アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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(※) 亜里沙ルート 第一話 03

 どこに行ったか検討もつかなかったけど、

 働いていた仲居さんに、やたらめったら偉そうな態度をとったやつが

 どっかに行かなかったかと聞いたところ、3人目の人が亜里沙の場所を知っていた。

 

 

 いや、まあ、本当に偉そうに歩いているかどうかは分からないけど

 チーフプロデューサーというからには偉いんだろう、そういうところはわきまえている。

 立場が人を作ると言いますが、ニートという立場はいったい人間をどうするんですかね?

 なんて嘯いた亜里沙だから、人からどう見られて、どういう態度を取ればいいか、ちゃんとわかっているはず。

 

 離れにある結構大きな部屋の前で

 南條さんが苦笑いしながら私のことを待っていた。

 もうちょっと早く来れなかったんですかとは彼女の談だけど、

 それなら色のついた米でも撒いていてほしかった。 

 

「まあ、ちょっと昔話をしましょう」

「いや、私は、亜里沙と会話がしたくて」

「心の整理がつかないまま話した所で、良い結果は得られませんよ

 こういう時は年長の人間のすすめに従うものです」

 

 と言われてしまえば、年下の人間としては頷かざるを得ない。

 お互いに正対して椅子に腰掛け、南條さんが口を開くのを待った。

 

「亜里沙さんがうちのバイトだったのは知ってますね?」

「えーっと、どこで働いているのかまでは知りませんでしたけど、まあ、バイトをしていたのは知ってます」

「当時、私もプロデューサーなんて立場ではなく、一介の事務員でした」

 

 絢瀬亜里沙が高校入学した日。

 親友である雪穂ちゃんにアルバイトの面接に行くと告げ、

 電車に乗ってハニワプロに駆け込んだ亜里沙は――

 

「思えば、なぜウチだったんですかね?」

「もう10年も前ですけど、たぶん、そこしか知らなかったんだと思いますよ」

 

 アポもない、

 コネもない、

 ついでに言えば時間もない。

 そしてそもそもバイトの募集もしていない。

 そんなハニワプロに現れた亜里沙は、ここで働かせてください!

 と、どこかのジブリ映画の主人公みたいな台詞を吐き、平身低頭スタイルを取った。

 困った警備員のオジサンが、たまたまいた赤羽根プロデューサーに声をかけ、

 最初は芸能人になるつもりで来たのかと思った彼に案内されるまま、

 当時、本当にスカウトされて事務所にやってきていた月島歩夢-つきしま ぽえむ-と

 事務所で待つことになった。

 

「その時にお茶を出したんですが、いやあ、ほんとう、縁っていうのは怖いですね」

「お恥ずかしい限りです」

 

 歩夢が亜里沙を見た瞬間、あまりの可愛さに田舎に帰ろうかと思った。

 なんてエピソードがあるらしいけど、それは置いておいて。

 怖いもの知らずだった亜里沙に対し、こんな人が同期になったら自分が霞む!

 と思った歩夢は何とかして帰ってもらおうと、自分が知っている芸能人の怖い情報を亜里沙に告げる。

 そもそもハニワプロをスクールアイドルが集う事務所だと勘違いしていた亜里沙は、

 キョトンとした表情のまま、歩夢のする話を聞き入っていった。

 なお、その時の話の九割は彼女の妄想で、聞いていた南條さんは絶対にコイツは売れないなって思ったらしい。

 

「私もμ'sのことは知っていて、推しはあなただったんですよ?」

「いや、あの、恐縮です……」

 

 

 やがて、赤羽根プロデューサーと現れたのは、当時社長職を引退して、会社にも時折遊びに来ていたという徳丸氏。

 元は超ベテラン俳優だった彼を連れてきたのは何故かって言うと、

 

「赤羽根Pはああ見えて、努力とか根性とか運命とか大好きですからね」

「どの要素も当時の亜里沙が持ち合わせていたとは……」

 

 いやまあ、可愛い子を見せたら徳丸社長も機嫌も良くなって帰るかと思った

 とは、後日の赤羽根プロデューサーの談だけど。

 とにかく、月島歩夢も、もちろん絢瀬亜里沙も期待なんかされちゃいなかった。

 しかし、

 

「亜里沙さんは、元社長に説明したんですよね」

「……何をでしょう」

「絢瀬絵里の素晴らしさをです」

 

 当時、A-RISEというスーパールーキーを他の事務所に取られ、

 アイドルとか女優とかが引き抜かれてしまい、すっかり斜陽事務所になっていたハニワプロは

 一人くらいμ'sのメンバーが入ってくれないかなとか考えていたとか。

 後々、タレントになって大活躍することになる星空凛や、声優になって多くの作品に主演を果たすことになる西木野真姫といったメンバーはまだ高校生だったし、

 高校卒業と同時にアイドルの道に進むことになる矢澤にこは、別の事務所でデビューが決まってた。

 

「それはもう、すごい勢いでした。絢瀬絵里自体は私も知ってましたし、

 それなりに知識もあるかなって思ってたんですが

 いや、ほんとう、愛されるって素晴らしいですね」

「あの、勘違いしないでほしいんですが、亜里沙は海未推しで」

 

 東條希は神田明神でトイレットペーパー占いとかいう意味のわからない占いにハマり、

 私は普通に大学生になって芸能活動なんて微塵も興味がなかったので、

 よもや亜里沙が芸能事務所で自分の自慢話をひたすら繰り返していることなどつゆも知らず。

 アルバイトの件に関しても、ちょっと移動に時間がかかる場所にあるくらいしか知らなかった。

 

 

 絢瀬亜里沙の姉に関する自慢話を約二時間聞いた徳丸社長は、

 その場で彼女の採用を決め、その勢いで月島歩夢も採用してしまった。

 後にその二名がハニワプロの業績をV字回復させることなど、

 当時の徳丸社長が考えていたかどうかは定かではない。

 何でも三年ほど前、その社長は病気で亡くなってしまったそうだから。

 

「私はと言えば、ようやく後輩もできて、これでお茶くみから解放されると思いました」

「あー」

 

 事務員として採用された亜里沙は、最初こそ殊勝な態度で仕事をこなしていたものの

 いつの間にか、雑務よりアイドルと交流しているケースが増え

 マネージャーやプロデューサーと言った自分の上司を無視し、

 面白がった元社長の後ろ盾を得て、まずは一番仲が良かった月島歩夢のプロデュースに乗り出した。

 なんでも、当時駆け出しアイドルだったA-RISEの綺羅ツバサが、

 オーディションにやたらハイテンションにやってくる二人組を見て、

 芸能界っていうのは本当に怖いところだと思ったらしい。

 ハラショーハラショー言いながら、オーディションに落ちても落ちてもへこたれない二人に

 二ヶ月後、一つの仕事がやってくる。

 

 出番にして五秒ほど。

 とある映画のワンシーンに出演することになった歩夢は、

 どうせだから、他の出演俳優の台詞も覚えてしまおうとかいう亜里沙のアドバイスの元

 台詞の九割を諳んじることができる状態で仕事に臨んだ。

 

 収録までの待機時間にわりと暇だったらしい亜里沙たちは、

 他の俳優の台詞を諳んじるゲームをして盛り上がったとか、

 頭のおかしなことをやっている二人組がいると箱部屋で噂になり、

 その噂を聞いたとあるベテラン切られ役俳優の人が監督に

 なんか面白い若手のアイドルがいるらしいよ? みたいに告げたことがきっかけで

 なんと月島歩夢は、知名度もない状態で映画の主演に抜擢される。

 

「異常です、ありえない、スポンサーにも、知られてもいないアイドルなんて使うなと言われました」

「まあ、なんていうか、すみません」

「ただまあ、そんなスポンサーを黙らせる手段がなかったので……」

 

 

 絢瀬亜里沙はプロデュースしていた月島歩夢ではなく、

 なんと、私の自慢話をスポンサーに告げる。

 芸能人ですらない元スクールアイドルの話をひたすら聞かされたスポンサーの中で

 クリハラという総合商社が、この二人はオモシロイと思ったとか。

 

「……栗原?」

「ええ、朝日さんの親御さんが社長を務める会社です」

「いや、なんか別の人の顔が頭をよぎったような……?」

 

 リーダー格の企業が賛同してしまったので、別の会社もなし崩しに歩夢の出演を認め

 もう怖いものはないので、演技に集中となった際、一つ問題が起こった。

 子どもの頃から演劇に親しんでいた歩夢も、あくまでもちょっと上手なアマチュアレベルだった。

 クランクインまで時間があったので、演技の練習をしなければとなった際、

 声をかけてくれたのは、ヒナプロジェクトという同人サークルだった。

 

「同人て」

「いや、捨てたもんじゃないですよ? なにせ、ダイヤモンドプリンセスワークスを作ったところですからね」

「あー」

 

 μ'sのメンバーをモデルにしたキャラデザで、後に一世を風靡することになる

 ダイヤモンドプリンセスワークスというゲームを作ったのは、

 なんと、朝日ちゃんのお姉さんらしい。

 絵とシナリオを担当していた陽向さんは、声を当ててくれる人と歌を歌ってくれる人に困っていた。

 当時は18禁ではなかったダイワーは、

 絢瀬絵里と園田海未をモデルにした二人のヒロインしかおらず、

 陽向さん自身も、100本売れれば御の字だと思ってたとか。

 

 

 私は知らなかった話だけど、

 なんでもその陽向さんと亜里沙は元からめちゃくちゃ仲が良かったらしく、

 何故仲が良かったのか聞いても、南條さんは苦笑いして教えてくれなかった。

 

 とにかく、私の声を亜里沙が、海未の声を歩夢が担当。

 歌は亜里沙と歩夢のデュエットで収録し、万全の体制でマスターアップ。

 陽向さんはダメ押しとばかりに、交流があったらしい綺羅ツバサを売り子として呼んだ。

 なんでか知らないけど、この二人もめちゃくちゃ仲が良いらしい。

 栗原陽向という人物がどういう経緯で綺羅ツバサと絢瀬亜里沙の二人と仲がいいのか聞いても

 南條さんは苦笑するばかりでなんにも教えてくれなかった。

 

 とにかくまあ、そんな経緯もあって演技力の向上に励んだ歩夢が

 努力の人として、出演した作品の監督に気に入られ、

 後に多くのドラマや歌番組に引っ張りだこになるまでそう時間はかからなかったらしい。

 

「亜里沙さんは、まあ、とにかく、プロデュースしたアイドルと自分も一緒にやるってタイプで」

「そういえば、理亞さんは亜里沙のプロデュースを受けてるんですよね?」

「ええ、ほんとう、苦労しました」

「……? 理亞さん、そんなにエロゲーにハマってダメだったんですか?」

「今、歩夢さんとユニットを組んでいる聖良さんが亜里沙さんに、妹をよろしく見て欲しいってお願いしたまでは良かったんですけど……」

 

 今でこそ、絶大の信頼関係で結ばれてる(理亞さん談)二人だけど、

 顔合わせの日に理亞さんはなんと徹夜でエロゲーをプレイし大遅刻。

 なんとも言えない空気の中、二人の交流は始まった。

 

 亜里沙は基本的に、初対面のアイドルにはとにかく絢瀬絵里の自慢話をする。

 (絢瀬亜里沙の悪癖の一つらしい)

 大抵のアイドルは苦笑しながらその話を聞くらしいけど、

 

 

 徹夜明けで機嫌が悪かった(ついでに言えば私がニートしていることも知ってた)理亞さんは

 恍惚の表情で姉の自慢話をする自分の担当プロデューサーに向かって、

 でも今はダメ人間なんですよね、と反発、結果大喧嘩になる。

 その後一週間、顔を合わせれば罵り合いの喧嘩をしていた二人は――

 

「は? 理亞さんが家に?」

「ええ、覚えてません?」

「ぜんぜん」

「まあ、当時の理亞さんはわたモテのもこっちみたいな外見でしたからね」

 

 とか言われても、まったく記憶の端にも引っかからなかった。

 何でも私の手料理も食したそうだけど、

 亜里沙がお客さんを連れてくるなんてことがあったかどうかもわからない。

 

 が、そのような交流があっても、亜里沙と理亞さんの仲はまったく改善されず、

 プロデュースもなかったことにして、理亞さんもハニワプロを解雇される寸前まで行ったとか、

 もう、これで最後っていう交流の際に亜里沙が理亞さんに、

 なにか後悔していることはあるかと問い、

 当然のごとく、絢瀬絵里を批判した件が出てくるかと思ったら(それもそれでどうなのか)

 姉と一緒にステージに立てなかったこと、姉と一緒にデビューできなかったこと

 等々、とにかくまあ3時間ぐらい聖良さんのことしか語らず、

 ようやくそこで亜里沙が、自分たちは似た者同士なのかもしれないと気がついたとか。

 なお、亜里沙は理亞さんのことを、自分とは違う極度のシスコンと言った件については

 ハニワプロで「その言葉の意味を追求する会」が開かれたらしい。

 

「まあ、結果的に、シェアハウスでお姉ちゃんが恋しいって泣いていたルビィさんとユニットを組むことになるのはご愛嬌ですが」

「ハニワプロって妹率高いですね? 朱音ちゃんもそうだし」

「才能のありそうな妹は全員取れっていうのが合言葉ですから」

 

 うん、それは才能があるんなら妹でなくても取るべきだと思う。

 そんなことしてるとまた斜陽事務所になりますよ?

 

「と、過去話に花が咲き過ぎてしまいましたね」

「主に喋っていたのは南條さんなんですが、それは」

「まあ、何かあればフォローはしますので、殴り合いの喧嘩もオーケーですよ?」

「一方的に馬乗りになられて殴られるだけです」

 

 実際問題、亜里沙に殴られたことはないけれど。

 精神的なサンドバック扱いでフルボッコされたことなら、無きにしもあらずかもしれないけど。

 基本的に亜里沙にそういう扱いをされる時は、私に非があるので、

 八つ当たりとかそういうのはまるっきりないはず、恐らく、たぶん。


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