三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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亜里沙ルート 第一話 14

 暮れは紅白などという方も、地方の方では多いみたい。

 ハニワプロ所属の岐阜県出身アイドル月島歩夢も、

 デビューから4年目の20の時に紅白歌合戦に出場。

 ――でも、なんだかアレだな?

 μ'sも紅白に出たことがあるような、そうでないような?

 

 一時期のブームは過ぎ去ったものの、

 ハニワプロ所属のアイドル一番手といえば、やっぱり彼女らしく。

 ただ、歌や演技は努力でどうにかなるそうだけれど、

 トークが致命的にアレという欠点があるせいでバラエティーには呼ばれないとか。

 

「亜里沙……お願いだからNHKの番組の出演を増やして欲しい」

 

 私に会いに来たはずの歩夢は、

 なぜか亜里沙に公共放送局の番組の出演交渉に当たっている。

 彼女と一緒にやってきた聖良さんや理亞さんといったメンツは、

 一方的にツインテールが喋り続けているという現状。

 誰一人も絢瀬絵里に触れていないという状況下で、

 黒澤ダイヤさんは座布団の上で正座中。

 でも、彼女正座って慣れているから罰でも何でもないような。

 

「深夜ならば考えましょう」

「ダメ! お年寄りたちが起きている朝か昼間でないと!」

「ツバサさんと一緒なら良いですよ」

「ツバサさんと一緒なんて、お年寄りが私を認識しません!」

 

 ツバサがまだトップアイドルとして活躍するさなか、

 1週間オフをもらった! 付き合え!

 との号令で二人して旅行に出かけたことがある。

 当初は自分と同じ事務所のアイドルとか、英玲奈やあんじゅを呼んだらしいけど、

 肝臓を壊したくないので断る(英玲奈)

 ツバサと一緒に食べると太っちゃうから(あんじゅ)

 まだ死にたくないのでいいです(アイドルたち)

 と素っ気なく断られたらしい。

 

 旅行費用がないと私自身も断ろうとしたけれど、

 亜里沙が疲れた顔をしながら、

「ええと、姉さんは……その、お金を渡すのでしばらく放浪してください」

 と告げてきて、

 まあ、そういうこともあるものかなと思い、

 何も考えずにツバサと合流。

 のちに白状されたことだけれど、

 ツバサの穴埋めに使われたのは、ハニワプロのアイドルたちだったらしく。

 他の事務所の都合やら、出演者の共演NGとかを徹夜で調べ上げて、

 結局、関係者の評判はA-RISEすごいということで終わったとか。

 

 ツバサがどこ行きたい何したいをひたすら聞き。

 私が電車やら何やらの交通機関を調べ上げ、気の向くまま風の吹くまま進む。

 とある場所で。

 

「アレがやりたい」

「アレ?」

「そう、なんかバンジーみたいなやつ」

 

 と言って指さしたのは、

 天高い場所から滑降するパラグライダー。

 ひと目でテンションが上った私たちは、

 颯爽とパラグライダーが体験できるという場所へ。

 が、当たり前といえば当たり前だけど、

 超トップアイドルが怪我するリスクのあるウインドスポーツなど、

 いくらやりたいと言ったところで事務所の許可がなければ出来るはずもなく。

 かと言って、はいそうですかと諦められるテンションでもなかったので、

 

「仕方ないわ、空がダメなら地下にしましょう」

「暗いのはちょっと……」

「あら、洞窟とかダメ? じゃあ……そうね……」

 

 と言って向かったのは砂風呂。

 超トップアイドルと、いかにも目立つ金髪が砂に埋まるのを

 道行く人が眺める眺める。

 それでも誰も話しかけてこないのは、私がロシア語で喋らされてるから。

 いかにもニホンゴワカリマセンな金髪がいると、

 なんだか怪しい逃避行か何かに見えるらしく、

 最近出ずっぱりで休む暇もなかったのだろう可哀想に――

 なんてことで、やっぱりA-RISEの評判ばかりが高まった。

 

 数々の温泉旅館を網羅し、各鉄道や飛行機、果ては船。

 寝てるか食事しているか移動しているか遊んでるか、

 24時間四六時中いつでもテンション高く、かつ大量に飲んで食べてを繰り返し、

 結局1週間に2人で100万円近く浪費。

 旅行2日くらいで亜里沙から貰ったお金が尽き、

 これ以上は無い袖は振れないと訴えたら、

 だいじょうぶだいじょうぶ、私が出すからと言ってその言葉に甘えてしまったけど。

 そう言えばあの時のお金まるでスルーしてたな……。

 

「仕方がありません、ではNHK教育の方で」

「ニュースとかやってる方!」

「歩夢を生放送に出すくらいなら、私はそこにいる金髪を売り出します」

 

 そこにいる金髪(絢瀬絵里)に注目が集まる。

 妹のニュアンスとしては、別に私を本当に売り出そうとか考えているのではなく、

 トークに難あり(後日訊いたら朱音ちゃんよりダメらしい)の歩夢を

 視聴者層も反応も厳しい公共放送局に出すのはかなり勇気が必要だから。

 

「亜里沙……シスコンなのは私も承知しているけれど、

 ここな素人に負ける月島歩夢じゃないよ?」

「ほう? 確かに姉はそこらへんの幼稚園児にも知能で劣りますが、

 多少口は回ります、ええ、少なくとも歩夢よりは」

 

 言語知能レベルが、幼稚園児>絢瀬絵里だと妹に言われた件について。

 あと、先ほどから悶絶するほど笑っているダイヤさんは本当に私を推してるの?

 その言葉を信じてもいいの?

 

「聖良さん、何で勝負をさせれば良いでしょう?」

「そうですね……相手を罵り倒して泣かせた方の勝ちということで」

 

 聖良さんは私になにか恨みでも……

 

「罵詈雑言なら任せて、

 幼少時に悪口ポーちゃんと言われた実力を見せてあげる」

 

 ダメそう。

 ひとまず、受けて立つという態度だけは見せておいて。

 あとは流れでなんとかできると思う、

 亜里沙にフォローは任せる。

 

「絢瀬絵里! ……ええと……ロシアン!」

 

 月島歩夢の先制攻撃!

 ……ロシアンから続く言葉は?

 と、待ってみる。

 

「……」

 

 じわりと涙を浮かべる月島歩夢。

 

「やっぱり人の悪口なんて言えない! 亜里沙のバカァ!」

「言えてるじゃん……」

「このポンコツ! かしこくない! ドジっ子!」

「ええ、ええ、わかっていますよ歩夢、だから潔く諦めなさい」

「亜里沙なんて落とし穴に落っこちちゃえば良いんだ! ウワァァァァン!」

 

 と言って、特に何もせず月島歩夢退場。

 あれがハニワプロのトップアイドルという事実に、

 なんだか世知辛いものを感じる絢瀬絵里ではあるけれど。

 最大限に彼女をフォローするなら、

 素直で物覚えが良く優秀で謙虚という美徳の塊みたいな女の子だからね?

 ただ、プレッシャーとアドリブに弱いという弱点があるせいで、

 ライブとかでは聖良さんが特に苦労させられるみたい。気持ちはわかる。

 中学卒業したばかりの絢瀬亜里沙と波長が合っていたという点において。

 

「ええと……ひとまず、その、絵里さん」

「聖良さん?」

「見えなかったかも知れませんが、歩夢は絵里さんに深く感謝しているんです」

 

 どこらへんがというツッコミはあえて入れない。

 

「その……ただ、今回の件で絵里さんは私たちの後輩になるので、

 心中かなり複雑なようです。

 事務所にスカウトされて、東京に出て、

 一番目標にしていた人間が後輩になるんですから」

「目標にするような人間じゃないんだけど」

「そうですね」

 

 そうですね?

 聖良さんからぽろりと出た言葉に若干緊張が走る。

 

「私自身としては絢瀬絵里が鹿角聖良より優れている点は……

 無難にないと言っておきましょう」

 

 おお?

 彼女の妹の理亞さんが私に対して、かなりツンツンな態度を接するのは。

 まあ、弱みの握られっぷりと亜里沙の罵りっぷりでわからなくもない。

 ただ、聖良さんとはあんまり関わりがなかったので、

 このような態度をされるいわれがあんまり良くわからないのだけれど。

 

「姉としても、アイドルとしても……そして何より人間としても。

 今回のライブで目立つのは致し方ないにせよ

 このような悪目立ちをするのは今回ばかりと承知してください」

「え、ええ」

「……ただもしも、本当にツバサさんや亜里沙さんが、

 本当にあなたの実力を認めた時に立ちふさがるのは私です、

 そのために努力と研鑽は欠かしません

 よく、覚えていてくださいね?」

 

 理亞さんを置いて聖良さんまで退場。

 ただ漠然と敵意や悪意を向けられていると言うより、

 絢瀬絵里が置かれている状況が解せないと言った態度なので、

 口調こそ厳しいけれど、論調としては理解できる。

 今まで乗せられてきて、

 その事実に対して疑問に感じている人があんまりいなかったものだから、

 ようやくまっとうな感覚を持った人がいて感動すら覚える。

 

「絢瀬絵里ィィィ!!!」

 

 などと感慨に浸っていると、

 シスコン連中(私以外)が集うこの場において、

 かなり高レベルなシスコンのツインテールさんが私を怒鳴りつけた。

 さっきまで聖良さんの横で、えへへみたいな笑いを浮かべていたけど

 そんな事実は見る影もない。

 

「おま、おま、お前のせいで! お前のせいで!」

「な、なに?」

「私のダイヤモンドプリンセスワークスの続編での出番がなくなったんだ!!」

 

 なんだか分からない言いがかりに首を傾げていると、

 自身も攻略対象外にされたと寂しそうに笑うダイヤさんが、

 事の次第を説明してくれた。

 

 なんでも、ダイプリの続編はAqoursのメンバーを掘り下げたゲーム。

 メインヒロインが善子さん(をモデルにしたキャラ)という点は置いておいて。

 当然、Aqoursが出てくるのだからSaintSnowの二人も登場する予定だった。

 一部シナリオとプロデューサーとして制作に参加している陽向さんが、

 どうしても桜内梨子(をモデルにしたキャラ)役で真姫を呼びたかったらしいけど、

 製作途中に真姫がエロゲーに出ることはなかったので話は頓挫。

 

 なんで梨子ちゃん役だったかというと、

 Aqoursがラブライブで優勝するまでの軌跡を描いた(描く予定だった)

 ラブライブ!サンシャイン!!(1期打ち切り)において、

 梨子ちゃんの声を担当したのが他ならぬ真姫だったから。

 なおこのアニメ、μ'sを描いたラブライブ!とは違い脚本やらなにやらで、

 AqoursやSaintSnowの面々からほぼ協力は得られず、

 事務所の都合で仕方なく理亞さんだけが収録や脚本会議に出たそう。

 

 それは置いておいて、

 制作の最中で真姫のエロゲー出演が決まったものの、

 梨子ちゃんの役はもうすでにキャスティングが決まっていたので、

 動かすことが出来ず、でも真姫には参加してもらいたいのでどうするか?

 では、まだキャストが決まってなかった鹿角理亞(をモデルにしたキャラ)を削って

 ファンディスク以降で登場させて声を担当してもらおう。

 ということになったらしい、私は全く関係ない。

 

「理亞、ファンディスクが出れば主役にして貰えると言われたではないですか」

「本編で、本編で絡みたかったんだ!」

「理亞、私もファンディスクからの出演ですよ?」

「姉さまは出るのに! 私は! 姉妹レズシーンが!

 こういうシナリオがありましたって言われて原画を見せられて!

 納得なんか、納得なんか出来るかー!」

 

 理亞さんガチ泣き。

 ステージ冒頭にアンリアルの二人が前座として出ることに

 黄色信号が灯りそうな嘆きっぷりに困った表情をする一同。

 が、ここでやり手プロデューサー(信じられない)の妹がとんでもない提案をする。

 

「わかりました、ではこうしましょう。

 まず、真姫さんに理亞の声を担当して貰います。

 シナリオはあるのですから、読んでいただきましょう」

「……姉さまは?」

「そこにいる金髪にでもやらせます」

「ええ!?」

 

 それを聞いた理亞さんが目を輝かせ、多少の演技力の無さには目をつぶる!

 と言い、ネコみたいな態度で私の胸に顔を擦り付け、

 では、ライブでは最高のパフォーマンスを見せてくれますね?

 もちろん! この命に代えても!

 みたいな会話をして理亞さんも退場。 

 呆然とルンルン気分の背中を見送りながら、私は思わず天を仰いだ。

 

「姉さん? わかっているとは思いますが」

「あ、もしかして、理亞さんを乗せるための冗談だった?」

「いろいろな方のモチベーションに関わるので真剣に演じてください」

 

 ダメを押された。

 なお、ダイヤさんがあの女の匂いがする! 

 と言って、私の胸に顔を埋め始めたので、亜里沙の機嫌がちょっと悪くなった。



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