも恐らく、そのプロデューサーというのが信頼されている結果なのでしょうね。

 

TSUBASA:たぶん、妹さんだけどもうすぐ帰ってくると思うわ、予想だけどかなり酔って

エリー:あなたってもしかしてニュータイプか何かだったの? 実はコロニー生まれなの?

TSUBASA:はは、まあ、とにかく前向きに考えておいて、マネージャーさん?

 

 ま、まだ私はあなたのマネージャーじゃない……というか諦めてなかったのね。

 

 と、冷や汗をかいていると、玄関の方から鍵が差し込まれる音がして――

 パタンと扉が閉められた。

 いつの間にかに隣りにいた海未と顔を合わせ、ダッシュでドアに向かう。

 

 そこには――



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