三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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(※) 亜里沙ルート 第一話 01

 レッスンが終わったと同時に、

 床に倒れ伏し、ひとっつも動かなくなった朱音ちゃん(6日連続6回目)

 そんな彼女のほっぺたをエヴァちゃんと二人で突っつきながら

 私はここ最近のハードなメニューを振り返っていた。

 

 なんと起床は朝の五時。

 それからご飯も食べずに柔軟から基礎練習。

 口々では、地獄なんて! と南條さんを笑っていた

 私たちの鼻っ面を見事にへし折ってくれた。

 なお、ここ数日のレッスンで中国雑技団にも出れそうなレベルで

 私は柔軟ができるようになり、他のメンバーから失笑された。

 

 ハードなトレーニングで朝食もロクに食べられないメンバーが揃う中

 そのころになってようやく起床してくる他参加者に

 やつれたねと苦笑いされるケースも増えた。

 消耗が激しかった朱音ちゃんのために

 一回カレーが出たことがあったんだけど、

 目の前にあったスプーンを持とうとして落とすことを繰り返し、

 食事場は一瞬でお通夜の空気になった。

 なお、英玲奈はその際、口移しでも食べるかと言ってツバサやあんじゅに止められてた。

 

 

 メニューは軽いのに重い朝食が終わると、レッスンが本番になる。

 トレーナーだの、振付師だの、そういう肩書のひとが

 入れ代わり立ち代わり、現れるは現れる。

 いやあ、こんな人に教えてもらえるなんて嬉しいなーって言っていたみんなも一日すると、

 振り付けとかの前に顔を覚えなきゃいけない状況に文句が出た。

 

 一日中踊ったりなんだり、

 以前流行した、太った人がダイエットする番組を彷彿とさせるレッスン量に

 よもや体重が数キロも落ちてやしないかと思って体重計を探したら

 前日に同じことを考えついたらしいツバサが、曇った笑顔で

 

「エリー、女の子が痩せる時は胸から痩せるそうよ」

 

 などと言いつつ、私の脇を通り過ぎていった。

 哀愁が漂う背中だった。

 

 紆余曲折があったものの、

 アイドルとして活動ができるかもしれないと喜んでいるメンバーを差し置いて、

 私の立場はひたすらに微妙だった。

 

 自分が絢瀬絵里だということはおくびにも知られてはならないし。

 アイドル活動を喜んでいるというわけでもない。

 寮の管理をする仕事だったはずだよな? などと疑問に思えば

 今やっていることがそれの延長線上にあるのかどうか考えたら闇に落ちそう。

 

 私の人生、

 割と巻き込まれるままに時間が流れてしまうことが多いけど、

 今回の件は人生最大級の巻き込まれっぷりである。

 なぜニートだった私がいつまにかにアイドルに混じってレッスンを受けているのかとか

 1日15時間も踊り続けているのかとか、

 センターは澤村さんに決定ね! っていうみんなの笑顔に苦笑しながら

 まあ、そういうのも悪くないかもしれないな、って思い始めた自分とか

 ほんとう、疑問に尽きないことは多いんだけど……。

 

 

 あと、μ'sのメンバーにLINEを送ると返信が来なくて怖い。

 これからちょっと忙しくなるからっていう穂乃果とか海未とかのLINEを最後に

 どんなに送っても既読にすらならない。

 もしかして私は浦島エリちになったのかと思ったけど、

 その事を理亞さんに言ったら遠い目をしながら、

 友情って簡単に瓦礫のように崩れるのよね、そうそう姉さまとも連絡が取れなくて

 って言って、姉妹間の仲が心配になった。

 

 A-RISE復活ライブまで後2週間になった日、

 そういえば自分たちのグループ名とかどうなるんだろ?

 なんてことが頭をよぎったので、たまたまいたキグルミのプロデューサーに

 その事を言ってみると、中に入っている人が強烈に慌て始めたことが分かるほど

 バタバタと動き出してどこかに行ってしまったので、

 ちょっと相談する相手を間違えたな、って思いながらレッスンに取り組んだ。

 

 その後、レッスン終了後真っ白に燃え尽きたジョーみたいになった朱音ちゃんを

 温泉まで連れていき、身体や髪の毛を洗ってあげている最中、

 南條さんに手招きされたので、行ってみることにする。

 

「どうしました?」

「レッスンでお疲れのところ申し訳ないんですが、相談したいことがありまして」

「相談? 南條さんが私にですか?」

「え、グループ名のことについて、ぜひ絵里さんの意見を聞きたいと思いまして」

 

 忘れてた。

 そういえば朝に、そんな事が頭によぎったなと思ったけど。

 そんなことをおくびにも出さず、ようやく気づきましたかって言わんばかりの態度を取る。

 なお、南條さんの視線の温度が2度ほど下がったので、私は平身低頭スタイルを取った。

 

 

 お風呂上がりになんとも暑そうなキグルミPを眺めながら、

 彼(もしくは彼女)はいつ脱いでいるんだろうと疑問に思ったけど、

 そういえば、私らが着替えてたり、無防備なだらけモードでも平気でその場にいるから

 仮に男性だったらちょっとしたスキャンダルだなって思った。

 

「グループ名だけじゃない、掛け声も決めないと」

「そうですね、ツバサさん」

 

 今この場にいるのは、私とツバサと南條さんとキグルミさん。

 他のメンバーは参加させないのかと聞いたところ、

 そんな事はいいから寝かせて欲しいと懇願されたとか、

 割とグループ名って重要だと思うんだけども……まあ、朱音ちゃんを参加させようものなら

 シスコンお姉さんがついてくるので、そのあたりの判断は正しかったかもしれない。

 

 なお、統堂姉妹の仲の良さを見て、理亞さんは最近ホームシックにかかった。

 

「ええと、プロデューサーからいくつか候補をいただきました

 ただ、グループのコンセプト上、やはり代表の絵里さんに決めてもらうべきかなと」

 

 なぜ私が代表なのかとツッコミを入れたかったけど

 いつの間にか、全員集合しているのにセンターで踊らされているのを見ても誰もツッコまないので

 まあ、そういうのもありかなって思いつつ。

 

「エリー、自分のグループなのだから素敵な名前を頼むわね」

「と言われてもねえ……はっきり言うけど、私命名センスとか無いわよ?」

 

 私がそう言うと、キグルミのプロデューサーが全力で首(だと思う)を振る。

 まるで、私の命名センスが素晴らしいと言わんばかりだけど、

 南條さんが微妙に慌てて、彼女(だと思うことにした)を止めていた。

 

 

「うーん、現役女子高生もいれば、アラサーニートもいるわけでしょ?

 だからなんとなく、ごちゃまぜとか、ていうか、このグループのコンセプトって?」

「ええと、はじまりとか、理想とか、希望とか、そういうのね」

「……私たちのどこにそのコンセプトがあるのかはわからないけど?」

「まあ、世の中のグループでコンセプト通りに行くなんてことはありえないから良いのよ」

 

 うーん、にしたって。

 メンバーに特別共通点があるわけでもなし。

 あるとすれば……なにか挫折しているとか、落ちこぼれ扱いとか、

 そうだなあ……。

 

「そう、考えてみると、私たちって再出発組だと思うの」

「再出発? そもそもエリーって再出発してるの?」

 

 ツバサがぐさっと刺さるようなことを言う。

 だけど負けない、エリーチカは女の子だから!

 

「だからねリスタートとか、そういう言葉を使いたいかもね」

 

 私の言葉を聞いたキグルミの人が、身体をびくんと揺らし何事かをスケッチブックに書き込んでいる。

 

【Re Stars】

 

 ――スケッチブックに書き込まれた言葉。

 

「これって、グループ名?」

「おー、言葉の意味はよくわからないがいい感じかも」

「そうですね、では読み方を一捻りしましょうか」

 

 みんなであれやこれやを考えた末、

 私たちのグループ名は【Re Stars -リスタ-】と決まった。



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