アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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亜里沙ルート 第三話 08

 お姉ちゃんの状態がツバサさんの言葉通りに小康状態になり、

 ただ、私は雑務で忙しくて一度たりとも病院に顔をだすことができずに、

 ようやく顔を見に行けると心の底から喜びを示した後で海未さんからLINEが届きました。

 あなたと一生を添い遂げる準備が完了しましたとか書いてあれば困ってしまうな、

 なんてニヤニヤしながらスマホの画面を覗くと、

 穂乃果さんがアメリカに向けて出発するから顔を見に行きませんかという内容でした。

 雪穂も顔を出すと言うので久しぶりの再会に心躍らせながら、

 先ほどまでの妄想をなかったことにするまで少々時間がかかってしまったのは不覚です。

 羽田空港に来るのも久しぶりだな、などと感慨に浸りながら海未さんと合流しました。

 いざとなれば取り押さえてくださいと解せないことを言うので、

 首を捻りながら人だかりができている場所へ足を踏み出したんです。

 そして一瞬で状況を理解しました。

 

「たしか彼女は仕事が立て続けに入っていたはず……」

 

 太陽の日以降プロデューサーとしての仕事を次の担当者に引き継ぐため、

 それなりに忙しく働き続けていた時に、曜さんと梨子さんのデビューがなかったことになった。

 そんな話を南條さんから聞いていたんです。

 その中に高海さんの名前がなかったので、彼女はどうしているのかは気になったんですが、

 ふと見入ったテレビにやたらハイテンションで新人レポーターとして画面に映っていたのが、

 高海千歌さんその人であったんです。

 はじまり。としてのデビューがなかったことになったのち、

 高海さんだけはハニワプロの上層部に呼ばれて話を聞いたそうなんですが、

 高く才能を買っているので芸能活動を続けないか?

 みたいな会話があったそうで。

 最初は曜さんや梨子さんも一緒にということではあったんですけど、

 ことりさんの説得で曜さんが手を引くことになり、梨子さんは寸前まで迷ったそうですが、

 好きなことをしたほうが良いと真姫さんの説得で芸能活動を引退することになりました。

 銀座の高嶺の花だった梨子さんを手放すことになる店を説得するのは非常に骨が折れたらしく、

 ダイヤや鞠莉さんがその作業を一手に引き受けたことは私も知っていましたが、

 その時の借金が何十年単位で残っていると苦笑しながら教えてくれたのは言うまでもなく梨子さんで、

 千歌さんは何億レベルでお金を払ったことすら知らなかったのは――追求することは避けておきましょう。

 ハニワプロの新しい上層部や社長などが全面プロデュースに立ち、

 マルチタレント高海千歌は誕生することになったのです。

 拘束時間は朝から晩まで、あらゆるスタジオ、ロケ地問わずに働き詰めた彼女は、

 その苦労に見合っているかは知りませんが、多少の知名度は得ているようです。

 同業のタレントからは劣化星空凛、劣化綺羅ツバサと散々な評判ですが、

 一般的な認知度で言えば、新人のデビューとしては上々と言えるでしょう。

 なお、私は一番最初にプロデュースした歩夢は数ヶ月で映画の主演しましたけど(ドヤ顔)

 

 

 空港に顔を出すことなど想定してなかった面々は、それでも穂乃果さんの晴れの舞台なので

 一様に仮面のような笑顔を貼り付けながら会話で盛り上がりました。

 穂乃果さんに近付こうとするのを、ダイヤや果南さんと言った面々が

 まあまあと言って抑えているのを傍目で覗きながら、

 雪穂に声をかけてみたんです。

 

「……ごめんなさい」

「亜里沙が謝ることじゃないよ、安心して? 私はいつまでもあなたの親友だもの」

「ありがとう……でも、それならやっぱり謝らせて? 

 親友には、できるだけ隠し事はしたくないもの」

 

 自分がお姉ちゃんよりも5歳は年上に見える――という評判をあえて無視をしまして。

 雪穂は最近本当に苦労を重ねているようでした。

 穂乃果さんを目指して多少髪の毛を伸ばし、背も幾分か高くなって。

 経営学の勉強を重ねて、さらには税理士の資格をとるために努力の最中。

 両親には無理をさせられないからと彼女は苦笑いしながら言うけれど、

 一人でそうせざるをえない状況下に置かれていたことを知りながら、

 つい自分の仕事ややりたいことを優先して放っておいたことを心から謝罪をします。

 ――おそらく、これからは時間ができるだろうから。

 親友のために一肌脱ぐこともやぶさかではない、

 ただ、何の役に立つかは極めて疑問、おそらくお姉ちゃんも経営には明るくないですし。

 

「では、皆……そろそろ、締めに入りましょう。空港で大騒ぎしても仕方ないですし

 ――なにより、ためらえば別れは惜しくなるものです」

 

 海未さんの言葉で穂乃果さんが一人ひとり、顔を見せてくれた皆さんに握手を重ねる。

 高海さんに手を重ねるのを海未さんが止めるかと思いましたが、

 寂しそうな瞳でその二人の姿を眺め、手が離れた瞬間に黙して目を閉じました。

 その心の内は私には分かりませんが――

 

「では、高坂穂乃果はアメリカに向かいます。

 ただ、その前にメッセージを残していきたいんです、亜里沙ちゃん、ツバサさん」

 

 絵里ちゃんのことをよろしくお願いします。

 という内容でした。

 簡潔な言葉でしたが、力強く頷いて。

 

「穂乃果さん、不出来な姉がお世話になりました。

 そして私自身も――μ'sのことを胸に秘め、これからも邁進していきます」

「穂乃果さん、必ず有名になってくれなければ困るわ、

 敗北知らずの私の人生において初黒星をつけたμ'sのリーダーなんだから

 アメリカと言わず、全世界のアイドルになってくれたら、私も鼻が高いもの」

 

 穂乃果さんは私たちの言葉に頷いて。

 次は、お姉ちゃん以外の――そして、海未さんことりさんを除いたμ'sの方々に声をかけます。

 

「今まで高坂穂乃果を支えてくれてありがとう。

 そしてごめんなさい、情けないリーダーでした――

 私にできるのはみんなを応援することしか出来ませんが、海の向こうで活躍を願ってます」

 

 その言葉に天を仰いだり、頷いたり、反応は様々でしたが。

 

「アイドル研究部の部長として、穂乃果には世話をかけられっぱなしだったわ

 でもね全然嫌じゃなかった――あんたは恩知らずじゃないから、

 いつか特大のお礼をしてくれるのを期待しているわよ」

「穂乃果ちゃんには本当に世話になってなぁ……ウチみたいな日陰者がアイドルなんてできて

 ほんと、まだ夢の中にいるみたいで

 タロットじゃない、水晶玉でもない――東條希が予言する、穂乃果ちゃんはきっと夢を叶えるってな♪」

「穂乃果ちゃん。アイドル研究部の部長として、いっぱい迷惑をかけちゃってごめんなさい

 地味な私でも何年間もアイドルできて――凛ちゃん以外の、本当にたくさんのお友達も出来て、

 幸せな時間は穂乃果ちゃんが作ってくれました、だから私も願っています。あなたの幸運を」

「穂乃果ちゃん、凛ね、穂乃果ちゃんのこと大好きだったよ――二人で一緒に歌った時、

 この時間がいつまでも続いたら嬉しいのになって。

 今だから言っちゃうけど、凛はタレントの仕事をする時いつも穂乃果ちゃんを追いかけてるんだ。

 ――でも、これからは、星空凛として生きます。それが穂乃果ちゃんにできる私の餞別だから」

「穂乃果……正直、何を言っていいのか私には分からないわ、

 素直になれなくて、気持ちをどう吐露して良いのかも分からなくて、

 でもそんな時に穂乃果にμ'sに誘われて、両親からすれば期待通りの西木野真姫ではなくなったけど、

 辛いこともある、苦しいことだってある――ただ、あなたに教えられた夢や希望を追いかけることの大切さを

 これからも胸に秘めて生きていきます。そして宣伝だけど、今度私が声を当てたゲームが発売になるからやって」

 

 誰もが、それは18禁ゲームではないのかとツッコミを入れたかったけれど、

 穂乃果さんがアメリカはそういうゲームは規制が厳しいからと言ってスルーしたので、

 何かを言って自分に火の粉が飛んでくるのが怖いからみんな一様に苦笑いを浮かべていました。

 ただ、海未さんだけは乗り気でぜひと言っているので、今度お姉ちゃんとみんなでプレイしましょう――

 絢瀬亜里沙はそんな野望を抱くんです。

 

 

 一時的にオチを迎えてしまった感のある空気になってしまいましたが、

 穂乃果さんの言葉はまだまだ続くことになります。

 

「それから、今日この場に来てくれたみんなへ」

 

 μ'sや雪穂、またはことりさん海未さんを除いた面々に向けて。

 該当するのは果南さん、ダイヤ、高海さんの3名。

 見送りに行きたいという方たちはもっと多数いたそうですが、

 厳密なる抽選を経た結果、いま空港に来ている人間に落ち着いていて。

 

「μ'sの高坂穂乃果のことは、未来に向けて忘れてくれると助かります。

 これからはμ'sのリーダーではなく、音ノ木坂学院出身でもなく、

 イチ人間として期待を寄せられる人間であるよう努力していきます

 

 ご承知の通り、過去の私は今が最高と歌いました。

 その気持ちは今でも変わっていませんが。

 最高ではなく、できうる限り最善を尽くせるよう頑張っていくので、

 みんなも、みんなも思う幸せを得られるように邁進していてください」

 

 今の自分は尊敬を集められるような人間ではなく、

 今日来てくれた友人のために。

 日が落ちてお別れをする時にまたねっていうみたいに。

 対等で、気軽に声をかけられるみんなのお友達でありたい。

 涙は似合わないから笑いながら手を振ろう――。

 この言葉に一番感極まってしまったのは高海さんで。

 分かりました穂乃果さんのためにこれからもがんばります! 

 と泣きながら言ってダイヤが頭痛を堪えるような表情を見せ、

 果南さんがまあまあと言って高海さんをズルズルと引きずって行くのが見えました。

 

「そして雪穂」

 

 なんだかなあという空気になりかけましたが、

 時は巻き戻すことは出来ません。

 流れ始めた水は堰き止めない限りはどんどんと流れ続けていくんです。

 

「ダメなお姉ちゃんだったね。

 早々に見限られてしまっても仕方なかった

 たくさん迷惑をかけました

 

 いまユキちゃんはそんなダメなお姉ちゃんを見て

 立派にしっかりと自分にできることを頑張ってくれています

 妹の成長を見て、もう追い抜かれちゃったかなって思うんだけど

 まあ、それだとちょっと恥ずかしいからさトルネード投法MONOみたいな感じで頑張る!」

「私はお姉ちゃんが大好きだったのは事実だけど――

 尊敬をしたことなんか一度もない。

 姉妹って、血縁ってそういうんじゃないからさ。

 

 別にお姉ちゃんは立派じゃなくてもいいし、ちょっとゆるい感じのほうが似合ってるし

 無理に頑張りすぎないでもいいとは思うんだけどさ

 もう、私たちに置かれた状況がそれを許さないでいるっていうのは――

 バカな私でも気づいてしまったから

 

 だから応援する。

 私も頑張るから、お姉ちゃんも頑張って――

 

 あと、大リーガーはMONOじゃなくて、野茂ね、それだと消しゴムだから」

 

 今度は穂乃果さんがオチをつけてしまいましたが、

 雪穂がクールに軌道修正をしてくれました。

 この場にお姉ちゃんがいれば、ユキちゃんだけにクールね! と空気を読まずに言って、

 ズルズルと果南さんに何処かへと引きずられていくに違いありません。

 そういえば、理亞の中ではルビィさん、善子さん、果南さんの順に好感度が高いらしく。

 ルビィさんが飛び抜けて好きだそうですが、水ゴリラと叫んでヘッドロックをされるのが、

 おっぱい柔らかくて気持ちがいい! って言っていて、歪んだ愛情は胸に秘めておいてと、

 忠告を重ねておくべきだったかも知れません、今度会った時に言っておきましょう。

 

「最後に――あは、まあ、もうちょっと言いたいことはあるんだけど、

 海未ちゃんとことりちゃんへ」

 

 ことりさんは笑顔を浮かべながら、海未さんはもうすでに少々感極まった状態でした。

 

「これからは独立して生きていけるように頑張るから

 今まで二人にはさんざん頼ってきちゃって、恥ずかしいくらいだったね

 あと――虹ヶ咲学園というところに、9人組のスクールアイドルが誕生する計画があるらしいの

 海未ちゃんとことりちゃんには、彼女……あ、まあ、共学だから男女混合かもしれないけど

 力になって欲しいって思うんだ」

「理由を問いかけてもよろしいですか?」

「私たちがスクールアイドルだから――じゃ、ダメかな」

 

 穂乃果さんが大学生活の初頭に著しく精神的苦痛を味わった時期に、

 スクールアイドルであることを卒業しようと決意してしばらく。

 そのトラウマが晴れ始めた頃にAqoursが台頭し、高坂家及び穂乃果さん自身も

 ――ついでに言えばストーカー野郎に粘着されていて困っていたお姉ちゃんも、

 過去にμ'sであったことが嫌になってしまっていた時。

 その過去がキッカケでμ'sとAqoursの交流は上手く行かず。

 上手く行かなかった昔を戒めて、未来へと新しく旅立っていこう――。

 μ'sからは海未さんやことりさん、もうすでに虹ヶ咲学園の一部の面々とお姉ちゃんは

 交流してしまっているのでお姉ちゃんを加えても良いかも知れませんが。

 Aqoursからは花丸さん、ダイヤ、ルビィさんがサポートにつくことになります。

 

「穂乃果が言葉足らずであるのは、いまに始まったことではありません。

 ですが、いつまでも過去のことを粘着していても仕方がありませんから

 未来のスクールアイドルたちが幸せになれるよう、

 園田海未も協力していきます」

「私も同じ気持ちだよ? 本業が優先だけど――ふふ

 自分のデザインした服が有名になるように、彼女たちには頑張って貰って

 アメリカに行ったら可愛いお洋服がないかも知れないから穂乃果ちゃんにも郵送して送ってあげるね

 だいじょうぶ、お店の在庫だから」

「えー、それじゃあ、私じゃなくてお洋服が有名になっちゃう。

 あと、どうせなら新作を着させて、ステージで披露して

 アメリカの人たちをことりちゃんのお洋服のトリコにしちゃうから」

 

 ことりさんのとりこという言葉を聞けば、お姉ちゃんはおそらく。

 なるほど! ことりだからとりこなのね! とドヤ顔をして発言し、

 果南さんにヘッドロックを喰らってしまうかも知れません。

 胸の感触にハマるようであれば、私も練習しておくことにしましょう――。

 

「それから――幸せになりましょう。

 自分自身が幸福であるよう努力を重ねる。

 不平や不満があれば、自分に至らぬ点がなかったのか振り返ってみて

 喜ばしいことがあれば、誰かに気持ちをおすそ分けができるように

 

 ネガティブな感情はポジティブに切り替えるように

 ポジティブな感情はさらにさらに膨らませて幸せになれるように

 一番はじめは、自分自身のために生きていきましょう。

 自分本位じゃなくて、世界の中心は自分ではなくて。

 誰かの悪口や、誰かの噂や、誰かの評判に振り回されることなく、

 独立した立派な人間であるように。

  

 絵里ちゃんみたいに、誰かのために生きていけたら素晴らしい。

 力があれば世界だって変えていけるかも知れない。

 でも、私たちみたいなフツーの人はそんな生き方をしてたら迷惑をかけちゃう。

 人の迷惑は人の不幸に繋がるから、自分がたとえ幸福だったとしても

 まわりまわって結局自分の不幸にも繋がってしまう事柄だから。

 

 だから行きます。

 私は私の幸せを掴んで――いつかみんなに幸せのおすそ分けができるように」

 

 私自身も涙を流したいのはやまやまではありましたが。

 ここは、笑顔で見送るのが一番だと思ったんです。

 だって、明日の遊ぶ約束をする友達には、

 またねって言って笑顔で見送るでしょう?

 

 

 自分自身のために、絢瀬亜里沙に戻ることを選択した私は、

 多少恥ずかしいことではありますが、素直に生きることが恥ずかしいこととは

 私は思いもしませんので。

 

「あ――り――」

 

 また引越社ですか、と思ってお姉ちゃんの顔を見ます。

 見間違いかと思いましたが、閉じられた目が少しずつ、少しずつ開いてき、

 ああ、また過去の世界にいるのかと、最近はほとんど寝ていないから、

 妄想の中にいるのか、現実をきちんと生きているのか判別できない時があると――

 

「――おばあさまのボルシチたべたい」

「……ッ!?」

 

 見開かれた目で私を見て、最初に自分の食べたいものを告げる。

 少しだけ腹が立ってしまったので、目を覚ましたら押すようにと言われていたナースコールを押し、

 有無も言わさずに病院スタッフの方々に連れて行かれるのを見送りながら、

 私は電話をかけようとし――病院内は通話が禁止だったことを思い出し、

 震える両足をしっかりしろと叩いて、荷物を持って病院の外へと向かいました。

 ツバサさんに状況を伝えるために、それと。

 仕事を放棄して病院にいて、暇だから自分の会社のソフトの宣伝をし、

 病院スタッフからエロゲーの人扱いされているヒナに喜びを伝えるために。

 

 

「ウチの黒魔術があんまり浸透していないようやんな?

 イオリさんはどない思いますん? この人間の抵抗っぷり」

「あの絢瀬絵里を舐めて貰っては困る、お前の暗示くらい容易く打ち破るさ

 それと、メグミの情報ではついに絵里が目を覚ましたそうだ、

 ようやく僕も動き出すことができる」

「ウチの力は過去に天変地異も引き起こしたんやけどなあ……

 UTXのコぉにかけた暗示が解かれるなんて、

 絢瀬絵里っていうのは人間じゃないんとちごぉ?」

「お前はまだそんなことにも気づいていなかったのか、

 絵里は神だよ、僕の理想、奇跡の体現者。

 だからこそ、この僕の妻となるべき存在なのさ」

「さよか……それで、その妹の亜里沙ちゃんはどうするつもりなん?」

「愚問だな、あいつには然るべき地獄を見せてから僕自身の手で叩き潰す。

 メグミをだいぶ信用しているようだが、実は裏で僕と繋がっていると知れば、

 あのすまし顔が苦痛に歪むのが簡単に想像できるようだ」

「μ'sの東條希にはウチも借りがあるやんなぁ……まあ、そのついでやん?

 メグミ……あの子、本当に信用できますん?」

「妹が兄に逆らうわけがないだろう? それに実際、よく言うことを聞いてくれている。

 絢瀬亜里沙だけではなく、僕に敵対した奴らの情報もよく仕入れてくれた。

 全てはこの、南條伊織の手のひらの上だと言うわけさ!」

「――南條ってお母さんの旧姓やろ? メグミが仮に名乗ってる、あんたの名字は南條やないって、メグミおったんか」

「はい、あにさまもお久しぶりです。全てはあにさまの手はず通りに」

「絢瀬亜里沙には感づかれてはいないな?」

「もちろんです、彼女はあの日以降、ずっと病院のベッドから動こうとしない――いや

 もうすでに目を覚まさなくなっているかも知れませんね?」

「ククク……無様だな! 僕に逆らわなければもう少し長生きできたものを!

 あとは、絵里を迎えに行く準備だけだ……」

 

 部屋の一室に高らかに響き渡る声を聞きながら、

 私、南條愛はこう思ったのです。

 ――妹より優れた兄などいないと。


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