アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

65 / 199
亜里沙ルート 第三話 01

 ハニワプロによるステージイベントは、

 多少のイザコザはあったとはいえ、なんとか成功をおさめた。

 ただ、もっと大規模かつ手放しに褒められるほど、

 はっきり言ってしまえば後世に語り継がれるレベルでの大成を期待されていたらしく、

 私を快く思っていない人たちから、資金の無駄遣いとか聞こえる範囲で

 いろいろ陰口を叩かれているのを知っている。

 なにも、罵詈雑言を浴びせられているからという理由ではなく、

 UTXに対して不信感を持つに至る経緯もあり、

 熱心に自分を誘ってくれた学長が体調不良で、

 業務を違う人間に任せているといったことも手伝い、

 今一度自分自身をどういう扱いにしたいのか、あるいは、

 今回のライブについてどのような感想を抱いたのか。

 それ如何によっては辞意を告げて、こころの世話にでもなろうと思っていた。

 

 

 今回のライブでの多くの観客は、マインドコントロールのようなものをかけられていた。

 ようなものというのは、かけられていた当人たちが記憶が混濁しており、

 副作用や悪影響といったものも感じられないので、精神操作とするより

 魔法とかそういう類のものをかけられたのではないかと希が言っていた。

 あんじゅさんが彼のことをオトートくんと呼ぶので、それに準じてしまうけれど。

 ライブの際に一番始めに呪縛が解かれ、観客達の盛り上がりに協力後、

 イベントの成功した伝聞の流布のために協力までしてくれた優木せつ菜クン。

 あんじゅさんに対する好感度とその報われなさ加減は置いておくにしても、

 今回のイベントに向かう際にセミナーに呼ばれて、その後記憶があやふやであるとか。

 ただ、覚醒した際に一瞬で状況を理解し、多くの観客を扇動し、

 この度のライブの成功を収めた功労者としての資質は疑いようもなく、

 また、到底嘘を言っているようにも思えないので、盛り上がりに至らなかった経緯には

 何らかの大人の事情がふんだんに盛りこまれていたと判断せざるを得ない。

 一部の生徒からはUTXを汚すようなライブの出来だったという評判もあるようだけれど、

 それに関してはせつ菜クンや他生徒の協力によって下火になっている。

 しかし、何かの都合で一部の講師たちが私とかを排斥するために、

 真実のライブの評判とやらを流しているのを知っていた。

 学長とされる人間がどちら側に立っているのか、ひとまず知っておきたい。

 

 

 先にセミナーと言ったけれど。

 今回のライブを楽しみにしていた多くの生徒達は、UTXのバックアップも手伝い、

 イベントを成功に導くために活動をしよう、先輩たちの偉大な形跡をたどり、

 自分たちの糧としようと活動計画を練っていると、

 参加者一同がイベントホールに集められて、それから記憶が不明瞭であるとか。

 UTXの一番のスポンサーを名乗る人物とか、新しい学長が挨拶をしたような、 

 そんな記憶はあるみたいだけれど、確実にそうであるとは言えないみたい。

 たしかに今回のイベントは、多くの協賛を経て行われたけれど、

 一部の企業が独占する形でスポンサーにはなってはいないし、

 声の大きな企業が口出しをした形跡は特に見受けられない。

 何よりそのような人たちが私たちに挨拶をするならともかく、

 観客の生徒に何かを告げることなど不自然だ。

 なにより希が警戒している通り、

 人智を超えた魔法のような力で生徒たちは動かされていたとするならば、

 ヤブを突っついて蛇を出すこともないし、私が巻き込まれるなら自業自得だけれど、

 生徒たちに何がしかの悪影響を及ぼすようであれば死んでも死にきれない。

 ごく普通に登校する学生を眺めながら、

 できるならこの問題が彼らに何ら影響を及ぼすことなく解決することを願っている。

 

 多くのマスコミとか、テレビ各社はスルーしているけれど。

 インターネットを活躍の中心とするアングラサイトでは、私たちの映像が流れていた。

 映像というか……例えるなら矢澤にこに限らないけれど、

 参加者に都合の悪い場面や動画が映像として流れて、それを目撃した生徒から

 皆様に謝罪をしたいけれどどうすれば良いのかという相談を受けた。

 多かれ少なかれ、悪意を含まれた編集と悪意を持つように仕組まれた映像を見て、

 その対象に悪意を持つのは自然なことではあるけれど、

 ただ、私たちを悪く言う映像を見てもなお、自分たちが悪いと感じ、

 なおかつ謝りたいと願う生徒を、

 さらには些事な大人の問題に関わらせるわけには行かないのだ。

 だから、泣かせてしまった穂乃果や寝っ転がっている絵里には

 私から謝っておくから、必要なら手紙にでもして欲しいと言っておいた。

 もうすでに、謝罪の手紙複数――ニコニー、少し安請け合いしたと後悔しつつある。

 ネット上に転がっている悪徳なサイトや、人の不幸を飯の種にしているゴシップ誌とか、

 とにかく人の悪意をアクセスの源にしているような場所では、

 かなりステージの参加者は悪しざまに言われている。

 主催であるハニワプロの上層部や、UTXの関係者とかには

 不自然なほど何も言われてもいないし、

 それどころか、愚かなスタッフの暴走に巻き込まれた云々、

 はっきり言ってしまえば、亜里沙ちゃんのことはかなり悪く言われている。

 その様子を、自覚のないシスコンである絢瀬絵里が目撃したら、

 どれほど怒りに震えるだろうか?

 その点においては、峠は越したらしいけれど未だに意識を取り戻していない彼女に

 都合の良い事実となっていると判断しても良いのかな。

 

 

 もう少しで今年の梅雨も終わり、本格的に暑くならんという季節。

 そろそろ目を覚まさないと、絢瀬絵里は今年も処女として過ごしてしまいそう。

 ロクに男性経験もないことが、いい方向に繋がることもあれば

 悪い方向に繋がることもあるけれど。

 あの子が個人で困る問題なら私もスルーするけど、絵里に経験がないことで、

 男性に経験がなくても別にいいや、結婚しなくてもいいやになってしまう面々が

 多少なりとも存在してしまうのは頭痛の種である。

 絢瀬絵里を筆頭に、ツバサさんあたりもそうだけれど、

 スクールアイドル全体の処女性が求められるようになれば、

 各アイドルたちの首を絞めるだけだと思うのは、私だけなんだろうか……。

 それはともかく。

 UTXの学長がいる個室には、私も数度しか訪れたことはない。

 お互いに暇だった時代に、甘いものでも食べますかみたいな感じで

 ちょくちょく顔を出していたりはしたんだけれど。

 多くの調度品や、芸術品、骨董品の類が置かれていて、

 私なんぞには一つもその価値がわからない物品を見ながら、

 この中にあなたの銅像でも加えますかと言われたので丁重にお断りした。

 見た目からして、お金が好きそうな成金趣味みたいな外見だけれど、

 その実、慈善事業や公共事業にも寄付をしているいい人。

 頭もかなり切れるタイプで、この学長が代替わりする前にUTXにいたツバサさんが

 この人が学長だったら自分たちはラブライブで連覇してたかもしれないと、

 真顔で言ったことがある。

 私もそれくらいはやってのける人間だと思う。

 顔も広ければ、悪く言われることも少ない器用な人だったので、

 今回無理が祟って体調を崩してしまったようだけど。

 まあ、どうせすぐに戻ってきてくれるに違いない、たとえ私がここの講師でなくなったとしても。

 

 

 綺麗に掃除が行き届いている廊下を歩きながら、

 ここ最近珍しく陽光が射し込んできて、日焼け止めが欠かせない季節になってきた。

 教室内を使えない生徒が、外で元気に活動をしているのを眺めながら、

 過去にはアイドルという存在を嫌いになりかけたことが、

 遠い昔のように感じることがある。

 小さい頃から自分がアイドルだと思っていたし、

 また、アイドルになるという目標のもとで過ごしていた。

 実際にグループの一員とはいえ夢も叶えることができたし、

 A-RISEよりも前に知名度を上げて、スクールアイドルの中の勝ち組にもなった。

 ことりが幼い頃からの夢を叶えて有名デザイナーになった例外もあるけど、

 基本的にμ'sの面々で将来の夢を叶えたという人間は数少ない。

 ツバサさんみたいに、夢? 

 ああ、なんか、すごい人になるんだろうなくらいのことは思ってた。

 みたいな才能の持ち主なら、夢を叶えても幸福が訪れたのだろうけれど。

 そんな事を考えながら歩いていると、

 学院長室の少し手前、壁のあたりに背中を預けて、

 私を待ち受けている統堂英玲奈の姿があった。

 背が高く、クールな印象をもたせる外見……私なんぞには逆立ちしても真似できない。

 腕を組みながら切れ長の目をさらに細めて、さも私格好いいだろうと言わんばかりだ。

 ただ、弱点は多く、パソコンもインストールとダウンロードの違いがわからない、

 スマホは通話しかできない等、脳みそのレベルはかなり化石。

 妹に自慢がしたいという一心で、

 ここ最近罵詈雑言しか書かれていない私たちの評判を

 ネットサーフィンによって身につけて、ツバサさんに余計なことをするなと怒られた。

 統堂英玲奈という名前のとおり、

 統堂朱音ちゃんはおそらく血の繋がった妹なんだろうけれど、

 その能力の差は明確。

 血の繋がりがあるかも怪しいレベルだけど、そんなことを告げれば、

 妹と結婚ができるなとか真顔で言い出しかねない。

 見た目が超クールで女性人気も男性人気も高く、

 男性とお付き合いしたこともあるらしいけれど、それが真実なのか怪しくなってきた。

 生徒とか、一部の講師とかお姉さまとか女王様にしたい人ナンバーワンだけど、

 そんな彼女の夢は朱音ちゃんの妹になること。

 

「来たな、にこ」

 

 ネット上に転がっているA-RISEへの悪意のコメントで、

 度を越したシスコンという、唯一真実を捉えているものがあり、

 憤ってなんとかこいつを断罪できないものかと相談を受けたけど、

 どうあがいても真実なのでこちらとしても反応に困る。

 

「英玲奈は別にやめなくても良いのよ」

 

 私と今のUTXのトップとは反りが合わない。

 お世話になった学長も今はいないし。

 なにより、一部の講師からは私の評判が悪いことも知っている。

 不愉快な思いをして生徒を指導する義理もないし。

 しかしながら英玲奈はUTX出身のスーパースター。

 自分とは扱いも立場も異なっているし、おまけに発言権もある。

 口を開けばアホなことを言う確率は高いけど。

 

「私は別に人の評判は気にしないからな

 朱音とあんじゅとツバサが例外……いや、朱音かな?」

 

 真っ先に妹からの評価を気にするあたり、

 度を越したシスコンという評価は揺るぎなさそうというか、

 あれを書いたのが私たちの関係者でないことを祈る。

 おそらく、講師を辞する件も朱音ちゃんの態度が響いているだろうし。

 ただ、英玲奈は勉強ができないとされる芸能科の中でも平均よりも下の学力で。

 芸能関係以外で働いた経験はないと言うし、転職するにはかなり敷居は高そうだと、

 私なんぞは思ってみたりはするんだけれど。

 

「ふふ、安心しろにこ。

 私はいま小学校低学年に勉強を教えているぞ

 同じ目線に立って教えているので評判もいいんだ」

 

 学力に関して救いようのないレベルで底辺這いつくばっていると、

 言われているようなものなのではないか。

 まあ、本人が満足そうなので特に何も言うまい。

 

「にこは弟くんを大学に行かせたいのだろう?」

 

 矢澤家が生活に困窮しているのは過去の話。

 妹が、元手もなく一山当てたいがために書いた異世界モノのラノベが

 とても信じられないことにアニメ化をするらしい。

 印税を中心としたお金が毎月のように入ってくるし、

 もうひとりの妹のこころは、桜内梨子ちゃん卒業後のとある店で

 なんとトップ……ええと、トップとしておこうか。

 とにかくまあ指名できない感じの人扱いで、私よりもよっぽど稼いでる。

 女性の扱いで人気が出るように絢瀬絵里を参考にしたというのは、

 こころの談ではあるけれど、あいつのどこにそんな要素があるのか疑問だ。

 もともと母親に楽をさせたいとか、裕福な生活を送りたいとか、

 あんまり歓迎できない考えのもとで行われた貯金は、

 コタの大学入学の資金には充分すぎるほど溜まってしまった。

 私も、双子の妹たちも時間があれば大学生活を送ってみたい、

 そんな願望もあり、今は真姫ちゃん経由で教えてもらった人と勉強をしていたりもする。

 

「今の学長には義理もないし、

 しばらくは絵里みたいに妹のスネカジリでもしようかしら」

「そろそろ絵里も目を覚まさないといけないな、

 ツバサのサンドバックがなくなって周りが迷惑している」

 

 絢瀬絵里の回復を多くの人間が願っている。

 その態度を示さない子もいるけれど、絵里が元の生活に戻るまで、

 心配をかけないように自分たちは元の生活に戻ろうとして、

 変遷はあれど、仕事に集中していたりする。

 まあ、だいたいの面々がもともとしていた仕事をやめたりなんだりせざるを得なくて、

 私もその面々に加わることになりそうなのはご愛嬌というか。

 

「では、中に入ろうか」


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。