三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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亜里沙ルート 第一話 09

 μ'sが一番最後に歌った曲は、

 一般的に知られているのは秋葉原にて

 スクールアイドルが集まって歌ったSUNNY DAY SONGとされる。

 にこにーにこちゃんとか、

 海未と真姫と私(雑用)がA-RISEに提供した曲とか、

 μ'sのメンバーがちょっとだけ関わっている曲はチラホラとあるけれど。

 穂乃果が、自分たちだけが満足するようなライブがしたい!

 と言いつつも、

 見てくれる人が一人もいないのはトラウマを思い出す、

 というギャグ(笑えない)も披露して。

 じゃあ、お世話になった人だけ呼ぼう! ということになった。

 亜里沙や雪穂ちゃん、先だって登場した栗原陽向、清瀬千沙の二人もいたらしい。

 そして――

「私たちが呼ばれるなんて、嫌味か何かだと思った」

 と、後日苦笑しながら教えてくれたのは綺羅ツバサ。

「でも、僕たちはひとつの光を歌い終わって、

 一番最後にμ'sが集まって抱き合いながら泣いているのを見た時、

 そして、穂乃果さんの言葉を聞いたときにね……

 A-RISEがμ'sに負けた理由がわかった」

 あのシスコンっぷりが光る統堂英玲奈でさえ、

 妹に対してμ'sのラストエピソードは語っていなかったそうだから。

 高海千歌ちゃんがどういう経緯であのときのことを知り得たのか。

 

 

 よくよく考えてみれば、

 Aqoursのメンバーが通っていた浦の星女学院が廃校したという事実を、

 あんだけ熱烈な歓迎を受けていい印象を持っていた私が知らなかったこと。

 エトワールに来て、津島善子ちゃんに聞いて初めて、

 Aqoursの活動が目標を達成できずに終わったことを知った。

 なんで私が、その実情を把握できなかったのか?

 単純にオンラインゲームや飲み歩きのニート生活で忙しかったのも、

 ある程度はあるのだろうけど……。

「今、ダイヤだけは雪穂と関わりがあります。

 曜さんやルビィさんあたりも凛さんと関わりがありましたが、

 あくまで同じアイドルという域を出ないと思います」

 本当に一部の人達しか知らない、

 僕たちはひとつの光の件が部外者に情報が回った件について思考する。

 凛を経由してAqoursのメンバーに知られたということは考えにくいから、

 観てくれていた人たちの誰かから漏れた可能性がある。

「でもあのダイヤが、高海さんにその情報を回すとは思えません。

 仮に雪穂から聞いていたとしても」

「ネットにもウィキペディアにも、μ'sの最後の曲はSUNNY DAY SONGって書いてあるしね」 

 一部の人達しか知らないラストライブでは、

 「MOMENTRING」

 「さようならへさよなら」

 「僕たちはひとつの光」

 と、一般に知れ渡っていない曲が披露された。

 ネット上のどのμ'sのファン(またはアンチ)に尋ねても、

 自分たちが最後に歌ったのはSUNNY DAY SONGということしか聞いたことがなかったし。

「一応、音源としてはあるんです。

 μ'sの方々が泣いていた……あのときの音声とかも」

「……穂乃果の言葉も入っているの?」

「はい。

 ヒフミさんたちが

 もしμ'sがいた事を誰もが忘れてしまったときに必要だからって」

 ライブの一番最後。

 停電でもあったのか、機材のトラブルか。

 歌を披露し終わった後に、会場が真っ暗になる出来事があった。

 みんな落ち着いて! と当時は凛々しかった(笑)絢瀬絵里がメンバーを抑え、

 会場にいる人達のざわめきが収まったときに、かすかな嗚咽が聞こえてきた。

 それはまたたく間もなくμ'sのメンバーに伝染し――

「みんな泣いていたわ」

「観客で泣いてない人なんていませんでした」

「穂乃果が叫んだわね……」

 

「嫌だ! 明日が来るのが嫌だ!

 ずっと! ずっとみんなで一緒にいたい!

 μ'sとしてスクールアイドルを続けていたい!

 

 今のままでいい! 時が巻き戻ってくれればもっといい!

 ずっとずっと! μ'sの高坂穂乃果でいたい!

 

 最後なんて嫌だ!

 これで終わりなんて絶対に嫌だ!

 今が、今が最高……

 今のままで、今のままでずっと時間が進まなかったら……

 今が……今が最高なんだよぉぉぉ!!!」

 

 おそらくあの言葉を聞いて。

 私の神様嫌いは増幅されたんだと思う。

 

 

 ぞろぞろ。

 Aqoursのメンバーが部屋に入ってくる。

 とある黒髪ロングの方が私の姿を見た瞬間に、

 スマホのカメラを向けてきたけど、

 亜里沙のおさわりは禁止でーすの言葉に

 渋々と言った表情でスマホをどこぞへとしまった。

 先頭に立っているのは、

 以前もちらっと会話した渡辺曜ちゃんや、桜内梨子ちゃんの二人。

 真っ先に挨拶をしてくると思われたリーダーの姿は見えない。

 妹もその事を怪訝に思ったのか、首を傾げているけれど。

「あの、千歌ちゃんは?」

「ええと、本来なら一番最初にご挨拶しなければいけないって、

 そう思ったんですけど……」

 私の問いかけに対応したのは梨子ちゃん。

 なんとも言えない表情のままで困ったように曜ちゃんを見ながら、

「穂乃果さんを探しに行くって言って……もうすぐ戻ってくると思うんです」

「分かりました。ただ時間もありませんので――

 本日は呼びかけに応じて頂きましてありがとうございます。

 ア・リトルライトのお三方にはライブでコメントもする機会もありますので、

 事前打ち合わせを丹念にお願いします」

「は、はい。

 正直な話、私たちがどこまで出来るかわかりませんが」

「絵里さんお久しぶりです、ルビィちゃんに先を越されちゃいましたけど、

 私覚えてます?」

 わりと久方ぶりに見る気がする妹の鉄仮面ぶりに、梨子ちゃんは戸惑いを隠せない。

 ひたすら恐縮している彼女をかばうようにして、曜ちゃんが私に声をかけた。

「ええ、凛のところにいたわね?」

「その衣装、ことりさんのデザインですか?」

「布面積が少ないけど、こういうデザインって見れば分かるものなの?」

「高校3年のとき、ことりさんが有名になって活躍し始めてから

 すごいなって思って追いかけてましたから」

 私としてはそんなこともあるのね程度にしか思わなかった。

「ただ、挨拶に行こうとしたら南條さんに止められました」

 悲しそうな表情を浮かべながら、曜ちゃんは語る。

 アスリートとしての立場ととある事務所に入ってのタレント活動をしていて、

 この度、円満というわけではないけれどハニワプロへ移籍した。

「千歌ちゃんがいないから言えますけど、

 芸能界に入ってから、Aqoursの良い評判を聞くことがないから……

 だからもしかしたら、ことりさんも私たちにいい印象を抱いていないのかなって」

「ことりさんは他人の評判や評価にはさほど興味はありません。

 良ければ私も同行して挨拶に伺いますが」

 曜ちゃんの言葉に反応しようとした私を亜里沙が手で制し、

 プロデューサーモードでの応対に姉はひたすら緊張が走る。

「他の人の評判や評価に興味がないとは?」

「つまり、仮にAqoursを快く思っていないのが事実ならば、

 それがことりさんの個人の意志だということです」

「そう、ですか……」

 しょげたような表情を浮かべつつ、肩を落とす曜ちゃん。

 暗に、あなた方をことりが嫌っていますと告げられ、

 意気消沈する気持ちもわからなくもない。

 言葉がなくなった梨子ちゃんと曜ちゃんの二人に対して、

 おずおずと言った感じで前進してきたのは、

 ルビィちゃんと花丸ちゃんの1年生組(善子ちゃんは欠席)

「国木田花丸です。

 あの、プロデューサーにお尋ねしたいことがあります。

 ハニワプロ関連の些末な一マネージャーが差し出がましいとは思うのですが」

「安心してください、

 こんな猛獣みたいな格好をしている絢瀬絵里が

 花丸さんやルビィさんを取って食べたりはしません」

 おかしいな、バニーガールなのに猛獣とはこれいかに。

 ただ、妹の発言で緊張した雰囲気が多少弛緩したので、

 絢瀬絵里としてもなんとなく喜ばしい気もしなくもない。

「Aqoursは……μ'sの皆様にとって余計な存在ですか?」

「太宰ですね?」

「そのとおりです。

 私は物分りが良いほうではありませんが、

 自分が生きていることが、人に迷惑をかける

 その意識はとてもつらいものだと私は認識しています」

「だそうですよ、姉さん」

 太宰治か、なんて現実逃避をし始めたところで話を振られビックリ。

「経験則で申し訳ないけれど……人に迷惑をかけない人間なんていないわ」

「私の言葉を認めるということですね?」

「ただ、それは物事の一側面でしかない」

 元ニートがこんな事を言って良いものかという戸惑いはあるけれど……。

 今も現状維持で妹の脛をかじっている人間の台詞としては、

 いささか説得力に欠けるきらいは確かにある。

「花丸さんはμ'sが最後に歌った曲って何か知ってる?」

「SUNNY DAY SONGです。

 動画でも見ましたし、スクールアイドルの軌跡が流れるときには、

 必ずこのμ'sの偉業が流れますから」

 花丸ちゃんの言葉に頷いているのが数名。

 嫌そうな顔をして俯いたのが梨子ちゃん、

 そしてもうひとり、ダイヤさんは――

「梨子も知っているのね?」

「はい、ダイヤさんすみません。絵里さん、亜里沙さん……

 千歌ちゃんに僕たちはひとつの光のことを教えたのは……私なんです」

 私がどんな表情をしているかは分からないけれど、

 心情を吐露することを許されるなら、余計なことをしてっていう感じではある。

「同僚に、にこさんの妹のこころさんがいます。

 ある時、μ'sの話でお客様と盛り上がって――

 彼女がすごく怪訝そうな表情をしていたから、問いかけてみて」

 今から一年ほど前。

 こころちゃんが未成年だった時代、とある……えーっと、お酒を飲む店で、

 下働きをしていた時に店で一番指名を取ることが難しい、

 いわばトップだった梨子ちゃんの手伝いをしていたことがあったみたい。

「彼女は、μ'sの最後の曲が一般的にSUNNY DAY SONGと言われていることを知らず、

 どんな時も明るく、最後まで笑っていてμ'sは終わった――

 という話を、本当に、本当に、怪訝そうな表情で聞いていたんです」

 そういえば、こころちゃんやここあちゃんがスクールアイドルをしたという話は聞いたことがない。

 自分とは違う世代だから認識していなかったのかも知れないし、

 にこの話をまともに聞いていなかった可能性すらある。

「こころさんから、穂乃果さんの最後の言葉は聞きました。

 人づてに、僕たちはひとつの光の歌っている所の音源だけは入手もしました。

 すみません、その曲は……千歌ちゃんに聞かせてしまいました」

「いいのよ、謝らないで」

「その通りです梨子さん。

 花丸さん、不肖の姉が話をずらしましたが……

 μ'sとAqoursの間には多くの行き違いがあります。

 曜さん、今は関係を改善をするのは難しいですが、

 今後、ことりさんとよりよい関係を築きたいなら、協力しますよ」

「……!? 喜んで! ほら! 花丸ちゃんも!」

「え?」

「凛さんに会いに行きたいんでしょ! ほら! ほら!」

「あ、ええと……プロデューサー、お願いできますか?」

「凛さんはちょっと怖いんですけどね……」

 苦笑しながら答える妹。

 そしてなぜ亜里沙が凛を怖がっているのか、

 今の私には知る由もなく――



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