アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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鹿角理亞ルート 06

 すったもんだの末、スチームクリーナーは掃除で使うものだと説明し。

 人体のですか? という妹に、ホコリとか汚いもの! って言ってみると、

 なるほど、汚い性根にも効果があるのですか? と返答があり、

 どうしよう試してみる? とツバサに問いかけると、自分で試してとそっけなく言われる。

 埒が明かないので、ツバサがどれほど亜里沙のことを大切に思っているか、

 嘘(99%)を交えて熱々と説明すると、分かりましたツバサさんは許しますと

 自分を追い込む結果にしかならず、売ろうとした彼女の評価も奈落に転落し、

 カップル(笑)の二人が人体はどこまで痛みに耐えられるかを試そうとし、

 あなた達すごくお似合いじゃない! 結婚しなさいよ! と叫んだら、

 思いのほか妹には好感触で拷問は回避された、人体損壊ショーはさすがの私も

 いつの間にか復活しているということはないと思う、ギャグ漫画じゃないんだし。

 

「さて、ではエニワプロのアイドルグループECHO対策を話しましょう」

 

 なにそれ? と思ったけれど、

 ルビィちゃんや高海さんの二人が所属するグループがあるらしく、

 てっきり二人が表立って出てくるのかと思いきや、保険はかけられているみたい。

 メンバーは声優、アイドル、グラビアの人と多岐にわたり、

 全員が全員売れていないという共通点があるものの、知名度はそこそこ。

 球団創設時の楽天ゴールデンイーグルスみたいに、他の球団から戦力外になった選手とか、

 温情ある無償トレードで来たアイドルに注目する人も多いらしく、

 その中でもルビィちゃんは岩隈さん級の扱いで、

 アンリアルで不遇な扱いを受けていたからやって来たみたいなコメントもある。

 公式サイトがいつまで経ってもCOMING SOONな感じなのはネタにされているけれど、

 少なくともネガティブに観ている人間は少ないみたい。

 

「正直、アイドルグループとしての実力は高く見積もった所で赤点です

 ルビィさんや千歌さんが別格の動きをしているのは警戒する要素ですが

 あの二人がどうこうした所でどうにかなるレベルの人間は少ないでしょう」

「海未さんの指導で変わりそうな人はいる?」

「打てば響く熱い鉄なら、不遇でも人気は出るでしょう

 そうではないということは察せられる事情があるということですね」

 

 一時期隆盛を誇った事務所がえらい推してしまっているということと、

 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法で琴線に触れる人間がいたという理由で、

 アイドルのバーゲンセールみたいな状態だから最初こそは活躍を見せるのではないか?

 というのが亜里沙やツバサの判断だった。

 

「海未がその程度のグループを指導するかしら?」

「どういうこと?」

「海未が指導に当たるということは、誰かしら私達が警戒するべき人間がいるということ

 ……だと思うの。

 響かない鉄にいつまでもこだわる人間じゃないわ、あの子は意外とドライよ」

 

 私の海未評が殊更響いたのは亜里沙。

 気が付かなかった自分を恥じるように表情を曇らせる。

 高校時代にあれだけ慕っていた海未の行動原理を把握できなかったと言うのと、

 私が海未の行動を頭に入れていることに、何かしらの感情は抱いたみたい。

 一方、それほど海未を知らないツバサにはピンとこない話らしく、

 体育会系で熱血指導するだけの人ではないのね、と認識を改めるだけで終わった。

 

「わかりました。海未さんに関する認識ならばお姉ちゃんは信用できます」

「他の信用度は?」

「……μ'sに関する把握度合いならば多少信用に値する可能性はあります」

 

 海未に関すること以外では、

 あまり信用のならない相手だと白状をされてしまうと、

 それだけは自信があると胸を張ってもすぐにしょげてしまいそう。

 ただ二人とも警戒する要素があると思い直してはくれたみたいで、

 私自身も二人にこっそりエニワプロやら、ECHOっていうユニットを見に行こうと決意。

 いかんせん金髪は目立ってしまうから、変装する手段を用いなければならないけど。

 カツラとかきぐるみとかで自分を偽る行動は慣れてる、いざとなればヒナを頼る。

 

「お姉ちゃん、もしかして自分が調査するとか見に行こうとか考えてますか?」

「失敗前提の行動は無謀と呼ぶのよ」

 

 ジト目を向けられて、いかにも余計なことをするなと言わんばかり。

 自分の使えなさをアピールし、逆転の一手を打つための伏線にしてとお願いしてみたけど、

 成功の可能性がないのなら諦めてと断言されてしまい渋々諦めるしかなかった。

 ニート時代も無難に付き合いを続け、

 今こうしていきなり対立行動を取るという選択をした海未に、

 できれば先輩としてなにかしたいなと思ってはいるんだけれど……。

 

「あくまでも推測ではありますが、

 此処にツテを頼り海未さんの日記帳のコピーを入手しています」

「亜里沙、私みたいな扱いをする人間はそこにいるツバサくらいにしたほうが」

「私も控えて、できれば絢瀬絵里オンリーにして」

 

 プライバシーは尊重をしていると妹は言うけれど、

 当人の許可無く内密にしていることを知るのはマナーどころか、

 人間として何かとアウトである可能性は高いのではあるまいか。

 ただその点の配慮を遠慮なく切り捨てて黒歴史を露出させるのは、

 よほどの悪人であるか、姉である私くらいなので、

 もしかしたら海未も許容しているのかも知れない、どれほどかはわからないけれど。

 

「いつの話かは分かりません、でも、海未さんは過去に

 高海千歌さんと喧嘩をしたそうですね」

「経緯はともかく、どのような喧嘩だったの?」

「取っ組み合い寸前とは書いてありますが、

 あの雪穂にさえ平手打ちをされてるような人が、

 海未さんになにかされないとは思えないんです」

 

 比較的好感度が彼女に対して高い希とか、

 信頼度の高いよっちゃんが言うには迂闊に人の神経を逆なですることがあるらしく、

 被害者はAqours、μ's多岐に及ぶ。

 例外はそういう事に気がつかない聖良さんくらいで、

 過去の理亞ちゃんの高海さんの嫌いっぷりは、

 おそらく私が両親を嫌っているレベルの比じゃない。

 今の理亞ちゃんがそこまで嫌悪するとは思えないけれど、

 冷静でおしとやかな彼女が憤慨して怒鳴るようなことがあれば、

 私が止められる出来事であろうか心配でならない。

 妹が教えてくれた内容では、海未は今までの自分自身を悔い改め、

 反省する心持ちで顔を合わせに行ったら、彼女が口を開く前に

 穂乃果がどうしているのか問い、なんでそんなことをまっさきに聞くのかと思ったそうだけど、

 喧嘩腰ではいけないからと懇切丁寧に言葉を尽くして説明をし、

 一通り満足したらしい高海さんは今日はそのために来たのかと言ってしまった。

 妹から過去を披露されるたびに、海未の怒りぶりが如実に想像できて、

 裏切り者として処理されるフラグではないか、

 実は海未はハニワプロのスパイなのではないか疑惑が生じたけれど、

 一応現在では仲は良好であるらしい、とても信じられない。

 

「”高海さん”がどういう経緯でAqoursである自分を放棄したのか、

 過去を知ることによって歩み寄る決意をされたようですね」

 

 よっちゃんから聞いた話では、

 描いていた理想と現実との差異がありすぎて

 精神的に堪えられなくなった故に何も云わずに失踪してしまったみたいだけど。

 高海さんには高海さんなりに重要な理由があるみたい。

 それを胸を張って穂乃果に告げられるのかは疑問ではあるけれど、

 海未が動いている以上、穂乃果と高海さんが歩み寄れると判断はあったんだと思う。

 Aqours結成当初から既に浦の星女学院の廃校は決定されており、

 奇跡を起こした所で覆せないのは、当初高海さん自身もわかっていたみたい。

 統合先の高校との話し合いは既に進められており、

 入学希望者が増えた所で存続は叶わないとは誰しもが分かっていたけれど、 

 そんな彼女を改めてしまったのは、東京来訪時の出来事である様子。

 スクールアイドル公式サイトで人気が出た為、

 東京に呼ばれた6人のAqoursはSaintSnowの二人に出会う。

 聖良さんや理亞ちゃんの二人がまともにポテンシャルを発揮していれば、

 9位っていう微妙な結果には留まらなかったのは推測されるのだけれど、

 30組中30位で、かつ投票された人数が0人だったことで、

 トラウマレベルで傷をつけられたみたい。

 上位100位以内の人間が呼ばれているのに30組しか参加していない、

 審査している人間はいったいどんな人間であったのか(花陽は居たらしい)と

 疑問は尽きないのだけれど、そこを突くと絢瀬絵里が轟沈してしまいそうだから控える。

 

「0からの始まりを意識した高海さんは

 失敗をしたことにより、小さな成功で喜び、失敗にもくじけないようになりました」

 

 それ以降やたらポジティブに変貌してしまった高海さんは、

 同時にAqoursの中心メンバーとして活躍を見せ3年生組の加入後も

 まとめ役として常に前に進んでいった。

 学校存続の可能性が限りなく0に近くなった以降も、

 可能性がないわけではないからと諦めず。

 亜里沙や雪穂ちゃんの”一人だけ前に出て一人でなんとかしようとするな”

 というAqoursとしての致命的な欠点も

 周りのフォローでラブライブの優勝という結果として残す。

 が、自分たちが奇跡を起こしてもなお現実が改められなかったという結果は、

 彼女を精神的に叩き潰すこととなり。

 μ'sは上手に行ったのにAqoursは何も残せなかったのは何故なのかと、

 疑問に感じ始めたらどうしようもなくなってしまい、取り返しのつかない事態に陥る。

 失踪した後にこっそりと廃校祭を見に行き、

 自分が居なくても上手く立ち回っているAqoursの面々を目の当たりにし、

 なおのことダメージは増幅されて、今もおそらく立ち直れていない。

 

「海未の同情を買うには都合のいい理由ね」

「お、お姉ちゃん……?」

「海未はもしかしたら、そんな彼女を開放するために動いているのかもしれない

 ならば、私は海未を止めないといけない――

 ごめんなさい亜里沙、やっぱり私は彼女に会わないと」

「ダメよ絵里、敵役を買うつもりならスマートになさい」

 

 決意を翻意するように告げられてしまい、

 思わずムッとしてツバサを眺めてしまって、やらかしたと思ったけれど、

 私のイラつきすら想定内だと言わんばかりのそいつは、おでこをツンとつつき。

 

「絵里、いまさら”高海さん”が正論やきちんとした指摘を受けて、

 きちんと立ち直れると思っているの? 

 だって彼女は悪いことをしているなんて思っちゃいないのよ? 

 本当に相手を思うのなら手助けをするんじゃなくて

 事実に気づかせてあげなさい、正しいと思うという感情に従って動くのは、

 なさねばならない正しい行動を放棄して、短絡的になってしまっている証拠よ」

「お姉ちゃん、怒る気持ちはごもっともです。

 ですが、お願いします。

 短慮に走らず、私やツバサさんを信用してください」

 

 感情的になって、先走ってしまったらしく。

 本気で心配そうな亜里沙や、しょうがないわねぇみたいな顔をするツバサを見て、

 自分自身を省み、改められる欠点は改善しようと決意する。

 とはいえ、腹に据えかねる思いはこの場の面々の共通認識であるようで、

 ついつい表情が険しくなってしまうのはなんとも言えない心持ちがした。

 

「話題を変えます。

 エニワプロの事も問題ですが、ハニワプロでも

 アイドルの引退が連続してまして――」

 

 売れたりなんだりしていない人間が新しい道に進むために

 芸能活動の引退を決意したみたいな話を予測していたら、

 セイントムーンの二人が揃って岐阜の月島家の農場とか牧場に舞い戻り、

 牛や野菜や果物の世話にあたるらしい。

 ハニワプロでも実力が指折りの二人が引退するのは寝耳に水だった――

 のは、普通のスタッフだけみたい。

 亜里沙や南條さんと言った一部の面々は聖良さんの方はともかく、

 歩夢ちゃんが実家に戻りたいと願っていたのは把握しており、

 きっかけがあればそのような選択を取ることもあるだろうとは思ってたみたい。

 が、把握はしていてもバリバリと仕事をしていた彼女たちがいなくなるのは、

 ハニワプロにとってはマイナス要素でしかない。

 実力が向上したエトワールの面々が代替要員になれるかは不透明であり、

 かといって、他のアイドルたちが同じことができるのかとは妹も判断できず。

 聖良さんや歩夢ちゃんといった二人が引退することで、

 仕事が来るかも! と期待しているアイドルは多いそうだけれど、 

 そういう人間に限って手も足も出ないほどに実力が離れているのは頭痛の種。

 なお、人の顔は覚えるのに苦労する聖良さんも動物は判別できて、

 いま、牛のカリスマとして牛舎で大人気らしいけれどだいじょうぶ?

 彼(彼女?)らは食用肉になる可能性高いよ? 岐阜でも有数のブランド牛だよ?

 あと、お米の名前が歩く夢っていうのは微妙だと思うよ?

 

「正直、エニワプロなど相手にしている余裕はありません。

 局からは代替要員を出さないと総スカンをすると宣言されていますし、

 ツバサさん一人を代打に出せば、後に続くアイドルがいません。

 理亞や善子さん辺りを押し出せばある程度は……」

「理亞ちゃんは聖良さんの引退は知っているの?」

 

 私の言葉にハッとした表情を浮かべる亜里沙。

 そこまで構っていられるほど余裕がないのは察せられて、

 彼女へのダメージを認識せずぽっと口に出してしまったのは、

 重ね重ね反省する事柄ではあるんだけれど。

 ハニワプロでは聖良さんを慕う理亞ちゃんはかなり有名であり、

 姉妹間の感情を超えているとか、度を超したシスコンという評は浸透中。

 円満に姉妹で話し合いが行われ、理亞ちゃんが納得して見送るのなら 

 問題は生じ得ないと思ったけれど、亜里沙の反応からするにそれはない。

 ルビィちゃんが敵に回ることでさえ精神的ダメージが大きそうだっただけに、

 重ねて聖良さんが芸能活動から身を引き、憧れもあった海未も対立するとあれば

 精神的影響はかなり強いものだと思われた。

 

「……迂闊でした、これではお姉ちゃんを悪く言えません」

「亜里沙さん、気にしないでいいのよ、この人いつも迂闊だから」

「妹をフォローするつもりで私を下げるのはやめて」

 

 理亞ちゃんのことを考えると心苦しい。

 これがツバサとか真姫が同じ状況下に置かれていたなら、

 無難に乗り越えられるよね? で気にせずにいられたかも知れないけれど。

 亜里沙は本当に自分自身の妹であるから考慮せずに、

 妹みたいな扱いをしている人間が苦しむ状況下に置かれていると、

 自分のことを棚に上げて心配してしまうのは、私自身のエゴだろうか。

 穂乃果や海未とか凛もそうだけど、ほっておくと折れてしまいそうという認識を

 彼女らに持っているとバレたらどんな反応がくるだろう?

 理亞ちゃんもおそらく、自分自身の心配をするのが先だと

 健気にも忠告されてしまうかも知れないし。

 

「お姉ちゃん、理亞のことは任せます。

 もし彼女が困っていたら、協力してあげてください」

「絵里、私からもお願い――あと、事務所的に

 理亞さんが折れると、綺羅ツバサさん死んじゃうから

 仕事量がキャパを超えちゃう……」

 

 亜里沙の懇親のお願いや、ツバサの同情を誘う本音もあり、

 そしてなにより、妹扱いとしてかなり好感度が高い理亞ちゃんに対して、

 意も分からない感情の揺れ動きを覚えてしまった私は――

 

 部屋に慌てて入ってきたよっちゃんの、

 理亞が大変なんですという言葉に居ても立ってもいられなくなり、

 あの、正直彼女と何を話したのかはあんまり覚えていなかったり。

 

 ずっとそばにいるという誓いは心に刻みこんでいるけれど。


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