三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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亜里沙ルート 第三話 10

 春の日の音ノ木坂学院。

 げに懐かしい学校の姿に、古木の桜の上に私たちはいた。

 例えるなら桜の妖精みたいだけれど、周りからは見えていない様子、

 仮に見えていたとしても困っちゃうけど、あいつ生徒会長だろとか言われたら落ち込むよ?

 かつて見た新しくなって華美になった制服とは違い、自分が通っていた時代の――

 廃校問題でピリピリして、周りにやたらと壁を作り、思い出したようにアコースティックギターにハマり。

 周囲からの扱いはなんだこいつだったろうし、今でも多分なんだこいつではあるんだろうけど。

 見たくないかと問われれば確かに振り返りたくない記憶ではある。

 できればμ's加入以降の私が見たい、ボロは出たけど、過去よりもマシ。

 

「絵里お姉さんが高校二年生の春みたいですね」

「ということは、新入生でやって来るのは穂乃果たちか」

 

 あまり記憶にはないけど、とりあえず生徒会役員として忙しなくいたのであろう。

 自分がとりわけ色々こなしているのを見るのかと思えば、少々憂鬱だけど。

 あんまり力もないくせに人に頼るのが苦手な私が苦労したのは、

 やっぱり人手がいる作業だった、希はあんがい力仕事はサボりがちだったし。

 そして気がつけば校内へとやってきていた。

 さてさてどんな景色をみるのかと考えていると、

 南ことり、園田海未、高坂穂乃果の姿が体育館の前に集っている場面だった。

 海未と多く付き合っているせいで分からなかったけれど、

 10年前のことりや穂乃果というのは幼い顔つきをしていたんだね……。

 なんかやたらと罵倒される確率の高い南さんの記憶があやふやだ。

 

「本当にだいじょうぶなのですか穂乃果、校内の地理もまだ把握してはいないのでしょう?」

「お手洗いくらいは行けるよ! だいじょうぶ! 私を信じて!」

「では何故、先ほどお手洗いに行かなくても良いのかと問いかけた時に平気と……」

 

 海未は穂乃果に神経を注いでいる。

 ただ、彼女たちも入学式の出席があるのか、

 多少後ろ髪を引かれる思いがあったとは言え、両名は穂乃果を自由にすることを決めたみたい。

 真面目な部分は変わらないようで――あと、ことりは基本的に二人に対してノータッチみたいで。

 おそらく心の底ではすごく心配しているのであろうけど、穂乃果や海未を尊重している様子。

 過去の自分を事なかれ主義の甘ちゃんと称したことりを見たことがあるけれど、

 私の周囲の人間ってそんな人間ばっかりじゃない? 自分がその代表であることは自覚してるけど。

 穂乃果はお手洗いとは逆方向に歩き出し、案の定迷った様子。

 私は慌てて声をかけようとして、雪姫ちゃんに無理ですと止められた、そりゃそうだ。

 

「これは問題だ……トイレ行きたい度合いも問題だし、ここがどこなのかも分からない」

 

 穂乃果のつぶやきにリプをかっ飛ばそうとした絢瀬絵里ではあったけど、

 当然届くわけもなく歯噛みする思いがした。

 誰か助けを求められる人材はいないかと彼女と一緒にあたりを見回すと、

 出てきたのは紛れもなく私自身だった。

 以前見た写真みたいに憂鬱そうな不幸面を携えて、

 何か仕事でも抱えているのかアンニュイなため息をつこうとして、穂乃果の姿が目に入ったらしい――

 キリリとした真面目そうな表情を作り、困っていませんが何かみたいな顔をする。

 頭を抱えたくなる衝動が浮かんできたけど、雪姫ちゃんにこれが地獄の一丁目です! と実況され、

 確かに黒歴史を見るっていうのはメンタル面のダメージ大きいと思った、とてもつらい。

 

「そうだ! あの人に声をかけてみよう!」

 

 当時怖いもの知らずであった穂乃果は、金髪ポニーテールと言えども、

 そして何より、ヒナにダイヤモンドプリンセスと称された硬度高そうなヤツ相手にも

 なんの遠慮もなくコミュニティの一員にしてしまおうとしてしまう。

 私はと言えば、やめろ! それは罠だ! あいつはお前の知っている絢瀬絵里じゃない!

 と必死になって思考しながら雪姫ちゃんにどうしたんだろうって目で見られてる。

 

「あのーすみません!」

「……」

 

 スルーする私をぶん殴りたくなって仕方なかった。

 穂乃果は私の目を見て声を掛けたのに、ぷいっと顔をそらし、かつ無視するという所業。

 こりゃオリ主とかに説教されてもしょうがないわ、絢瀬絵里やばいわ。

 でも、アニメの果南ちゃんを見る限り、彼女あたりも説教されても良さそうだけど、

 そうじゃないのはなんで? 人徳の差?

 

「どうしよう……きっと英語じゃなきゃ通じないんだ……」

 

 無視されていると思いもしなかったらしい穂乃果は、困ったように眉を寄せる。

 当然、金髪にも聞こえてはいるだろうけど、明らかにニホンゴワカリマセンみたいに

 黙殺してすたすたと歩き出していこうとするので、結果穂乃果は――

 

「トラブル! トラブル! ミートラブル!」

 

 とりあえず困っているのを英単語で表現し、結果絢瀬絵里の同情を引くことに成功した。

 ここで本当に無視できないあたりがポンコツたる所以だと思うんだけれど、

 そして何より金髪が何らかの事情で自身も困り果てているあたり、

 こいつらなんとかならないかなって思った、問題があるのはてめえだと言われれば

 涙目でうつむいてお話を聞かざるを得ない、勘弁して欲しい。

 

 

 お手洗いに行くことに成功した穂乃果を見てから逃げようとする生徒会役員(笑)

 この時点ですでに会長職に就いていた気もするけれど、

 1年生時から繰り上がりで役職自体は変わってないから、立場的にはおそらく役員。

 ただ、すでにもう仕事を一人でこなしているあたり、

 絢瀬絵里さんの人徳が心配、他者からの好感度はおそらくバッドエンドルート直行。

 しかしながら、金髪さんの誤算は穂乃果はそういう人物にこそグイグイ来ることであり、

 近づいてくる彼女を口調では邪険にしつつも、心の底では安堵してる。

 迷惑そうな顔をしながら、さり気なく距離が近いことに当人ばかりが気づいていない。

 

「これから入学式なのにお仕事なんですね」

 

 穂乃果のかいしんのいちげきで会長はぐてっとダメージを受ける。

 会長として挨拶をしなければならないのだろうし、きっと徹夜で文章も考え、

 おそらくメイクで色々とごまかしてる。

 目にクマはあると思う、疲労度80%くらい、体力ゲージは赤バー。

 いつもフォローしている希がいないのは、教師と私との折衝で苦労しているんだろう、

 寝坊しているのでこの場にいないという可能性もあるけど、とりあえずそれは無視する。

 そしてこの場にいる雪姫ちゃんの私に対する評価が心配、

 だって、多くの人からポンコツと呼称される私しか知らないのよ?

 流石にギャップありすぎて萌え要素からは逸脱してない? コメントがないのはそのせい?

 

「こんな荷物運べませんよ、入学式が終わったら私も手伝うので後にしましょう」

「仕事が立て込んでいるのよ、あなたはさっさと体育館に戻って」

 

 できないと言われれば反発したくなるお年頃、いや、年というより私の習性?

 青い目、ツンデレ科みたいな感じ、おそらく希はそのあたりわきまえてる。

 ただギャルゲーとかならデレるけど、この人しばらくデレないのよね……。

 とにかくついてきた穂乃果を無視するようにして、ちゃっちゃか重たそうな荷物を持とうとして、

 がくりと力が抜ける、パワプロのサクセスで故障率が高いのに実行したみたいな感じ。

 

「無茶です! ダメです!」

「あなたには関係ないでしょう?」

「先輩には助けて頂きましたから、今度は私が助ける番です!」

 

 穂乃果の健気さにアラサーの私が泣きそう。

 視線をそらして仕事をしようとしている人間もこみ上げてくるものがあったらしく、

 クールを装って知ったこっちゃないみたいなこと言ってるけど、完璧に鼻声。

 彼女に手を引かれるようにして色々荷物がある部屋を抜け、

 金髪さんは顔ではしょうがない子ねみたいに言ってるけど、

 どう考えてもしょうがないのは手を引かれている方、我ながら恥ずかしい。

 式が始まっている体育館に穂乃果と一緒に登場し、

 ありとあらゆる人物の視線が向くなか、手を引いている彼女を強引に席に座らせ、

 状況を尋ねてきた教師に迷子を連れていたのでと言ってる、

 周囲の心証は迷子はこいつだろで間違いないでしょうけど、当人ばかりが気づいてない。

 

「絵里お姉さん苦労されてたんですね」

「自業自得だけどね……」

 

 やれやれと首を振りたい私に、気の毒そうな視線を向ける雪姫ちゃん。

 彼女の見た目は小学生くらいなので、そんな幼女から気の毒な目を向けられるアラサー。

 ちょっとロリ同人としてはフェチ方面に偏ってない?

 ともあれ、会長としての仕事を無難にこなし、

 興味有りげな希を 私何も悪くありませんと言わんばかりにスルーし、

 誰に挨拶するわけでもなく、誰に相手をされるわけでもなく、

 ただひとり孤独に仕事に戻ろうとする、おそらく仕事が友達――

 未来にニートになる人間とは思えない。

 

「あ、やっぱりここにいた」

 

 心臓が飛び上がらんばかりに驚いているであろう金髪生徒会長に対し、

 ほのぼのとした笑みを浮かべて近づいてくるμ's二年生組。

 自分の記憶を辿れば、おそらく教室で自己紹介なり何なりをしている時間。

 それをすっぽかして哀れな会長を相手にしてくれるのだ、ちょっと泣きそう。

 なお、海未は少々機嫌を損ねているみたい、ことりはニコニコしてて感情が読めない。

 怒りに震えていることはないだろうけど、

 ここ最近の彼女は笑顔でいればいるほど機嫌が悪いので、

 腸が煮えくり返ってることはあって欲しくない、ぴゅあぴゅあであって欲しい。

 

「あなた達オリエンテーションの途中ではないの?」

「サボっちゃいました」

 

 簡潔極まりない答えに背後で海未が頭が痛そう。

 経緯はわからないけど、穂乃果がサボって二人が追いかけてきたんだろうか?

想像でしかないけど、海未やことりの中では私は穂乃果を困らせている人間であると思う。

 正解ではあるんだけど完璧じゃない。

 今は違うけど、当時の彼女たちは穂乃果がどういう経緯でその意見に至ったかを

 なかなか想像できないでいたであろうし、する気もなかったと思う。

 気の置けない仲であったからなのだろうし、子どもであったのも理由の一つ。

 結果、穂乃果は大学生活やその他の生活でトラウマ作るんだけど、

 当人よりも海未やことりの方が深い後悔の念にかられているのはその辺の事情もある。

 

「さ、さっさとお仕事片付けちゃいましょう、お手伝いしますよ」

「好きにすれば?」

 

 とはいえ、力仕事にあたっては海未の力がなにより重視され、

 ポンコツ絢瀬絵里の数倍の速度でさっさと重い荷物や整理整頓で力を発揮。

 当時にμ's二年生組を生徒会なり、自分の手伝いに引っ張り込んでいれば、

 その後の生活において必要以上に苦労することはなかったのではないか?

 なんて、感慨に至りながら判断するのである。

 取り戻される輝かしい生活を思考しながら――

 やがて私たちは先の扉の前に戻ってきた。

 

「第一関門は突破できたようです」

「……まだ第一関門なの?」

 

 疲労度は深刻――

 精神的かつ肉体的にも体力は微妙、とは言え霊体みたいなものだから、

 その感覚は精神的な疲労に委ねられる部分が大きいんだけど。

 第一関門から既に絢瀬絵里で笑おう企画みたいであるけれど、

 神様というのはこういう黒歴史抱えている人間が好きなんだろうか?

 

「ええと、聞いた話によればこれから進むに従って暗い歴史が」

「疑わしいけれど、とにかく先へ行きましょう」

 

 第二関門はどんな世界が待ち受けているのか――

 半分くらい気落ちするであろうと思考しながら、諦めにも似た気持ちを抱えつつ。



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