三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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亜里沙ルート 第三話 03

 自分たちがラブライブ初代優勝者として敵なしだったとき。

 A-RISEにとって敵といえば強いて言うなら自分ら自身であるときに、

 音ノ木坂学院にμ'sというスクールアイドルのグループが出来たとヒナから聞いた。

 UTXの生徒会長として自らの高校よりも音ノ木坂学院のことばかり気にしていた彼女は、

 ついに自らが熱烈な愛情を向ける絢瀬絵里が行動を取り始めたことを喜び、

 高校の文化祭には当時生徒会長職にいた絵里を呼びつけ成長した姿を見せる――

 などと息巻き、会議に会議を重ねて後日文化祭に顔を見せたのは穂乃果さんだった。

 というエピソードがあるけれど、取り立てて大きな話題ではないので割愛。

 

 

 9人揃っていないμ'sというのは、

 楽しげな雰囲気は伝わってくるけれど、実力としてはまだまだというか。

 お遊びで楽しんでいますと言わんばかりのグループであったのは、

 ヒナの発言としても、何より3人でのファーストライブをこっそり見た私としても、

 頷かんばかりの評価であったことは疑いようもない。

 当時から音ノ木の警備がザルだったことはツッコむべき問題ではないとして、

 A-RISEの相手にはなることはない、9人揃ってからしばらくしても、

 私の中の認識としてはそれだった。

 不思議と目が離せない魅力は感じたと、

 μ'sに対してどう思うか聞かれて答えたことはあるけれど。

 ほとんどはリップサービスというか、少なくとも本当に自分の下した評価じゃなかった。

 来春高校生になる中学生を対象にした学校見学会において、

 一人で行くのは不安だからとヒナにせっつかれて一緒に見に行った際、

 警備員の人はスルーしたのに南理事長はバレて何をしているのか問われた折、

 結構良いところまで行くんじゃないですかね? と相手をいい気分にしたのは――

 友人である絵里にすら言っていないエピソードである。

 なお、ヒナのせいで希さんと亜里沙さんには私がいることがバレていた。

 

 

 たびたびμ'sのことは気にしてはいたけれど。

 自分たちの驚異になるであろうことはない。

 良いところもあるけれど、悪いところのほうがもっと多い。

 なにか問いかけられれば頑張ってくださいくらいのコメントでオッケー。

 あんじゅと英玲奈の評価はそんな感じだった。

 私も二人の判断は間違っていないと思うし、

 μ'sを下に見て油断をしたという側面があるという指摘は甘んじて受ける。

 後にも先にも相手の実力を把握せず敗北した経験は高校時代の一回しかなかった。

 

 

 ある時にそうだ、μ'sを見に行こう。

 と、京都に行くみたいに思い立った私は練習を早めに切り上げ、

 音ノ木坂学院に変装をして潜入することに成功した。

 もし、UTXがオトノキ生に同じことを許せば警備員の人のクビが軽く飛ぶけれど、

 そこは私が気にするべき問題ではないし、

 その点のおおらかさは見習うべき点だったと後日に感じている。

 ただ、メガネやウィッグをして行ったけれど、姿が弟の女装した姿にそっくりだったのは、

 姉弟であるのだなあと頷かざるを得ない。

 身長が同じで留まっている可愛い可愛い弟は――などといえば英玲奈にツッコミを入れられてしまうので自重。

 ただ、別に変装をして誤魔化さなくてもヒナに何がしかの書類を偽造でもさせれば

 諸手を挙げて自由に校内を闊歩できたのは――

 今更何を言ったところで意味がないから棚に上げておく。

 

 

 人づてにオトノキの制服も入手し、これならばバレないだろう。

 正門から堂々と潜入し、入るまでには多少緊張はしたけど、

 誰ひとり気に留める様子がないので多少解せない点も感じたのは事実。

 後日談ではあるけれど、当時高校に遊びに来ていた亜里沙さんにはバレていて、

 一部の生徒も見慣れない人がいるというのは気がついていたらしい。

 そりゃあほとんどの生徒が持ち上がって小学校から一緒なのだから、

 見たことがない生徒がいれば警戒するのが当たり前だ。

 当時生徒会長職にいた絵里が何も問題にしなかったことがおかしいのである。

 心優しい生徒からμ'sが屋上で練習をしていることを聞き出し、

 見学をするふりをして風景を覗き込んでいると、当時から敏かった希さんにバレて

 今度編入する生徒で、たまたま近くに来たので見に来てしまった――

 という私の言い訳を、疑わしいと思う子の方が当然多かったけど。

 絢瀬絵里を中心としたμ'sで発言権があった面々が歓迎してしまったためにお咎めはなかった。

 結果的に絵里の評価が下がったのは私の問題じゃない。

 ただ、ヒナから聞いていた孤高の天才絢瀬絵里というのは間違いだったと、

 認識を改めたのは――まあ、追加するエピソードでもないので省く。

 

 

 とにかく見学できる立場にはなれたので、

 熱意を向けて練習に励んでいる彼女たちの様子を眺めた。

 ひたむきさと情熱は指折りで生真面目さも感じた。

 中心で指示をしている海未さんの影響ももちろんあるんだろうけれど、

 何事にも真剣にやるというスタンスは、UTXの一部の学生にも見習ってもらいたいな。

 なんて感じたのを記憶している。

 

 

 しばらく見学しに来た私を放置して練習に取り組んでいるμ's。

 変装していない私が同じ扱いをされれば、多少は機嫌も損ねようものだけど。

 とにかくメンバーの能力を冷静に判断することはできた。

 個人で実力に優れているというのは……歌唱力で西木野真姫と

 悔しいけれども総合的な判断で絢瀬絵里と矢澤にこの二名。

 アイドルの知識でにこさんが絵里を凌駕しているけど……。

 なににせよ、よほど頑張らない限り自分たちの驚異になることはない、

 9人の調和と個々のバランスは優れていて――ただ、

 スクールアイドルで最初こそ仲がいいです! という面々も、

 時間を追うに従ってバラッバラになる、とても悲しいことに。

 一人が突出した実力なんざ持っていると飛躍的に決別が早くなる。

 仮にA-RISEが統堂英玲奈と優木あんじゅという組み合わせでなかったら、

 自分は一人でいたか、ヒナあたりとゲームでも作っていたかも知れない。

 少し話は飛んでしまったけど、μ'sがいつまでも仲良く過ごしそのままでいるなんて

 ありえないと思ったし、レベルがコレ以上に上がらないであろうとも踏んでいた。

 自分たちのようにコーチもついていなければ、プロのスタッフもついていない、

 みんな自分自身の力でやらなければいけないグループが、

 常にサポートを経て最善の選択肢を選んでいるA-RISEには勝てない。

 そのような想定は後から思えば愚の骨頂ではあるし、

 何より想定通りになど最初から進むべきものでもない。

 翻ってみれば私の思い上がりが、結果的に自身が辛酸を嘗める結果へと導く。

 最終的に勝利をするのは自分であるとは疑っていないけれど、

 こと、女性的なスタイルという点では負けっぱなしで常に完敗。

 人が求めるものは得てして手に入りづらいのであるなあ、人生というのはバランスが取れている。

 

 

 へとへとになって倒れ込んでいるのがほとんどの中で、

 いい汗をかきましたと言わんばかりにクールな表情でリラックスしている絢瀬絵里が、

 そういえばいたんだくらいの認識度で、笑顔を作って私に近づいてくる。

 ヒナから聞いた話では多角的に才能を発揮し、こなせないことはほとんど無いという話だった。

 実際に練習でも"それなりの”動きをしていたし、周りもよく見えていると思う。

 自分ほどではないけれど、UTXにそのまま編入してもそれなりの位置は確保できる気がした。

 ただ、先にも語った通りに他のメンバーは私に気を使えるほど余裕はなく、

 絵里一人だけが各々を無視して手を抜きましたと言わんばかりの態度であるので、

 はっきり言ってしまえば、何だこいつみたいな印象を抱いた。

 以前からの評価が高かった反面下がるのも早い。

 今になって考えれば、本気でなにかに取り組むことを知らないとか、

 無意識に他人を思って手を抜く傾向があるとか、

 ポンコツというか、うん、ポンコツだったのだけれど。

 そんなことにはまったく気づかなかった私が、

 このスカしたやつを本気にしないといけないと使命感に駆られた。

 芋虫みたいになって動く気配のない小泉花陽さんを見ていると何となくそんな心意気になる。

 

「そういえばあなた、名前はなんと言うの?」

 

 軽い調子で問いかけられ、

 ついつい本名を名乗りそうになるのを慌てて抑え、

 偽名を考えてなかったので、栗原陽向とでも名乗ろうかと思いいたり、

 慌てた結果。

 

「竜宮雪菜です」

 

 母親の旧姓と弟の名前を拝借した。

 よほど調べない限り自分には行き当たらないであろうと思ったし、

 元から芸名みたいな本名をしている手前、

 キラキラネームと言われることには慣れているから平気だった。

 じゃあ、雪菜さんと軽く呼び始めた絵里は、

 

「一年生として二学期から編入してくるのよね?」

 

 二つも年齢を若く見られたと喜ぶべきか、

 自分よりも年下の子どもに見られたことを憤るべきか。

 思わず顔に出てしまいそうなくらいカチンと来てしまったけど、

 ごまかすように更に笑みを浮かべながら、

 

「ええ、そうですね絢瀬先輩」

 

 後にも先にも、絵里のことを絢瀬呼ばわりしたのはこの時限り。

 同時に私は彼女に対して例えられない感情を抱いた。

 ポジティブに見れば、憧れというか、敬意というか。

 ネガティブに見れば、このアマである。

 自分を知っている人間が自分より上に立っていたことというのが、

 あんまりなかったものだから。

 

 

 自慢でしかないけれど、人生において常勝街道を突き進んでいた感のある綺羅ツバサとしては、

 運動や勉強、習い事とか語学とか、

 性差において男性に敵わないというパターンは少なからずあったけれど、

 興味を持って始めたということは、こと同性で負けたパターンというのは最初のうちか

 それとも私が敗北したことを記憶していないだけか。

 UTXに入学した当初にトップに立っていた先輩方は軽く超えられると思ったし、

 同学年では英玲奈が器用さや万能さで、あんじゅが根性で自分と同格かなって思ったくらい。

 自分より優れている女性とか存在しないんじゃないかって、

 まあ、そんな思い上がりもしていたからこそ、

 絵里の何も知らない後輩扱いというのに多少は癪に障る部分があったことは、

 ここで白状しておく。

 

 

「私、アイドルになるために必死になって昔から練習してきたんです」

 

 無意識に人の感情を逆なですることには慣れていても、

 人に悪意を向けられることに関しては異様に鈍感な彼女は、

 何を言っているんだろうといった面持ちで首を傾げている。

 長い付き合いになっているから今となっては分かるけど、

 敵意を向けられたところで、その敵意に基本的に興味がないから、

 ダメージが少ないというのは絢瀬絵里最大の美点だと思う。

 

「本当に修練を重ねたアイドルというものがどのような動きをするのか

 そこでよーっく見ていてください」

 

 過去を振り返ってみればとっても悔しかったのだ。

 自分と同程度か、認めたくはないけどそれ以上の才能を持った人間が、

 上に立ちたくないとか、相手が負けちゃったら可哀想とかいう感情のもと、

 生来の優しさで実力をまったく発揮できないというのが。

 良いというべきか、悪いというべきか。

 おそらく後者ではあるのだろうけれど、

 この日を境に私はレッスンやら色々なものにおいて遠慮することが無くなった。

 トレーニングをするとなればオーバーワークギリギリまで取り組むし、

 知識や教えを請う必要があれば、相手が苦笑いをするまで追い込む。

 全力で取り組むのはともかく、

 周りに合わせることを忘れてしまったという点では、

 A-RISEのリーダーとしては致命的な欠点であったように思う。

 輝かしい実績を残してそのまま卒業するはずであった英玲奈やあんじゅには申し訳無さでいっぱいだ。

 

 それはともかく。

 疲労で生意気な後輩に対して何だこいつみたいな印象を隠せなかったμ'sの面々には

 本当にまったく申し訳がたたないではあるんだけれども。

 ハニワプロの太陽の日にもスタッフとして紛れ込んでいた、ヒデコさん、フミコさん、ミカさんの手により、

 私専用のステージまで用意された。

 当人たちが大したものではないと言っていたけど、20分足らずで材料から何まで用意していて、

 彼女たちをUTXにスカウトしていれば私たちは負けなかったのではないか疑惑が生じる。

 小銭稼ぎでプロ並みの仕事をしているスタッフじゃないボランティアって一体何なのだろう……?

 

 私と正対するように絵里がぼけっと座っていて、

 体力的に回復して余裕が出てきた海未さんと、余裕はないけど喧嘩を売られたと

 微妙に憤った感情だけで西木野真姫さんと矢澤にこさんが張り付くようにして見ている。

 穂乃果さんやことりさんや海未さんを小馬鹿にするつもりなど毛頭ないけれど、

 実力差を見せつけるには、同じ動きで差異を披露するのが一番だ。

 μ'sの実力を見に来たのに、いつの間にか自分が実力を披露しようとしている――

 まるで絢瀬絵里みたいな行動をしているな、と私は思わず述懐してしまうけれど。

 μ'sが三人であった時に披露されたSTART:DASH!!の動画を撮影したのは、他ならぬ絵里だったそうだけど、

 それを知らないで、カメラワークやら撮り方を褒めてしまったのは迂闊だった。

 私の話をやたらニヤニヤしながら聞いているを怪訝に思い問いかけたら、

 実はあの時なんて言い始めたので、盗撮と盗撮映像のアップロードは犯罪と負け惜しみを言うしかなかった。

 

 

 レッスンの数倍力を入れて踊りきった瞬間やけに気持ちよかったのを覚えている。

 どうだと言わんばかりに絵里を見てみると、彼女ばかりはふぅんみたいな表情で。

 ただ、凛さんや花陽さんは口を開きながら拍手していたし、

 にこさんと真姫さんは屋上の端っこに行って我関せずの態度を示していた。

 一番実力を理解させたかったやつは、ああそうと言わんばかりで私としては不満だった。

 

「なるほど、ある程度の実力はあrムグムグ!?」

 

 ドヤ顔で自分たちのほうが実力は上だと言おうとしてしまったのを、

 周りにいた面々が寄ってたかって押さえつける。

 みんながとんでもない人に目をつけられてしまったと振り返っている中で、

 絢瀬絵里ただ一人が、この程度のアイドル相手なら勝てると思っているあたり、

 この人はもしかしたら底抜けの馬鹿なのではないかと認識を改めている中。

 

「すみません、ほんとう、もう、この人にはよく言って聞かせますので……」

 

 お客様に向けての不自然過ぎる笑顔を浮かべた真姫さんが私に言った。

 扱いは粗相をしてしまったペットみたいな感じで、

 まるで敬意というものが感じられなかったので、そこまでしなくて大丈夫ですと思わず言っちゃった。

 海未さんやにこさんに引きずられるようにドアに連行された絵里は

 いくら私のほうが実力で優れていると説明を受けたところで、

 「あれくらい誰でもできるんじゃないの?」みたいに言っていて、

 いつの間にか私にヘコヘコ頭を下げているのがまきりんぱなに増えてしまった。

 そこまでいくと憤慨しているのもバカバカしくなってしまい、

 自分の実力に見合わないナルシストだと判断し、その心を積極的に折りに行く。

 ただ、この際の出来事が結果的にA-RISEを敗北へと追い込んでいるので、

 すべてが絢瀬絵里の思惑通りだったという都市伝説は笑顔で否定しておく。

 

「では、絢瀬先輩にも同じことをして頂ければ良いと思います」

 

 私の発言を聞いて、凛さんはあーあみたいに実際に言ってしまい、

 他の面々も凛さんと同じような表情を浮かべながら、言わんこっちゃないと首を振る。

 ただ、金髪ポニーテールだけが、

 

「なるほど、汚名挽回ということね!」

 

 と宣言、みんながもうダメだみたいな顔をしてうつむく中、

 不安げな表情で見られていることにも気づかず、

 鼻歌なんぞを歌いながら準備をする絵里。 

 

 ――しかし、そこからは絢瀬絵里のオンステージだった。

 曲が始まってからしばらく、振り付けはそんなに覚えていないから、

 自分の動きで合わせられるところは合わせると言っていたけれど、

 私と同じくらい……いや、私よりも数倍魅力を増した動きでダンスを披露してくれた。

 敗北したことを察した私は、呆然としながら絵里を見上げる他なく。

 μ'sのみんなが私をスルーして彼女を褒め称えるのを肩を落としながら眺めるほかはなかった。

 

 気落ちして記憶が無いのだけれど、

 なんとかしてUTXに帰った私はヒナに連絡を取り、

 亜里沙さん経由で絵里のメールアドレスを知ることに成功。

 竜宮雪菜としての絢瀬姉妹との交流は高校卒業まで続いたのだけれど、

 雪菜として教えたメールアドレスと、いまの私が絵里に教えたメールアドレスは

 ほぼ一緒だったというのに正体に感づいていない件について、

 彼女が目を覚ましたら事情を聞いてみたいものである。



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