三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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(※) 亜里沙ルート プロローグ 06

 

 

 

「さて、と。これからどうしましょうかねえ……」

 

 思い悩む。

 スクールアイドルと同じメニューをこなしても良いんだけど

 相手は多少落ちこぼれてしまっているとはいえプロのアイドルだ。

 とはいえ、準備体操と基礎だけでまいってそうな朱音ちゃんあたりに

 あとは任せたからエリチカ上でジュースでも飲んでるとか言えない。

 

「ノープランなら歌いましょうよ」

 

 ペットボトルの飲み物を、まるで100メートルダッシュしたあとみたいに飲む朱音ちゃんが提言。

 そういえば理亞ちゃんも、彼女の歌はかなりいいとか言っていたっけ。

 確かに実力を見るなら一人ひとりに歌ってもらうのも悪くないか。

 

「朱音ちゃん歌えるの? 童謡くらいしか歌えないんじゃない?」

「バカにしないで! 電波系からアニソンまで何でも歌えるわよ!」

 

 それは範囲が狭すぎるんじゃないかな……?

 なにはともあれ、一人ひとりに歌ってもらうことにする。

 朝日ちゃんやエヴァちゃんも基礎トレーニングよりはマシと割り切っているのか

 特に文句も出ずに終わる。

 

「じゃ、朱音ちゃん、曲は?」

「にこにーにこちゃんで」

 

 ……ん?

 

「それって、確か……」

「はい、UTXの芸能科で3年前に作られたμ's解散後の唯一の曲です」

 

 朝日ちゃんの補足説明によると。

 

 

 事あるたびにネタにされ続け、かつスルーされてきたにこにーにこちゃん。

 第二回ラブライブ予選の時も、にこは歌詞に曲をつけろなんて言っていた。

 卒業後はネタですら言ってなかったのでついに諦めたものだと思っていたんだけど……。

 

 にこにーにこちゃんの始まりは、にこが歌詞が書かれた紙を落としたことだった。

 なんで持ち歩いているんだと今度ツッコミを入れなくちゃいけないけど、それは置いておいて。

 UTXでは真面目な講師扱い(解せない)だったにこが、にこにーにこちゃんという超電波な歌詞を

 書いていたことで人気も高まり、同志で曲も作られ大ブームに。

 

「……その、何ていうか別の曲にしない?」

「私が一番パフォーマンスを発揮できるのがこの曲なのよ! 実力みたいんでしょ!?」

「ええ、まあ、なんていうか当人を思い出してしまって、集中できなさそうだから……」

 

 閑話休題。

 

「72(なに)言ってんのよ そんな大きさなんて 胸じゃ71(ない)!」

 

 ささやかなんていわないで それは見た目だけの話なのよ

 触ってみればすぐに分かる にこは本当は胸が大きいって

 でもでもいやいや     そう簡単には触らせてあげない

 宇宙ナンバーワンアイドルの 胸に触れるのは王子様だけ

 

 だいたい巨乳なんて脂肪の塊 動きが遅くなってしょうがない

 お腹につく脂肪が胸についているだけ価値がない

 ああーだめだめだめ~♪ そんな脂肪に惑わされないで!

 揺れて跳ねるその姿を目に焼き付けたりなんてしないで! 

 

 にこにーにこちゃん 宇宙ナンバーワンアイドル

 にこにーにこちゃん シンデレラバスト

 にこにーにこちゃん あなたはまな板の凄さを分かってないわー

 

 

 内容はともかく、歌声は素晴らしいものだった。

 このまま歌手としてデビューをしても、構わないんじゃないかっていうくらい

 ハリがあって、艷やかで、ノビのある歌声をしている。

 

「朱音ちゃんボイトレとかは?」

「したことない、カラオケでは歌うけどね」

 

 訓練もなしにこのレベルなら、本当、カラオケ大会とかで優勝も狙える。

 ただ、アイドルは歌が上手ければ売れるような甘い商売じゃない(らしい)

 このまま長所を伸ばすんなら、やりたいようにさせるのが一番なのかもしれないけど……。

 

 他のメンバーにも歌を歌ってもらう。

 エヴァちゃんはたどたどしい日本語だけど一生懸命歌っていた好感が持てる。

 ただ、がんばらねーばというところは別に詰まるところではないと思うんだけど……。

 朝日ちゃんは理亞ちゃんにちょっとレベルの低い扱いをされていたけど、歌声は至って普通。

 素人の中にいれば結構うまいレベルなんじゃないの? とか、スクールアイドルでは上の方って感じだった。

 善子ちゃんは元々スクールアイドルだけあって、朱音ちゃんには及ばないもののかなり上手だった

 ただ選曲が「ありふれた悲しみの果て」だったせいか、こう、正体がバレているのではないかと不安になった。

 

「さすがハニワプロ所属ね、みんな上手だわ」

「何言ってんの、あなたがまだでしょうが」

「……え? いやいやいや、私はアイドルじゃないし、管理人だしね?」

「澤村さんの歌声聞きたい子は手を上げてー!」

 

 はーい!

 ――味方は誰ひとりいなかった。

 

 

 正体が露見しても困るので、Shocking Partyをごく控えめな声量で歌う。

 よもやこの曲を歌ったことで私が絢瀬絵里だと思われることはないだろうけど

 じゃあ、これからは一緒にトレーニングをしてアイドルを目指しましょうなんて言われたら困る。

 ただこの曲は、カラオケに行くとツバサが踊りながら歌うものだから、つい振り付けも覚えてしまっていて

 身体が勝手に動いてしまうのである。明らかに選曲ミスだった。

 

 ――そのことに気づくのは、いつも遅い。

 

「や、やるじゃないの、まあ、私たちを指導するならそれくらいできないとね」

 

 顔を赤くしてそっぽ向いている朱音ちゃんは、なんていうか興奮している様子で。

 

「おー、ダンスもキレッキレ、素人には見えない!」

 

 のんびりとした口調で私のトラウマを刺激するエヴァちゃん。 

 

「本当、澤村さんって何者なんですか?」

「さあ? でもま、ついていっても良いんじゃない?」

「ですね」

 

 朝日ちゃんと善子ちゃんはかなり好意的に見てくれているみたい。

 ただ、私自身は焦りと不安でいっぱいだった。

 尊敬の念が上がったとはいえ、指導も素人なら、アイドルに関しての知識もない。

 私自身にあまりにも頼られてしまえばいつかボロが出る。

 これは、誰かに相談しなきゃな――そんなふうに思いながら今日のトレーニングを終えた。

 

 

 夕食もすんで(材料がなかったので店屋物)から

 では順番順番でお風呂に入りましょうということになった。

 新参者の私は最後でも構わないと言ったのだけど、

 

「ここは年功序列で!」

 

 と、善子さんが宣言したため一番最初に入ることになった。

 亜里沙と同居していた時は、彼女がオフの日以外自分が一番風呂だったので

 なんとなく得をした気分になる。

 ただ頭をよぎったのが、お風呂掃除をしているのかどうか。

 

 年長者の決定にも余裕で逆らいそうな朱音ちゃんでさえ、どうぞどうぞと言った感じで

 私をお風呂に勧めてきたのでちょっと心配ではあったんだけど。

 でもそれは杞憂だった。

 お湯は飲めそうなくらい綺麗だったし、浴室自体も掃除が行き届いていた。

 この掃除のスキルをなぜ料理に活かせないのかちょっと疑問ではあったけど

 綺麗なものに文句を言っても仕方ない。

 

 世間一般では浴槽に入ってから体を洗うみたいだけど、

 流石に汗をかいた身体で、今後みんながお風呂に入ると分かっていながら

 湯船に浸かるというのは心が引けた。

 洗面器をよく洗ってから、お湯を入れてボディソープを入れ泡立てる。

 本当はボディタオルを使っていつもは体を洗っていたけど、今日は忘れてしまったから。

 

「し、失礼します」

 

 その時、浴槽の扉が開いて冷気とともに入ってきたのは善子さんだった。

 

「あれ、どうしたの?」

「ご奉仕します」

 

 言い方がちょっとアレだけど、これは距離を詰めるチャンスではないか。

 μ'sではよく裸の付き合いというものがあったし、

 これを積極的に取り入れればみんなともっと仲良くなれる――かもしれないし。

 

 

 

 

 善子さんはおずおずと浴室に入ったまま、一時停止。

 怪訝に思いながら彼女の視線を追ってみると、胸元に降り注いでいることに気づいた。

 

「えーっと……」

「はっ! ごめんなさい! ここ、陰で貧乳荘って呼ばれてるくらいスタイルがアレな子が多くて」

 

 カツ丼と天丼をそれぞれ一人前食べていたエヴァちゃんや、カツカレーライスの大盛りを食べていた

 朱音ちゃんも沢山食べる割にはスタイルは控えめ、理亞さんも胸は大きい方じゃないし……

 

「あれ、でも公称スリーサイズは……」

「理亞は5センチサバ読んでます」

 

 それは大きい。

 スタイル的には凛とそんなに変わらない彼女を思い出し、ちょっと笑う。

 

「では、今日はどのコースにしますか、洗体ですか」

「普通に洗ってくれれば……」

「では天使のご奉仕、ココアの香りを添えてで参ります」

 

 なにその、どこぞの料理にありそうなコース。 

 

「それで、善子さん、なにか言いたいことでもあってきたの?」 

「澤村さんはニュータイプですか、あ、乳タイプですか?」

「うん、その言い間違い違いがよくわからない、でもね、何となく分かるのよ、年の功かしらね」

 

 今日会ったばかり(実際にはそうではないけど)の女の子に背中を流してもらう。

 そういえばこんな展開、ダイヤモンドプリンセスワークスにあったような……。

 あれは確か、真姫とのシーンに花陽と凛が乱入してきてそのまま――。

 

 

「澤村さん、元々アイドルかなにかしてました?」

「スクールアイドルを少々」

「やっぱり! 動きを見て只者じゃないと思った!」

 

 前の方も洗いたいと如実に主張をする善子さんのリクエストは聞かなかった。

 彼女の持ってきたボディタオルで体を洗いながら、更に続きを促す。

 

「でも、基礎的な動きは子供の時にやってたバレエの影響が」

「あー、筋トレとかもすごくできてましたしね、普段からトレーニングしてるんですか」

「身体を動かすのはわりと好きみたい、こう、昔は動かないでいることが多かったから、何分かに一度柔軟とか」

「私も元々、スクールアイドルで」

 

 知ってます。

 でも、その事を言うのは憚られた。

 明らかに話題がシリアスな方向に流れつつあったから。

 

「結構良いところまで行ったんですけど、まあ、学校も廃校が決まって、

 そこからアイドルのこと結構勉強して、μ'sってすごかったんだなーって思いながら 

 卒業をして、就職をしました。同級生のルビィやマルは進学して

 彼女たちを結構羨ましく思ったりして、でも、就職先は結構ホワイトでしたから

 仕事にやりがいを感じながらも、ちょっと寂しい気持ちもありまして

 20歳になって成人式に行ったら、ルビィが大学を中退してアイドルやり始めたのを知りました

 結構実家から怒られて、縁を切られる寸前まで行ったそうですけど……それでもやりたいって

 私はその時、自分が本当にやりたいものってなんだろうって考えました

 仕事もいいけど、夢を追いかけてるルビィが羨ましくなって

 で、迷惑をかけつつ、一緒に練習とかして――でも踏ん切りがつくまで2年かかりました」

 

 浦の星は廃校になってしまったんだな……

 それにしてものほほんとしているルビィちゃんだけど、そんな過去があったとは。

 

「花丸さんは?」

「マルも一緒に練習してましたけど、アイドルじゃなくて誰かを支える仕事がしたいって

 ……ん? どうしてマルが花丸って名前だって?」

「案外あなた達有名人なのよ、Aqoursのメンバーの名前は諳んじられるわ」

 

 善子さんは本当に驚いたような顔をした。

 



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