三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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亜里沙ルート 第一話 11

 どこをどう歩いてきたのか、

 少しばかり記憶がかっ飛んでしまっているけれど。

 かくして、隣の部屋に向かうだけだったというに、

 後ろからついてきた黒澤ダイヤさんに身体を支えられているという事実。

 

「ええ、もう、高校時代の私ならば

 今の場面を携帯の待受にしていました」

 

 肩を抱くようにし、支えてくれればいいという私の言を無視(スルー)

 必要以上に距離が近いのは、私が青い顔でもしているのか、

 それとも彼女自身のリビドーがそうさせているのかは定かじゃない。

 

「大丈夫ですか?」

「ええ、だからもう身体を支えてくれなくても大丈夫だから」

「差し支えなければ、このままお着替えなども」

 

 それはもう介護じゃん。

 アラサーアイドル(呼称未了承)絢瀬絵里の

 元後輩に介護される疑惑が某メガネのスポーツ記者さんにでっち上げられちゃう。

 ただ、今の状況から察するに傍から見れば事実にしか見えないけれど。

 

「ええ、お風呂でもなんでも、黒澤ダイヤやる気マンゴスチンです」

 

 なにその、一時期花陽が言ってた幸せオーガスト級の不可思議な発言。

 

「まあ、名残惜しいのは重々承知ですが、

 飲み物でも持ってきます。

 良いですか、くれぐれも一人で着替えなどされぬよう」

 

 にこと一緒に上島の竜ちゃんがテレビに出てて、

 二人して熱湯に突き落とされるのを観ながらお酒を飲んだ日々に戻りたい。

 しかしあれだ、今から振り返ってみると、

 当時矢澤にこは19歳かそこいらで、私も似たような年齢だったはず。

(未成年の飲酒は法律で禁止されています。良い子は真似しないように)

 

 フラフラと立ち上がり、澤村絵里専用ロッカーと書かれた(ムダに達筆)場所に

 ゆっくりゆっくり迫って扉を開く。

 そこには――

 

「……いやあ、これは、なんというか」

 

 無駄に描写してごまかしても構わないけれど、

 一言で言えば僕たちはひとつの光の衣装である。

 そうそう、あのピンク色のドレスみたいな、

 東條希が羽生結弦かってくらいジャンプしているときのアレ。

 

 酩酊している時(あまり経験がない)みたいに、

 意識が遠くになりかけたけれど、

 正直身体に力が入らなくなって、ロッカーに体を委ねた。

 

 アッパーでも喰らってノックダウンしたボクサーみたいに

 意識でも失いたいところではある。

 

 けれどもそうなれば、

 飲み物を持って戻ってきた内浦の覇者に

 はーいそれではお洋服でも脱ぎましょうねー?

 とか言われるお人形遊びの材料になりかねない。

 

 ただでさえ、μ'sの一部の面々に男性よりも女性が好き疑惑があるのに、

 服でも脱がされてしまったら大変だ。

 なので、ちょっと阿呆なことでも考えてみる。

 

 今から数年前。

 大ヒットした魔法少女アニメがあり、

 それを原作とし、本編の十数年後という設定で

 アラサーになったキャラクターの日常を描くという漫画が同人であった。

 

 それを眺めながら、

 よもやこうはなるまいと思っていたのに、

 気がつけば派遣社員をしている彼女とは違い、

 ニートとして悠々自適の生活を送るとは……。

 

 そして何より、

 それが掲載されていた雑誌が休刊したのに

 唯一生き残ったのがそのアラサーマミさんという、何という皮肉。

 

 あ、ちなみに私はアニメ化されるっていうマギレコで、

 美国織莉子とか呉キリカとか千歳ゆまといった面子がCV付きで出ているのに、

 出番がないっていうか存在すら怪しいあの子が好きよ?

 

 

 お前が推すのは天乃鈴音の方じゃないかっていうツッコミは無粋。

 成見亜里紗という字面になにか感じ入ることがあっても私はスルー。

 

「くれぐれも着替えなどされぬよう、

 私は重々忠告したつもりですが?」

 

 戻ってきたダイヤさんが私の姿を見るなり、

 真剣な表情(できてない)で冷徹な声色(できてない)で、

 路上に捨てられたゴミを見るような目つき(これはできてる)をしながら、

 私に近づいてくる。

 

 阿呆なことを考えて、多少精神的には持ち直したとはいえ。

 まだまだダメージは大きいので、飲み物を受け取り喉を潤す。

 呆れ果てたと言わんばかりの表情を浮かべながら、

 胸元ばっかりガン見してくるやり手社長(ルビィちゃんがした表現)に、

 よもや殺り手の社長ではあるまいなって、すずねに毒されすぎだわ私。

 

「ご存知ですか、妊娠初期には酸っぱいものを食べたくなるということを」

 

 レモンスカッシュを飲みながらとんでもないことを告げられる。

 未経験であることを理亞さんに口止めしている手前、Re Starsのメンバーには

 一番年上なのに行き遅れてるという事情は知られてないようだけど。

 

「だ、大丈夫よ……ほら、妊娠するようなことしてないし」

「まあ、そのような男がいれば、去勢した挙げ句に海の藻屑にしますが」

 

 ダイヤさん目が笑ってない。

 攻略対象が主人公と致す前から非処女だったときの理亞さんの慟哭を思い出し、

 世の中そういう人もいるであろうとちょっと思った。

 でも、金髪ポニーテールとはいえエロゲーのヒロインじゃないので……

 

「立つのは無理にしても、一度着替えましょう?

 ええ、安心なさって? 幼少時に服を汚したあの子の服を着替えさせてましたから」

 

 全くあの子は体現する不幸そのままとの呟きを聞きながら、

 それは妹のルビィちゃんではなく善子さんではあるまいかと思ったけど、

 指摘されたところで何の意味もなく、

 それでいて貞操の危機すら感じているからひとまず私は天を仰いだ。

 

 なすがままに着替えさせられている現状。

 

「千歌は……」

「うん?」

「ラブライブでの優勝を果たしたのち、千歌は行方知らずになりました」

 

 僕たちはひとつの光の衣装ではなく、

 ダイヤさんに頼んで持ってきてもらった普通の服(センスがいい)の

 着付けを手伝ってもらいながら、彼女は口を開く。

 

「閉校祭、卒業式……イベントはありましたが

 千歌は姿を見せず。

 ふさぎ込んだ曜や梨子のフォローは果南や鞠莉に任せて、

 私は妹たちやマルちゃんと一緒に、生徒たちを盛り上げました」

 

 卒業旅行に行く暇すらなかった、

 と、笑っているような悲しんでいるような表情で語る。

 千歌さんは沼津の統合先の高校に名前はあったようだけど、一度も出席せず中退。

 

「後日知ることになりますが、まさか実家のツテで旅館で働いているとは……」

 

 警察沙汰にして彼女の行方を探そうという話もあったそうだけど、

 ご両親や親戚といった人がさほど困っている風でもなかったので頓挫したそう。

 

「ご承知……か、どうかは分かりませんが、

 Aqoursは私たちの卒業と同時……いや、千歌がいなくなったことで崩壊しました

 梨子は高校卒業後に二度と静岡には戻らないと告げてふらりと。

 曜は芸能活動と高飛び込みと二足のわらじを履き努力を重ねた……」

 

 まあ、どちらの千歌の行方を探すためという笑い話ですが。

 と、そのときには千歌さんの行方を把握していた(3年生メンバーは知ってた)

 ダイヤさんの強烈な皮肉。

 

「よもや再び集うことはなかろうと思っていました。

 ただ、少し前に急に千歌が内浦に戻ってAqoursは全員集合! とネットで呼びかけて、

 顔を見たときには平手打ちの一つでもしようかと思いました、

 寝言は寝ながら言えと思う存分罵ってあげようかと思いました

 ――でも、できなかった」

 

 シリアスな表情で私の胸を、あまりに大きいから支えないと

 とうそぶいて手で掴んでいるのを優しくはねのけながら言葉を聞く。

 

「ヨハネの……あの子の願いが届いて

 もし、私たちが全員集ったのなら、まずは喜ぼうと思ったのです」

「そういえば、彼女、眼鏡もかけてなければ、髪も長かったわね?」

「詳しい経緯は知らないのですが、妹たちやマルちゃんが

 どこぞの誰かにそそのかされて魔界の住人を呼び出したとか」

 

 真面目な顔をしながら素っ頓狂なことをいう。

 冗談かと思ったら冗談じゃないという。

 善子さんが統一先の高校に通い、一時期不登校になっていた花丸ちゃんや

 ルビィちゃんの顔の様子を見た帰りにとある人物に出会った。

 自称「スピリチュアル女神」と名乗るバストサイズが自慢の――

 

 

 今、LINEを使って確認したけど東條希は、

 Aqoursの状況を見るにつけ、善子さんに一つのアドバイスを送った。

 もしも自分の抱えている願いを叶えたいならこうするといい。

 ただ、希も本当に変なものを呼び出すとは思ってなかったらしく、

 ホテルで寝てたら、空が一時的にねるねるねるねの色をしていてしこたま驚き、

 気配が導くままに花丸さんの実家に向かったらもう手遅れだったそう。

 

 元からAqoursに上限ないレベルで愛着を抱いていた善子さんは、

 千歌さん不在のトラブルもあるなか前面に立ちイベントをこなし、

 統合先の高校でリーダーシップを発揮して生徒会長も勤め上げた。

 なんでも、千歌さんの代わりになれば彼女もひょっこり戻ってくれるかも知れない――

 

 結局夢砕かれ、再会は数年後に持ち越しになるんだけれども。

 自らの不幸属性と視力、そして何より大事にしていた黒髪を代償に

 いつかの未来を望んだ彼女は

 魔界の住人に召喚した記憶すら奪われて現在に至る。

 

 ただ、魔界の住人(♀)さんが、

 どう考えても闇堕ちした東條希にしか見えないんだけど?

 しかしこれで、迂闊に魔界に知り合いでもいるの?(pgr)

 とか言おうものなら、本当に親友が闇堕ちしそう。

 

「……ところで、なぜ雪穂ちゃんと知り合いなの?」

 

 凛のところでルビィちゃんと出会ってLINEを交換した経緯もあり、

 時折お話なんかもするんだけれども、

 たいていお姉ちゃんがなんかした、理亞ちゃんがなにかした、

 という内容ばかりで、私の中では黒澤ルビィミステリアス説がある。

 

「雪穂とは……まあ、ラブライブ本戦で会ったのがきっかけで、

 たびたび話をするようになりました。

 東京の大学に進学後はキャンパスから近いこともあって、高頻度で穂むらに……」

 

 が、雪穂ちゃんが大学に進学せず、

 穂むらの看板娘として姉妹で血なまぐさい(そんなことない)争いをしていたころ、

 とある儲け話が高坂家に舞い込んでくる。

 簡単に言えば、穂乃果のスクールアイドルとしての知名度を片手に事業を拡げ、

 左団扇で生活をしてみませんかみたいな話だった。

 

 当然、職人気質だった親父さんや、穂乃果のお母さんは難色を示し、

 高坂家全体が乗り気でない中で一つの事件が起きる。

 和菓子作り一本槍だった親父さんが突然病気で倒れたのだ。

 今でこそ元気でバリバリ働いている彼が倒れたショックはまたたく間もなく

 周囲に伝播され、店を休むか畳んでしまうかなんて言う話もあったよう。

 

「当時私は一介の大学生……仮に今のように黒澤家を掌握し、

 すべてを把握していれば、話を持ちかけた人間が

 薄暗い魂胆を抱えていたことなどすぐに見抜けましたのに」

 

 悔しげに唇を噛むダイヤさんだけど、

 手は先程から意味もなくお尻あたりをなでているのはどうして?

 ――それはともかく。

 一家の大黒柱にして、和菓子作りを担っていた親父さんがいなくなり、

 商品として和菓子を出せるレベルになかった娘二人とお母さん。

 皮肉なことにAqoursのおかげでμ'sの知名度がやたら高かったことも手伝い、

 少しでもお金になればという判断で先の話を受けることに。

 

 最初の方は医療費や生活費を賄うに充分過ぎるお金が手に入り、

 雪穂ちゃんの分まで穂むらの宣伝や色んな人への挨拶回りをこなしていた穂乃果が、

 ちょっとμ'sのことを振りかえってもいいかなレベルまで精神状態を取り戻す。

 ただ、その当時絢瀬絵里はとある会社で嫌がらせに遭い、

 ストーカー被害にも遭っていたからその当時のことは詳しくわからなかったりする。

 

「絵里さんも詐欺師にはご注意を、

 あのような輩は近づいてくるたびにメリットしか告げませんから」

「私を騙してなにか得をするのか疑問だけれど……」

「それならば良いのです

 私も、悪人を地獄にたたき落とすことに罪悪感がなくなってきましたから」

 

 理亞さんがちらっと、

 黒澤家のルビィ以外の人間とあんまり近づきたくない。

 恐らく私は地獄に落とされるかも知れないって言ってたけど。

 まさか比喩表現じゃなくて本当に叩き落とすんじゃないよね?

 

「多少怪訝な話ではありましたが、

 雪穂も昔みたいにμ'sの話が姉妹でできるようになって嬉しく思い、

 口をだすのも無粋だと思ってたころ、鞠莉から連絡があり――

 彼女の言葉を借りるのなら、そいつはやばいからすぐに縁を切ったほうが良いよと」

 

 果南さんと鞠莉ちゃんは、高校卒業後一緒に海外に向かい、

 ダイヤさんの言葉を借りるなら、子どもでも仕込んで帰ってくるかと思った――

 どういうツテで高坂家の問題を知りえたのかは知らないけれど、

 話を持ちかけてきた人間の悪行を洗いざらいダイヤさんに教え、

 チャオーと言いつつ音信不通になったそう。

 

 今でこそ小原家のトップになり、日本にも居る確率の高い鞠莉ちゃんだけど。

 骨を埋めるなら日本はありえないなーって思っていたそうで。

 ただ、当人曰く小原家のトップに立つにはちょーっとお勉強しないといけないな、

 とのことで世界中を回り経営学の基礎から学んでたみたい。

 

 Q.その時果南さんは何をしていたんですか?

 A.日本で言うヒモみたいな感じ? まあ、今もだけどねー?

 

 という、笑い話(笑えない)もある。

 

 しかし、Aqoursでお金を持っているメンバーは、

 若くして両親を蹴り落としている確率が高いね……私も見習いたい。

 

「その出来事がきっかけで、私も黒澤家を掌中におさめましたし。

 いろんな事を学びました。ただ、それからというもの穂乃果さんは家を出ていき、

 もう二度とμ'sと関わることはないと誓ったようです」

 

 それがどういう経緯で絢瀬絵里を全面に押し出したμ's復刻活動に参加することになったのか。

 ポジティブに考えれば穂乃果も大人になり、過去は過去として前を向けるようになったと判断できる。

 ただ、私の喉元に小骨のように引っかかる違和感は――

 

「立てますか?」

「ええ、なんとか……でも、胸は支えなくていいし、おしりは触らなくていいのよ?」

「いいえ、後でもしないと絵里さんは倒れます。

 私の経験上、人間はそのようにできています」

 

 などと意味不明なことを言いつつ、

 左手は添えるだけと言わんばかりにお尻から離れないので、

 ため息を吐きながら一歩一歩床を踏みしめながら歩く。

 

 舞台はA-RISEが待っているという、

 私がさっきまでいた澤村絵里専用個室へ。



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