三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
<< 前の話 次の話 >>

32 / 108
(※) 亜里沙ルート プロローグ 04

 エヴァリーナちゃんとリビングルームに向かうと、理亞さんが仁王立ちして一人の少女を睨みつけていた。

 

「えーと」

「あの子は、統堂朱音。カレー大好き」

「……ああ、この匂いの正体は」

 

 しかし、朝からカレーうどんとはなかなかの健啖家。

 その割にはスタイルに影響を与えていないみたいだけど、そこは姉譲りか。

 理亞さんは憤懣やるかたないと言った様子。

 とても海未に――そう! 詩衣はそういうセリフを言うんです! と言って困らせていたと思えない。

 

「もう片方が、鹿角理亞さん。彼氏大好き」

「彼氏大好き!?」

 

 いったいいつの間に……彼氏なんか。

 私に一回も作られたことがない、都市伝説なのではないかと思われる彼氏……。

 

「エヴァ! ふざけたこと言うな!」

「でも、私は知ってる。たまに部屋からエッチな声がする」

 

 イヤホンくらいしようよ理亞さん……。

 

「まったく、食事も静かにさせてもらえないのかしら? せっかくのカレーが美味しくなくなるじゃない」

「毎度言っているでしょう! 換気扇くらい回せと!」

「嫌よ、カレーの匂いを楽しめない」

 

 そげなく言う朱音ちゃん。

 彼女は共同生活には向かないんじゃないか、と考えたものの。

 イヤホン無しでエロゲーをプレイする理亞さんもそれなりにどっこいどっこいなのではないかと。

 

 

 理亞さんがお説教をする間にも朱音ちゃんはカレーうどんを二杯も平らげた。

 まあ、何にせよたくさん食べるのは良いことだ。

 人の話を聞かないのはマイナスポイントだとしても。

 

「ふうん? 私たちの管理? ご苦労様。無駄だから帰って良いわよ」

「どうして?」

「あのねえ、私は統堂……知ってる? 統堂英玲奈。私はその英玲奈を遥かに超える才能の持ち主よ」

 

 理亞さんが言うには、歌以外は平均以下という話だったけど。

 真姫以上の自惚れ屋な彼女に対し、少々頭痛を覚えながらさらに会話を続ける。

 ちなみに、エヴァリーナちゃんも理亞さんも「そんなわけねえだろ!」みたいな表情をしていた。

 

「ちなみに、お姉さんが踊っている映像とかは?」

「10年前のスクールアイドルよ、今の私たちには何の魅力もないわ」

 

 ふむ。

 

「μ'sは?」

「あらあなた、μ'sを知ってるのね……英梨々さんって言ったかしら」

「絵里です」

「μ'sはね、レベルが違うの、特にエリーチカ……神々に愛されている少女」

 

 先程から私が、絢瀬絵里ではなくエリーチカと呼ばれている件について。

 

「エリーチカだけは今後何十年経っても色あせない、本物のアイドル、神よ!」

「映像とかはもちろん?」

「毎日見ているに決まっているじゃない」

 

 おかしいな、そのエリーチカっていう人10年経つとオーラのかけらもない?

 

 

 とはいえ、この状況でもしも正体がバレようものなら

 印籠を見た悪代官並の土下座を見てしまうに違いない。

 穂乃果も大学入学当初はLoveLive!優勝者であることを隠していなかったけど、

 アイドル好きの男子に担ぎ上げられた姿を見て女子から総スカンを喰らい、非常に居心地悪い思いをしたとか。

 少なくとも1ヶ月はここで暮らすのだから、無駄に神格化されたり、お姫様のような暮らしをするのは勘弁だ。

 

「ふむふむ、ということはここにいるみんなはスクールアイドル出身者?」

「うん? なんで私がそんなものに?」

「ちがーよー?」

「澤村さん、ここにいるスクールアイドル出身者は私と善子と朝日です」

 

 あれ?

 

「朱音ちゃんにエヴァリーナちゃんは……現役女子高生だよね?」

「もちろん。でもスクールアイドルなんてやってません。レベルが低すぎる」

「エヴァはねー、フレンドがいないよー?」

 

 エヴァは友だちが少ない。

 朱音ちゃんの方は……困ったように理亞さんに視線を向けると、こっち見んなって睨みつけられた。

 

「逆に質問しますが、澤村さんはどこの高校の出身ですか?」

「お……」 

 

 反射的に音ノ木坂学院と言ってしまいそうになり、困って理亞さんを見る。

 彼女は一瞬で何かを思いついたのか、含み笑いをしつつ

 

「有栖女子」

 

 それ、あなたの好きなブランドの名前じゃん……うまいこと言ったみたいなドヤ顔しているけど

 その高校絶対かわいい子だろうが人気ありそうな子でも平気で陵辱されてそうだけど。

 

「そ、そう! 有栖女子! ハニワがトレードマークなの!」

「ふうん? 変わった高校ね」

 

 亜里沙にすらちょっと天然と言われた朱音さんはそれ以上ツッコむことはなかった。

 

 

「おはようございますー」

 

 声のした方向を見ると、すごい小柄な女の子がいた。

 恐らく140センチにも満たない身長、くりくりっとした大きな瞳に栗色の髪。

 どう見ても小学校高学年にしか見えない彼女は、善子ちゃんには見えないから

 

「わ、プロデューサーが言ってた管理人の方ですか? うわー、こんな格好ですいません」

 

 私は栗原朝日です、と頭を下げるのを見てやっと普通の子が来た、と思った。

 いや、アイドルだから普通ではないっていうのは偏見だね、うん。 

 

「寝起きだから仕方ないわ、そうだ、朝日ちゃん、御飯食べる?」

「いや、冷蔵庫にはカレーの材料しか入ってませんよ? 私たち基本外食ですし」

 

 朱音ちゃんは何をしてくれているのか。

 これは亜里沙から貰った生活費を使って、まずは調味料なりなんなりを買ってこないと。

 

「それと理亞さん、部屋のドアが開いてて中が見え放題でしたよ、気をつけて」

「う、ちょっと急いでいたのよ」

「エヴァちゃん廊下に下着が落ちてたよ、気をつけてね」

「ごめんー」

「朱音ちゃん、カレー臭い」

「いい匂いでしょ」

 

 うん、極めて普通だ。

 常識人と言ってもいい、海未よりも言葉尻は優しいし。

 プロデュースとかするならこういう子がいいんだろうけど、理亞さんいわく、アイドルとしての実力はないとか。

 

 

「プロデューサーから聞いてますよ、澤村さんの話」

「なんだろう? あんまりよくない話かしら」

「家事万能で特に料理が上手、勉強も運動もできて踊って歌える、ハニワプロの秘蔵っ子だって」

 

 その評判盛られてませんか? ていうか、秘蔵っ子って……。

 

「理亞さんの作る料理は本当に美味しくなかったので期待してます」

「なによ! 食べるものがないって言うから作ってあげてるんでしょ!?」

「エヴァちゃんは包丁を握ったことがないし、朱音ちゃんはカレーしか作れないし、善子さんはもう、あれだし」

「あんたの女子力の低さに比べれば些細な問題でしょ!」

「エロゲーやってる人に言われたくありません」

 

 自覚しているのか、理亞さんは朝日ちゃんから目をそらしてテレビに現実逃避を始めた。

 でも、正直に言わせてもらえばスクールアイドルの料理できる率は高い。

 μ'sでは凛が致命的に下手だけど、ことりやにこの作るお菓子は絶品だし、海未の中華や希や花陽の和食、穂乃果の和菓子。

 真姫は案外洋食が得意だったけど、気が向いたときにしか作ってくれない。

 A-RISEを見てみればツバサを筆頭に英玲奈もあんじゅも家事は完璧である。

 

「あ、そうだ。朝日ちゃんもμ'sが好きなの?」

「好きですよ」

「お気に入りは?」

「もちろんエリーチカです」

 

 も、もちろんなのか……。

 

「今日も動画を見ながら、素晴らしい素晴らしいと思いました。私もこんなふうになれればいいと」

 

 そのエリーチカが目の前にいるというのに、朝日ちゃんもみんなも冷静すぎない?

 

「でも私は思うんです、実はエリーチカは男性なのではないかと」

 

 ん?

 

「白馬の王子様って、きっと、あんな感じですよね」

「澤村さん、こいつ気に入った人はみんな男性だと思う癖があるから気にしないで」

「失礼な、根拠はあるんですよ」

 

 

 根拠って?

 

「まず、一人だけ抜群にダンスが上手です。これは筋力がなければできません」

 

 それは私が昔バレエをやっていて、たまたまダンスに技術を導入することができたからで。

 それと、海未の前でみんなとA-RISEが素人にしか見えないと言ってしまった手前、

 できなきゃ馬鹿にされるかもというプレッシャーもあったし。

 そういえばあの発言、ツバサには知られてたな……オンラインゲームでミスすると

 その動きは素人にしか見えないってよくバカにされたし。誰経由で情報を得たのか。

 

「二つ目、髪型にこだわりがありません。ポニーテールのときもあれば、髪を下ろしている時もあります」

 

 基本的にμ'sの3年生は髪型なんてどうでもいいというタイプだった。

 というより、曲によってスタイルを変えるのは当然と言うにこのもとにいたから。

 1年生3人組はショートカットで髪型をどうこうする必要はなかったし。

 

「三つ目、これが一番重要なんですが、不自然にスタイルがよくありませんか?」

「ん?」

「私、ちんちくりんだから分かるんです、パッドをどれくらい入れてるかとか」

 

 夏色えがおで1,2,Jump!のPVを撮影した時、にこが大量のパッドを持ってきたことがある。

 当初は自分で使うつもりだったらしいけど、水着のサイズと合わなくて断念。

 結果、下はサイズが合うのに上のサイズが合わないと凹んでいた海未が使用した経緯があった。

 

「エリーチカは……ずばりパッドで胸を大きくしています!」

 

 その目は節穴だって叫びたかった。

 でも、このシェアハウスでわりと良識人の彼女に現実を見させるのはかわいそう。

 私は色々言いたいのを飲み込み、あえて彼女に同調した。

 理亞さんからは冷めた目で見られた。

 

 

 このシェアハウスに住んでいて、私が顔を見ていないのは残り一名。

 とは言っても、善子さんはAqoursにいるときに会っているし、ヨハネキャラは卒業したかもしれないけど

 まあ、どのみちそれほど変化はないだろうと思って余裕の態度でお茶を飲んでいると

 

「おはようございます」

 

 そこにはショートカットにして瓶底眼鏡をかけた海未がいた。

 いや、正確には海未よりも髪の色が濃いんだけど、なんていうかオーラが凄く真面目。

 もうすぐ午後になろう時間に起きてくるのはご愛嬌だけど、仕事でもあったのかもしれないし。

 そうそう、トレードマークだったシニヨンもない。

 

「あれ? 確かプロデューサーが言ってた新しい人って」

「つ、津島善子さんですよね?」

「ええ、津島ですけど、どこかでお会いしたこととかありましたっけ?」

 

 お会いしたことがあります。

 金髪と巨乳は魔界の住人の象徴と叫び、その邪気を祓うとにんにくを投げつけられたから。

 (なお、その後ダイヤちゃんと果南さんの手で大量のにんにくとともに海に放り込まれた)

 でもAqoursのメンバーには小原鞠莉っていう私によく似た子がいたはずなんだけどなー?

 

「あ、これを聞かないといけなかった、μ'sでの推しは誰ですか」

「ふふ、愚問ですね」

 

 あ、ちょっと中二病らしくなった。

 

「それはもちろん絢瀬絵里さんです、と言ってももう二度と私と会ってはくれないでしょうけど」

 

 目の前にいます。

 

「私は罪を犯しました、いかに憧れている女性の前だからといってハメを外しすぎました

 それは永遠に許されることはないでしょう……ああ! 私は世界一不幸……!」

 

 うん、人間根本的にはそんなに変わることはないよね。

 と言うか今更だけど、理亞さん以外の子たちは本当に私のファンなの?



※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。