三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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亜里沙ルート 第三話 13

 私が今使用している個室からは晴れ渡る空が見える。

 入院している間に季節は秋となっているけれど、窓を開ければムワッとした空気と

 やりきれない思いに駆られてしまいそうなほどの熱が入ってくるので、

 身体にあまり良くないとは思いつつ、冷房のお世話になっている。 

 病院全体で使っている空調とは別に、私の部屋には

 お見舞いと称して持って来られた空調機器が備わっていて。

 入院患者である私一人ではなく、お医者さん、看護師さん、

 果ては友人の面々も涼みにやって来ていた。

 特に真姫の持ってきた冬には暖房機器にもなるという

 ハネのない……扇風機と呼称すれば良いのかな?

 なんでも、部屋で使う機会がないからという理由で持って来られた

 エアマルチプライアーはみんなのお気に入り。

 すっかり昔なじみの口調に戻った亜里沙の言葉を借りるならば、

 お姉ちゃんにはもったいない! だそうで。

 言葉がひどい人になると、絵里ちゃんよりもよっぽど価値がありそう!

 なんだけど、そんなときだけ昔のちゅんちゅんボイスで言わなくてもいいのよ?

 心に穴が開きそうなくらい凹みそうだから――あれ、誰が言ったかボカした意味がないわね。

 精密検査と称してあらゆる場所を調べられた挙げ句に、

 身体に変調がまったく無いので、あなた人間ですかと問われてしまったけれど。

 確かに2ヶ月近く目を覚まさずにいたわりには、身体も自由に動くし、

 筋力もまったくと言って良いほど衰えていない。

 それでもベッドから動けない生活(監視付き)が2日ほど続き、暇だ暇だと訴えていたら

 わかったわかったリハビリさせてやるからとお墨付きをもらい、

 先生の補助の元でバリバリに動いていたら、お前なんかにリハビリはいらないと

 逆に怒られてしまった、立場がないという真姫には誠心誠意謝罪しておいた。

 

 入れ代わり立ち代わり、さまざまな人達がお見舞いに来た。

 あまり関わりのなかった人から、μ'sで一緒に過ごして

 ここ最近までお酒を飲んだりなんだりしていた仲のいい友人まで。

 そろそろお酒が飲みたいとツバサに言ったら、実はちゃっかり持ってきていると

 とある日本酒を差し出され、ハラショーと盛り上がり酌み交わしていたら、

 あっけなく酒盛りをしていることがバレてしまい、

 私ばかりが心が折れそうになるくらい怒鳴りつけられた。

 特に私が目を覚ますまでお酒を飲んでなかった面々の怒りは凄まじく、

 仕事を紹介するという真姫に、今すぐに修行に行かせるという海未、

 海外に売り飛ばしましょうという亜里沙に、小指を落とそうというダイヤちゃん。

 その面々に加わってツバサにも、気をつけなさいよと忠告してきたけど――

 あいつが何のお咎めもなく平然としているのはなんかおかしいんじゃないかとエリチカ疑問。

 ともあれツバサには少々問いかけたい点もあるし、

 二人きりにすると何をするかわからないというお医者様の進言も手伝い、

 歩哨として和木さんに立って貰っているけど、彼女の口は固い……というか、

 多分私の過去になどまったくもって興味が無いので、会話に参加することもない。

 たぶん、この場で殺し合いが始まろうとも平然とお茶でも飲んでる、あの人はそういう人だ。

 

「なに? 訊きたい話って? 人払いまでして真剣な話?」

「ちょっとね、昔のことを思い出してさ」

 

 首をかしげるツバサは、当然とは言え過去とはまったく違う。

 成熟した女性というよりはスタイル的に限りなく少年寄りではあるけれど、

 かといって、男性に見間違えようはずもない。

 髪の毛は伸ばさないの? なんて問いかけてみたら、

 弟みたいな美少女になるんだったら考えると、苦笑しながら教えてくれたけど。

 弟みたいな美少女というのがどんな存在であるのか気になって仕方がない。

 それはともかくまずはお礼。

 

「ありがとう。あなたがいなければ亜里沙は助からなかったかも知れない」

「ん? いや、まあ、彼女にはお世話になっているし

 サポートするのは当然っていうか、助からなかったって?」

「昔の話よ、昔の、あなたがマンションをよじ登って助けた女の子の話」

「……は? なんであなた私の黒歴史を……」

 

 あれはやっぱり黒歴史なのか、なんてことを考えながら。

 私たち姉妹の生い立ちであるとか、過去のこととか、

 あっけらかんと言うには重いようなエピソードに至るまで詳らかに。

 最初は訳がわからないという顔をしていたツバサだったけれど、

 やがて記憶の糸が結びついたらしく、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえながら口を開いた。

 

「そう、あの時の女の子が亜里沙さんだったんだ。

 人づてに遠くへ行ったと聞いていたから、すっかり外国に戻ったとばかり」

「私は――なんていうか、上手いこと逃げられたけれど

 亜里沙はそうじゃなかった、この歳になるまでそれに分からないなんて

 姉として最悪ね、いくら詫びても足りないわ」

「……あなたは、なにか闇は抱えていないの?」

「闇って」

 

 ごまかしたいことがあるのかと思ったけど、ツバサは私の想定以上に真剣な瞳を向けて、

 苦手なものはないかとか、どうしても受け入れられないものはないかと尋ねられた。

 私が問いかけたいことがあったのに、いつの間にか立場が逆転している。

 

「私は……男性があんまり好みじゃないわ、エリーには言ったことがなかったわね?」

「そういえばそうね、気軽に経験がないとか言い合ってたけど」

「男の人を見ると、昔のガサツで性格の悪かった自分を思い出すのよ、

 横暴で、乱暴で、とにかくまあ……王様みたいな感じ?」

「どうしてそうなったのか聞いても構わない?」

「ええ、私って結構何でも出来たのよ、子どもってさ、

 できない人を見ると見下したくなるじゃない、私にとっては――

 子どもから大人まであらゆる存在が見下す対象だったのよ、

 だって私以上になにかできる人間とかほんとう、まるっきり見当がつかなかったし」

 

 頭の悪い子どもだったのね、と苦笑しながら教えてくれた。

 優秀な人間であるとは以前から考えていたけれど、

 なんと何ヶ国語か話せるというのも、他人が喋っているのを耳で聞いて独学で何とかしたらしい。

 この人のほうがおそらく人間じゃない、精密検査を要求したい。

 

 幼少時からひときわ天才だった彼女は、

 小学校にも行かずにフラフラと遊び歩いて、ある時に噂話を聞いたらしい。

 

「子どもの泣き声が聞こえるって

 普段は一人娘も学校に行っていて、母親は留守がち、父親は仕事

 誰もいないはずなのに、誰かの泣き声が聞こえてくるって話を耳にね」

 

 当初怪奇現象にはまるっきり興味のなかったツバサではあったけど、

 色々と下調べをしている段階で――絢瀬家の戸籍謄本を入手したらしい。

 どんな手段を用いたとか、何故そんなものをホイホイ手に入れられたのか、

 疑問は尽きることはなかったけれど、相手が恩人であるのだし、

 その蛮行のおかげで妹は助かったのだから何も言うまい。

 

「事件だって思ったわ、私はあいにく金田一みたいに事件は解決したことはなかったから

 やってみたいと思ったの――まあ、本当に事件だったわ……あんな体験したくなかった

 そう、あなたがあいつらの娘さんなのね……」

 

 容赦なく相手を罵倒するツバサではあるけれど、

 意味もなく相手をけなすことはしないから、よほど腹に据えかねた体験だったらしい。

 悲しみというか、悔しい思いと言うか、悔恨という表現が適切であるかのような、

 誰を責められる立場ではなく、私を罵ったところで気持ちは晴れない。

 

「……何があったのか、話しても良い?」

「ええ、私は聞かないと……ごめんなさい、嫌なことを思い出させて」

「いいえ、胸に抱えておくのは辛かったから。

 ほら、容量少なそうじゃない私の胸って」

 

 そこは笑って良い台詞なの? 真面目にそこは関係ないって言えばよかったの?

 疑問は尽きなかったけど、ユッキが止めてくれたので失言は避けられたみたい。

 

「警察が駆け込んできて、事情を聞かれたあなたの父親は

 まっさきに住居不法侵入を主張したわ、窓を蹴破ったから器物破損もか、

 私が悪いと言わんばかりに、子ども相手に理路整然と罵ってきた、当時あなたと同じ歳よ?

 同じ年頃の娘がいる大人のすることって思っちゃったわ」

「ごめんなさい、あの人は自分が被害を受けると相手を責めることしかできないの

 相手が十中八九悪い、自分に非はない、今でもそう――

 そのくせ、想定通りにコトが進まないとパニックになる……」

 

 あの人が社会人としてまっとうに働いてきた事実がある以上、

 一定の水準を超えた能力は持ち合わせているのだろうとは思う。

 本当に仕事関連で優秀であったかは、私自身が推して知るべきもないことだけど。

 当時幼かったであろうツバサにはいくら謝罪をしたところで足りないかも知れないけれど……。

 

「あれは……そっか、冷静ではなかったのね、

 だから、自分が保護した娘を誘拐しようとしたなんて、

 駆けつけたおまわりさんが苦笑いすることを言ってたのか……」

「おばあさまが言っていた言葉の意味がわかった気がするの

 あの人は人の感情というものがわからない人だって」

「――迷惑をかける人間はノイズ、か

 その人たちは今何をしているのかは絵里は知っているの?」

「そういえば……私が家を出るきっかけになったのって

 あの人達が亜里沙のところに来るって言って……!?」

 

 ツバサの目が釣り上がったし、おそらく私も同じ表情をしていると思う。

 自分自身の迂闊さもそうであるし、何故今まで放っておくような真似をしていたのか、

 泣きそうだった、叫びそうだった、辛かった、頭を抱えたかった――!

 あの子はまた自分を犠牲にしてまで私を守ろうとした! それを姉である私がまた甘えようとした!

 

「エリー、心配しないで……今はあなたはゆっくりと休むべきよ

 ――少し話題を変えましょうか」

「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」

「いいの、あなたに甘えられるなんて、ほんとちっちゃい胸でごめんなさいね」

 

 手で顔を覆って泣き喚きたかったけど、ツバサが強制的に胸に抱きとめてくれた。

 ちっちゃい子どもみたいにわんわん叫びながら、情けなくて、本当に自分が情けなくて、

 これでも亜里沙の姉をしていたとはとても言えなくなるような事実に気がついて。

 いくら謝れば良いのかは分からないけれど、どれほど言葉を尽くしたところで亜里沙は笑いながら、

 昔のことは忘れました絢瀬絵里のようにと言って、なんにも気にしない風を示すのだ。

 どれほど自分が甘ったれていていたらなかったのか思い知った私は、やがてガクッと意識を失った。

 あの――いくらなんでも入院患者にスタンガンはないんじゃないでしょうか、和木さん……。

 

「和木は見るに堪えません」

「……いつからいたの? というより、なんで人の気配を隠蔽できるの?」

「ツバサさんが私の恩人だったんですね……私はすっかり恩人は男性だと」

 

 意識は飛んだはずなのに、やけにクリアに声が聞こえてくる。

 ユッキが苦笑いを浮かべながら口元に手を当てて静かにするように言うので、

 私もついついそれに倣ってしまう、どうやら彼女が何とかしているらしい。

 

「お姉ちゃんはいつでも、自分を責めます。ほんとう、いらないことまで、

 私にとってはほんとうに過去のことなどどうでも構わないのです、今があるなら

 私のことを想ってくれる姉がいて、友人がいて、幸せに過ごしています

 いまさらこれ以上何を求めようと言うんですか」

「でも、だからといって自分を犠牲にしても誰も喜んだりはしないのよ

 ――絵里があなたを苦しめるのと同じように、あなたも絵里を苦しませている」

 

 耳に入った言葉は酷く冷静で、

 今まで話していた綺羅ツバサとは別人のように感じられた。

 どちらかといえば亜里沙を侮蔑するような態度を取ってる。

 そんなことはないって叫びたかったけれど、心の中ではツバサのほうが正しいって分かってた。

 ――だって、好きな人が身を粉にしてまで一生懸命いたら、見ているこちらも辛い。

 誰か一人が犠牲になる必要なんてないのだ、人は思いあって寄り添える存在なんだ。

 って、ユッキは耳元で言ってる、私の思考を改ざんしないで欲しい。

 

「ならば、どうすれば良いのでしょう? アドバイスを頂けますか?」

「ええ、あいつらと決着をつけましょう。過去のしがらみを超え、

 未来に寄り添える姉妹であるために……も?」

 

 ん?

 

「あの、亜里沙さん? そんなふうに抱きしめられてしまうと、

 スタイルの差が如実に感じられてツバサさん辛い」

「ようやく見つけました……初恋の人」

 

 ダメよ! ダメよそいつは! と、叫んで起き上がりたいのにユッキが止める。

 これ以上スタンガンを押しつけられたら死にます! 今度こそ死にますから!

 って言って、幼い女の子とは思えない力でアラサーを止めている。

 なお、本当に和木さんは私に目を覚ましてほしくないのか、容赦なく高圧電流を押しつけているらしい。

 なんか恨みでも買いました? 真姫のことは私だけの責任じゃないですよ?

 

「お姉ちゃんもそうですが、初恋の人がいれば何でもできます! 協力してください!」

「絢瀬絵里(笑)みたいな扱いになってない? 添え物になってない?

 そして和姫ちゃん! そろそろ死ぬから! エリー死ぬから! それ猛獣用の――

 荒ぶった牛とか昏倒させるやつだから! 押し付けちゃダメぇぇぇぇぇ!!!」

 

 病室内で大騒ぎしていたせいで看護師さんが駆け込んできたみたいで、

 遠慮なく意識を放り投げることにする、面倒事は避けたい。

 後のことはよろしくツバサ――

 おそらくアニメだったら私のサムズアップといい笑顔が浮かんでる。

 まるでガウン・ブラウディアのように……いや、そうなると私の声が若本規夫さんになっちゃう――。

 

 

 最近微妙に頭痛の種だった慢性的な肩こりというものが、

 スタンガンの効果によって解消されたので、それをツバサに話してみたら。

 普通の人間は高圧電流を押しつけられたら死ぬからと真顔で言われました。

 長いこといた気もする西木野総合病院から退院する日、

 空は晴れ渡っていて、まるで二人のカップルの輝かしい未来の行方を見守るように、

 気温も心地よく、空気も澄み渡り、まるで気分は秋のあなたの空遠く。

 ええ、別に園田海未が「長年連れ添った妻を寝取られた気分」

 「女心と秋の空とはよく言ったものですね、ハハッ!」とすっかりやさぐれてしまったのは関係ない。

 先ほどカップルと呼称してしまったけど、ほんとうに付き合い始めたわけではなく、

 ただ、高確率でツバサは亜里沙に押し切られるであろうことが如実に想像できるから。

 彼女は手始めに外堀から埋め始め、綺羅家のご両親にツバサさんをプロデュースしてました

 絢瀬亜里沙ですと自己紹介した。

 過去のハニワプロでは亜里沙はツバサをプロデュースする暇なんぞなく、

 彼女のサポートがなくてもツバサはトップアイドルとしても君臨できる実力があったので、

 すぐバレる嘘ではあったのだけど、綺羅パパにはえらく気に入られた。

 目的のためには手段を選ばない部分が高評価につながった様子、勘弁して欲しい。

 そして何故そんなエピソードを知っているかと言うと、

 絢瀬姉妹は揃って綺羅家のお屋敷に登壇することになったから、勘弁して欲しい。

 病み上がりで、持病の癪、悪寒がすると仮病を使って回避しようとしたものの、

 私の分まで亜里沙のことをお願いしますとの海未のテロも決行され、

 結局有無も言わさずに連れてこられた、

 亜里沙はお姉ちゃんのことを世界一尊敬しています、ハラショーですと褒め称えてくれるのだけれど、

 どう考えても扱いは以前と変わってない、私の人権は水に浮かんでないアメンボレベル。

 

「……どうしよう、次々と外堀が埋まっていく」

「ええ、妹が綺羅亜里沙になってしまったら、私はどうしたら良いのか……」

「あんじゅも、英玲奈も……理亞ちゃんも聖良ちゃんもみんながみんな歓迎するのよ

 良かったじゃないか、安心しました、赤ちゃんの名前はどうするんですか――

 どうするって、赤ちゃんができたらどうするのよ! イミワカンナイ!!!」

 

 憂鬱そうな表情を浮かべたツバサと、恐らく同じ表情をしている私と、

 顔を突き合わせてお酒を飲んでる――最初からトップスピードでジョッキが空になり、

 次々と運ばれてくるアルコールが、運ばれるのと同時に空けられる。

 水分だってそんなに摂取できないでしょってレベルで酒量はどんどん増加し、

 それでもなお悲しいことに酔うことが出来なかった、飲めば飲むほど気分は憂鬱になっていく。

 

「……結婚式の会場に、誰を呼ぶかという話になったわ」

「……いいニュースね。いったい誰の結婚式? あんじゅ? ダイヤちゃん?」

「豪勢にしたいって彼女は言うのよ、だから、少しでも彼女の気持ちが折れるよう、

 控えめで、ひっそりと、できればお葬式みたいにやりたいって言ったの」

「ハラショー……今は海に散骨もできるし、いい時代になったわね

 喪服も着なくていいし、海でちょっと豪華にみんなでワイワイ楽しめるわ」

「そうしたら彼女なんて言ったと思う? 恥ずかしがり屋さんなんですからって笑いながら、

 トップアイドルだったんですから、億くらいかけて結婚式をあげましょう

 だいじょうぶです、私が全額出します……

 あなたって、ほんとう発言権がなかったのね、気持ちがよく分かったわ」

 

 ノリがお通夜であるのに、お酒を飲む速度はハイペース。

 同時に出される料理も次々と空になっていき、酒に付きあえ、3日くらい付きあえ!

 と強引に拉致られてしまい連れてこられたのは、黒澤家の息がかかってる高級居酒屋。

 貸切状態で訪れている私たちは、メニューの端から端までを次々と後先考えず注文し、

 こんなに食べれないのでは? と心配する店員さんを後目に、

 本当に次から次へとお皿を空にしていく、胃袋過重労働中。

 お酒の味も、料理の味もそれほど良くわからない状況下、妹との会話を思い出していた。

 

「飲みに行く?」

 

 絢瀬姉妹と綺羅ツバサという妙な組み合わせでマンションにて同居生活を始めてしばらく。

 Re Starsとして再デビューは頓挫したものの「RHYTHMIC STARS」というグループ名で

 小さな斜陽事務所に潜り込むことができた私たちは、着々とその知名度を上げて行った。

 エヴァちゃんと朱音ちゃんのモチベーションは高く、

 朝日ちゃんや善子ちゃんの二人も追随するように実力は向上していき、

 今はサポートをしてあげるとツバサの協力もあって、

 テレビ番組とかネットでは総スルーされている私たちだけど、

 知る人ぞ知ると言った感じで評価は次々と向上していった。

 歌って踊るばかりの仕事ではないけれど、私たちは何でもやった。

 チケットもぎりとか、会場受付、アイドルライブの前座、会場設営――

 投げ出すかと思ってた高校生組も、未来の為に頑張ると言って決してへこたれなかった。

 レッスンだけでなく肉体労働、おおよそアイドルの仕事とは思えないモノも次々とこなし、

 お給金が雀の涙とは言っても、それが目的ではないとみんなで笑いあっていた。

 

 

 問題があると言えば決着を付けると私も息巻き、ツバサもその気であった両親とのイベントが

 ロシアのプーチンに送り届けたという亜里沙の一言で終わってしまったこと。

 本当に大統領へ送られたとは誰一人思ってないけど、ぷっつり話題にも出なくなり、

 過去を吹っ切れたように思えた亜里沙も、そして私自身も、

 藪を突いて蛇を出すこともあるまいし、何より仕事が忙しいから暇はなく。

 ハニワプロやUTXで不穏な動きがあるというニコや希や英玲奈の警告ですら、

 いや、そんな事はいいから仕事しましょう仕事、という南條さんの掛け声もあり、

 すっかり頭から抜け落ちてしまっていたここ最近。

 

「お姉ちゃんとツバサさんが? えー、私は置いてけぼりですか?」

「秘密の会議がしたいの、二人の将来についてのね?」

「もう! もう! そういうことは秘密にしていなければダメです!」

 

 一見すると亜里沙を見事に操縦できるようになったツバサではあるけれど、

 先の通り、発言権は絢瀬絵里と同レベル。

 GPSで場所は把握していますからね?(はぁと)という亜里沙の警告や、

 なにより、妹が顔を利かせる黒澤家の息がかかってる居酒屋において、

 秘密の会議なんぞできるわけもなく。

 おそらくすべての発言は耳に届いているはず、という投げやりなツバサと、

 もう結婚式でも何でもやればいいじゃん! と同じく投げやりな私とで、

 ウェディングドレスは二人で着るんですかと、正体を露出し始めたスタッフに

 そうよそうよ! と騒ぎ始めるツバサと、メールが来てなんだろー? 

 と思って、中を確認すると、南條さんから相談事があるという話だった。

 タクシーを出してくれるということだったので、名残惜しくはあるんだけども、

 ツバサに許可を貰って店の外に出てしばらく、

 

「絵里さん」

「ああ、南條……さん?」

 

 声を掛けられたので振り返ってみると、

 見た目からして一般人では無さそうな凶悪な顔をしている人たちの集団と、

 その先頭に立ってにっこり笑っている南條さんを見て、

 ああ、これはまた私が面倒事に巻き込まれるパターンなんだなって察して天を仰いだ。



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