アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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亜里沙ルート 第一話 06

 病院の待ち合い室の中で、看護師に呼ばれるのを待っている患者みたいな感じで

 私に話しかけようとしする人々がちらっと見えたのを恐怖に感じながら。

 先程手渡された写真をぽかんと眺め続けていた。

 そこには昔懐かしい、

 やたらめったら何に対しても敵意全開で、この写真でも仏頂面かましている絢瀬絵里。

 それと、記憶の端にも引っかからなかった先の二人。

 つまり、UTXに通っているはずの白ランを着ている栗原陽向と、

 この写真を撮った一ヶ月後にはUTXに転入してしまう清瀬千沙。

 そして、私がここ最近一番長い付き合いだと思っていたけど、

 実際は音ノ木坂学院入学後からの付き合いだった東條希の以上4名。

 そのメンツが仲良く揃って生徒会の仕事をしている写真を眺めながら、

 果たしてこれが本当に絢瀬絵里なのか、アニメオリジナル設定なのではないか

 そんなアホなことを考えていた。

 私は栗原さんのことをヒナと呼び、一番仲が良かったとのこと。

 なんでも、小柄で140センチに満たない身長だった彼女のことを、

 無表情ながらも溺愛しているのがバレバレの態度で構い続けていたらしい。

 ヒナはだいぶ成長をしてしまったので、この思い出と重ねるわけがないじゃないと

 妹に切実に訴えかけたところ、

 私がニートとして順風満帆に過ごしていた二年前に、

 今会話していた4名で私手作りの鍋を囲んで、酒を酌み交わしたという事実を告げられ

 これっぽっちも思い出に含まれてなかったので、黙って高校時代の記憶を思い出し続けていた。

 そんな現実逃避に意識を向けていると、

 おずおずと言った感じで入ってきたのは、希に18禁方面の仕事も良いんじゃない?

 なんて言われて、この私がそんなことできるわけ無いと突っぱねるかと思いきや、

 意外と乗り気で凛に「はじめて」の時の感想を聞き迷惑そうな顔をされていた西木野真姫その人。

 高校時代は身長差があまりなかった私たちだけど、

 大学時代に何度目かの成長を迎えた絢瀬絵里とは差がずいぶんと付いてしまった。

 亜里沙にも身長が追い抜かされてしまったので、この場で一番背が低いのは真姫ということになる。

 そんな事を思っていると、なんだか不出来な妹を眺めている気分になってきた。

 ただ、この場で一番不出来なやつは誰だと考えると、

 まず間違いなく自分が指名されかねないので迂闊に口は開かない。

「エリー、なんて格好をしているのよ」

 呆然としていると言った態度で、出来うる限りこちらに視線を向けないようにしながら、

 それでいて胸元あたりにジッと視線を向けている気がする超人気声優(自称)に対して

 アラサーバニーガールという世も末な格好をしている絢瀬絵里としては苦笑を浮かべつつ、

 この痛々しい状況の首謀者である妹に視線を向けてみた。

「この度はご協力ありがとうございます真姫さん。

 ライブでのトークも期待していますね」

 こちらのことを死んだセミに群がる蟻かなにかを見るような目でちらっと一瞥しスルーする妹。

 営業スマイル全開で赤毛のお嬢様に感謝する姿は、

 やり手のキャリアウーマン(懐かしい言葉)を思わせる。

「まあ、事務所の社長のペコペコ頭を下げ続ける姿を見て

 今までの私の扱いに対する反省を促せたから良いでしょう。

 それにしても、まともにダンスをするなんて久しぶりだったから

 そろそろどこか腱でも痛めてやしないか心配だわ」

 なんていう身につまされるような苦しい台詞を聞き苦笑いする。

 その後を世間話を繰り出しつつ、

 エロゲー出演する時の名義をどうしようかと相談を受けたので、

 私はふと頭に思い浮かんだ、

 なりたい自分や憧れている理想を名前にしてみたら?

 なんていう言葉を送ってみた。

 これは後日談ではあるけれど、

 真姫がデビューした際の名前が「あやせうさぎ」だったので、

 今度胸ぐらの一つでも掴んで頭がくがく震わせないといけない。

「ところで真姫、今回の演出のコンセプトは聞いているの?」

 真姫は私の言葉を聞いて、

 やけにセンチメンタルな表情を浮かべつつ天井を見上げ、

「正直な話をすると、今回の件はお断りしようと思ったわ

 でも、穂乃果ちゃんにやってみようよなんて声をかけられたら、

 断れるわけないじゃない? それに」

 と、真姫はそこで言葉を一旦切って、

 恥ずかしそうな表情を浮かべながら目を細くして、

「私たちはスクールアイドルとして、

 ほんとう、ただ自分ができることだけを一生懸命やって来た。

 そのμ'sでの日々が、

 思いの外たくさんの人達に影響を与えていたことを、

 今まで生きてきて感じてきたの。

 だからそういう、スクールアイドルμ'sっていうのは

 いったんどこかで終わりにしなければいけないと、そう思ったのよ」

 どこか遠くを見ながら、シリアスな表情のままで

 せつなそうに語り続ける真姫の視線が、

 思いの外自分の胸元に注がれているのに気が付き、

 そろそろこのバニーガールという格好もいったんどこかで終わりにしてくれないかな。

 そんな事を思いつつ真姫との会話を終えた。

 

 亜里沙の次の方どうぞという掛け声とともに一緒に入ってきたのは、

 高校時代から変わらぬ付き合いを続けている小泉花陽と星空凛の二人組。

 身長差こそ10センチほど付けられてしまった二人(花陽の背が急上昇した)だけど、

 仲の良さは端から見ても羨ましく感じるほどだ。

 なぜだか凛の方は、私の体の一部分(毎度のごとくのアレ)を眺めて、

 同業者に語尾に「ワン」とかつける人間が増えてと舌打ちしながら語ってきたのと同じ表情のまま、

 ひたすら不愉快そうな態度を取り続けていて私は震えた。

「あ、そうだ絵里ちゃん、私は希ちゃんのところでお世話になることにしたよ」

 過去に数度も大切な友人同士と語り合っていた二人が、

 アラサーバニーガールの登場によって微妙に空気が濁っている。

 ものすごくこの場にいるのが申し訳ないと言わんばかりの態度のまま、

 小鹿ガール全開の態度で小さく震えている小泉花陽に対し、

 どうすることも出来ない露出した格好している私と言えば、

「その、私は働いたことがないから分からないけど

 仕事場の空気はとても良い雰囲気だったわ

 スタッフの皆さんもとてもいい人ばかりだったし」

 長い間フリーターとして仕事を探し続けていた花陽の意を汲みつつ、

 できるだけ星空凛の方向を見ないようにしながら言葉を告げる。

「う、うん、私も早く仕事場に慣れるように頑張るね」

 この花陽の発言を最後に以後数分間会話が止まる。

 ただ、凛も大人げないと思ったのか、

 それとも、罰ゲームみたいな格好をしているアラサーが高校の先輩だと思いだしたのか、

 刺々しい空気を発しているのは相変わらずだったけど、ため息と一緒に口を開いた。

「絵里ちゃんは、よもやその格好でステージの上に立つんじゃないよね?」

 何その見ている方もやっている方も浮かばれない地獄の所業。

 ただ、明確に否定はできなかったので、

 私の隣で、自分には関係がありませんとばかりに

 天井のシミを数えている敏腕プロデューサーにお伺いを立ててみる。

「安心してください凛さん

 ステージの上では、羞恥心の欠片もなくM字に開脚するビッチのような

 はしたない格好はさせません。

 パッと見センターにふさわしく見える格好をさせますから

 ええ、私の全責任で」

 まるでこの格好を私が好んでしているみたいな言い方ではあったけど、

 この格好をノリノリでさせた当人がそのような発言をすると、

 こちらとしてもなんとも言えない表情を浮かべたくなってはしまうのだけれど。

 ただ、亜里沙の発言で凛の怒りも冷めてきたのか、

 りんぱなの距離がちょっとだけ縮まって安心する。

「あ、そうだ、今回のステージのコンセプトというものは聞いている?」

 状況をごまかす意図はないけど、

 とりあえず尋ねておきたかったことを聞いてみる。

 此処でμ'sの再興である今回のライブについてヒトカケラも賛成できないとか、

 絢瀬絵里に任せるとか死んでもゴメンだとか言われてしまうと、

 私は黙ってバニーガールの衣装を引き裂いてしまうかもしれない。

「うーん、まあ、タレント星空凛としては

 スクールアイドルμ'sの恩恵をバリバリに受けているからね

 今回の件はわりと事務所のほうがノリノリだし、

 凛としては、μ'sを一区切りにするのも良いんじゃないかなって」

「そのステージで中心になるのが絢瀬絵里っていうのには?」

 自分の実力を過小評価するつもりはないけど、

 自惚れてしまうのも良くないと思って、そういう時に容赦なくぶった切ってきそうな

 毒舌の一つや二つ相手にかけることも厭わなそうな凛に声をかけてみる。

「仕事してなくて暇してたのが絵里ちゃんだけだったしねえ……

 色んな意味で都合が良かったのが絵里ちゃんだったから、うん、凛としては特にないよ」

 クールかつ的確に脇腹にドリルを突きつけてくるような毒舌。

 そのキレっぷりに私も天井のシミを数えてやり過ごしたい気分ではある。

 自分の言いたいことをすべて言ったと言ってからしばらく。

 凛はちらりと寂しそうにこちらを一瞥し、部屋から出ていってしまう。

「私はね、μ'sの中でもおミソかなっていっつも思ってたの

 実際、スクールアイドルμ'sだったっていう恩恵なんて、ただの一度も受けたことなかったし

 でも、これからμ'sを語ろうかっていう時にね、

 絵里ちゃんが中心になって前に立ってくれるっていうのは、私は賛成だよ」

「限りなく暇そうだったから?」

 私の言葉に花陽は強く首を振る。

「凛ちゃんもね、同じことを言うとは思うんだけど。

 これからの私たちを支えてくれるのは、

 センターになってくれるのは、絵里ちゃんしかいません」

 それはどういう意味でと訪ねようとする前に、

 花陽は凛を追いかけて部屋から出ていってしまった。

 自分の身の丈に合っていない、

 そんな過剰と呼ぶべき信頼に対して、

 私は言い得ぬ不安を感じたまま震えた。


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