アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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亜里沙ルート プロローグ 03

「まあ、理亞さんの想いはどうあれ、もう私には行くあても戻るあてもないから」

「ふん」

「ルームシェアしている子達の情報を教えて欲しいの」

「……教えるのは、条件がある」

 

 少し感情がお互いに高ぶってしまい、

 咳払いをして周囲のざわめく声をスルーし、

 少しばかりシリアスに軌道修正。

 ちょっとばかし気合を入れて真面目な表情をして、

 理亞さんのことをじっと見てたら、

 ぷいっと視線をそらされスネを蹴り飛ばされた。

 こう、なぜ、

 悶絶するほど痛い場所を的確に蹴り飛ばせられるのか。

 

「ツインテールにして」

「……あのね、私の名字の澤村は亜里沙が1秒で考えた偽名で」

「しないんだったら正体をバラす」

「言っておくけど、可愛くないし、似合わないからね?」

 

 どうしようもないお願いごとではあったけど、

 いちおう名目上これからアイドルの子に会いに行くのは

 絢瀬絵里ではなく澤村絵里であるので、

 あまりにμ'sに所属している方の外見していると、

 もしかしたら都合が悪いのかもしれない。

 ああでもないこうでもないとバランスを整えつつ、

 どう考えても、お遊戯会で気合を入れた挙げ句

 失敗した幼稚園児レベルのツインテールに、

 とても哀れな代物を見るような目をした理亞さんが、

 

「下手ね」

「やったことないのよ!」

「まあ、それならあなたの正体に気づく人もいないでしょ」

 

 理亞さんの言葉通り下手なんだけども、

 眼の前にいる彼女は悠然と自身の二つの房を掴み、

 上手でしょうエヘヘみたいな顔をしながら見下してくるので、

 はいはいワロスワロスと口に出したら「うぜえ!」っていわれてスネを蹴り飛ばされた。 

 

「じゃあ、一人目のアイドルから言うわ」

「うん、メモするわね」

「別にしなくても良い、賢いつもりなら覚えて」

 

 挑戦的な視線を向けられ、

 「えー」みたいな顔をしてスルーすると、

 またしてもスネを蹴り飛ばされる。

 そろそろ泣き所を保護するシールドかなんか欲しい、

 もしくは切り払い機能、踏み込みが足りない。

 

「一人目は統堂朱音(とうどう あかね)あの統堂英玲奈の妹よ」

「そういえば、年の離れた妹がいるって言ってたわね?」

「とは言っても全然似ていないわ、クールな姉に対して天然バカの妹って感じね」

 

 理亞さんがスマホに映った写真を見せてくれたけど、

 どう考えても盗撮っぽい。

 弱みか何かを握るために油断しているところを写したみたいで、

 かなり気の抜けた――例えるなら動物園のチンパンジークラスの油断しきったところを撮っている。

 私のこういう変顔写真はないのって問いかけたら、

 あなたのはこういう部分しかないと答えられ苦笑をするほかなかった。

 

「天然だけど、プライドは高いわ。姉と比べられるのが嫌い。アイドルとしての能力は、歌以外は微妙」

「ダンスやトークも駄目なの?」

「姉の足元にも及ばないわ、それに気づいていないあたりバカね」

 

 ただ、歌だけは抜群に上手らしく、

 なんで歌唱力だけ才能を賜ったのか不思議でならないと、

 理亞さんは首をかしげる。

 どれくらい上手なのかと問いかけたら、

 私のことを指さして、え、私と同じくらい? って思ったら、

 あなたの50倍は上手とどれくらいなのかわからない表現で例えられたので首を傾げるしかなかった。

 

「二人目はエヴァリーナ……なんだっけ? 芸名だっていうのは知ってるんだけど」

「どこの子なの?」

「イタリアだったかしら? 3歳の頃に日本に来て10歳で事務所に入った……というデータにはなってる」

「……データにはなってる?」

「なんかね、常にアップデートを繰り返しているパソコンみたいにプロフィールが安定しないのよ」

 

 その動作不良を思わず疑ってしまうような、

 周りから浮いているかのような表現っぷり。

 理亞さんともそれほどしゃべらないと言うし、

 ほかのメンバーと交流している姿を見るのが稀という話なので、共同生活のスキルが心配になった。

 理亞さんの盗撮写真を見るかぎり妖精さんみたいに可愛い、

 美しい芸術品をそのままリアルにしました! と言わんばかりの造形美にその存在を疑ってしまいそうになったけれども、

 なぜかカメラの動きを察しながらも気を抜いていると言わんばかりに、目線を理亞さんの方に寄せつつも脱力している。

 大物なのか、単にマイペースであるのか。 

 

 

「三人目は津島善子」

「……ん? それって、Aqoursの」

「そうよ。高卒で銀行員として働いていた変わり種。デビューして間もないけど才能は一番ね」

 

 高校時代には中二病キャラ――キャラというか、堕天使ヨハネとして私自身とも交流がある。

 私のファンと言うより、目の敵にされていた記憶しかないけれども、何かしら改めることがあったのか、それとも単に彼女がツンデレであっただけなのかはわからないけれども、

 どういう経緯で銀行員という堅物な職業に就いたかは後で問いかけるとして、アイドルとしての力量を問いかけてみる。

 

「スクールアイドル出身だけあって基礎はできてる、センスも良い。でも経験が足りないわ」

 

 ばっさり。

 明らかに自分よりも下だと言わんばかりだけども、

 理亞さんは腐ってもアイドルとして数年ご飯を食べているわけで、デビューしたての善子ちゃんには負けないというプライドもあるのかもしれない。

 彼女の顔はなんとなく把握しているので、盗撮画像の披露は控えて貰った。

 

「四人目は栗原朝日」

「ふむふむ」

「アイドルとしての能力はなんにもないけど、コミュ力とカリスマ性があるわね」

「……ハニワプロってさ、経営とか危うくないの?」

「色んな人間がいて……良いと思います……」

 

 アイドルとしての能力がないという、

 何故そんな人間をスカウトをしたのか疑わしいけれども、

 いちおうチラホラとオーディションは通過していたりもするし、仕事もあるみたい。

 カリスマ性という表現に私の使えない頭に思い浮かんだのは、ギレン・ザビなんだけども、立てよ国民とかジークジオンとか言って大衆を扇動したりしないよね?

 

「もしもこの世界がエロゲーだったら一人くらい男が混じってるわね」

「共同生活しているなら気づきなさいよ」

「案外顔を合わせたりしないからわからないものよ? あんまりお互いを干渉しないし」

 

 理亞さんが自身の引きこもり経歴を棚に上げつつ、

 自分と仲良くなれないのは相手が悪いみたいな理論で、

 交流の少なさを説明してくれたけど。

 どう考えても仕事がない日はほぼ部屋に引きこもっている理亞さんが悪いのであって、

 周りのメンバーがコミュ障であるという批評は当てはまらないような気もする。

 

 

「色々と考えなければいけないことは多いと思うけれど、そうね、まずは」

「まずは?」

「ゴミ当番、料理当番、掃除当番……共同生活の基本から学ばせないと」

「も、もしかして理亞さん……」

「新作が出てハマってる時以外は私がやっているわ、ま、そこら辺は任せる」

 

 共同生活をしていることが極めて疑わしいと判断してしまうほど、

 家事や様々な生活スタイルのレベルの低さを切々と説明を受けてしまった気もするけれども、

 ただだからといって今更出来ませんとか言って投げ出すわけには行かないのである。

 管理人というより、体のいいパシリみたいな扱いをされないことを願いつつ、ひとまず代金は私が払った。

 

 

 理亞さんと移動しながら、

 そういえば誰かと目的の場所にひたすら歩くなんて久しぶりだな、なんてことを考えた。

 それが亜里沙やμ'sのメンバーと言った、今まで付き合いのある面々とは違うというのは、これからの新生活において新たなる問題の火種になるのか、案外うまくいくこれからの展望になりうるのかまではわからない。

 ただ春の陽射しは極めて明るく、気が向いたときにしか外出しない私も、基本仕事以外では引きこもっている理亞さんにもひたすら眩しいものとして映った。

 これからの職場にもなるエトワールは、見た目から芸能事務所が所有する建物のようには見えない。

 中に私を含めて6人もの女性が済むというにはちょっと手狭のような気もするし、ゴミ集積場まで距離があると考えると、使いっ走りの絢瀬絵里としては、もうちょっと誰か手伝ってくれる人いないかな、ちらっちらっと眺めてみたら、うわっみたいな顔をしてスルーされたので私はさめざめと心の中で泣いた。

 

「見た目ではわからないと思うけど、中はあまり綺麗じゃないわね」

 

 建物を見上げながら理亞さんがそんな感想を残す。

 外観ではそんなことはまったく分からないので、施設自体が古いのかと問いかけてみると。

 

「みんな基本ガサツで身の回りの整理ができないだけよ、

 澤村さんの部屋も元々物置にしていて、掃除するのが大変だった」

 

 建物の中に入って、最初から歓迎でもされたらどうしようかと思いそわそわしていたけど、誰ひとりこれから来る管理人に対して、顔を見せるどころか挨拶すらない。

 もしかして嫌われているのかと悲しい思いを抱くと、なんだか鼻孔をくすぐるとてもいい香りが届いた。

 

「……あいつ!」

 

 しかし、いい匂いだなあーあははんと思ったのは私だけだったようで、理亞さんは鼻息と足音も荒く、私そっちのけにして奥に進んでいってしまったので、残された私の方といえば、ぼけーっとその場にいてみると、気配がしたのでそちらの方を見る。

 すると、そこには非現実めいた美貌の、思わず、え、二次元の世界にでも迷い込んだ? と勘違いしてしまいそうなほど、これほどの美少女と比べると、もはや絢瀬絵里がアライグマとかタヌキレベルの容姿しか持ってないと評されても仕方ない。

 二足歩行をこなすサルといわれても納得してしまいそう。

 銀色の髪は長く、彼女が絹のようであるのなら、私の紙は糸くず、白い肌が陶磁のようであるなら、私はメッキ。

 ――少し、自虐が激しさを増してしまったけれども、自分と比べると彼女の容姿端麗さが著しい。

 しかしながらボーッとこちらを眺めたまま微動だりしないので、生きているのかどうかを確かめるために手を振ってみると、彼女も手をふりかえしてくれた。

 どうやら理亞さんお手製のラブドールではないらしい。

 

「こんにちは!」

「コニチワ」

 

 上階に向けて呼びかけてみると、キャラ作りが激しいであるような外国人キャラみたいであったので首を傾げながら、妹の海未の前ではたまに日本語がわからなくなることもあるから、そういうこともあると思い直し、ひとまず交流を深めることにした。

 

 


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