三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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(※) 亜里沙ルート プロローグ 05

 

 

 

 冷蔵庫には本当にカレーの材料しか入っていなかったので、

 昼食の材料を買いに行く班と、家事などの担当を決める班に分けることにした。

 料理は致命的に下手だけどお菓子作りが趣味の理亞さんを中心にした昼食班。

 材料を買いに行かせればカレーの材料を買ってくる朱音さんを中心にしたシフト班。

 私はシフト班に所属し、成り行きを見守ることに決める。

 

 昼食を買いに行くメンバーは厳正なる審査の結果、理亞さん、エヴァリーナちゃん、朝日ちゃんに決定。

 比較的常識人の二人がいれば、エヴァちゃんが羽目をはずすことはないと思われる。

 シフトは社会人経験があって料理のセンスが致命的にない善子ちゃんを頼った。

 最初こそみんな平等に家のことを担当させようと思ったけど、管理人のつもりなら仕事してと言われたので

 大抵のことは私がやることになった。解せない。

 一人に仕事を押し付けたらシェアハウスの意味が無いのではないでしょうか皆様……。

 

 昼食では焼きそばを頼んだのにスパゲッティーを買ってくるという致命的なミスがあったものの

 比較的美味しくできたのではないかと思う。

 ――今度はきちんとメモを渡そう。

 キャベツと豚肉ともやしが入ったパスタを食べながら、私は会話を切り出した。

 

「ところでみんな、レッスンはしているの?」

 

 全員の一日のスケジュールを把握することはとても重要だ。

 仕事をさせようとして、その時間に空きがないと言われれば困ってしまうし

 なにより現役女子高生に二人には学校がある。

 せめてレッスンの時間だけは確保して理亞さん以外の四人の実力を上げなければ――そう考えてのことだった。

 

「私はしてる。というか昼にはハニワプロに行くし」

 

 五人の中では平均的に仕事があって、優等生な理亞さんの無難な回答。

 

「澤村さん」

「はい?」

「この統堂朱音にレッスンなんていう下賤なものが必要だと思いますか?」

 

 根拠はないけど自信は満々の劣等生、朱音ちゃんは斜め上の回答。

 ひとまずこの子は練習に参加させることからはじめないと、うん。

 

 

「エヴァはレッスンきらいー」

 

 比較的説得が簡単そうなエヴァちゃんの予想通りの回答。

 やる気にさせるのは難しいかもしれないけど、辛抱強く言えば練習には参加してくれそう。

 善子さん、朝日ちゃんの二人は自主練もレッスンもしているみたいで一安心。

 ただ、朝日ちゃんの場合は実力が伴ってないみたいだから、メニューを考えるのに苦労しそう。

 

「昼食をとったら少し休憩して、動きやすい服装に着替えてから四人は地下室に集合ね」

「澤村さんにそんな決定権はないかと」

「私もそのつもりだったんだけどね……」

 

 家事のシフト(と言うより自分の仕事量)を巡ってあーだこーだと思い悩んでいる時にインターホンが鳴らされた。

 その場は善子さんに任せて応対にあたる。

 ドアを開くとスーツできっちり決めた女性が立っていた。

 

「絵里さんですね」

「はい」

「私はこのシェアハウスに住んでいるアイドルを担当している南條と申します」

 

 なんか音の響き的に私に関わりがありそうな気がしたけど、恐らく気のせい。

 

「この度は、エトワールの管理をして頂きありがとうございます。これ、おみやげのマムシドリンクです」

「ありがとうございます」

「その、アイドルたちとは友好な関係は築いていけそうですか?」

「ええ……自分の正体に気づかれたら、貞操が危なそうな気配はありますが」

「それならば良かった。ここからは本題なのですが、絵里さんには理亞さん以外の四人のレッスンメニューを考えて頂きたく」

「レッスンってハニワプロで行うのではないんですか?」

 

 私がそう言うと、南條さんは難しい表情をする。

 

「最初はあの四人もハニワプロでのレッスンに参加していたんですが……」

 

 

 やる気も実力もあまりなかった朱音ちゃんが問題を起こしたのは早かったらしい。

 英玲奈という姉を間近で見ているせいか審美眼だけは無駄にあって、他のアイドルたちの動きに注文をつけまくった。

 最初こそ正当な忠告にウンウンと頷いていたアイドルたちも、

 指摘を自分でこなせないという致命的な欠点があった朱音ちゃんを疎ましく思うのは早かった。

 

 当初やる気はあったものの、自分の気に入ったレッスンにしか参加しないエヴァちゃん。

 善子さんはやる気も実力も兼ね揃えていたけど、年齢の関係か元からの性格か

 他のアイドルたちとのコミュニケーションに難があって(というか人気のあるルビィちゃんと仲がいいのを疎まれて)

 いつの間にかレッスンに参加する機会が減少していたみたい。

 朝日ちゃんはやる気はあったけど実力がなかった。

 ただ、上からの評判は良く、磨けば光る原石扱いをされていたのを疎ましく思われていつの間にか……。

 

「以前の三人組といい、大丈夫なんですかハニワプロ」

「それでも、売れればよかった。特にあり」

 

 あり?

 

「チカプロデューサーが担当すると100%売れるというジンクスがあって、誰もが彼女の目にかかりたかった」

「もしかして」

「ええ、チカPから目を掛けられたのは統堂さん、エヴァさん、津島さん、栗原さんの4人でした」

「その人は目が節穴なんじゃないですか」

「上の評価も概ねチカPと同じです、私もそうですが。あの4人は輝けば売れます」

 

 南條さんの言葉に嘘は無さそう。

 Aqoursで実績がある善子さんはともかく、他の3人を見てそう思うとかどんな観察眼なのか。

 まあ、私にはそういうセンスが無いだろうから、想像するしかできないけど。

 

 

「あの4人は恐らく、他のアイドルと同じレッスンをしていてはいけない。そう判断しました」

「でも私素人ですけど、アイドルとしてのレッスンメニューを考えるなんて」

「できます」

「自信たっぷりですね」

「7人で活動していたμ'sを私も見たことがありますから」

 

 ということは、私と希が加入する前。

 練習と称して色々厳しく当たったときのことを思い出し、私は苦笑いした。

 

「まさかアレをやれと」

「何をしたかまでは知りませんが、7人の時と9人のときとは明らかに差がありました」

「人数の違いだけでは?」

「いいえ、動きが違いますから今度その映像を渡しましょう、参考になるはずです」

 

 とりあえず、何故か私が高く買われていることはわかった。

 経緯まではわからないけど、その評価が下がることはできるだけ避けたい。

 それはもちろん自分のためというわけではなく、この仕事を紹介してくれた亜里沙に悪いから。

 

「そういえば南條さんは、μ'sの中では誰推しとかあります?」

 

 ここでエリーチカ推しです! とか濁った目で言われても困るので釘を差すつもりで言ったら。

 

「詩衣……じゃなかった、海未ちゃん推しです」

「よかった、みんなの推しに影響を与えたのは南條さんなんじゃないかと思って」

「まあ、間違いなく朝日さんはプロデューサーの影響だと思いますけどね」

 

 しかし、芸能界関係者のダイヤモンドプリンセスワークスの愛好者率高くない?

 

 

「まあ、あなた達の面倒は南條さんからよろしく言われているの、だからレッスンに限っては言うことを聞いて」

「ふん、見せて貰おうじゃないですか、へっぽこ管理人のレッスンとやらを」

 

 集合は2時。

 誰も来ないのではないかと心配になったけど、4人はちゃんとジャージで地下のレッスン場に集まってくれた。

 

「難しいことをしても仕方ないし、今日は軽めのメニューにしましょう」

 

 まずは準備体操から始める。

 基礎の前にも準備は必要、そう思っての発言だったけど4人はキョトンとして動かない。

 

「あれ、もしかして自主的に体操とかしてた?」

「いえ、思ったよりも普通で拍子抜けしました」

 

 朝日ちゃんが発言する。

 何をやらされると想像していたのか疑問にはなったけど、ツッコミを入れても仕方ない。

 

「じゃあ、私の動きに合わせてね」

「ふん、真似したくなるほどの動きだったらね」

 

 たかが準備体操、しかし準備体操。

 明らかに動きが硬い朱音ちゃんは今後に期待するとして、ほか3人は無難についてきた。

 それから柔軟体操をすると、善子さんと朝日ちゃんが悲鳴を上げる。

 体が固いのはダンスにおいて致命的な欠点になるので、二人には自主練に励んでもらおう。

 

「次は筋トレ」

「筋トレですか?」

「うん、難しいことはしないから安心して」

「いえ、筋トレなんてするんだなあと思って」

 

 善子さん以外はあまり経験がないのか、ほとんど私に付いてこれてなかった。

 これも基礎中の基礎だからできるようになってもらわないとな……。

 

 

「次はバランス感覚を鍛えましょうか」

「ちょっと待って澤村さん」

「どうしたの朱音ちゃん」

「ダンスとか発声とか……なんでしないの? もしかしてできないとか?」

「これからします」

「なら良いけど。こんな地味なことばっかしてていいわけ?」

 

 ああ、なるほど。

 

「昔の話で恐縮だけど、UTXでは1時間半くらいは基礎トレーニングだったそうよ」

「え、私UTX出身ですけどやったことないんですけど」

 

 朝日ちゃんの意外な告白。

 

「それは恐らく自主練の範疇だったのかもね」

「確かに、授業が終わってからみんなトレーニングルームでしてました」

「そう言われてみれば、英玲奈も基礎トレーニングばっかりしていたわ」

 

 その言葉を聞いてちょっとだけピンときた。

 何か足りないと思ってたけど、神田明神で練習していた時はみんなで階段を往復していた。

 身体の温まり加減が足りないなっていう感覚は恐らくそれだ。

 

「今度トレーニングする時は少し走りましょう」

「時代錯誤じゃない?」

「軽くよ軽く。5キロくらい」

「そ、それは軽くじゃないと思うんですが……」

「そうかしら? 階段40往復とかよりは楽よ?」

「……」

 

 善子さん以外はちょっと私と距離を取った気がする。 



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