三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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亜里沙ルート 第二話 03

 ステージ脇。

 拍手が起こることもなく、

 誰に見送られることもなく、

 アンリアルの二人は笑顔を浮かべながら戻ってきた。

 今は少しの休憩期間。

 本当はすぐにでも飛び出していきたいであろうA-RISEの面々を思えば、

 冷徹にもなれず、感情を爆発させることもできず、

 二人してなんとも言えない表情を浮かべたまま、

 頑張ってきた後輩(芸能経歴的には先輩)を出迎える。

 ――それにしても、ダイヤさんシリアス出来るんだったら最初からやってほしかった。

 

「ん……」

 

 ルビィちゃんは一目散にダイヤさんに抱きつき、

 声も上げずに泣き始めた。

 本来なら、大声でも上げて叫びたいところではあったんだと思う。

 言いたいことをぐっと抑えて身体を預ける妹と、その頭を撫でる姉。

 展覧会の中の写真のイチ風景のような、絵のなりっぷりに

 

「姉さまはいないの?」

「聖良さんは出番待ちよ」

「ふん……」

 

 目が銀行強盗並みに釣り上がり、

 まるで凶悪殺人犯の顔写真を体現しました!

 と言わんばかりの表情を浮かべながら、

 右に移動し、左に移動し、

 

「絢瀬絵里」

「なあに?」

「お前は姉さまの代わりだ

 あくまで代わりなんだからな!

 私が心を許すとか、まったくもって、

 これっぽちも……ありえないんだからぁぁぁぁ!!!」

 

 アメフトでタックルでもするみたいに強烈な体当たりで、

 ちょっと腰が心配になりそうな感じで、受け止めることが精一杯だった。

 普段は威圧感で180センチ近くの身長にも思える理亞さんが、

 本当にただの小さな子どものように、自分の胸で泣きじゃくる姿に、

 これからどんな困難が起ころうとも、

 まっすぐ前に向いていけそうな、そんな強い憤りを覚えた。

 仮に、すごく辛い思いをしたとしても、

 怒りで冷徹になれそうなくらい、強い感情を覚える。

 

 あとダイヤさん。 

 聖母みたいな表情を浮かべて頭を撫でながら

 こっちを羨ましそうに見るのはやめて欲しい、あなたみたいな妹はちょっと。

 

 

 立ち上がれないほどのダメージを負ったアンリアルの二人に対し、

 誰も迎えに来たりしないので、マネージャーでもいなかったかな?

 と、キョロキョロと見回していると、その視線の意図に気づいたらしいダイヤさんが

 

「安心してください、黒服……あ、いえ、従業員に迎えにこさせます」

 

 殺伐としたオーラが隠しきれてない。

 でも、よもやアイドルのライブであたかもあちら系の人が来るわけ無いと思ったら、

 

「津島です」

 

 190センチ近くある身長を屈め、

 筋肉でスーツがピッチピチしているこの方は津島さん。

 家族構成などは不明――あ、不明ってことにしておくってことで。

 あと、サングラスはやめて欲しい、たとえ目つきが理亞さんより凶悪でも。

 

「追っていますか?」

「森崎、佐藤、音尾の三人で、大泉と安田は外です。

 安田はマスコットに扮していますから正体は割れないでしょう」

「分かりました、ルビィ、理亞、出番まで……いや」

「いいえ、私たちは最後に出ます」

「それが約束……アイドルとしての務めですから」

 

 SUNNY DAY SONGのイベントのことを指してるんだと思う、

 仮にRe Starsのデビューライブが行われたとしても、

 盛り上がって奇跡が起こる要素など一欠片たりともありえない。

 ただ、悲惨さで言えばA-RISEのあとに出てくる「はじまり。」の面々も負けてない。

 デビュー曲「これから」を引っさげて登場するのは良いけれど、

 あの曲、穂乃果のお願いで卒業ソングっぽく出来上がってるからね……。

 

 津島さんはアンリアルの二人に傅くように退場し、

 ダイヤさんは邪魔者は消えたと言わんばかりに私の胸に手を伸ばす。

 シリアスさ加減がカップラーメンくらいの時間しか続かないことに、

 多少頭痛を覚えてはいるんだけれど。

 

「多少、獅子身中の虫がいるようですね」

「こそこそ話なら胸を揉まなくても」

「黒服が目立つとお考えでしょう? 一番タチが悪いのは鞠莉さんの手駒ですからね」

「……あえて聞かないでおくけど、あだ名とかってあるの?」

「マフィ……ええと、それは良いではありませんか、

 もうすでにスタッフに紛れ込んでいるという事実だけ把握していれば」

 

 それはあんまり聞きたくなかった事実だなあ……。

 と、ここで精一杯のトークで盛り上げてきた姫ちゃんと、にこの頑張りを

 あざ笑うかのような会場の冷めっぷりに、

 自然と表情も引き締まっていくばかりだけれど。

 

 ステージが暗転し、

 ざわつき始める会場内。

 その声に圧倒するようにツバサのボーカルが響き渡った。

 本来のA-RISEのコンサートなら、

 暗転した時点でファンは静かになる。

 これが彼女たちのお約束だから。

 

 たぶん最初の反応で、

 観客が自分たちのことを知らないということを

 無難に把握したんだと思う。

 

 以前、ネットで声が大きい人を黙らせるには?

 なんて聞かれた時に、絢瀬絵里は相手にしなければいいと

 無難に答えたけれど、

 

「そうねえ……そいつよりも大きな声で喋れば良いんじゃない?」

「うるさそうね」

「別に罵詈雑言を大きな声でいうわけじゃないのよ、

 ポジティブなことを、奇跡を、大きな声で、

 悪いものをすべて消し飛ばすくらいに、良いことで世界を覆ってしまえばいい

 そうすれば世界はちょっとは良くなるわよ」

 

 ただ、こんな事を言っておきながら、

 ネットで悪口を言われているのを見かけたらと聞かれて

 

「殺す、殺せるなら殺す、

 そいつが死ぬことで起こるデメリットより、

 死ぬことで起こるメリットのほうが大きいから」

「記事にできないので、もうちょっと言い方を変えてください」

 

 東京湾に沈める等、表現の試行錯誤は繰り返されたけど、

 ほとんどのインタビューは、記事にできないので記者さんが嘆いてた。

 海未といい、真姫といい、記事にできないインタビューの答え披露する人多くない?

 以前、理亞さんが人生を変えた出来事を聞かれて丸戸ゲーのすばらしさを語って、

 絶大なる冴えカノブームが起こったけど、それは結果オーライだからね?

 あとアリスはどうした。

 

「はじまった……」

「これが物語なら、私達は勝ちました……いえ、勝たねばならない」

 

 格闘漫画とかで圧倒される時、身体に電気が走るような、

 そんなビリビリとした感覚と、

 震えが起きるような……

 正直、私ははじめて綺羅ツバサを怖いと思った。

 常人を遥かに超えてる声量に、カリスマ性溢れる仕草、

 ひとつひとつの行動を取ってみると、一つも無駄な動きが見当たらない。

 照明も、曲も、すべてがA-RISEを輝かせるためにある。

 

 

 これがもし、本当に物語なら。

 ハッピーエンドで終わるんだろう。

 今までのことはなかったことにして、

 観客は盛り上がりに盛り上がり、

 手に手を取り合って、全員で踊りだすくらいの――

 ほんとうに、μ'sが起こした奇跡を3人でやってのけてしまうような、

 十年前の秋葉原の盛り上がりを体現するような動きに、

 

「……こんな人達に、μ'sは……勝ったというの?」

「違うわ、ダイヤさん」

「絵里さん……?」

「A-RISEは負けたから今がある。

 μ'sは勝ったから今を迎えてしまった。

 

 ……μ'sの物語ではハッピーエンドだったけれど、

 私たちの人生ってもしかしたら

 

 もしかしたら……バッドエンドだったんじゃないかしら?」

「!? いけません、誰か! 誰かいませんか! 

 気を確かに! どなたか! 来てください! お願いします!」

 

 奇跡の出来事を彷彿する動きに、

 奇跡を体現する事実に、

 すべてが本当に良いことで覆われていくような

 そんな圧倒的なステージに――

 

 一つも盛り上がっていかない観客を眺め――

 

 私、絢瀬絵里は暗転していく意識の中。

 

「亜里沙……ごめんなさい、ダメな、お姉ちゃんだったね……」



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