三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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鹿角理亞ルート プロローグ 03

 ウォーミングアップのつもりで身体を動かし続けていたら、

 朝日ちゃんにちょっと待ってくださいと忠告をされてしまい、

 強制的に休憩時間を入れられて、途方に暮れる絢瀬絵里がここにいます。

 仲良しの面々に喜び、管理の仕事もできそう! と、 

 やたらハイテンションになりながら先頭に立って運動を重ねていたから、

 いつの間にかに視野が狭くなっていたみたい、いけないいけない。

 ただ、この中のメンバーって、私と年齢の近い理亞ちゃんと善子ちゃんでさえ、

 妹である亜里沙の2個下であるから……ええと……うん! 前を向こう!

 私から距離をとって飲み物を飲んでいる朱音ちゃんに、

 おっかなおっかな近づいてみると、彼女は思いのほか嬉しそうな表情で

 どうしたんですか? と問いかけてくれたので、

 質問を質問で返すのは失礼だと思いながら、尋ねたいことを聞いてみる。

 

「歌もすごい上手だけど、昔から得意だったの?」

「昔から観察するのが得意で、上手な人を見て聞いて――

 歌だけはうまくいきました」

「ダンスもすごく上手じゃなかった?」

「自分の理想通りに体が動いて……不思議なんですけど」

 

 いかにも不思議と言わんばかりに首を傾げながら、

 朱音ちゃんは過去に人の指摘ばかりして嫌われたということを話す。

 どこ吹く風だったのは親友関係にあったエヴァちゃんくらいで、

 とても嫌味な子だったと苦笑しながら話してくれた。

 過去の自分を思い出すのは苦しいけれど、

 確かに自分にもそういう部分があったから理解できる。

 間違いや失敗を指摘するのは簡単で、

 相手の不備をあげつらえば自分の気持はスッキリとする。

 ただ、改善策も指摘をしないと、言われた相手も困り果ててしまうし、

 何より、口ばかりで行動できなければ信用なんて得られない。

 高校時代の私が仮に、すごくダンスとか運動が苦手な人物であったら、

 おそらくμ'sのみんなは私を放逐かなにかしていると思う。

 優しいからそれとなくではあって、未来の自分がバカなことをしたと気がつくのだ。

 

「なんで英玲奈みたいに動けないんだろうって思う時もありました」

「そりゃ、朱音ちゃんは英玲奈じゃないし」

「ええ、そうですね。でも、そういうのってできなくて焦燥している

 人間だったりすると気づかないものじゃないですか?」

 

 なるほど。

 気がついてはいるけれど、改善する余裕がない。

 問題点は把握していても、矯正する時間がない。

 焦燥感はたえず膨らんで行き、イライラになり、ストレスにもなり、

 いずれ周囲に辛く当たっていき、だんだんと孤立していく。

 まるで絢瀬絵里のよう! ハラショー!

 なお、ラブライブ! というμ'sの軌跡を辿った物語があり、

 アニメでも放送されたけれど。

 DVD・BD特典に付いてきたスクールアイドルダイアリーという小説は

 μ's一年生組からエピソードを聞いたライターさんが、

 μ'sの監修と許可もなく発行されていて、

 絢瀬絵里の過剰なる装飾が施されている。

 なにせヒナが書いたし。

 海未には穂乃果穂乃果ばっかり言ってるじゃないですか! と不評で、

 ことりも凛のエピソードばっかり読んでいるとの話。

 なお、まきりんぱなの話のうち、真姫のエピソードだけは装飾がやたら強く、

 彼女いわく高校時代の話は恥ずかしいそうだけれど、

 ならば私の黒歴史を楽しそうに脚本家に言うのはやめて欲しかった、ダメージが大きい。

 

「今はみんなの問題点も分かりますよ。もちろん絵里先輩のも」

「お手柔らかにお願いね」

「考えておきます。ですが、今はわかってもらえるように行動しようと思うんです

 自分の不出来さが本当によく分かるようになってきたので」

 

 黒歴史は掘り起こされてしまうけれど、

 そのことに文句を言ってもどうしようもない、身から出たサビであるし。

 ただ、それを戒めにして改めて行くのは誰しもができること。

 自分自身を省みて前進していく、朱音ちゃんはいい笑顔だ。

 穏やかさと精神的な余裕を持ち、気持ちも晴れやかになった様子。

 理亞ちゃんに言わせればもうちょっとツンケンしていたらしいけれど――是非は問わない。

 

 そういえばと朱音ちゃんが何かを思い至り、

 私に昔のことは覚えていますかと問いかけてくる。

 一部一部にモヤがかかったみたいにどうしても思い出せないエピソードがあるというと、

 すごく残念そうな表情をされてしまい、不出来な記憶回路に文句を言いたくなった。

 ほら、最近流行じゃない? ノコギリヤシとかイチョウなんたらとか。

  

「私には友人がいました、友人だった期間はそれほどでもないですが

 驚くくらい良い子で、性格が悪い私にも気長に付き合ってくれました。

 歌が得意だって気づけたのは彼女のおかげなんです」

 

 名前を聞いてしこたま驚いてしまった。

 だけども、その子なら今は私の心の中に居て、

 慌てふためいて動揺しきっているとか、やーめーてー! と叫んでいるとか。

 朱音ちゃんが恋心を語るみたいに連々と雪姫ちゃんを褒め称えるのを、

 心の中で叫び声みたいな悲鳴と一緒に聞きながら、

 雪解けをするみたいに何かを思い出しそうになり、首を振った。

 あんまりいい思い出はないような気がしたし、過去にはそれほど意味はない。

 

「雪姫と比べるまでもないですが、

 私は彼女みたいになりたい。みんなから好かれるような

 そんな素敵な人に」

「私になにかできることはあるかしら?」

「自分に至らない点でがあれば指摘してください、

 できれば改善できるものであると嬉しいですが」

 

 舌を出しながら微笑む朱音ちゃん。

 明るく前向きな姿になぜだか私は安堵をしてしまって、

 どこかで会ったことがある彼女とは違う気がしてならなくて、

 そんなこともあるかなと気分を一新した。

 

 朱音ちゃんとの交流を果たして、次の目的はきれいな……いや、

 なぜか性格が変貌してしまった鹿角理亞ちゃん。

 以前までさん付けで呼ばないといけない空気感があったけれど、

 慇懃無礼な感じがする! と涙目で訴えられてしまい現在に至る。

 遠慮せずに仲良くしましょうと言われても、どこまで踏み込んで良いのかは極めて疑問。

 先ほどの自分のパフォーマンスに納得の行かない部分があるのか、

 鏡を見ながら常に自分の動きを確認している。

 元から能力は非常に高いのに、やる気が持続しないと問題視されていたから、

 理由はわからないけれどモチベーションが高いのは歓迎できる。

 ただ、いまさら過去の理亞ちゃんに戻っても戸惑うばかりなので勘弁願いたい。

 

「ああ、絵里先輩」

 

 先輩に対する敬意と一緒に、おちゃめな感じで周囲を観察をしないとと嗜められてしまう。

 問題があるのは自分ばかりであるので、

 真っ当な指摘を羞恥心と一緒に自分の腑に落とし、噛み砕いて納得する。

 ただ、今後何度も改善のために失敗するケースもあるので、

 できれば見捨てないで頂きたい。

 

「エトワールのみんなは、以前は本当、吹き溜まりと言うか……

 かなり問題があるアイドルで、私のことも戸惑っていますが、

 成長具合が解せないんです」

「自分の中のイメージと違うということ?」

「私一人ではなく、みんなもアレ? っていう感想があるみたいです

 なんだか怖いですね」

 

 誰かに都合の良いシナリオのようというので、

 思い当たる人はいないのと聞いてみたら、自分自身を指差して

 まるで物語の主人公になったみたいな気分だという感想を残す。

 あまり嬉しくない様子なので、何があったのか聞いてみると

 今のような自分になってから、アンリアルで行動をともにしていたルビィちゃんと

 連絡が取れなくなってしまったみたい。

 既読すらつかないLINEや電話やメールをしてもなにもないので、

 しばらくしたら事務所に問いかけてみたいよう。

 そんな心配な心持ちでありながら、私を迎えに来るのを優先しれくれたあたり、

 本当に申し訳ない気分になってくる。

 

「朝日、慌てないで冷静にね。

 パフォーマンスができる下地はあるから――この人別格だから

 気にしないでいいの」

「ええ、わかってるんですけど……今までニートだった人より

 動きが劣ってることを自覚していると少々焦りも」

「だいじょうぶ、朝日ならできる」

 

 絢瀬絵里というイレギュラーのせいで焦慮が湧き上がるのなら、

 連れてきたプロデューサーに文句を言ってください。

 ――手前勝手な理由ではあるのだけど、ほら、

 やっぱり、調子に乗りがちな人生送っているからね、私。

 そこを改めろというツッコミは改善には至らないのでアドバイスをお願いします。

 二人の距離感は近く、感心するほど指導も適切であり、

 私の出番はないと思われたけど、一応年上の人間を顔を立ててくれたのか、

 とりあえず言わんばかりに何かありますかと聞いてくれた。

 多少緊張を覚えながらも、考えられるうる限りのアドバイスを出しておく。 

 

「ルビィはどうしたんでしょう? こんなに交流が途絶えたのは

 高校時代から通算してもなくって」

 

 私のアドバイスは常人にはこなせない任務だったらしく、

 相手を見て指導はしてくださいという、酷く当たり前な指摘を受け、

 朝日ちゃん強化人間化計画は実行されずじまいだった。

 

「メッセージも残されていないの?」

「はい、仮に何かあれば、ダイヤさんから連絡があります……いや、 

 あると思うんです。あっちから連絡が取るのは嫌かもしれませんが、

 社会人ですからね、仕事上必要であれば」

 

 見えないかもしれないけれど、

 ダイヤちゃんも真っ当な社会人らしく、

 仕事と私情は切り分けて考えられるみたい、本当かしら?

 多少解せない部分があるとは言え、

 それ以上にルビィちゃんの行動も分からないので、

 想像で判断せず、経緯が分かるまで動かないことを言ってみた。

 

「分かりました、確かにルビィの目的がわからない以上

 こちらから行っても仕方ないです

 不安ではありますが、時が解決するのを待ちたいと思います」

 

 考え込むように腕を組んで静かになってしまった理亞ちゃんが

 一人で考えてみたいふうであったので場を離れた。

 黙々とトレーニングや動きの確認を続けている朝日ちゃんに手を上げて挨拶したら、

 ちらっとこちらを見て。

 

「足をうまく動かすためにはやっぱり筋力なんでしょうか?」

 

 さきほど的外れなアドバイスを送ってしまったので、

 評価が転落してしまったかと思いきや、それでもなお指導を受けてくれることが嬉しい。

 テンションが跳ね上がってしまった私だけど、ここでこうすればいいと言うと

 普通の人にはできませんで終了してしまうので、

 相手にあったアドバイスを送るためにちょっと考えてみる。

 自称能力値が低い彼女だけれど、他のメンバーが優れているのと、 

 自分自身の評価自体が低いせいで客観性に欠ける部分があるのだと思う。

 UTXの出身だったせいか、基本的に自分よりもできる相手ばかりが周囲にいたため、

 自ずから出来て当然と判断してしまうのでしょう。

 はじめて見た動きや、振り付けや、トレーニングメニューを難なくこなせるというのは、

 元からの下地があってできることなので、見た通り、考えたとおりにこなせないからと言って、

 何ら落ち込むことはないと思う。

 

「リズム感や柔軟性、もちろん何回も同じ動きを繰り返して身体に覚えさせるというのも必要ね」

「うう、私に足りないものがいっぱいあるということでしょうか?」

「いいえ、誰しもそうなのよ、最初からスマートにできるなんて、

 私の知る限り綺羅ツバサくらいしかできない所業よ?」

 

 ちびっこい外見のくせにオリンピックアスリート相手にも渡り合う運動能力で、

 あいつは人間じゃないのではないか(英玲奈)

 基本的に比較対象にすらならないわね(あんじゅ)

 なんであんなすごい人が絵里ちゃんの友達なの?(凛)

 最後の凛のコメントは、一緒に居て恥ずかしくない? という台詞が言外に含まれている。

 自分にできないのは恋人くらいと自嘲気味に笑い、

 人生基本的に9割方勝利してる綺羅ツバサにも実はちゃっかり弱点がある。

 優れた観察力と身体能力の高さのおかげで順応性が果てしなく高いので、

 努力する気が失せてしまうこと。

 やがて努力する相手に追い抜かされてさらにやる気が失せるとは彼女の言葉だけど、

 アイドルだけは続けているわねと問いかけてみると、追い抜かせない相手が居て悔しいから

 と教えてくれた、そりゃすごい人間がいるものねと言ったら、バカじゃないの? 

 みたいな顔をされたので、あ、地雷踏んだなって思って賢明な私は黙った。

 

「絵里さんにできないことってあるんですか?」

「たくさんあるけど……え? そんなにデキる人みたいなイメージある?」

 

 確かに恋人はできないし、赤ちゃんもできないけど! 

 と、小ボケをかまそうとしたけれど真剣な面持ちでこちらを見上げる彼女を見て、

 咳払いを一つして発言を回避する。

 空気を読まずに迂闊に本能のままに発言する癖は、

 長年の経験で披露される機会はずいぶん少なくなった。

 私を知らない人からするとあの橋! 本で見たことがある! がえらい有名。

 なんであんなにテンション高かったの? 海外初めてじゃないでしょ?

 と、よくネタにされるけど、私だってわからない、嬉しかったのかも知れない。

 

「いえ、もちろん何でもできるわけじゃないっていうのは知っています

 こう、踊りとか、動作とか……身体を動かすことに関しては

 かなりレベルが高いんじゃないかなって、なにせ姉の歌声も成長させましたし」

 

 歌うのは大好きだったけれど、歌唱力が低レベル過ぎて泣けるヒナを

 彼女が泣け叫ぶレベルの指導で実力を向上させたのは――まあ、お互いに黒歴史。

 最近会ってないからわからないけれど、やられたらやり返す! 倍返しだ!

 とか言われたら、もう、どんな酷い目に遭うかわからない、

 魔法少女が敵役にやられたときみたいなことになるかも知れない、

 あ、もう、ダイヤモンドプリンセスワークスではそうなってたけど、あれは絢瀬絵里じゃない。

 

「うーん……成長する人間はすごいかもしれないけど

 アドバイスする人間はすごくなんかないわよ?」

「世の指導者全否定ですね」

「指導してお給料を貰っている人はまた違う世界があるんだろうけど、

 私みたいな素人が相手にできるアドバイスなんて、

 せいぜい一緒に頑張りましょうくらいなものよ?」

「姉にはなんて説明するんですそれ」

 

 私は朝日ちゃんの目を真っ直ぐに見られなかった。

 彼女の指摘に恥ずかしいやら、消したい過去を思い出すやら、

 一つも反論もできないし、言われたままの刑を受けるしか無いし。

 私がしどろもどろする様子を見て、多少気分も晴れたのか、

 朝日ちゃんは先ほどよりも和やかな雰囲気の笑みを浮かべて、

 

「私は、絵里さんみたいになりたいです」

「なれそうだから?」

「それもありますけど」

 

 ボケてみたら、それを上回る言葉のナイフで私の心はズタズタ。

 凹む私にコロコロと育ちの良さそうな小さな声で笑い、ハっとした。

 地声はハスキーというか見た目に反して低めだけれど、

 驚いたときとか、衝動的に出る声はヒナに似て、ロリっぽいと言うかキーはかなり高め。

 鼻に掛かる感じで声の出し方を矯正してみたら、ちょっと面白いことになるかも。

 

「ねえ、朝日ちゃん、ちょっと尋ねてみたいんだけど

 なんでアイドルになろうと思ったの?」

「うーん? なんででしたかねえ? 

 気がついたらそうなりたいと思ってたフシもありますけど……」

 

 天井を見上げながら思案する朝日ちゃんを見て、

 以前ヒナに聞いた話を思い出していた。

 子ども時代はアニメ好きだったという朝日ちゃんが憧れたというのが、

 きらりんな感じの月島さん。

 同じアニメを見て、妹はこうして芸能プロダクションに入り、

 姉はエロゲーを作るという微妙に差異のある結果になったけれど。

 金髪に心を惹かれる結果になったのはアレのおかげと言われても、

 私としてはなんて反応をしていいのか分からない、胸を張ればいいの?

 

「ああ……もしかしたら、アイドルが姉妹の会話の種になったからかもしれないですね」

「アイドルは好き?」

「現実を見て諦めようと思うことも何度もありましたが

 それでも続けているってことは好きなんじゃないでしょうか?

 嫌いはともかく、好きって長年続けてるとよくわかんなくなるものじゃないですか?」

 

 そう言われてみれば、そのような気もする。

 人に対する感情は別にしても、私の料理好きはしてないと違和感があるとか、

 身体を動かすことも習慣化しているから勝手にやってしまうという感じだし。

 長年好意的な感情を持ち続けていると、それが自然になってしまって、

 いつの間にかにやめてしまうとかいう話も聞いてしまうし。

 

「ヒナのことは好き?」

「ああ、うん、尊敬はしています。好意的であるのは確かですが

 ……ええ、言葉にするのは恥ずかしいですね」

「ふふ、さっきのお返し」

「年甲斐を考えてください」

 

 暗に子どもみたいなことをすんなよ、と殴り返されてしまい。

 ちょっと拗ねてしまった私は、笑みを浮かべながら彼女に背を向け、

 亜里沙のことを思い出していた、ここにいる面々って妹ばっかりで、

 さっきからついついμ'sの憧れていた彼女のことを考えてばかりだ。

 

 μ'sに対する憧れと言えば、Aqoursのことも思い出す。

 不運にも両者の交流は上手くは行かなかったけれど、

 こうして一部では一緒に同じ仕事をしていたりとかもして、

 何もかもうまく行ったわけではないけれど、何もかも失敗したわけじゃない。

 以前真姫が信者とアンチの違いは、

 一つの事実をネガティブに見るか、ポジティブに見るかの違いしか無いと言っていた。

 同じものを見ているのに受け取り方が違うというのは、面白さでもあり、

 大変でもあることではあるんだけれど。

 

「よし……ヨハネちゃんて呼んだほうがいいの?」

「あー……どうなんだろう? 千歌以外のメンバーはヨハネって呼ぶけど……」

「じゃあ、よっちゃんで」

「気がついたら善子ちゃんって呼んでるオチじゃないですか?」

 

 クールに髪の毛をかきあげながら、長い髪が煩わしいと言っているよっちゃん。

 短髪だった過去は高校時代にまで遡り、経緯は忘れてしまったらしいけれど、

 朝起きたら短くなっていて、視力も大変悪くなったそう。

 ただ、その出来事の後から他の面々は必ずヨハネと自分のことを呼び始めたらしく、

 高校時代は喜んだけど、今となっては気恥ずかしいだけみたい。

 なんと統合先の高校で生徒会長も勤め上げ、

 仕事もAqours1年生組だけでこなしたせいか、

 デスクワークには絶対の自信があるらしい、ルビィちゃんと花丸ちゃんは戦力外だった模様。

 

「たぶん、AqoursのメンバーでAqoursであることで得したのって誰も居ないんですよ

 でも、私はAqoursとして活動した過去を後悔なんかしない、Aqoursが大好き。

 できればもう一度Aqoursとして活動したい、曜とか梨子は絶対に嫌だって言うだろうけど」

「そうなんだ、一年生組では?」

「マルは賛成してくれると思います。ルビィはどうだろう? 最近、私達3人で集まってないし……」

 

 過去のことで振り返ることはないかと問うてみたら、

 敏い彼女はAqoursとして活動していた自分のことを話してくれた。

 私や穂乃果は……まあ、μ'sとして活動していたことを後悔する時代もあったけれど、

 それでもその時の出会いや経験はかけがえのないものになっている。

 おそらくμ'sが揃ってこれから同じことをする機会というのは、 

 ほぼ可能性としては0に近いんだろうけれど。

 

「ルビィは……さっきちらっと理亞の話が耳に入りましたけど

 私ともマルとも連絡を取ってないみたいで。

 知らないアドレスからメールが入ってて、誰かと思ったらマリーだったんですよ」

 

 どこでどうアドレスを調べたのか、と苦笑しつつ口にしながら文面を見せてくる。

 内容を見てもいいのかと聞いてみたら、どうしても見てほしくてと。

 一人で抱えられない事実があったみたいで、私なんかで力になれるのかなとは思うけど。

 

「ええと……海を見ています?

 最近和菓子にハマってあんこに飽きたと二人して言ったら怒られました。

 理想の人は居候にも厳しいのです

 姉妹喧嘩は犬も食べないと聞いたので、

 姉に会ったら宜しくお伝え下さい……?」

「理想の人というのは、高坂雪穂さんのことなんですよね

 だから日本にいるみたいで、海って言うには東京湾?

 あんこに飽きたって、果南ちゃんがそんな事言うかなぁ……」

 

 雪穂ちゃんが理想の人というのは、

 何でもAqoursがラブライブの優勝に貢献したからであるみたい。

 なんとか静岡県予選を突破した彼女たちは、

 ラブライブ本戦の一回戦の前に雪穂ちゃんと亜里沙が顔を見せて、

 Aqoursの欠点や改善点をアドバイスした結果浦の星女学院の優勝に貢献。

 今から考えれば、あの指摘がなければ初戦で姿を消していた弱点だったらしく――

 

「私達の身の丈に合わない優勝という結果、

 目標を達してもなお廃校を回避できなかったおかげ……いや、せいで

 千歌は努力は実らない、μ'sみたいになれないと絶望し

 姿を消す訳にはなるんですが……あ、ごめんなさい」

「え?」

「すごく怖い顔をしてました、絵里さんも表情を変えることがあるんですね……」

 

 よっちゃんが恐怖に感じてしまうくらい、

 恐ろしい顔をしてしまっていたみたいで、私は慌てて頬を上げ

 笑顔を作ってみせる。

 多少なりともうまくは行ってないのか、やや距離は広がってしまったけれど。

 

「いえ、ちょっと、ちょっとね、

 知り合いにμ'sに入りたいっていう子がいたものだから

 差異がね?」

「千歌が身勝手なのは知っています

 ただ、私はそんな千歌が好きなんですよ、とても残念なことに」

 

 口を開こうとして辞めてしまった。

 どんなに言葉を重ねたところで議論は平行線になる。

 世の中には優れているから好きという人もいるし、

 面倒極まりないから好きという人もいる。

 好意的な感情を寄せるのは、好意的な人間であるからばかりが理由にはならない。

 蓼食う虫も好き好きというように、評価の基準は人それぞれ……

 ではあるのだけれど。

 個人的な感情で言わせて貰えば、彼女が穂乃果を持ち上げたおかげで、

 穂乃果がどんな目に遭ったか知っている人間としては、

 一概に好意を寄せられることや理想だと崇められることが

 いい結果を招くとは限らないと知ってしまったので……いや、ほんとう、

 なんて言っていいのか分からない。

 

「私も、μ'sみたいにみんなで仲良くしたいです、

 ありえないですよ? 数年経ってもなお9人揃う機会があるとか」

「こう……スケジュールを調整してくれる有能な人がいて

 たまたま集まっているだけという言い訳はなし?」

「奇跡ですよ、Aqoursが今後9人揃うとしたら。

 もう、千歌という欠けたピースは元に戻らない。

 もしかしたら彼女には会う機会はないのかも……」

 

 とても寂しそうな表情を浮かべる善子ちゃんに、

 幸運にも私とお付き合いがあるμ'sのみんなの事を考えながら、

 私自身にも身勝手な部分があって、それで彼女たちを嫌っている側面があるとすれば

 なにかできることがあるかもしれないと思い至った。

 

 なんとなく物別れしてしまった感のあるよっちゃんとの交流を終え、

 ひとりボーッとしながらエトワールの住人を遠巻きに見ているエヴァちゃんに話しかけてみる。

 なんとなく楽しげである表情から花咲く表情に変化し、

 やたら私に対する好感度の高い面々の中でも、飛び抜けて評価が高いのが彼女である。

 エヴァちゃんの中では空気! 水! 絢瀬絵里! みたいな感じで、

 必須栄養素か! と言ってしまったけれど。

 見てないと禁断症状が出るというのはもはや金髪中毒と言って良いんじゃないかと。

 

「みんなの輪に入れば良いのに」

「仲良くしたいです

 でも、私って思わず言ってはいけないことまで言ってしまうみたいで」

「そうなの? 例えば?」

「---------」

 

 ん?

 あれ、おかしいわね? 

 エヴァちゃんが何事か言っているはずなのに耳に入ってこない。

 

「ええと?」

「物語で言うところのネタバレというものなのでしょう

 禁則事項です――みたいなものですね」

「----------」(残念ながらバストサイズが)

 

 ん?

 あれ、おかしいわね?

 口にしようとした言葉が耳に入ってこない。

 

「-----------」

「--------」(だいじょうぶ、胸のサイズは成長するものよ!)

「-----------」

「--------」(亜里沙も高校卒業後に大きくなったし! 胸も背も!)

「-----------」

「どうしたの? なにか悲しいことでもあった?」

 

 あ、声が出た。

 胸の大きさに関するフォローは

 矢澤にこ、星空凛、園田海未に関してはまったく成功しなかったものの、

 後に下がいるから油断していた、思ったよりも大きくなかったと述懐する

 西木野真姫に対しては一定の成果を収めた。

 なお、バストサイズに対する励ましは亜里沙も上手じゃないし、

 希が酔ったニコに白々しい! と怒鳴られたエピソードもあるので、

 胸が大きいと苦労するみたいな話はμ'sでは禁句。

 

「もし……これは仮の話ですが」

「んー?」

「今がもし、今より未来の延長線上にあるとすれば

 私はどうすれば良いのでしょう?」

「創作の話?」

「はい。似たようなものです。

 だって、目にしたもの以外、聞いたもの以外を知る時、

 想像に頼るしか無いのであれば、

 自分が知る事象以外は、ありとあらゆるものが

 想像に委ねられる創作物であると仮定すれば、

 たとえ現実世界に存在するものであろうとも、

 その人自身が空想する創作物であるとは思いませんか?」

「残念ながら、想像と想像を形にした創作物は違うものだわ」

 

 ソースはなろう系小説を読んだり、

 自身が演じる機会もあり、自分でも書けるんじゃないかと想像(妄想)を重ね

 実行性が高い計画(笑)を持ってしても物語を完結させられなかった西木野真姫。

 その際の悔恨の句は「口にする言葉と手で書く文章は違う」であり、

 聞いたツバサにも目に入るモノと耳に入るモノが同じワケがないでしょと突っ込まれたり、

 海未にも妄想と文章化され世に出た作品が同じものではないと断言されている。

 ただ、海未に関しては頭の中にあることがだいたい歌詞として表現されていて、

 ことりからムッツリとネタにされたり、希から耳年増なんじゃない? と言われたり、

 凛からも頭の中にある妄想をシロップ漬けにして現実に出したらμ'sの曲の歌詞ができると評され、

 穂乃果の歌詞は素直なのにどうして口下手なの? という言葉は海未にクリティカルヒット。

 

「未来は未来、過去は過去……生き方論としては

 今をきちんと生きるしか無いんじゃない? 問題は時間が解決してくれるわよ」

「生きていくのは私一人では怖いです」

「だったら一緒に行ってあげる、まあ、役に立たないかもしれないけれど」

 

 自嘲気味に笑ってしまったので、苦笑しているようにも見える自分の顔を鏡で見ながら。

 エヴァちゃんはくるりと振り返り天井を見上げて、

 

「……いえ、一緒にはいけません」

「ええ? 頼りにならないから?」

「それもありますけど」

「あるんだ」

「でも、もし、今よりも未来――そして、今よりも過去にその必要があれば

 一緒に行ってもいいかもしれませんね」

 

 そして彼女はこちらを見て。

 

「今日はボルシチにしましょう」

「え? 作ってくれるの?」

「スープの赤い色が血液でよろしければ」

「……作らせてください」

 

 食べ物トークで盛り上がっていると、

 ハラペーニョ(お腹すいたの意)なみんなが食べたい! 食べたい!

 とやたらボルシチを褒め称えるので嬉しくなった私は

 エトワールのみんなで一緒に買物に行き、ビーツがないことに愕然とし、

 これから来ると電話してきたツバサにビーツ持ってきて! とお願いし、

 ふざけんな! ロシア料理とか飽きたわ! と返答されたものの。

 優秀な彼女の手腕で無事にボルシチは完成された。

 なお、ボルシチと言う言葉は知っていたものの見たことがない面々は、

 ロシア料理が数多く置かれた食卓を見て、

 コトレータを指さしながらボルシチ美味しそう! と言ったので、

 ツバサが大受けして、ロシア料理の知名度ってそんなものよ、怒らない怒らないとフォローしてくれた。

 

「やっぱり、帰ってきた時に食べるものといえばこれですね」

 

 エヴァちゃんの言葉の意味はよく分からないけれど。

 とにかくまあ、みんな嬉しそうなので良かった。



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