アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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鹿角理亞ルート プロローグ 02

 エトワールという建物は――なぜか私の聞いていたイメージと、

 実際の外観と雰囲気が異なっていた。

 一般住宅街に紛れていても芸能関係者がいることすら気が付かれない、

 そんなこじんまりとした建物である――などと勝手に思っていて、なぜだか自信もあったんだけど。

 数年前に一度リフォームされたという建物は、新築の雰囲気そのままに綺麗で、輝いていて、

 いや、輝くと言ってもイルミネーションは燦然と輝いているのではなくて。

 おそらく、この建物が自分の家の周囲にあったなら、この家には誰が住んでいるんだろう?

 と疑問に思うほど目立つ、とにかく目には入る、白を基調としたややもすればホテルみたいな、

 少なくともアイドル候補生が――その上パッとしない人間ばかりが集った、

 明日の仕事も心配になるほど売れていない芸能人が住んでいる建物のようには見えない。

 大きな犬でも飼っていそうな、私達お金持ちですみたいなオーラで

 ででんと建っているエトワールに入ることしばらく、一人ひとりの面々と挨拶を交わすことに成功した。

 絢瀬絵里だと名乗ると、若い! 変わってない! すごい! 映像のまんま!

 という反応で尊敬されているのか、化物扱いをされているのか怪訝に思うほど。

 正直、自分のことなんてネットに情報が溢れていて、

 高校時代の所業から光堕ちしたキャラ扱いされている(ピ○シブ百科事典参考)のに

 それが今に至っては元ニートであるのだから、お前なんていらねえ扱いされても、

 不思議じゃないし、罵声の一つや二つ飛んだところで文句など言えようはずもない。

 ――でも、光堕ちしたキャラに理亞さんとか、果南ちゃんとかは入っててもしょうがないな~って思うんだけど、

 ニコとダイヤちゃんはどうなの? それなら聖良さん入れても良くない?

 一応体面ではエトワールの管理人であり、それに加えて新人アイドル兼トレーニングコーチ、

 学力面のフォローから、日々の生活の模範となるよう立派な人間たるべし――。

 ニートにはハードルが高すぎる気もするんだけれど、雪姫ちゃんからは

 だいじょうぶ! できます! となぜか太鼓判を押され。

 アイドル候補生の住民たちにも、やれます! 模範となってください! と、

 なぜか期待をされているので、単純な私は案外できるのではと思って、

 ひとまずまあ、期待を裏切らない程度には頑張ってみようと思う、フォローはきれいな理亞さんに任せる。

 

 この寮に住んでいるのは合計五人。

 アイドルとして仕事があり、でも現在はルビィちゃんと仲違いしているとかで、

 基本的にエトワールにいて一人でレッスンに励んでいる鹿角理亞さん。

 過去には私に対してツンツンしていたと思うし、

 なにか口を滑らせれば蹴りがかっ飛んでくるはずだったし、

 ストイックで他者との交流も拒んじゃうようなガチアイドルだったような気もするんだけど。

 自分でも驚くくらい心に余裕があるらしく、もしかしたら死亡フラグでも建っているのかも知れない

 と、真顔で言ってしまうほどに優秀で有能で何でもできる。

 演技から歌から踊りまでエトワールの中では二番目以内をキープ。

 生活力だけは下の方かも知れないけれど、エトワールに住んでいるみんなは

 おそらく一人暮らしをしたらゴミ屋敷になっちゃうレベルなのでそれでも上位なのかも知れない。

 もともと得意だったと吹聴していたお菓子作りは、他アイドルをゲロインにさせてしまうレベルらしく、

 お菓子作りどころかどんな料理を作っても涙を流させる凛といい勝負。

 ご飯を残すと凶悪な視線を向ける花陽でさえ、え、あ、しょうがないよね! みたいな顔して

 私に残りを押しつけてくる、おかげで凛の料理くらいでは胃も荒れない。

 二人目の住人は英玲奈の妹である統堂朱音ちゃん。

 自分でも歌くらいしか取り柄がなくて、と困った顔をした彼女に演技や踊りを見せて貰ったところ、

 体力面で他のメンバーに比べて劣るけれど、優秀な結果を残してくれた。

 おかしい、英玲奈に比べて私は――という自己判断はともかく。

 10以上年上の姉を呼び捨てで呼ぶ度胸は買ってあげないといけないかも知れない。

 ――私? オトノキの学生からポンコツって呼ばれてるみたいだけど?

 ただ、歌声は別次元レベルで優秀。なにせマイクがいらない。

 声量も大きく、高音も低音も私なんぞが手も足も出ないほどに空間に響き渡る。

 私もっと出来ない人間じゃなかった? と親友同士だというエヴァリーナちゃんに訪ねていて、

 彼女は流暢な日本語と、綺麗でおしとやかな声色で、あなたは雪姫と同じくらいできるわ。

 と説明されていた。私の中にいる雪姫ちゃんのことらしいけど、詳細は不明。

 いや、聞いてみても今は知らなくてもだいじょうぶです! とサムズアップされるばかりで。

 三人目の住人はエヴァリーナちゃん。

 銀髪の妖精かっていうくらい浮世離れした外見で、最近妖精から妖精王にランクアップした――

 と、説明されたけど意味はよく分からない、美人さ具合が向上したみたいだけど……。

 その外見と同じようにどこか違う視点から物事を見ていて、

 やたら私にベタベタとしてきては、今度は上手に行く、だいじょうぶ、と励ましていた。

 中にいる雪姫ちゃんとタッグを組んで褒め称えてくるので、まあ、そんなものかと思いつつある。

 ダンスが得意でEXI○Eかってくらい、踊りに関してはアイドルの中で別次元レベル。

 私もそれなりにダンスができるかなあっていう自負があったけれど、彼女のレベルと比べてしまうと

 チキとバヌトゥくらい違う、驚きの性能差――反面、声は透明感があって綺麗だけど声量には欠ける。

 あと、コミュニティスキルは最底辺で、相手が目上だろうがなんだろうが、面倒くさいときはスルーする。

 彼女のフォローにあたるのは栗原朝日ちゃん、自分はなんにもできないからと自嘲気味に笑うけれど、

 アイドルの中で実力が劣っているからではなく、他の面々が恐ろしく優秀だから。

 今までのレッスンのおかげで最低限アイドルとしてのメンツは保っていると言うけど、

 明らかに現在の絢瀬絵里と同格レベルなんですが、なんでこの子達売れないアイドルなの?

 最後の住人は津島善子ちゃん。

 髪の毛が前日と比べて何十センチも伸びたと語り、嘘は吐かなくていいのよ? 

 って言ったら、他の面々が本当なんです! びっくりしたんです! このヒト人間じゃない!

 と、さんざっぱら説明してくれて、信用はしたいけど気分的には複雑。

 エヴァリーナちゃんの妖精王と比べてしまうとまだ人間レベルだけれど、

 理亞さんと比べても同じかそれ以上の美少女っぷり、おかしい、もっと私は――

 と言っていたけど、ここのみんなそんなこと言ってばっかりだね?

 元Aqoursというのは伊達ではないらしく踊りや歌も高ランクなのに

 むやみやたらにできてしまう人間がいるので、結局平均点レベルだと自嘲する。

 夢の中にベルちゃんなる人物が出て、好色と欲望を司る古代の悪魔と名乗ったそうだけど、

 いやあ、気軽にベルちゃんって言ってくれていいから! とやけにフランクに話しかけられたらしい。

 困ったときは希と一緒にそっち行くと宣言され、何故に? と私も疑問に思い、

 彼女にLINEを送ったら、もう今後バトルはしませんという土下座の写真が送られてきて

 頭の上にある疑問符が更に増えた。


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