三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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なお、亜里沙ルートの番外編と言いつつ。
現在更新中の亜里沙ルートとは
繋がりのない話です。


絢瀬亜里沙ルート番外編
絢瀬亜里沙ルート番外編 フルリメイク 西木野真姫ちゃん誕生日SS


 いつか自らが所属するユニットが個別で利用できるような、

 そんな控室が欲しい。

 出番待ちのアイドルたちを存分にぶち込めた、

 そんな人人人ばかりの甘い匂いであるような、

 お菓子の匂いであるような――誰だ食べ物を持ち込んだのは、

 しかもコンビニの肉まん系の食欲をそそる匂いがして、

 相方のルビィが出番まで時間があるからコンビニ行きたい、

 みたいな顔をして私の顔を見るのはやめてもらいたい。

 ハニワプロが出演をゴリ押ししたせいで、現場のリクエストで

 私たちアンリアルが出演しているけれど。

 本当は原作も知らないマンガの――評判の悪い実写化なんかに、

 演技派女優鹿角理亞が顔なんか見せたくはないんだけど。

 ――誰? 今鼻で笑ったの。

 

 

 今現在私の住んでいるシェアハウス。

 何故かはわからないけれど、いま更新中の作品とは

 状況がそぐわない気がするけれどそれは置いておいて。

 統堂朱音のせいでカレー臭さ全開であった場所は、

 金髪ツインテールの努力の結果、

 ちょっとカレーっぽい何かの匂いがするところに変貌――

 ってわけでもないわね、まだちょっとカレーのにおいするし。

 辛いものが苦手なルビィもエトワールに来ることはなかったけど、

 最近はチラチラと黒澤姉妹で来訪するケースが増えた。

 ただ、自室に連れ込もうとすると

 妊娠しそうだからと言う理由で拒否されてしまう。

 女同士なんだからそんなわけ無いでしょと、

 エロゲーをふまえた説明を何度したところで、

 なぜ分かってくれないのであろうと言わんばかりの表情をされ、

 代わりに黒澤ダイヤを置いていかれてしまう。

 先日も夜の性生活の参考にすると一緒にダイヤモンドプリンセスワークスを

 プレイしたけれど、本当に参考するのか? 妄想NTRシーンだぞ?

 なお、男性臭いと評された私の部屋のエピソードを

 エトワールを管理しているヤツに言ってみたら、

 困った顔をしながらトイレの芳香剤を持ってきて、

 そんなで変わるわけ無いだろと怒鳴りながら背中を蹴っ飛ばした。

 

 

「理亞ちゃん理亞ちゃん」

「うん?」

「この漢字ってなんて読むの?」

「ブレイドダンス」

 

 ルビィに呼びかけられ思考が一時停止。

 彼女は他の役者の台本を指さしながら小首をかしげて

 可愛らしい声色と態度で聞いてくる。

 ダイヤが天使のように可愛い――亜里沙さんでさえ、

 別次元の生き物と称する彼女はエロゲーのヒロインのようである。

 友人をエロゲーのヒロインと称することが、

 はたして適切であるのかどうかは私が判断することじゃない。

 なお、ラノベの厨ニ表現を気軽に読むことができるのは、

 堕天使ヨハネ(笑)の影響が強いか。

 しかしながら、別のラノベの読みを嘘つかれて

 微妙に恥をかいてしまったのは根に持っている。

 次はお前の高校時代の黒歴史を暴露すると言ってあるので、

 おそらく嘘をつかれることはないだろうけど、

 USBに保存してあるAqoursの失敗映像が火を吹くので、

 私としても披露されないことを祈りたい。

 

「じゃあ、この漢字は?」

「うん……? アンダーバーサマー……いや、待って、それは漢字じゃない」

 

 書かれているアンダーバーを漢数字の1と勘違いしているのも可愛い。

 高校時代に読書感想文を代筆されていると聞いて、

 知能レベルがずいぶん心配になってしまったけど、

 可愛ければ多少知能がアレでもなんとかなるものである。

 エトワールには外見しか良いところのない連中ばっかりだけど、

 少しは姉さまのように外見と知能面の療法で優れていてほしいものだ。

 ――姉さまは偏差値30だけど知能と学力は関係ないから。

 

「……懐かしいわね」

「うん?」

「あの子もちょうど、よく漢字が読めなくて、私に聞いてきていたわ」

「それ現実のお話?」

 

 私が過去を思い出したそがれた表情を浮かべると、

 ルビィが現実世界で体験した出来事を言えみたいに、

 ジト目を向けてくるけれど、アレはゲームで追体験しているから

 現実みたいなもの、最近はVRもあるし。

 実写版「魔法少女は友だちが少ない」の撮影中。

 名女優鹿角理亞にはふさわしくないモブ役に不満を漏らしつつ、

 暇をつぶしている際のこと。

 スマホでエロゲーを親しんでいたところ、そのメインキャラの声を

 あやせうさぎ(芸名)が担当していた。

 白々しく言うようだけれど、本名は西木野真姫。 

 コスプレイヤー上がりの中堅声優である。

 私も関わったラブライブ!サンシャイン!!で桜内梨子役をこなし、

 それ以降出演、主演作多数。

 最近はクレジットに名を連ねることも少なくなり、どうしたのかと思ってたら

 何かのきっかけでエロゲーに出始めた。

 なお、エロゲー出演の際も本名でいいと思ったらしく、

 勘弁して欲しいと事務所と実家に説得されたエピソードあり。

 なぜ私がそんな事を知っているのかというと、

 絢瀬絵里が酔っ払った席で自慢話のように言ってきたから。

 エトワールで元μ'sの面々が微妙に評価が低いのは

 間違いなくあの金髪の酔っ払った時の暴露話のせい。

 

 私がプレイしているゲームは料金なしでも楽しめるお手軽エロゲーで、

 コスチュームチェンジや撮り下ろしボイスを使用する際に

 少々課金が必要になるけれど――。

 あやせうさぎが担当しているキャラクターは、

 現在落第危機にあるダメダメ女子校生で満点を取らないと

 退学になる設定だけど、まあそんなものはおまけ。

 満点を取れば和姦に繋がるのだし、取れなければ陵辱。

 陵辱のテキストはやたら気合が入っていて、スタッフブログに

 中の人がノリノリで演じていたと言っていたけれど、

 それはやっぱり金髪ポニーテールというのが琴線に引っかかったんだろうか。

 あやせうさぎ名義だとやたら金髪ヒロイン率高くて、

 金髪ヒロインだと演技の評判が高いけど、

 別の髪色でももうちょっとやる気出して欲しい。

 特に赤髪とか。

 

「にしても、本当に主演の西園寺さん可愛かったよね!」

「そうね」

「ルビィもいつか、映画で主役とか演じてみたいなぁ……無理かなあ?」

 

 主演の西園寺雪姫――なんか設定の正誤性が心配になるけど。

 少し前くらいからやたら知名度が上がったアイドル上がりの新人女優。

 出演・主演作多数で髪色・髪型何でも変えてきて

 二次元作品の実写化にやたら辛口のキモオタの方々にも

 ちょっとだけ評判がいい人。

 ルビィが夢を見るような表情でうっとりとしているけれど、

 たしかにまあ、名女優鹿角理亞と黒澤ルビィの現状を考えれば、

 主演女優を願うとか鼻で笑われる言葉である。

 なぜか実写化して評判が散々だったご注文はうさぎですか?

 とかでも微妙に評判に悪いモブだったり、

 魔法少女は友だちが少ないでも序盤で死ぬモブであり、

 なにかに出演すると死ぬ確率高いなって思っている。

 死ぬ演技に定評があるなら、もうちょっと死に様を取り上げて欲しい。

 今度亜里沙さんになんか死ぬ役でオファー無いですかって言ってみよう。

 

「あの人は努力することでここまで上がってきたから、

 ルビィもすっごく努力をすればいいじゃない?」

「メグミさんに今度演技指導を頼んでみようかな……?」

「いや、それよりも彼女をここまで押し上げた二人組に頼んだら?」

「二人組?」

「ええ、西園寺雪姫の根源をなす二人組の伝説的な指導よ!」

 

 ちょっとテンション上げて頭を振り上げたら、

 スマホについていたイヤホンが外れてしまい、

 大音量の喘ぎ声が辺りに響き始めルビィが申し訳ない表情で

 周りにペコペコと頭を下げ始めた。

 

 

 自室でのんびりとしていると、

 コンコンというノックの音が聞こえてきて、

 誰か来訪する予定でもあったかなと考えながら、

 ドアを開くと西木野真姫が誰かと一緒に顔を出した。

 誰何してみると私の妹というそっけない言葉で返事をされ、

 そう言えば年の離れた妹がいるという話を聞いたな、

 なんてことを思い出した。

 芸名、西園寺雪姫17歳。

 ニコの弟のコタくんと同じ年の妹と微妙に仲が悪いと、

 憂鬱そうな表情で相談を受けたことがあった。

 そんな妹さんが成長をして、デビューは華々しく飾り、

 その後パッとしなくて仕事がないRe Starsと同じように、

 アイドルとしてはどん底の雪姫さんの顔を覗き、

 顔はすごく可愛いのにな、と思った。

 亜里沙にでもプロデュースさせれば輝きそうではあるけれど、

 いまあの子はRe Starsをいかにして売り出すかに心血そそいでいて、

 やたらめったなことでストレスを与えてはいけない。 

 ストレス処理のサンドバックは常に絢瀬絵里、

 君子危うきに近寄らず。

 

「なんで私に相談を? そういうのは売れっ子に頼みなさい」

「仕事で栗原陽向さんと絡んだんだけど、

 何でも結婚しそうなくらい仲良かったんだって?

 それで、なんかすごい指導されたって聞いたからさ」

「指導? 仲がいいっていうのは――まあ、そうらしいわね?」

 

 ヒナとの記憶がなぜか靄がかかったように思い出せず、 

 希に聞いたらそりゃそうやんウチが暗示かけたしとか意味のわからないことを言われ、

 写真でも見れば思い出すんやない? という指示を鵜呑みにし、

 保存してあったアルバムを引っ張り出して眺めていると、

 いやもう悲しくなるくらい暗い表情をした自分が出てきて、

 それを覗き込んだ亜里沙に生理二日目みたいな表情してますね

 なんてツッコまれてしまった。

 その言葉の的確さについてはお姉ちゃんツッコミいれないけど。

 

「希ちゃんが言ってた、聞けたもんじゃない音痴を1ヶ月で矯正したって」

「う、うん、そ、そうだったみたいね?」

「希ちゃんの最高に切ない表情を見せて貰ったけど……まあ、それは良いのよ」

 

 ヒナが希とも友人だったと語るので、

 再会を無事に果たしたと告げたところ、

 希はやけにセンチメンタルな表情をしながら、

 そういう運命やったんなあ? なんてことを言った。

 意味は特にわからないけれど。

 

 

「西園寺雪姫、職業アイドル。握手券を付けても一枚も売れないレベル」

「お、お姉ちゃん!? さすがに一枚くらいは売れたよっ!?」

「お母さんが買ったのよ!」 

 

 Re StarsのCDシングルに握手券をつけよう。

 などという意見もあり。

 ハニワプロの反対でCD発売自体が頓挫になって、

 ディスカッションによるイザコザは無視されることとなった。

 仮に発売になったとしてもエヴァちゃんあたりが大売れして、

 いざ握手会になってエヴァちゃんに嫌だって言われて、

 問題が起こって終了するだけで終わるかも知れない。

 そして、西木野姉妹の痴話喧嘩。

 ギャーギャー騒ぎ立てる二人を眺めながら、

 唐突に統堂姉妹の喧嘩を思い出していた。

 クールで沈着冷静と有名だった英玲奈が、

 その仮面をかなぐり捨て朱音ちゃんに赦しを乞う姿は、

 ツバサでなくても夢に出て魘されそうなものだった。

 基本的に英玲奈は妹に対してはいつだって下手に出るけど、

 もう嫌い! と言った瞬間に土下座をし始めたのはね、

 なんていうかね、高校時代とは別人かと思ったね?

 

「というわけでね、このダメダメアイドルを……トップに据えるのよ!」

「……やれやれ」

 

 結論的には西園寺雪姫さんをトップにする。

 ということに真姫の中ではなったらしく、

 私の意志に問わずに特訓につきあわされることになったよう。

 どうでもいいのだけれど、別に私スパルタキャラじゃないからね?

 なぜか勘違いされがちだけど、μ'sに入る前? 

 それは黒歴史だからノーカウント。

 

 

 

 エトワールの地下に移動し、

 防音設備が無駄に強化されている場所へと移動。

 ここでなら何をしたところで地上に知られることもない

 なんていう情報を暴露すると。

 エロゲーなら必ずここで1シーンあるわねとしたり顔で

 真姫がいい始めたので妄想を具体化しないでと言っておいた。

 なお、もともと朱音ちゃん対策で防音システムは整えられたんですよ?

 あの子が本気だすと照明とか設備が声で壊れるから。

 アイドルの基本は歌という判断の元、

 歌唱力の強化に赴くことになった私たちは、

 方法もピンとこなかったので、じゃあ頑張って!

 と応援したら海未を彷彿させるような

 えらい怖いジト目を向けられてしまい、

 苦笑しながら冗談よとごまかしておくことにした。

 西木野姉妹のジト目は炎属性だから、

 私みたいな氷属性キャラとは相性が悪い、効果は抜群だ。

 ともあれ、歌唱力の強化のためには

 ひととおり実力を把握しなければならないので、

 ひとまず雪姫ちゃんには歌って貰うことにした。

 真姫の妹であるのだし、本人もそこそこの歌唱力はあると

 言っているので変なことにはならないであろうとの踏まえての決断。

 曲は何が良いだろうと考えていると、

 自分たちの曲で良いんじゃないというので、

 冬がくれた予感をリクエストすることにした。

 現在真夏。

 そろそろ空調機器がちょっと勘弁してくれと

 ストライキをしてしまってもおかしくない季節ではある。

 

 

 そして西園寺雪姫独唱の冬がくれた予感を聞き、

 私たちは極寒の真冬の訪れを身に沁みて感じていた。

 真夏だと言うのに寒い、

 寒風吹き荒び、大荒れの天気の中で水着になって撮影している感じ。

 どうあがいたって苦笑しか浮かんでこない実力に、

 花陽と凛の歌唱力を天井知らずにまで押し上げ、

 現在でさえ凛は真姫に歌の仕事の際に感謝しているという。

 私になにか感謝してることはあるの? って冗談で言ったら、

 滅多なことで人を馬鹿にしなくなったって言われちゃった(テヘペロ)

 

「今日はうまく歌えました」

 

 実にいい仕事をしたと言わんばかりにドヤ顔を浮かべ、

 その表情を見ながら、ああ、姉妹なんだなあって思いいたり。

 どのような反応が彼女に対して適切であるか考えた。

 褒め称えてしまうのは天狗にするだけだから無駄であるし、

 かといって真実を告げてしまうのは抵抗があった。

 あまりの下手さに言葉にできないというのもあるんだけれど。

 真姫はなんと言って良いのか分からないのか、

 凛に相談している様子だったけれど、それはやめたほうが良いと思う。

 

「な、何なのよ! 今の気が抜ける歌はっ!」

 

 床を踏み鳴らす音が耳に入り、

 彼女専用の防音ルームに閉じこもっていたと思われた朱音ちゃん。

 なぜかあの部屋は中の声は聞こえないけど、外の声は入ってくるので、

 雪姫ちゃんの歌も耳に入ったものと思われた。

 西園寺雪姫レベルの人を他の事務所のアイドルに知られるのは

 会社の評判にも関わるのでと警告を受け、

 レッスン場を借りられなかったからエトワールの地下で練習中だけど、

 当然のようにRe Starsの面々からの反応は芳しくなかった。

 ただ、絢瀬絵里の秘伝の宝刀、雪姫ちゃんの売れないエピソードを語ると、

 自分たちがいかに売れてないかを思い知って誰も何も言わなくなった。

 CDが握手券をつけても一枚しか売れないという事実に、

 一番感極まったのは善子ちゃんで、分かる!

 インターネット放送で頑張ったのに視聴者が増えないときは辛い!

 と、黒歴史を披露し始めたのでまあまあと静かになってもらったけれど。

 

 

「ちょっと! あなた、西園寺雪姫って言ったわね!」

「ええ、可愛い名前でしょ?」

「下手糞川音痴に改名しろぉ!!!」

 

 確かに外見とすれば西園寺雪姫という名前は、

 名は体を表すのだけれど、歌声に限って言えば下手糞川音痴でも

 何一つ問題がないように思われた。

 ただ言われた方は心外であったのか、

 解せないと言わんばかりに朱音ちゃんに掴みかかり、

 いますぐにでもキャットファイトでも始まりそうな剣呑な雰囲気が

 あたりを支配し始めたのでアラサー処女二人は

 まあまあと言いながらみんなをなだめる他なかった。

 

「わ、私が……くっ! それほど言うんなら、あなたの実力……見せてもらおうじゃない!」

「言っておくけど! 私の歌を聞いておしっこ漏らすんじゃないわよ!」

「漏らすか! もしも私よりもヘタクソだったら、分かってるでしょうね!」

「ありえない想定してんじゃないわよ! もしそんなことあったら、うんこ食ってやるわ!」

 

 暴力行為は止められたけれど、言葉での応酬は止まらず。

 しかもむやみやたらに下品な方面に向かっているので、

 こんな場面を亜里沙に目撃されたら、

 指導している人間がレベルが低いからこんなになると、

 またしてもサンドバックになってしまう。

 ただ、真姫一人が下品な言葉もいいわねとか

 したり顔で言っているのはスルー。

 

「行くわよ……私の歌を聞いて戦慄しなさい……!」

「あ、チョット待って、そんなに歌に自信があるんだったら、当然何を歌っても良いんでしょ?」

「もちろんじゃない……! 何でも指定しなさいよ……!」

「ふん……では、南ことりちゃんと小泉花陽ちゃんの……告白日和、です!を所望するわ……!」

 

 朱音ちゃんが歌が上手だというのは周知の事実ではあるけど、

 カラオケで点数を測ると、声量がありすぎて音程がずれているとか、

 マイクが壊れたりするので微妙に評価が低いけれど。

 電波系が得意だと自分で言ってて、確かに上手いんだけれど、

 バラード系だろうが甘い恋愛系だろうが抜群に上手。

 これがなぜ、演技になるとあんなに大根になるのか解せない。

 ことりや花陽が歌った告白日和、です!であろうと、

 びっくりするくらい上手に歌ってくれはするだろうけど、

 実力を見るという目的を果たせるのかは疑わしい。

 なお、現在の南ことりにあの曲をリクエストすると、

 は? みたいな顔をされて罵倒されるので注意。

 ただ、ことりはあの曲をえらい気に入っているので、

 雪姫ちゃんが歌おうものなら告発日和になってしまう。

 

「ふん、私にBiBiの曲で挑もうなんて、ニワカにもほどがあるわね!」

「Printempsよ!」

「どっちも間違ってるから……」

 

 μ'sのファンなのにBiBiとlily whiteとPrintempsの違いがわからない

 人は多くいるみたい。

 Re Starsの面々は善子ちゃん朝日ちゃんの二人だけが違いを把握してるけど、

 エヴァちゃんはそもそもμ'sにさほど興味がないし、朱音ちゃんは私しか興味ない。

 なおツバサはBiBiのメンバーだった時期があるそうですよ、誰の代わりなの?

 ただ、朱音ちゃんも曲だけは把握しているらしく。

 花陽に関してもタイ米大好きアイドル! と言ったので、

 当人の耳に入らないようにしようと誓った。

 

「ふう! どうよ!」

 

 朱音ちゃんが歌い終わると拍手が起こった。

 ハラショーハラショー言いながら盛り上がるのは真姫。

 えらく感動したのか涙を流しながら拍手していて、

 ちょっとは自分のキャラクターを思い出して欲しい。

 実力は認めつつも憮然としているのは雪姫ちゃんで、

 不満そうに口をとがらせていたけれど。

 

「あ、あなた……!」

「統堂朱音よ、覚えておきなさい!」

「どっから声出してんの!」

「口からよ!」

「嘘言いなさい! 尻の穴からも声出してんでしょ!」

「うんこか!」

 

 とにかく罵倒したかったのか要領を得ない指摘になってるけど、

 歌は全身で歌うがモットーの朱音ちゃんの一部分を

 的確に捉えた文句ではある、でもうんこはやめよう、うんこは。

 こんな場面を妹に見られれば、絢瀬絵里が道端に落ちてる

 犬の糞を見るような目をされながら罵倒されちゃう勘弁して欲しい。

 先ほどまでの告白日和、です!がトイレ我慢してる歌みたいになったので、

 真姫の方を見てみたら、気合い入れた表情を浮かべながら

 

「次は演技よ!」

 

 ――まだ諦めてないのか。

 

 

 無料で登録されている台本を印刷し、

 なんだかよく分からないうちに相手を務めるのは私。

 演技はちょっと……みたいな感じで気弱な雪姫ちゃんは、

 先ほどの歌とはうってかわって、

 素人に毛の生えたレベルで演技をしてくれた。

 演技のプロである真姫はたいそう不満ではあった様子だけれど、

 歌に比べれば雲泥の差と言っても構わない。

 なぜ歌ばかりがあそこまで最下級であるのか解せない。

 ただ、私は自分の経験を踏まえた指導だけだったはずなのに、

 なぜだか演技をさせられ、

 こともあろうか真姫や朱音ちゃん雪姫ちゃんから

 酷評されてしまうという経験をした、心が折れそう。

 

「おい、うんこ!」

「なによおしっこ!」

「演技って知ってるの!? 台本をただ読むだけなんて、猿にでもできるわ!」

 

 この中で真姫を凌駕して演技ができると思ってる朱音ちゃんと、

 真姫ほどじゃないけど名優レベルの演技していると思ってる雪姫ちゃん。

 朱音ちゃんの演技の披露はなされなかったけど、

 指摘するのが基本的に好き(自分はできない)な朱音ちゃんと、

 指摘される謂れはないと思ってる雪姫ちゃんの会話。

 

「じゃあ、おしっこはできるの!?」

「当たり前じゃない! 出来なかったら、統堂おしっこに改名するわ! 姉が!」

 

 どうあがいても英玲奈の名前が統堂おしっこになるフラグでしか無い。

 そこまでとは思わないけれど、シスコン全開の彼女が

 妹が考えたことだからと殊勝な態度で改名してしまえば、

 今やっているタレント業が頓挫してしまいかねない。

 

「ふう」

「どうするのよ真姫、これは重症よ?」

「でも、そこをなんとかするのがエリーでしょ?」

「無理言わないでちょうだい……」

 

 真姫がため息を吐き、

 改善させるべき部分が多すぎて何から指摘したら良いものか。 

 みたいな態度を取る。

 が、肝心な部分は基本的に人任せであり、

 上手くいかないかも知れないけど期待している!

 そんな表情をされると非常に腹に据えかねない衝動が。

 アイドルデビューできたキッカケは間違いなく顔で、

 姉が姉だから上手く行けば御の字みたいな扱いの彼女に

 歌も演技も幼稚園児レベルと告げたところで、

 嘘をつかないでくださいと疑われてしまうのがオチ。

 客観的な視野で現実を理解させるにはどうしたら良いだろうと

 心の中にいる園田海未に問いかけてみる。

 

(どう海未、この状況をどう打破すればいい?)

(絵里、現実を自覚させるにはいつだって、

 そうせざるを得ない状況を作り上げる他ありません)

(どうやって?)

(成長に必要なのはライバルです……自己を客観視できるような

 そんなライバルが必要不可欠なのです!)

 

 私の心の中の園田海未は案外冷静であり、

 現実のようにたまに素っ頓狂なことをするようなことはなく。

 提案としては受け入れやすくかつ実行も容易であったので、

 私は思いきって決断をすることにした。

 

 

「雪姫ちゃんに必要なのは……ライバルよ!」

「何を言っているのエリー、雪姫のライバルなんて幼稚園児でもなきゃ無理よ」

「朱音ちゃん!」

「な、何よ澤村さん……」

「あなたの演技で、雪姫ちゃんのこころをへし折ってやるのよ!」

 

 

 朱音ちゃんの千葉繁さんみたいなシンデレラに笑いを堪えながら、

 雪姫ちゃんを眺めてみると、必要以上にショックを受けている様子。

 それは客観的に見て自分はこのレベルと判断できたみたいで、

 偏差値が70(聖良さんの2倍以上)ある高校の主席だというのは、 

 伊達ではないのだと思った。 

 

「おしっこ……」

「何ようんこ!」

「私が悪かったです……え、お姉ちゃん、私ってこのレベルなの……?」

 

 あまりに衝撃的な事実だったようで、

 愕然としながら膝を折って頭を抱えてしまっているけれど、

 朱音ちゃんはまだ真実に気づいていないどころか、

 実力差を思い知ったと言わんばかりにドヤ顔をしている。

 流石に不憫に思ったのか真姫は物寂しそうではあるんだけど、

 やっぱり自分の演技を参考にしてもらおうかしら、喘ぎの、

 とか言ってるので何かあれば全力で止めないといけない。

 

 殊勝な態度でみんなからの指摘を受けようという

 心持ちになってくれた雪姫ちゃんではあったけど、

 この場において演技の専門家であるのは真姫であったし、

 私なんて過去に真姫に付き合わされて演技の特訓したくらい。

 どうあがいたところで指導なんてできそうはずもないけど、

 教えるのが下手だから任せたと言わんばかりの赤毛さんは、

 今は悠々とした態度で飲み物飲んでる。

 

 先日も収録があったと言って、朱音ちゃんや雪姫ちゃんから

 えらい尊敬された目で見られている彼女だけど。

 その現場というのがとんでもない酷暑だったらしく、

 身も心も絶頂に向かうかと思ったわね(はぁと)というのが、

 本当に絶頂しているシーンを録っているとは、

 この場において気づいているのは私だけというのが頭痛い。

 以前秋葉原でコスプレをしながら、自分が出演した作品を買いに行き、

 なおかつファンと交流したエピソードが神対応と、

 恐ろしい速度で拡散されたことも、雪姫ちゃんにとっては

 人気声優の鑑であると言う認識なので、

 よもや、この場においてとても口に出せないような台詞を、

 高らかにノリノリで言っているのがバレれば、

 どんな扱いをされるかわかったものじゃない、

 扱いが悪いのは私一人で十分である。

 酒を飲んだ席で、いかにいやらしく台詞を読むかを語り、

 実演を交えて特訓をして多くの店で出禁を喰らっていることなど、

 知っているのは私一人で充分なんだ、うん、まあ、

 あの店も、あの店も、美味しかったんだけどなあ……。

 

「ええと、演技に必要なのはやっぱり経験だと思うの」

 

 実演を交えた経験をする必要はないけれど、

 想像の中の経験を踏まえて、演技をするというのは

 本当に大事なことなんです(と聞いた)

 なお、真姫は演技に必要なのは羞恥心とか言って、

 エリーにクンニしてもらえばいいとかほざいてしまったので、

 今はちょっと静かにしてもらっている。

 私一人では手に負えなかったので、理亞さんというアシスタントを得て

 彼女に高らかに(エッチな)台詞を読むコツを聞いて貰っている。

 さすがに自分のファンだという理亞さんを邪険にするわけには行かないのか、

 借りてきた猫みたいな態度で質問に答えているけど、

 真姫のSOSの発信信号は無視させてもらってる、こっちは手一杯。

 

 雪姫ちゃんにも朱音ちゃんにも、

 あなたが演技の解説をする理由は?

 みたいな表情をされて、あんまり良く聞いてもらってないけど。

 西木野真姫さん主導による、演技での絶頂のしかたとか、

 高らかにイク方法とかを指導されたいんだったらそうすればいいと思う。

 なお最近、すっごくエロくイク方法を見つけた! って言って、

 フレンチの店を出禁になった記憶も新しい。

 

「質問があります」

「はい、何でしょう?」

「本来なら、演技は姉が指導するべきだと思うんです」

「良い質問ですね!」

 

 雪姫ちゃんのそっけない態度での指摘に、

 テンションがダダ落ちになってヤケになった私は、

 いつの間にかに横にいた理亞さんが、

 見事なローキックを私の脛に披露し

 絢瀬絵里悶絶。

 そんなヤツを道端にくっついているゴムを見るみたいに

 リアルにゴミを見る目で見下し、

 邪悪極まりないと評判な笑みを浮かべ、

 

「お前たちは、プロの俳優の指導を受けられるレベルにねえからっ!」

「私までが!?」

「朱音もだ! バカ!」

 

 現役女子高生二人組は、その生真面目さ故に

 自分がどれだけ演技に関してはレベルが低いか把握してない。

 理亞さんが言っている指摘も口調こそ乱暴だけど、

 心を抉るように的確なのでこちらとしてはノーコメント。

 埒が明かないと判断と思しきツインテールさんは、

 

「私は……! きっと、何者にもなれないお前たちに告げる……!」

「……っ!?」

「成人向けゲーム! しましょうか!」

 

 やっぱりそういう結論に至るのか、

 でも、隣りにいる本業の人が、

 うんうんと頷きながら、それが一番よねと言っているので、

 もうどうにでもな~れと思いながら天井を見上げた。

 

 

 成人向けゲームというのは、

 本来プレイにあたっては18歳未満の子たちに

 目に触れぬよう、耳に入らぬよう、

 間違ってもマウスなんてクリックさせぬよう――

 重々忠告するのが大人としての責務です どっとはらい。

 演技を見る機会はあっても、やる機会はさほどなかった二人に

 実演を交えた指導は、たしかに効果はあるのかも知れない。

 先ほどとは打って変わって興味を持って理亞さんの話を聞き、

 早くプレイさせろと迫っているのは現役女子高生二人組。

 会場は理亞さんの部屋、そこら中に二次元キャラのポスターが

 貼ってあり、入った瞬間は誰しもうわぁみたいな表情をしたけど。

 ただ、真姫は自分のやった作品のキャラがいないと

 微妙に不満気ではあったけれど。 

 

「えと、理亞さん……何をやらせるつもりなの?」

「ふふん、声優と同じ体験をするというコンセプトで売れに売れた……! 【人気声優の生活を実体験するゲーム】よ!」

 

 最近はタイトルとかで内容を把握できないと

 プレイヤーにスルーされてしまうらしく、

 何そのタイトルみたいな作品がラノベやコミック含めていっぱいあるけど、

 疑問に感じたのは私だけみたいで、

 他の三人はそんなものもあるのねみたいな態度だった。

 

「ふうん、3名の声優になりきって、魑魅魍魎あふれる世界を生き抜くか……」

 

 魑魅魍魎という単語にえらく思い当たった部分があったらしく、

 新人時代にディレクターとか先輩声優とかから受けた

 セクハラ体験を語ろうとしたのをストップをかけ、

 今度お酒の席で聞くからと懇切丁寧に説得し、

 あやせうさぎ(裏名)氏のプレイは進められた。

 なお理亞さんはエロゲの現場にセクハラ無いんですか?

 と質問してみんなからスルーされた。

 

 

「さて、西園寺雪姫! 統堂朱音! そして澤村絵里!」

「私!?」

「このゲームは基本的に、3名が演技力を向上させるターンと、イベントパートが交互に出てくるわ

 なので攻略しつつ、自身に必要な技術を身に着けなさい!」

 

 高らかに宣言する理亞さん。

 モチベーションも高く、ノリノリな面々はともかく。

 アラサーがエッチな単語を含んだ演技の鍛錬をして

 一体何の意味があろうかと疑問でしかたがない。

 テンションダダ落ちの私を不憫に思ったのか、

 真姫が励ますように私もやってあげるからと言ったけれど、

 そういう問題じゃない、そろそろお部屋に帰りたい。

 

 ゲーム冒頭から、書いている人が違うんじゃないかっていうくらい

 すっごく真面目な演技に関するテキストが披露され、

 真姫がすごく感心していた。

 なお、これを新人声優に配るテキストにしようという提案は

 絢瀬絵里の独断で却下させて頂きました。

 ただ、今は真面目だけどそのうち

 エロゲの演技をするには実演を交えないと!

 とかトチ狂ったことを言い出すんだと思う、

 エロゲーってそんなのばっかりだよ!

 

「……!?」

 

 エッチなお色気シーンを含め

 最初のうちは恥ずかしそうにキャーキャー言ってた

 現役女子高生二人組も、真姫の指導で

 悲鳴だけはやたら上手くなってからしばらく――

 ホイッスルボイスを活用したロリキャラの喘ぎ声くらいから

 講義が不真面目方面に向いてきたけど、

 やっぱりと言うかなんて言うか、

 実演を交えたエロい声の上げ方に要素を振り切ってきた。

 多少テンパり始めた私以外の二人組は、

 すがるように真姫や理亞さんを見上げるけど、

 目の前のテキストを声優さんと同じように読め

 という指導は改められなかった。

 恥ずかしがった瞬間に、あやせうさぎ(笑)さんの

 違う! ここはこう喘ぐ!

 という熱血指導が行われ、でもお姉ちゃん彼氏いたこと無い

 との雪姫ちゃんの暴露という悲劇も乗り越え、 

 シリアスに展開が傾き始めた時、

 同じように真面目な顔をした真姫が妹に告げる。

 

「雪姫」

「なに?」

「もしかしたらあなたは私と同じ場所に立てる才能があるかも知れないわ」

 

 え? 私は? みたいな朱音ちゃんをスルーし、

 西木野姉妹間の仲はは無事に深められた様子。

 ただ、もうこのあたりで真姫が普通の声優ではない

 ことがみんな分かってきたようで、

 売れることが一筋縄では行かない事実に、

 人気って苦労しないと得られないんだみたいな実感を得た。

 その後は競うようにしながら喘ぎ始める現役女子高生を眺め、

 この映像をインターネット動画サイトに流したら

 いかばかり稼げるんだろうなって思った。

 おそらくきっと、太陽の日開催においてRe Starsが抱えた借金など

 1日くらいで返せそうな金額を得られるんだろう。

 

「真姫、私の喘ぎって需要あるかな」

「すごく需要があると思うから、

 今度実体験を踏まえて聞かせてほしいの

 できれば二人で、和木さん置いておくから」

 

 ――なるほど。

 多分一部の人にしか相手にされないんだな。

 天井にまで貼られたポスターを見上げながら、

 世の中うまく行かないことばっかりだって思い至った。

 

 

 そろそろ陽も暮れて、夜の帳が降りる頃。

 セミの鳴き声がひぐらしに切り替わってしばらく。

 シナリオとしては結構面白いレベルの展開に

 拍手を送りたいなあなんて言う感想を抱く。

 テキストを読むだけではなく、

 実演を交えた的確なツッコミを入れられ、

 精神的にも肉体的にもへとへとになった二人は

 仲良く揃って目を閉じて壁に寄りかかっている。

 寝ては居ない様子だけど、限りなくそれには近そう。

 私もベッドに寝転んでグースカ眠りたいけど、

 おそらくそれは許されない、本番はこれから。

 

 真姫と理亞さんは何処かへと赴き、

 戻ってくるまでは休憩という言葉を信じ、

 鍵でもかけて引きこもれば一生休んでいられるかな?

 なんて益体もない事を考えてしまうけど。

 そういえばと思い、

 真姫の弱みは多少握っているけど、

 理亞さんの弱みは管轄外だから、ちょっと把握して置こうかと 

 部屋をあさろうとして――やめた。

 人には誰しも相手に触れられたくない側面はあるし、

 仮に呪いでもかけられてたら怖い。

 

 真姫と理亞さんが本を抱えながら登場し

 大量の書籍を何に使うんだろうと思ったら、

 実地試験の後は、手書きでお勉強とのことだった。

 お勉強大好き西木野真姫の高校時代の側面を見た気がして、

 恐怖に震えそうになり――

 なんとかバレないように部屋から退室しようと、

 あと少し、もう少しとドアに迫ったところ。

 

 

「ヒナァァァァァァ!?!?!?」

「ごきげんようエリー、これ、お近づきのエロゲー」

 

 手渡されたのは、最近マスターアップされたという

 Aqoursを元キャラにしたダイプリの二作目。

 制作スケジュールはかなりシビアだったらしく、

 延期もやむなしという判断を下そうかとしたら、

 真姫がじゃあ、テキスト書ける人呼ぶとヘルプを用意し、

 ツテにツテを集めて作品は完成させられた。

 その中に綺羅ツバサと矢澤ここあ両名が居たことは、

 色んな人に秘密、ブログに書いても信用されないだろうけど。

 

 

 

 真姫が色々とやることがあると言って帰宅し、 

 残されたのはUTXと音ノ木坂学院の元生徒会長二人と、

 出来の悪い生徒三人組。

 私としては教師側に立ったのは嬉しいんだけど、

 テキストに書かれたことを合っているかどうか

 チェックしなければいけないので、微妙に先よりも

 精神的に疲弊しつつある、こういう作業は嫌いじゃないのが救い。

 基本的に学力も偏差値も高い朱音ちゃん(真姫の指導の結果)

 雪姫ちゃんも先輩を差し置いての高校の主席ということなので、

 この中での劣等生は鹿角理亞さんただ一人。 

 黙々とペンを動かして暗記してから、

 手書きのテストで実力を測る。

 この作業が演技力の向上とか、

 アイドルとしての実力の向上に至るかは――

 まあ、そこは些細な問題だと思うことにして。 

 

「安西先生……ダイプリがしたいです……」

「諦めたら?」

 

 色々と後悔し始めた理亞さんは

 ヒナに助けを求めるように声を掛けたけど素っ気なく返された。

 亜里沙を通じて理亞さんのダメエピソードは把握しているとのことだけど、

 私に辛辣だというのも評価を下げているのかも知れない。

 朱音ちゃんと雪姫ちゃんの両名も、

 先ほどのエッチな実演よりはマシと割り切っているのか、

 元からこういう作業が好きなのかは分からないけれど、

 成績はかなり優秀、教えた言葉は意味も含めて把握している。

 ただ、言葉の意味を辞書みたいに覚えたところで、

 実演できればなんの意味もないけどね?

 いや別に、勉強ができれば頭がいいみたいな価値観で

 人を判断する人に含むことはないのよ?

 

 これが終わったら地下で歌唱指導という言葉に

 雪姫ちゃんは大喜びしたけど、

 元から指導の必要がない朱音ちゃんは、

 演技指導を含めた特訓を言いつけられた。

 さっきと同じことを!? と戦々恐々としたみたいだけど、

 ヒナはもっと効果がある鍛錬があるとの一点張りで

 詳細は発表されなかった。

 

 

 最終テストも無事に乗り越えた面々は

 食事休憩やお風呂と言った気分転換をしたあと、

 ジャージに着替えて全員集合することになった。

 しかしながら、自分のジャージ姿は干物女という表現が的確で、

 その姿を眺めるたびなんとも言えない気分になる。

 

「歌というのは、どんなに酷い音痴であろうとも、必ず矯正できます」

「……」

 

 ヒナが過去を思い出すかのように目を閉じ、

 やけにセンチメンタルな表情をしながら告げる。

 上原歩夢、絢瀬亜里沙の両名が初期同人版ダイプリの

 主題歌を担当する前はヒナが自分で歌唱するつもりだったらしく、

 その歌声は一部の人達にやけに人気がありヒナタ帝国が

 設立されんばかりであったとか。 

 

「私は高校時代に大変な音痴でした、ですが」

「ですが?」

「金髪ポニーテールは片手に鞭を持って、紫おさげは猿ぐつわとロープを握りしめて、わたくしの指導に当たりましたわ」

 

 とんでもない暴露にドン引きする私たち。

 まったく記憶にない指導ではあったけれど、

 希が言うには効果は覿面であったらしく、

 中には凶悪な暴力的な指導も役に立つこともあるんやな、

 ってLINEで書いててヒナに謝ろうかと思ったら、

 その希も加害者じゃん! 関係ないみたいな文を書いて!

 

「ですが、わたくしも鬼ではありません」

「ほ……」

「悪鬼です」

 

 安心した雪姫ちゃんを奈落の底に叩き落とさんばかりの所業に、

 この場に居合わせた面々は揃って震え上がる。

 高校時代はロリロリしてて天使みたいだったらしいけど、

 とてもそうは見えない、口にしたら殺されそうだけど。

 雪姫ちゃんをみんなで簀巻きにして床に放置し、

 どうすれば声を高らかに上げさせられるかという一点において

 鋭利な針を品定めする姿は、昔話に出てくる山姥を彷彿させた。

 だけども、そこまで鬼でもなかったのか、

 妙な物体を私に見せて、

 

「これは?」

「ツボ押し器のコリをとらえーる君

 なにかに失敗したら押してあげて」

「……ええ?」

 

 とんでもないことをするもんだなあと

 怪訝な声を上げてしまった私を、

 覗きこんで見上げるようにしながら、

 

「あなたは、私の足に、針を刺しました」

「ようし! 雪姫ちゃん! 頑張って!」

 

 今度、ヒナに心の底から謝罪をすると誓い――

 絢瀬絵里は過去を忘れることにした、

 黒歴史は封印するに限る、∀ガンダムみたいに。 

 

 

 演技の実地訓練により、

 多少なりとも上達したかな? という自己判断が

 大いに間違っていたと自覚したのち。

 早口言葉で噛むたび、外郎売を失敗するたび、

 とにかくまあなにかしら失敗するたびに、

 雪姫ちゃんのツボは力強く押されることとなった。

 最初の方はそこまで痛くないふうであったのに、

 的確に痛い場所をつけるようになったみたいで、

 ここを押せば高らかに悲鳴上げるなってポイントが分かるようになった。

 無駄な才能を発揮し、無駄過ぎる技術を身に着け、

 発声に関しては強制的に身体に覚えさせることに成功した。

 課題は山積みであるけれど、頑張れば乗り越えられるのが

 若さの魅力である。

 JKの足つぼを押してドSな笑みを浮かべる金髪アラサーと称され、

 本当やばいくらい邪悪な顔をしてた所を写真に撮られた。

 理亞さんにはこの写真を亜里沙に送られたくなかったらと脅迫され、

 朱音ちゃんは高校時代の私の指導を聞いて悲鳴を上げてる。

 絢瀬絵里=澤村絵里は残念ながらバレてないけど、

 絢瀬絵里の過大評価については改めようと誓って欲しい、

 ええ、私自身の評判のためにもそうして欲しい。

 そうこうしている間に、なんかツヤツヤした真姫が戻ってきて、

 何をしていたのか問いかけたらエステの予約が入ってたとのこと。

 おいくらかを尋ねてみたら、恐ろしくて金額の間違いを聞き直せないくらい

 超高級エステであったので、私はすべてを忘れることにした。

 ――中学時代に行って以来という言葉も含めて。

 

「へえ、針を足の裏に。

 声量を上げるのは矯正の基本だから、 

 確かに方法としては悪くないわね」

「実際役に立ちましたが――でも」

「ええ、そうね――やっぱり」

 

 栗原陽向と西木野真姫の二人が、 

 楽しいことを見つけたと言わんばかりの――

 ドSで邪悪な笑みを浮かびながらこちらを見て

 心の底から恐怖を覚え、ガクガクと震えだしてしまいそうな、

 凶悪で冷徹な瞳を向けられ――

 

「ワ、ワルキューレは裏切らない……!」

「ワルキューレは裏切らないかも知れないけど、

 残念ながら人間は裏切るものよ」

「澤村さん、恨むならツボ押しの才能を発揮した自分を恨むのね」

 

 逃げようとした私の右腕を鹿角理亞さんが。

 左腕を統堂朱音さんが締め上げ、

 とりあえず一番簡単に痛みを与えられるやつ、

 という観点に置いて一番適切であろうアイスピックを手に

 西木野真姫、栗原陽向の二人が迫り。

 因果応報という言葉を認識しながら私は叫んだ。

 

「ハノケチューーン!!!」

 

 ええ、特別南ことりさんを意識させて頂きました。

 カラオケに行くとスピカテリブルは台詞が流れるから、

 ノリノリでことりの真似してたら、

 あろうことかそれを本人に見られてしまって――

 似てるけど殺したくなると評判のモノマネはお気に召しましたか?

 あと真姫、ことりにバラさないで? 

 絢瀬さん東京湾にバラされちゃうから。

 

 

 

 ツボ押しは理亞さんに引き継がれ、

 あひぃあひぃ言いながら悲鳴をあげる私と雪姫ちゃん両名は、

 なんだか知らないけど歌唱力は無事向上した。

 ――アイスピックはちょっと刺しても痛い(教訓)

 それはともかく。

 私でお楽しみだった各面々は、西園寺雪姫ちゃんの

 アイドル力の向上という目的を思い出し。

 4名が提案したのは、

 

「やっぱり、基本に立ち返って、上手い人の技を盗むべきね」

 

 最初からそうするべきであったと、

 私なんかは思うのだけど――

 指摘をすれば簀巻きにされた挙げ句に

 スタンガンあたりでビリビリさせられてしまうかも知れない。

 なんだか超電磁砲って響きが懐かしい、

 そんな絢瀬絵里ではあるんだけども。

 なので、みんながもう寝静まってしまっている時間。

 エトワールのリビングに集った面々は、

 ヒナ主導によりDVD映像を眺めることと相成った。

 演技が上手い人の映像でも眺めるのかな? と思ったけど、

 彼女がダイプリの初期作の台詞を自分でやろうとした際

 大いに参考にしたと言うので、極めて効果があるものと思われた。

 ただここで、妹の亜里沙も参考になったということと、

 ダイプリのシナリオにも活用されていることを把握していれば、

 あんな羞恥プレイを受けずにも済んだかと思うと――

 

「これ、もう撮影しているの?」

 

 カメラを覗き込むような仕草でテレビ画面に映るのは

 高校時代の絢瀬絵里、つまりは私である。

 朱音ちゃんは澤村さんと似てるわねとかすっとぼけたこと言ってるけど。

 事実には気づかないで頂きたい、色々と面倒だし。

 画面の端っこで緊張した表情で待っている園田海未がいるから、

 音ノ木坂学院で撮影されたものであると思われた。

 なぜこの映像をヒナが持っているのかと言うと、

 希経由で回されたものであるらしい、なんで持っとるんや。

 いろいろと言いたいことがあるのを飲み込み、

 始まった映像をさほど文句も言わずに眺めてみる。

 

 

「なんで映像付きで、コーラスの収録をしなければいけないのかわからないけど……」

 

 μ'sの曲でたまに掛け声なり何なりが入っているけれど、

 これはこうして別撮りで、叫んだりなんだりやってるのである。

 真姫のツテでスタジオで録音したときは、

 もう、笑っちゃうくらい音質が良くて思わず笑っちゃった。

 基本的に一人ひとり個人で録音したりで収録するため、

 音にバラつきは出るし――ヒフミちゃんたちはいろいろと苦労したんだと思う。

 でも、なんでそんなスキルを彼女たちが持っていたのかは

 もう、神の意志かなんかだと思うことにしたい。

 

 動画を撮影しているのは真姫であり、

 声が意外と可愛くないと彼女自身も、周りの面々も感じ、

 実際朱音ちゃんが本人なの? みたいな目で真姫を見てる。

 ただ、この西木野真姫、園田海未、絢瀬絵里の三人は、

 ことりやニコから、高校時代よりも若返っていると評され、

 実際にRe Starsの面々が私の正体に気づかないのは、

 高校時代ほぼそのままの絢瀬絵里がそこにいるからだそうですよ?

 一番の常識人である朝日ちゃんも

 澤村さんって高校時代の絢瀬絵里さんとそっくりって言って、

 私はもうなんて言っていいのかさっぱり分からなかったね。

 なお、海未、真姫、絵里の組み合わせにピンとこなかった朱音ちゃんのために 

 ヒナが説明してくれたんだけども。

 

「ソルゲ組、μ'sの中でもトップクラスの歌唱力を持った三人組です」

 

 何その過大評価。

 首を傾げながらヒナの評を聞いているけれど、

 あの組み合わせ本当に身のまわりでは評判悪くて、

 μ'sっぽくないとか、険があるとか、

 散々な言われようだったから一曲しか披露してないけど、

 ちょっと声をかけて3人で曲でも出すべき? 売れるかな?

 ただ、亜里沙に言われた海未さんらしくないという評を

 海未は結構気にしてるから結成は難しいかも知れない。

 

「このカンペ通りに読んでみて」

「ハラショーって言えばいいの?」

「そうそう、上手にね」

 

 上手にハラショーと叫ぶことになんの意味があるのか――

 多分その理由を把握していたのは、高校時代の西木野真姫だけであるので、

 とりあえずツッコミは入れておかない。

 ただ怪訝そうな表情をしながら――

 

「ハラショー!」

 

 と案外ノリノリの調子で高らかに声を出す私。

 色々と注文をつけている真姫にもハラショーハラショー言いながら

 リクエストに答えていくバカな自分を眺めていると、

 なんていうかすごくいたたまれない気分になるんだけど……。

 

「これが、どうなるの?」

「まあ、見てなさい雪姫」

 

 小首をかしげながら問いかける雪姫ちゃんに、

 真姫は笑いを堪えながらたしなめる。

 どうやら過去の記憶が蘇ってきたらしく、

 この先どんな痛々しいことが起こりうるのか

 楽しみでしかたがないと言わんばかりに邪悪な笑み浮かべてる。

 

 

「もっと高らかに!」

「ハラッショー!」

「うん、いい感じよ! もっとありふれた悲しみの果て!」

「ハラァショー!」

「そうそう! COLORFUL VOICE!」

「ハラッセォォォ!!!」

 

 以前まで(生理エリちと評される)の私のキャラにそぐわない

 ――今の私のキャラともそぐわない、恐ろしく恥ずかしい黒歴史に

 顔を覆いたくなるんだけど、ヒナが目をそらしたら刺すと言わんばかりに

 アイスピックを持っているので目を伏せることすら出来ない。

 意味不明な指示のもと、テンション高く、

 羞恥心もかなぐり捨て、ただ叫ぶ機械になっていく私に、

 もうなんていうかいたたまれなくていたたまれなくて泣きそう。

 

「凛っぽく!」

「ニャァァァァ!」

「にこちゃん!」

「ニコォォ!!」

「花陽!」

「ピァァァァァァ!!!」

 

 にこりんぱなの組み合わせでモノマネを披露し、

 コーラスの収録であることを忘れ、

 ヒフミちゃんたちのリクエストにも、

 素晴らしい出来栄えで叫び続ける生徒会長(笑)

 

「みんなのハート撃ち抜くぞぉ! バァァァン!」

「ラブアロォォォ! シュゥゥゥト!!」

 

 般若みたいな表情を浮かべた海未に

 手刀を首筋に叩き込まれ昏倒するまで、

 羞恥プレイは続いていった。

 高校時代の記憶を思い出し泣き出したかったけど、

 私は泣かない、泣いてたまるもんか!

 

「えと、これは?」

「あなたは、まだ羞恥心が残っている……!」

 

 雪姫ちゃんが疑問に感じるのは当たり前で、

 演技指導ではなく絢瀬絵里で笑おうみたいなオチじゃないのかと、

 私自身も感じているんだけれど。

 ヒナにとってはそういうことではなく、

 本当に演技にとって大事なことを知るための映像らしい。

 後日嘘じゃないのと問いかけたら目をそらされたけど。

 

「でも、あのμ'sのダイヤモンドプリンセス絢瀬絵里でさえこうなの! 

 彼女は歌のためなら羞恥心すら捨てる!

 西園寺雪姫! あなたは……絢瀬絵里になるのよぉぉぉぉ!!!」

 

 深夜なのでボリュームを落として欲しかったけど、

 そんなことを指摘できるほど体力がなかった。

 きっと疲れてるのよ、ええ、もう、まったくもって。

 

 

「なんか途中から、二人の指導だけじゃなくなったわね」

「どうしたの理亞ちゃん」

 

 西園寺雪姫のエピソードを聞きながら、

 私自身もルビィも何故結果が出たのか疑問で仕方なかった。

 その後も指導は続いたんだけど、基本的に

 高校時代の絢瀬絵里で笑おうみたいな感じで、

 なんでそれが今の立場を作ったのか不思議だ。

 

「うん、まあ、経緯はどうあれ、友人に恵まれていれば、なんとかなるものよ」

「したり顔でどうしたの理亞ちゃん……」

「あと、困難は結局自分でどうにかしなきゃいけないのよね」

「なにがあったの、理亞ちゃん」

 

 

 その後一ヶ月に渡り、様々な面々が雪姫ちゃんの指導にあたり。

 海未や凛やニコと言った指導に定評がある面々から、

 賑やかしに来た希とかと高校時代のエピソードで盛り上がり。

 ただ、雪姫ちゃんに本格的な影響を与えたのは

 エヴァリーナちゃんだと思う。

 彼女は基本的に我関せずであったけれど、

 絢瀬絵里を目指すという点において、

 なぜだか私以上にコピー作業に優秀で――

 一挙手一投足がエリちそっくり! by希

 びっくりするくらい姉に似てます! by亜里沙

 と評判の絢瀬絵里再現図を披露してくれた。

 私自身も自分のことなんてよく分からないけど、

 エヴァちゃんにとっては絢瀬絵里のことならなんでも分かるらしく、

 影武者としてそこに置いておきたい、私はニートに戻るから。 

 ただ、私のフォローだけでは人として微妙という

 身も蓋もない妹のアドバイスもあり、

 西木野真姫を組み合わせたハイブリッド路線に変更される。

 真姫のことなら当人以上に何でも知っている和木さんに

 身も心も真姫ナイズされた雪姫ちゃんは、

 演技も歌唱力もトーク力も短い間に抜群に成長を見せた。

 ――いや、たしかに当人の努力もあるんだろうけど、

 ニコと凛のアドバイスが的確だったというのもあるんだと思う。

 でなければ、エッチな声を出せば演技力が向上するという

 真姫のアドバイスで成長などするはずがない、それはおかしい。

 

 特訓から三ヶ月で深夜番組のドラマの主演に抜擢され、

 今では歌も演技もトークも何でもこなすスーパー新人女優として

 テレビを中心に華々しく活躍を続けている。

 ただ、雪姫ちゃんが人に教える際には

 

「じゃあ、まずエッチなことしましょうか」

 

 などと告げて、

 やりすぎて警察を呼ばれたことがあるらしいけど、

 未成年に手を出すのはやめて欲しい。

 相手が小学生だったらしいけど、

 事情を聞かれて絢瀬絵里のようになりたかったというのは、

 勘弁して欲しい、私がロリコンみたいじゃん……。

 あと、もののついでってことで朱音ちゃんも同じ指導をされ、

 スーパーアイドルレベルにはならなかったものの、

 結構評判のいい役者として声優と歌手として活躍し始めた。

 今ではラジオのパーソナリティーとして仕事を始め、

 英玲奈がハガキ職人として仕事に支障を出し、

 UTXと事務所からすごく叱られたことを明記しておく。



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