アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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亜里沙ルート 第三話 09

 自分自身の身体が、まるで誰かに操られているかのような。

 この世における存在ではない、超常的な力で揺り動かされてしまっているような。

 意志であるとか、脳であるとか、神経であるとか、

 あいにく、学のない私にはどのような理論で身体が動かされているのかは、

 まるでまったく見当もつかないのだけれど。

 自分の身体が自分の意志に関わらず動いてしまって、

 なぜか周りに驚嘆されるような結果を生み出してしまって、

 私の行動如何に関わらず、理由もなく持て囃されてしまうことが、

 自分の人生において幾度となく存在したというのをここで白状しておく。

 

 頼りにならない記憶を思い返してみれば、

 幼少期ロシアでバレエをやっていた時分、

 私がやりたいとか、バレエを一族の誰かがやっていたとか、

 そんな事情は何ひとつもなく。

 ある日突然バレエの教室に連れて行かれて、

 それを妹が見ていたから、ええ格好しい気持ちが働いてしまったのか。

 私は始めてやったダンスで超常的な動きを発揮してしまった。

 人より上手に踊ってやろうとか、自分が才能にあふれていそうだからとか、

 子どもの時にありがちな、世界の中心は自分思考に陥ることもなく。

 なんだかよく分からないけれどできてしまったのである、

 今でもなぜ人よりも上手に踊れたのかは分からないけれど――。

 絢瀬絵里の人生において、人が苦労していることに限って上手に出来てしまって、

 なんだか知らないけれど人から恨みを買ったり、むやみに称賛されていたりするのであった。

 バレエに至っては、最初飛び抜けて優れた才能を発揮したのが大きかったのか、

 練習を重ねれば重ねるほど、ちょっと人よりもできるレベルで落ち着き。

 おばあさまの勧めに従って日本に来てからは一度も踊っていなかったりする。

 

 

 自分の人生において一番役に立った自分の才能は、

 おそらく料理とか家事に関するものであると認識している。

 これに関しては最初から上手にできたわけではなくて、

 不出来な料理をおばあさまが褒めてくださったのが大きく影響していた。

 上手くやろうと思えば思うほど、ドツボにはまって才能を劣化させていくというのが、

 絢瀬絵里の強烈な欠点でもあり、人間味溢れる部分なんじゃないかと、

 何処かへと昇っていく身体なのか、それとも魂であるのか。

 自分自身を見下ろすようにして、ここではない、どこかへと向かう最中、

 ふと気づきを持ってしまったのだった。

 

 

 掃除機に飲み込まれていくホコリみたいに、

 自分の意志に反していずこかへと引っ張り込まれた私は、

 水の上をぷかぷか浮かぶような感覚を持ちながら、水中を沈んでいた。

 どちらかといえば、朝目が覚める時にもうちょっと眠っていたいと感じて、

 身体を揺り動かしてまどろむ感覚とよく似ている。

 確かに水の中にいるような感覚は持ち合わせているのに、

 一つも苦しくなくて、それどころかまわりの景色に感動すら覚えていて。

 ダイビングをした経験はないのだけれど、

 すごくきれいな海の中を潜水するというのは、

 もしかしたらこんな景色が待っていたのかも知れない。

 なんだか、もう会う機会はないような気がするのだけれど、

 松浦果南さんにいろいろと教えてもらって、夏の内浦の海を泳いだら、

 こんなきもちのいい景色が待っていたかと思うと、なんとなくやりきれない。

 

 誰かに呼びかけられているような気がして、

 なんとなく温かい気持ちになるんだけれども、眠っているのが心地よくて、

 身体を起こすことがまどろっこしくて仕方がない。

 生徒会室でうたた寝をして夕日が沈んでいる景色を一人で見た時、

 夢の中にもっといたかったと思った記憶が複数回あるけれど。

 目を覚ませば、自分に都合の悪い現実が待っている気がして、

 怖いと言うべきか、不安というべきか。

 とにかくまあ、ネガティブな感情が揺り動かされる。

 ただ、目を覚まさずにいれば鬼のような表情をした妹に、

 まったく本当に使えない姉ですねと言われる方が怖くて。

 目を開けるのも地獄、寝ているのも地獄なら、どちらかといえば起きたほうが良い。

 そう判断して体を起こした。

 

 

 自室に取り付けられたと思わしき窓からは、水平線を臨むことが出来た。

 大型船の船の中であるのか、心地の良い振動と、気分良く感じる温度に、

 触り心地の良い掛け布団に敷布団、柔らかな枕。

 久しく感じていない、自分がその場にいることを望まれているような、

 そんな歓迎のされっぷりに夢うつつの中にいるのではないかと思う。

 これがもし豪華客船の中であるのならば、一泊おいくらくらいするのであろう? 

 煌めく太陽に照らされる見たこともないような豪華な調度品の数々をみやり、

 自分の荷物と思わしきトランクの中を覗き込むと、数冊のアルバムと衣服が出てきた。

 衣服と称するべきか、衣装というべきか。

 μ'sで一番私が気に入っている、それは僕たちの奇跡を歌う時の衣装があった。

 流石に最近お気に入りのパジャマ姿では外に出ることが出来ないので、

 こちらのほうが幾分かマシであると判断し、衣装に身を包んだ。

 それからしばらくして、壁にかかっていたスピーカーから声が聞こえてくる。

 聞いたこともない声だったけれど、耳心地が良くて、

 熟練の声優さんであるみたいな、調子の良い言葉で放送が流れる。

 この客船の名前がダイヤモンドプリンセス号というのに、どてっと転びそうになってしまい。

 恥ずかしい恥ずかしいと思いながら続きを聞くと、最後に声の主の名前が耳に入り、

 私は全てを察することになる。

 

 

 声の主は、もうすでに亡くなられたと聞いていた渡辺曜さんのお父様で。

 ここから見える景色は、海ではなくて三途の川の途中であることに。

 

 

 自室から外に出た時に、不安が棘のようにチクチクと心を刺してきた。

 暖房が利いているのか、それともいないのか。

 先ほどまでは春の陽射しに包まれていたような心地よさであったのに、

 寒いわけでもなく、暑いわけでもなく、愉快不快の感情を抜きにした、

 温度を感じ取るという行為ができなくなっていることに驚いた。

 それは死者という立場に片足を突っ込んでいるせいであるのか――

 なにせ、自分が鈍感であるのは身に沁みて知ってはいるんだけども、

 よく分からないけれど、明るい感情がじわじわと削ぎ落とされる恐怖感を

 常に感じている状況に私は震えた。

 一歩足を踏み出すのを躊躇してしまうほどに、心の中にもやもやとした感情が、

 湯気のように浮かび上がってきて、温度はわからないのに手にじわっと汗が出てくる。

 息を深く吸い込んで、まっすぐ前の一点を見つめながら、

 震える足を踏み出していくと、耳に誰かの会話が届く。

 老若男女――年齢や性別は分からないけれど、誰かが話しをしている。

 そのことだけは分かる。

 道を歩いている時に、雑踏の中で自分の悪口とか――悪く言われていることが、

 不意に耳に入ってくるのと同じように、とりとめのない会話が耳の中に入ってきて、

 口の中に手をツッコまれて心の中をかき混ぜられているみたいに、

 気分の悪さと心の痛み――涙が出そうな感情が呼び起こされる。

 恐怖に似た感情が次々と呼び起こされ、胸に集ってくる。

 喉に食べ物が詰まったみたいに息苦しく、熱に浮かされているかのように

 平衡感覚というものが次々と無くなってくる。

 フラフラとよろめいてしまい、壁に手を這わせて身体を支えていると、

 心臓の音が耳に入ってきた。

 トクトク……という小さな音から、何百メートルも全速力で走った後みたいに、

 汽笛のように大きな音をしながら、そんなに勢いをつけて動いたらいずれ動かなくなってしまう――

 そんな死の感覚を如実に感じうる心臓の鼓動を感じた。

 天国に行くにしろ、地獄に落とされるにしろ、

 今までの生き方が理想的だったにせよ、俗物的だったにせよ、

 さすがに絢瀬絵里を虐め過ぎではあるまいかと嘆きたくなってしまう。

 ただ、この場で力尽きて崩折れてしまえば、本当にどうしようもない状況下に追い込まれてしまう。

 逃げ出したかった、誰かに助けを求めたかった、泣き出して叫びたくなった。

 早鐘のようになる心臓の音を聞かなかったことにして、涙目になって霞む景色を睨みつけるように、

 這いつくばるように前に進み続ける。

 どこかへ――ラウンジにでも繋がっているのだろうか、廊下の先に光が見え始めた。

 先ほどから、誰かの会話は聞こえるのに人一人見当たらない恐怖を覚え、

 これがスプラッタ映画とかだったら、安心した瞬間にミンチになっているだろうな――。

 そう思ってしまったらなんだか笑いに似た感情が浮かび上がってきた。

 

「本当にあの人はどうしようもない人です」

 

 亜里沙がいるのかと思った。

 周りを見回してみたけれど、壁とかの無機物がその場にあるばかり。

 豪華客船のラウンジの一部分にいるという状況は分かるけれど、

 なぜ自分がこの場にいるのか、なぜこんな状況下に陥っているのか、

 一つも分からないままに妹の――感情の籠もっていない……いや、

 私をひたすら侮蔑するような、この世に存在することすら不愉快だと忌み嫌うような、

 冷徹どころか、絢瀬絵里という存在を見たり聞いたりするだけで虫酸が走るというような、

 ここまで毛嫌いすることもないのではないかというような、亜里沙の声が聞こえてきた。

 彼女が誰かと会話をしている――聞きたくはないけれど、聞かなくちゃいけない。

 もし、もしも許されるのならば、心の裡を知って相手に理解を求めてみたい。

 それが血の繋がった妹にできることであろうから。

 

「あの人が私の家族というだけ――

 いや、血がつながっていると言うだけで不愉快で死にたくなります」

 

 耳に届く辛辣な言葉。

 辛辣と言うか、言葉で人を殺せるのならば私は何回か死んでいるレベルの罵詈雑言。

 それが冷徹でキャリアウーマン時の妹であるならば、多少は平気な部分があれど、

 声色は明らかに、お姉ちゃんお姉ちゃんと慕っていてくれていた時期のあどけない妹の声。

 憎悪と呼ぶべき憤懣やるかたない衝動を湧き上がらせた彼女の言葉は、

 それぞれが鋭いナイフであるかのように続々と私の精神を突き刺して、

 吐き倒してしまいそうで、泣き叫んでしまいそうで。

 わがままを言う子どものように両手足をバタバタと震わせながら癇癪を起こしてしまいそう――

 

「絵里ちゃんってさ、なんていうか――人と関わると人を苦痛を味わわせるよね」

 

 穂乃果の声。

 実際、穂乃果の冷徹な口調と声色なんて今までの人生において聞いたことはないから、

 それが本当に彼女であるのか極めて疑問ではあるんだけれど。

 敵意むき出しの、ついうっかり剣山に触ってしまったような痛みが一筋の涙に変わった。

 穂乃果がこんなことを思っているわけでも、感じているわけでも、

 ましてや言ったのを聞いたわけでもないのに、明確に自分が悪いとも相手が悪いとも思えない。

 宙ぶらりんな気持ちの辛さだけが心の中にしこりとなって残り――

 

「絵里を見ていると――両親を目の前で殺され

 その仇が幸福そうに過ごしているのを見たかのような、

 冷たくも熱い感情が浮かび上がってくるようです」

 

 海未の声。

 いつも心優しく――それはもちろん厳しい部分というのも多分に存在する彼女ではあるのだけれど。

 その厳しさは愛情の裏返しであることを私も――穂乃果も知っていた。

 少しくらいは喧嘩をすることもあるけれど、衝突を重ねたことだってあったけれど。

 燃え盛るような憎悪を瞳に湛え、私を見詰めながら今のセリフを言われてしまったら、

 おそらく心が一発で折れていってしまったであろうな、なんて思う。

 一度湧き上がった悪意の心に火を焼べるように、どんどんと悪い感情が流れていきそうに感じ、

 私は奥歯を噛み締めて前を見つめた。

 

「人間には良い面も悪い面もあるけれど――

 こと、エリチカに限っては悪い面しか見当たらんなぁ……

 本当に人間であるのか怪しいくらい、邪悪な気が漂ってる。

 お互い様という言葉があるけれど、彼女に限っては――

 ほんと、迷惑しかかけられなかったんなあ……」

 

 親友である東條希の言葉が耳に入る。

 たとえ晴れ渡るような青空を見上げたとしても、冷たい雨が降りしきるのを見るかのような。

 どんなに美しい景色を見てもくだらないと感じてしまうような、心根の卑しさが、

 私自身の感情の中に次々と浮かび上がってくる。

 愛おしいという気持ちが、好意的な気持ちが、次から次へと憎悪に変わっていくのを感じ、 

 目の前が赤く燃え盛っているかのように、怒気が目の前に壁となって現れているみたいに、

 かつて友人だった人たちを、心の底から――

 

「違う! 私の仲間は! そんな事は言わない!」

 

 心の中の靄々を断ち切るように、私は高熱で言葉を発するのも苦しいみたいな感じなのに。

 耳に届いた自分の声は恐ろしいほどクリアで、前向きだった。

 私自身の言葉に感化されるように、どんどんと悪い感情が吹き飛ばされていき、

 涙で曇っていた景色が、徐々に鮮明に映っていく。

 船の中だと思っていた景色が、聞こえ続けていた声が、次々と吹き飛ばされていき、

 目の前にいるのは小さな女の子。

 暗い――本当に真っ暗な風景の中で膝を抱えた少女に私は見覚えがあった。

 

「西園寺雪姫ちゃん……?」

「――お久しぶりです、絵里お姉さん。

 こんな私をお見せしたくはなかった……でも、絵里さんが悪いんです」

「仕方ないわ、だって、絢瀬絵里ってそういう人間なんだもの」

「ふふ……これからの道のりは、一般的に地獄と表されるものです。

 ですが、絵里お姉さんなら――もしかしたら」

「乗り越えられる?」

「私が知る限り、乗り越えられた人なんていませんけど――ね?」

 

 雪姫ちゃんはまっすぐ手を伸ばし。

 私はその手をしっかり掴んで、お互いに笑みを浮かべた。

 もし、これから自分に起こる出来事が閻魔大王だかなんだかよく分からない神の意志だったとしても、

 なんとかなりそうな気がしない? 絢瀬絵里って期待されると裏切るけど、

 期待されないとそれなりの結果は常に生み出していく生き物であるらしいから。

 

 

 西園寺雪姫ちゃんと二人で真っ暗な道を歩く。

 地獄の一歩手前みたいな場所は、当然街灯など付いていない。

 LED照明などで照らされているわけでもないので、こうして小学生くらいの彼女に

 手を引かれないと歩いてなどいられない。

 暗い場所はトラウマがあるわけではないけれど、かなり苦手。

 たぶん前を歩く彼女がいなければ、この時点でゲームオーバー。

 雪姫ちゃんも暗闇だけでへこたれている私を見て、どのような感情を抱いているかは、

 ほんとう想像でしかないけれど……迂闊にも喧嘩を売ってしまった手前、

 顔に浮かべる態度だけは余裕をかましているように見えるかも知れないけど、

 ぶっちゃけ逃げたい、あまりに逃げたい、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……。

 そういえば、最近なろう小説と呼ばれるものを読むとU-1とかスパシンとか思い出すけれど

 読者層が同じなのかしらね? ラノベ読みって40代手前がメイン読者だって言うし。

 小さい女の子と一緒に手を引かれながらアラサーを、神様はどのように見ているのだろう?

 そんな思考をしてみると、なんだか面白くなってネガティブな気分が吹っ飛び始めた。

 雪姫ちゃんがどんな表情をしているのかは、暗くてよく見えなけれど。

 おそらくシリアスな表情をしているんだろうなあって思う、彼女って天才子役だし、空気読めるし。

 私がロリっ子に導かれるままに地獄に向かっていることを想像すると、

 なんかエセりゅうおうのおしごと!みたいだなとか考えているとか、絶対わかってない。

 分かってたら絢瀬絵里はこの場で捨てられてる、

 百年の恋も冷めんばかりの勢いで手を跳ね除けられて、このクズがぁ! とかいわれてもしょうがない。

 

「絵里お姉さん、この先には見たくないものがあると言われています」

「え、スプラッタとか? ゾンビ映画とか?」

「――心証で言うならば的確かもしれませんが、もう少し心に迫る鬱々としたものです

 人の感情に由来する、薄汚いものが」

「それはまた、見たくないものね」

 

 だんだんと視界が詳らかになってきて、夕焼けの中にいるみたいな、

 赤い光に包まれた幻想的な景色の中で。

 ギャルゲーのイベントCGみたいに、死亡フラグでも立ってそうな雪姫ちゃんが

 悲しみに満ちた切ない表情を浮かべている。

 ダイプリの真姫……いや、真姫じゃないけど真姫でいいや。

 ルートに入る前に不治の病に冒されていることが判明した彼女が、

 頑張ると言ってその時に選択肢が出る。

 励まして元気づける台詞と「頑張るのは医者だろ」みたいな台詞の二択で、

 前者を選ぶとバッドエンド直行して、多くのプレイヤーが煮え湯を飲まされた。

 理亞さんもプレイ当初にバッドエンドに行き、後日ヒナにあの選択肢はおかしい! と言いたかったそうだけど。

 西木野真姫と交流を深めた際、そりゃそうだわと納得したとか。

 でも、あの子も処女だけど、真姫さんも処女なんですよね? と理亞さんに言われたら、

 やっぱりメインヒロインはそうでないと暴動が起きそうだもんね? と答えるのはどうだろう?

 理亞さんはハラショーって言って盛り上がったけど、周りの空気は微妙だった。

 さらに雪姫ちゃんとその先を進むと、大きな扉が現れた。

 ケルベロスとか地獄の番犬と呼称されるモンスターとかが、哀れな子羊を待ってそう。

 仮に勇者絢瀬絵里の物語だったら、別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?

 と、大言壮語を言い放ち、3秒でヤムチャになるね、自信がある。

 もしかしたら私が六回殺されてるかもわからない。 

 私はその大きな扉を見上げながら、華美な装飾に包まれたそれを見て、

 その先に待っているであろうものを想像して少し震えた。

 地獄のような、のようなものならば人生において数度体験したことはあるけれど、

 本当に地獄に行くなどとは思ってなかったので、もっと真面目に体験しておけばよかったかも。

 

「絵里お姉さん……私はサポートすることしかできません

 力添えは出来ませんが、常に味方でいると誓います」

「わかった、こういう時一人じゃないっていうのは大事だから

 もうこんな年齢ですもの、少しくらい努力は重ねておかないとね」

 

 いかにも余裕と言わんばかりの態度で笑顔を作り、雪姫ちゃんの顔を覗く。

 彼女はそっと目を伏し、辛そうに肩を震わせたけれど。

 私は見なかったふりをすることに決めた、ここ最近は人を泣かせてばっかりな気がするな?

 死にゆく途中でμ'sのみんなの泣き声を聞いた気がしたから、

 ああ、でも、ことりや凛が泣くわけないか、にこあたりも怪しいな……希は……

 穂乃果あたりはお情けで泣いてくれるかも、海未と真姫は結構親しかったから……

 花陽にはコシヒカリを送っておこう、きっと感涙してくれる。

 下手したら自分が死んだときよりも泣いてくれそうだけど、まあ、そういう扱いで良いんじゃない?

 私はまっすぐ前を見て、一つ息を吸い――

 ツバサが私を忘れてるみたいな目を向ける想像をして、

 違うのよ違うのよと言い訳を心の中でしながら歩き出した。


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