三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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鹿角理亞ルート 12

「自宅遭難民エリち」

 

 目を覚ますと周囲が明るくなっていて、地下の割には陽光の明るさを感じるなと思い、

 そういえばとテントを張って眠ったことを思い出す。

 夏場に近づき暑くなっている時期に差しかかるとは言え、

 夜に外で眠るとタオルケット一枚では肌寒さを覚えるのかもしれない。

 身体を起こしてテントから顔を出すと、見慣れたエトワールの邸宅が輝かしいものに感じる。

 建物内の空調機器であるとか、隙間風が入らない剛健な壁。

 地面と違って柔らかなマットレスの上に布団を乗せて横たわる幸せ。

 最近寝袋に寝ていてもなおベッドの上で眠れるというのは幸せなことなのだと

 しみじみと考えてしまうほど劣悪な環境下で眠りについたと認識。

 勢い余って外で眠ってしまったけど、

 実は外で眠らなくても良かったのではないか疑惑が私の中で急上昇。

 にこまきが戦力外だったせいでテントを一人で完成させ、

 真姫は徹夜で作曲していて建物の中で過ごしたから、

 テントで眠ったのはほぼほぼ自分だけだったことを思い出す。

 朝起きた時に一人だったので寝坊したかなって慌てて外に出たら、

 いかんせん山の中は朝方だと肌寒く、上着を一枚羽織り太陽の光が眩しいな、

 なんて考えながら伸びなんかしているとニコと目が合った。

 まずいことでもあったのか申し訳なさそうな表情を浮かべながら朝の挨拶をするので、

 どうしたのなんて気軽に声を掛けたら、眠れたなんて問いかけられて。

 疲れていたのか意識を失うように寝てしまったと笑うと、

 「そ、そうよねえ! やっぱり眠たくなるわよね! さ、今日も頑張っていくわよ!」

 とやたらテンション高くテントの中に入ってしまい首を傾げたりなんかしたんだけども。

 私が眠った後にテントから抜け出たニコは真姫にバレないように別荘の中に入り、

 気持ちよくベッドで眠ったものであるよう。

 朝早く起きてテントの中で過ごしている体でごまかそうとしたら私が起きていて、

 ずいぶん肝を冷やしたけどツッコミがなくて良かったと数年後告白されるに至る。

 私の融通の利かなさはニコの上手にやり過ごす器用さを学び活用しないと、

 そのうち風邪のひとつでもひいてしまいそう――そんなふうに苦笑いしながら以前と同じように伸びをしながら太陽の光を浴びた。

 このままラジオ体操でもして身体を動かしたいな、と思いスマホを取り出そうとしたら荷物は建物の中だったのを思い出す。

 まるで着の身着のままで家出をして困り果てる子どものようだと笑いながら、先ほどからそんな私の様子を見ていたと思しき南ことりと目が合う。

 

「おはようことり。どうしたの? そんなイエティに遭遇したみたいな顔をして」

「あの、逆に問いかけたいんだけど、なんで庭でテントを張って寝ていたの?」

「あー……勢い余って?」

「もしかしてこの建物の中にいる人から不遇な扱いとか受けているの?

 だったら私文句を言いに行かないと」

 

 何か要件があってこの場に来訪した南ことりが

 庭になぜか真新しいテントが建てられていることを疑問に考え、

 こんなことをするのは絢瀬絵里くらいしかいないだろうなと一発で認識したんだけども、

 まさかこんな時期にそんな阿呆なことはしないよなうんうん、と考えてたら中から私が顔を出したため不憫に思ったらしい。

 よもや自分の迂闊さが怒りを携えてやって来たことりの同情を買うことに成功し、

 それどころか自分に代わり怒ろうとしてくれたことに感動を覚えたけれど。

 

「身から出た錆と申しますか」

「自分に至らないところがあるからって何されても仕方ないと考えるのは

 絵里ちゃんの悪い癖だよ、そろそろ身体壊すよ?」

「重々承知しておきます」

 

 テントの中で寝袋の中にすら入らず、

 タオルケット一枚で眠ったなんてことが知られてしまったら、

 憤慨したことりにツバサが鶏ガラでスープ作るみたいに煮込まれてしまうかも知れない。

 とりあえず彼女には建物の中で待っていて貰う。

 テントを片付けながら今後ここで寝るのはこれっきりになるよう――身も蓋もない想像をしつつ。

 

「好きなものはチーズケーキ by南ことり」

 

 家の中が騒がしいなー、なんて益体のないことを考えつつ。

 洗顔でもしようかと思い至り繋がるドアを開くと怯えきった表情のツバサがいた。

 何かから逃げ出したと言わんばかりに恐怖を抱えて、私を見上げながら助かったと言いたげな彼女に私は、

 

「外でことりと会ったけど」

「ひいっ!?」

 

 誰かに対して異様に警戒しているので、

 おそらくことりのことなのではないかと思いカマをかけてみた。

 ホラー映画に登場する殺人鬼に怯える被害者みたいな顔をしていたから、

 ついついなんでそんな顔をしているのと尋ねてみる。

 

「いえ……あの、あなたが平気な顔をしているものだから

 どれほど酷い扱いをしていたのかと認識するのが遅れて」

「ああ、昨日のこと? いきなり寝袋取られちゃったのは困ったけど」

「外に出て貰いたいとは思って行動に移したのは事実よ? ちょっとあなた抜きで話し合わなければならない事情があったから」

「そうなの? またツバサの手のひらの上で転がされたのねえ」

 

 そうなんだへーくらいの反応しかない私に、

 思いの外に深刻な問題を抱えていると認識したと思しき彼女は、

 やけにこちらに気を使うような視線で私を眺めた。

 哀れみや同情とかの憐憫の情を越えた、本当に私を労る視線を向けられ、

 また何かやらかしたかな? そんな扱いされる必要はないよなーって考えていると。

 

「相変わらず自分は何をされても仕方ないと考えてるみたいだけど、 

 どのような理由があれ何をされても仕方のない人なんていな……」

「みぃつけたぁ」

 

 私の背後から高校時代さながらのとても可愛らしい声色で告げられた、

 殺人鬼が被害者を見つけた時の反応みたいな台詞が耳に入る。

 おそらくことりが腹に据えかねる怒りを抱え、

 この建物の中で一番権力がありそうな綺羅ツバサを探していた事実は今認識した。

 それがややもすると私に怒りが直撃していたと考えるとついつい恐怖してしまうけれども、

 テントで寝るという迂闊な行動がそれを回避させたと考えると、

 たまには失敗をするのも良いものだと、できる限り背後を見ないようにしながら洗面台へと足を向けた。

 刑の執行は多くの悲鳴とともになされたみたいだけれども、

 その中に東條希と思しき声が混じっていたのは聞かなかったことにする。

 管理人として作る朝食はせめてみんなを労れるような豪勢なものにしよう――

 なんてことを考え自室に逃げ込み、ことりに怒られなさそうなレベルの衣服に身を包み、

 エトワールの建物から逃げ出すように抜け出た。

 後ろから誰一人追いかけてこないことを常に確認しながら。

 

「ユッキ反省回顧録」

 

 外に出歩いてからしばらく、

 そういえば先程から雪姫ちゃんが口を開かないことを怪訝に思い、

 どうしたのと声を掛けてみる。

 いつも明るい表情を浮かべているという印象はないけれど、

 いつになく気落ちをした様子ではあったので、

 何かまたやらかしたのではないかと不安を覚えつつ尋ねてみた。

 

(ことりさんの発言を聞いておりまして

 自分にも当てはまるなあと反省しきりなんです)

(ことりの? 確かに心を抉ってくる罵倒はよくされているけれど)

(現在エトワールではツバサさんを中心とした面々が集められてまして

 絵里お姉さんへの対応に関しての是非を問いかけているのです)

(ことりは海未と同じくらいまっすぐだから多少行き過ぎることはあるとは思うけれど

 悪い子だなんてとても言えない、むしろ良い子と称するべきね

 あいにくと私の対応が後手に回っているのと、改善するスピードが遅いから

 何を言われても仕方がない側面はあるわ)

 

 反省はするんだけれど、反省する材料が多すぎて何から手を出してよいのやら。

 夏休みの宿題を溜め続けて困り果てる小学生のよう。

 集められているメンバーがツバサとか亜里沙とかヒナとか

 私の味方になってくれる面々が多いからさぞかし議論は紛糾――

 

(私も絵里お姉さんに甘えている側面があったと)

(ん? それは甘えたいさかりみたいな年齢でもあるし、

 大人びた面は見えるけれど、甘えたくなる気持ちもわからなくは)

(いえ、精神的な安寧を求める面ではなく、

 ちゃっかりこうして同居していますけど、

 もしかして大変なことをしでかしたのではないかと思いまして)

 

 雪姫ちゃんの声色が震えている。

 怒られそうで心配というよりも、嫌われてしまいそうで不安といった感じ。

 自身の想像にがんじがらめになって対応に困る気持ちを抱えるのは、

 幼いころには多くの子が体験すること。

 あっけらかんとしている風な私だって、多少気落ちする時間くらいはある。

 立ち直るまでに時間がかかって迷惑をかけることだってある。

 

(そうね……じゃあ、問題を挙げてみましょうか)

(余計なことをしているのではないかと不安になります。

 私はとある意思のもと絵里お姉さんの意識を取ることもあります

 ですがそれは……有り体に言えば大きなお世話なのではないかと)

(迂闊さに自信はあるんだけれどねえ……)

 

 甘えているという人物が誰なのか気になるんだけれども、

 私の興味本位でどこかから会話を受信している彼女に内容を問いかけるのは、

 ひとまず天高く放り投げることにした。

 私がこうなっている状況を鑑みてみれば、不可解な現実ではあるんだけれども、

 こうして四六時中一緒にいてみて、何も悪いことをしようとして雪姫ちゃんがいろいろやっているわけではないのは知っている。

 雪姫ちゃん一人ではなく、ツバサや亜里沙やヒナや……希やことり。

 私の精神をへし折ってストレスを解消するために口調が荒くなるわけじゃない。

 たまに私はとんでもない不遇な目に遭っているのではないかと頭を過ることはあるけれど、

 多少なりとも身から出た錆という側面がある以上は、解決するために身を砕くのは私であって他の誰かじゃない。

 

(もし、雪姫ちゃんが間違えてしまったとか、失敗したなって思ったら

 またやり直せば良いのよ、改善するために努力をすればいい

 うまくいくことばかりじゃないけれど、失敗したことを悔やんで何もしないよりはいい

 できないと思ってたら何もできないのよ、だから――

 

 だからもう少し私を頼ってみてちょうだい?

 頼りないかも知れないけれど、これでも30年近く生きてきたのだし

 それに、もし私になにかあったら代償を払うのは私だから良いのよ)

(……ことりさんは絵里お姉さんをみんなが頼りにし過ぎだと言ってます)

 

 ――何という過剰評価。

 頼りになるどころか迷惑かけっぱなしな自分の人生を見てもなお、

 ことりがそのような判断を下すのであれば彼女は聖人君子かも知れない。

 頼りになると言うか、盾になって矢が全身に突き刺さっている経験ならあるかも知れない。

 自分にそれほどの活用術がないゆえにそうなっていたとばかり思っていたけれど、

 ことりにはことりの私の見方というのがあるのかも知れない。

 

(亜里沙さんは……希さんにも言われたことがあります)

(ん?)

(元より、亜里沙さんは絵里お姉さんが隣にいないと、一人で立つことすらできません)

(まるで不出来な妹みたいだけれど、違うのよ? 

 あの子は私に構って――)

(違うのです絵里お姉さん。亜里沙さんが自分の意志に反してクールになり

 仕事ができるプロデューサーとして立っていられるのは絵里お姉さんがいるからです)

(雪姫ちゃんはそう見えるの?)

(こういう言い方は卑怯ですが、亜里沙さんが絵里お姉さんに依存していないと思っているのは

 μ'sの方々の中では絵里お姉さんくらいですよ?)

 

 思わずこめかみを抑えてしまった。

 冗談交じりで亜里沙は私がいないとねえみたいな話を花陽に語ったことがあるけれど、

 その時に彼女は哀れな人間を見るような目で何もコメントを発しなかった。

 てっきり何いってんだこの人みたいな反応であったとばかり。

 

(まったく、ことりにはちょっとお説教をしないとね)

(え? お、お説教ですか?)

(頼りになる存在だったらこんな扱いされないわよ、

 もっとこうゲームの英雄みたいに、誰からも尊敬される聖人君子――

 私みたいに誰かに助けられて、担いでくれる誰かがいて、

 いつの間にか前面に立ってる人間なんか頼りになるとは言わないの)

(あ、あの、絵里お姉さん?)

(まったく、いろいろやることがあるっていうのに、

 真姫を説得できるような歌詞も考えないと、ああ、忙しい忙しい)

(え、絵里お姉さん? あ、あれ? 入れ替われな――)

 

 せっかく外出したというのに買い物を放棄し、

 ぷりぷりと怒りを発しながら、なおも私に呼びかける雪姫ちゃんを申し訳ないけど無視して、

 エトワールへと戻っていく絢瀬絵里なのでした。 

 

 

「お前は用済みだ」

 

 怒りを携えてエトワールの建物中に足を踏み入れると、

 感情が消沈としてしまうほどにシンと静まり返っていて、異様な雰囲気に辺りは包まれていた。

 空気が冷めきっていて目立った物音一つすらしないので、

 先程までスルーしてしまっていた雪姫ちゃんに思わず声を掛けてしまう。

 

(雪姫ちゃんだいじょうぶ?)

(もちろんです! 絵里お姉さん!

 ……ただ、ことりさんの言葉は皆様にかなり響くものがあったようです)

(アイスケースの中に放り込まれたみたいな空気はそれが原因か……)

 

 意気揚々とテンション高く怒りに燃えて帰ってきたというのに足を前に踏み出すのが怖い。

 ことりがどれほど私のために怒ってくれたかと思うと感動してしまいそうになるけれど――

 不遇な扱いというものが、自分にとってダメージがあるかと言うとそんな訳もなく。

 そのように扱われる自分にこそ問題がある気もするし、

 それでいて問題があるのならば改善する努力をすれば良いだけ。

 仮に亜里沙やツバサが私に甘えていた側面があるのなら、

 私だって二人に甘えていた側面がある。

 どちらが一方が悪いというわけじゃない、お互い様の精神で行こう――

 という言葉でことりが納得してくれるかどうかは分からない、心がへし折られるかも知れない。

 

「あ、え、絵里先輩……」

 

 玄関先に亡霊でも見たみたいな、おっかなおっかなと言った反応をしながら

 鹿角理亞ちゃんが私に声を掛けてくる。

 緊張しきったような態度は気になってしまうけれど、

 かといって指摘して緊張を加速させてしまっても自分が困るだけ。

 できうるかぎりにこやかに笑みの一つでも浮かべながら声を掛けてみた。

 

「おはよう理亞ちゃん。

 どうしたのそんな幽霊でも見たみたいな顔をして」

「い、いえ……その、怒っていないのかなと心配になりまして」

「怒りたい気持ちはたしかに持っていたけれど……」

 

 今はみんなが心配と告げようとしたら、

 理亞ちゃんはこの世の終わりを見たみたいにしょげた顔をして、

 頭を抱えながら膝をつく。

 何故そんなことにと問いかけたいのは私の方ではあったけれども、

 あまりの気落ちした様子に声を掛けることすら躊躇われる。

 ショックな事があったのは理解はできるんだけれども、

 頭に疑問符が浮かんでばかりの私に誰か状況を教えて頂きたい。

 

「どうしたの理亞さ……あ、絵里……」

 

 続いて出てきたツバサまでが私の顔を見て、

 なにかとんでもないものを見られてしまったと言わんばかりに表情を曇らせ、

 いろいろと問いかけたい気持ちは抱えてはいるんだろうけれども、

 なんとあの綺羅ツバサが私に対して遠慮をしている。

 もっと強調するならば下手に出るようにしながら気を使っている風。

 この状況が私に対するドッキリでなければ、

 南ことりが猛獣を躾ける女王……じゃない、ムツゴロウさんであるかもしれない。

 

「もしかしてすごく怒っているのかしら?」

「付き合いの長いツバサなら分かっているとは思うけれど

 怒らなきゃって気合を入れないと私って怒れないタイプなんだけれど」

「……そういうあなたに今まで甘えてきてしまったのね、ごめんなさい」

「そ、その、困るわ、なにせ自覚がないものだから

 一体何に謝られているのか……」

 

 これが仮にドッキリであるならもちろん大成功。

 ドッキリでなくてもとんでもない無茶ぶりをされるか、

 騙されてやんのブヒヒとか影で笑われていると思ったほうがまだ自然。

 此処にいるのがツバサだけなら演技も疑えようものだけれど、理亞ちゃんは本当にがっくりと魂が抜けてしまっているのが見るのが耐えられない。

 しかしながら今まで絢瀬絵里の人権など、

 鼻をかむティッシュくらいの価値にしか見ていなかったみんなが、

 幕府の将軍様に気を使うみたいに気苦労を重ねる様子を見ると、

 なぜかもうしわけなさで私が爆発してしまいそう―― 

 これも誰かの判断だとしたらその人は前世が諸葛亮孔明、はわわ! ご主人様! 敵が来ちゃいました!

 

「客観的に見ると、こう……使い捨てカイロみたいな扱いだったじゃない?」

「言葉はこの上なく的確だと思うけど、別にカイロみたいに捨てられるわけじゃないでしょ?」

「「……」」

「ふたりともこっち向いて!?」

 

 ドッキリで騙されている説が私の中で急上昇したけれど、

 雪姫ちゃんが言うにはふたりとも本気で私のことを考えているみたいで。

 多少なりとも私の扱いが使い捨てカイロから、

 四天王で一番最初に出てくるやつくらいにまでジャンプアップさせて欲しい――

 扱いが変わってないのではないか疑惑はとりあえずリビングに居る人に問いかけてみたい。

 

「みなみけの三姉妹の次女ことり」

 

 リビングでは南ことり――ことりというより女王……いや、覇王――ううん、ラオウといえば良いのか。

 この世で一番偉いのは私と言わんばかりに、あらゆる面々からマッサージを受けたり、

 飲み物を差し出されたり、この世の繁栄の中心にいると思しき彼女を見ている。

 亜里沙が使用人の中でも最下級の存在らしく、

 あちこちに駆け回り、エヴァちゃんや朱音ちゃんと言ったエトワールの面々の中でも一番年齢がしたなメンバーの世話を焼き、

 希やよっちゃん朝日ちゃんといった上司には仕事がしやすいように下っ端としての役割を真っ当。

 まるで自分自身を見ているような不遇な扱いに、涙がホロリと流れそうになり。

 ついつい見なかったことにして回れ右をしようとすると、雪姫ちゃんに「も、目的を忘れないでください!」と忠告される。

 いかんせんことりのオーラが悪の帝王。

 雪姫ちゃんが語ることには絢瀬絵里のことをかばい、

 不遇な扱いを止めて欲しいと訴えたそうだけれど、

 とてもそうは見えない、すごく疑わしい。

 私をサンドバッグ扱いにする筆頭がことり(次点 凛)だっただけに、

 どういう風の吹き回しでそのような考えに至ったのか――現実逃避に雪姫ちゃんに聞いてみる。

 

(海未さんと会った後、意気揚々と絵里お姉さんをなじりに行こうとしまして)

 

 此処に来た目的はやっぱり私をサンドバッグにするつもりだったのではないかと、

 頭を抱えて嘆きたい衝動には駆られてしまうけれども。

 とある出来事のあと本気で憤慨したことりは、

 体のいい罵倒相手の私を言葉を尽くして追い込むために、

 まあ絵里ちゃんなら何とかしてくれるでしょうという強い信頼(笑)のもと、

 コンビニでお菓子を買いに行くみたいに仕事場から出ようとする。

 が、その日までに仕上げなければいけない仕事があったため、

 後ろ髪を引かれる思いでアトリエに戻り、

 私をなじりたいがためにふだんの数倍でデザインを仕上げ、

 あまりの出来のよさにさすが絵里ちゃん頼りになる! と思ったそうだけど、

 私は一つも嬉しくない、そして頼りにならないからなじられるのである。

 

(ふだんより数倍おしゃれに気合を入れて、お化粧を施して

 周囲の方からは新しい恋人でも出来たのかなと言われたんだそうです)

 

 しかしことりの魂胆は上手くは行かない。

 仕事上のパートナーでもある渡辺曜ちゃんが泣き腫らしたような顔で

 ことりに見つからないように移動をしていた所に運悪くばったり遭遇。

 彼女を憤慨させた高海さんたちに対し、

 自分の気持ちを抑え込むように彼女たちを突き放すような態度を取り、

 そのダメージが拭えないままお酒に走り、感情を爆発させ大泣きしまったあと、

 上司でもありパートナーでもあることりに見つかる。 

 私が同じことをしていれば「ああそう」の一言でスルーする彼女も、

 曜ちゃんはかなり強く信頼しているらしく、どうしても放っておけなくなってしまったらしい。

 

(もともと曜さんは活動のほぼ全てが千歌さんのために行われたことです)

 

 タレントとして知名度を上げたのも行方不明になっていた高海さんに見てもらうため、

 オリンピック候補として名を挙げたのも高海さんに応援してもらうため、

 結果的にことりのパートナーとして名を挙げた目的も高海さんに会いに来てもらうため、

 もともと幼なじみでありAqoursとして活動をしたきっかけも高海さんと何かがしたいからであり、

 それはAqours解散後に皆が散り散りになった後も何ら変わることもなく、

 強い思いを抱えて高海さんがもとに戻ることを望んで生活していたみたい。

 そんな彼女の思いがことりの琴線に触れて強い信頼を得る経緯になるわけだけれど、

 ことりと共に生活をすることによって、高海さんがまったく自分が眼中にないと察するきっかけにもなってしまった。

 なんでも高海さんが語る高坂穂乃果像と実際に会った穂乃果に差があり、

 一度会っただけでは分からないと考えた彼女も、ことりや海未との交流の結果、

 穂乃果が奇跡を起こすとか、みんなのリーダーとしてμ'sを引っ張ってきたという部分は、

 高海さんの幻想に過ぎないと気がついた。

 それでもなお彼女のことを信じようとした曜ちゃんだったけれど、

 穂乃果とことりと海未の3人組が今もなお強い信頼に結ばれてお互いを理解をしているのに、

 自分のことをまるで考慮せずに会いに来てすらくれないことに深く絶望。

 傷も癒えない状態のまま海未を伴い高海さんは来訪し、ことりを怒らせた後、

 曜ちゃんでもいいやみたいな態度で声を掛けられ、彼女は久しぶりの再会に言葉が詰まり反応すらできないのを心配すらされなかったことに憤慨。

 感情のままに相手に文句を言い放ち、突き放してしまったことを後悔――

 

(一番の悲劇は千歌さんにそれほどダメージがなかったという点です)

(……ことりはどうして私のことをかばおうと?)

(曜さんは経験上、信頼する相手もその相手の都合で自分から離れると分かっています)

 

 私自身にはそんな意志はなくとも、

 病気とか事故とか……いろいろな都合で自分がこの世から離れることもある。

 昨日会っていた友人と、後日再開できるとは限らないのだ。

 ことりにとって穂乃果や海未といった面々は言うに及ばず、

 元μ'sのメンバーである私たちも彼女にとってはいつでも再会できる友達だった。

 それだからこそ海外留学も気軽に行ったし、有名になっても時間を取れば会える、

 むしろ自分に都合を合わせてくれる、それどころか絢瀬絵里はサンドバッグになってくれる。

 人間は信頼を得るのは大変だけど、信頼を失うのはいともたやすい。

 泣きはらす曜ちゃんに自分を重ねたことりは深い後悔のもと、

 その後今までの間に自分を戒め、真姫や花陽や凛や希(←さっきから肩を揉ませている)

 にこや穂乃果といった面々に謝罪の言葉を告げこれからも付き合ってくださいとお願いをし、

 私にだけは今まで乱暴に扱ったことが気恥ずかしく再会までに時間を要したけれども、

 誠心誠意謝ってあわよくばなじって貰おうと気合を入れエトワールに来訪、

 そこで不遇なテント生活をしているように見えた絢瀬絵里を発見、怒りに震える。

 エトワールのみんなは不幸にもことりの逆鱗に触れてしまったわけで、

 この場にたまたまいた希もテントにいた私をスルーしてしまった罪でなじられ、

 多くの面々は反省をした様子ではあったけれど、

 今後いったい自分がどのように扱われるのか考えるだに恐ろしい。

 やっぱりちょっと現実逃避がしたくてたまらない。

 

 ――女王様はひとしきり奉仕を堪能して、

 その中の面々にちゃっかり絢瀬絵里が混じっていたことに驚愕、

 海未から教えられた土下座の方法(穂乃果と一緒にならった)で謝罪を見せ、

 エトワールのみんなが私に向かって頭を下げて謝罪をするという、

 黄門様になった気分を味わった私は、

 やっぱり土下座するほうが性に合っているなあと思った。

 あと、ついでに朱音ちゃんの後方に陣取り、スカートの中を覗こうとする英玲奈さんは

 もう手遅れなんだなって思った。



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