アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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鹿角理亞ルート 08

 雪姫ちゃんの手助けにより一時的に優秀になった私は、

 妹やツバサから高熱に浮かされているのではないか、

 ロウソクの火は消える寸前が一番燃えあがると言うから死ぬ直前なのではないか、

 自分の不遇な評価というよりも、

 不出来っぷりが如実に表されてしまい悲しんでいいのか、

 嘆いて良いのか分からない中。

 他のメンバーの結論としては、ひとまず私を休ませるに至ったみたいだけど、

 西木野総合病院で精密検査を受けさせるという提案が実行されそうになったのは、

 いったい誰の差金なんだろう?

 周囲が違和感を覚えるほど頼りになるお姉さんキャラをやってしまった私のせい?

 でも、あれは中の人の影響が強いからなあ……。

 

(雪姫ちゃん、これは一大事よ)

 

 私の中の人に呼びかけてみた。

 見事な演技で絢瀬絵里もその周囲の度肝を抜いたとは言え、

 雪姫ちゃんはポテンシャルを発揮さえすれば絵里お姉さんでも出来ます。

 という謎の評価をし、危うく信じてしまいそうになったけれど――

 できるのであれば最初から妹やツバサあたりから病気を疑われていない。

 どのみち私の態度が不自然なほど優れていたのがぶっちゃけありえないので、

 理亞ちゃんという監視を付けられている現状に至るのである。

 監視をしている彼女の目付きは、当初の怪しい宇宙人に取り憑かれて

 思わぬ能力を発揮しているというものから、あ、普段どおりのポンコツな人だ

 まで落ち着いている、いかんせん今は雪姫ちゃんが前面に出てない。

 私が胸を張ってあんな優秀にはなれない! というと、

 雪姫ちゃんのなれます! という言葉の言い合いになり、

 しばらくちょっと剣呑な雰囲気にはなってしまったけれど、

 雪姫ちゃんと私との仲は良好、基本的に彼女のほうが大人。

 

(一大事……ですか、先程から理亞さんの目がだんだん

 普段の絵里お姉さんを見るような、生ぬるい視線になっていることですか?)

 

 理亞ちゃんの視線が悪霊に取り憑かれた何者かを眺めるような、

 畏怖と敬意を混ぜ合わせたような、いまだかつて感じたことのないような、

 そんなけったいな視線から一転。

 いつものどこにでもいるかのような平凡なポンコツを眺めるような目に戻り、

 安堵をして良いのか、評価の低さを嘆けば良いのか。

 とはいえ、一大事と言ってもそんな事を言いたいわけではない、言いたいけれども。

 もっと絢瀬絵里はできる子だよとアピールしたいけど、残念ながら結果が伴ってない。

 

(雪姫ちゃんが出たときみたいに頼りになる姉キャラになると、

 そうでなかった時に残念極まりないとされるのは当然よね?)

(ひとり百面相をしている時点でかなり評価として危ういとは思いますが、

 絵里お姉さんは、冷静かつ見栄をはらず、かと言って過度に緊張することもなく、

 また平常時においては力を発揮できる下地があるように思います)

(いつにおいても力を発揮できないと断言されているような気もするけれど、

 やはりここは嘘を本当にするべきだと思う。

 恥ずかしい話ではあるけれど、もういい年齢になるのだし

 年下の女の子から能力はあるのに発揮できないとされるのは

 そろそろ改善しなければならないと思うの)

(さすがは絵里お姉さんです。

 冷静至極に年齢相応の態度を取るという事実に気がつかれて、

 私は思わず泣いてしまいそうです――)

 

 雪姫ちゃんのグスグスと鼻をすするような声が聞こえてきて、

 みっともないほど年齢非相応な態度を取り続けていた事実を実感し、

 私自身も泣いてしまいそう――

 お嬢様の成長を喜ぶじいやみたいな態度を干支ひとつ分離れた年下の女の子にされて、

 精神的なダメージが深刻というわけじゃない。

 

(まずは、そこにいる理亞ちゃんの信頼を得ることから始めていきましょう

 ショックなことを抱えていると思うから、できるだけ癒し系なお姉ちゃんっぽくね)

(わかりました、精一杯アドバイスは送ります。

 安心してください、ありとあらゆる世界の絵里お姉さんの情報を把握し、

 的確かつ手助けとなるように誠心誠意尽くします!)

 

 こうして理亞ちゃんの信頼を得る大作戦が始まる。

 おそらく相手の信頼度はかなり低め、警戒をされているとは思う。

 たまにすごく優秀になる人扱いから、平均的に力を発揮する人くらいには改めたい。

 大人びて落ち着いた雰囲気を醸している理亞ちゃんの信頼を得るには、

 やはり聖良姉さま……じゃなかった、聖良さんに近づくのが近道であ――

 

(ブー! です!)

(決意の時点でダメ出し!?)

(理亞さんは聖良さんの行為により傷を抱えてしまっています!

 そんな聖良さんのマネをすれば傷口に塩を塗るようなものです!)

(私の脳内データベースでは頼りになる姉キャラと言えば聖良さんなんだけど……)

(だめです! 検索をやり直してください!

 それに姉に限定しなくても良いんですよ、落ち着いた感じの

 頼りになる人という条件で考えてみれば良いのです!)

 

 髪型をサイドポニーにしようとするのを改め、

 もう一度はじめから私の人生で頼りになった人を思い浮かべてみる。

 やはり一番に思いつくのは亜里沙でしょう。

 どんな失敗をしても、仕方ありませんねと言いながらフォローしてくれるはず。

 姉キャラという観点で言えばちょっとベクトルが違うと思うけれど、

 理亞ちゃんからの信頼度もかなり高いように思うし、方向性としては――

 

(ブッブーです!)

(ええ……? でも私の人生で一番迷惑をかけているのは間違いなく……)

(絵里お姉さんに亜里沙さんのマネは無理です! ボロが出ます!

 冷徹になろうとしてもなりきれなくて、なんだかよく分からないキャラになります!

 もっとマネをしやすい、自分が一番に思う方にしてください!

(そ、そう? 亜里沙が言うみたいに暁の水平線に勝利を刻むのだ! みたいに言っちゃダメ?)

 

 なんとなく絢瀬亜里沙を想像していないような気がするけれども、

 確かにポンコツ扱いされている私が偉そう加減でアドバイスを送るのは、

 ちょっとだけ想像できなかったりする。

 それに何をアドバイスとして送れば良いのか分からない、

 知識量や技術力で上にいる理亞ちゃんに年上であることくらいしか勝っている点がない私が、

 ここはこうすればいいのよと言ったところで「ハァ?」で終わる可能性もある。

 この理亞ちゃんにだから何なんですかと逆にダメ出しをされてしまえば

 かなり拭いきれない精神的ダメージを追うことは確実。

 

(もっと、絵里お姉さんの人生において助けになった人を思い浮かべるんです!)

(そうなるとやはりおばあさまね! 任せて!

 私の心の中にあるおばあさまを再現してみせるわ! えっと……ピロシキだっちゃ!)

(ブッブッブー! です! なんで東北の方言なんですか!)

(まあまあ、あんまりそわそわしないで雪姫ちゃん)

(確かに絵里お姉さんの助けになっているかも知れませんが――

 いいですか、大ヒントです!

 意地を張っていた時に手を差し伸べてきた方を心に思い描き、

 理想とする自分をもっと想像してください! 絵里お姉さんならできます!)

 

 ここまでヒントを頂き、自分が見当違いの方向で考えを進めていたことに気がついた。

 別に穂乃果を忘れていたわけではないんだけれども、なんだか気恥ずかしくて。

 私にとって穂乃果っていうのは――感覚としては高海さんが語る高坂穂乃果像に近い。

 徹頭徹尾想像で塗り固められている彼女の想像が適切であるかは私が判断することではなく、

 神格化された穂乃果の姿がAqoursのラブライブ優勝によって一般にも知識として通じることになり、

 その行為がどれほど迷惑をかけたのかはここで語ることではない。

 高校時代に穂乃果だけが助けになったかといえば決してそうではないと言い切れるし、

 忘れてはいけない存在というのは何人もいる、別にμ'sのメンバーに限ったことではなく。

 

(わかった――穂乃果みたいにするならできるわ)

(はい、辛い時、泣きたくなる時、そばにいて心の傷を告白するのを待ってくれるような

 温かい存在になってみてください、絵里お姉さんならできます!)

(ええ……理亞ちゃんに寄りそってみるわ。

 私が穂乃果にされたように、自分を改めるきっかけとなった出来事を思い出しながら)

(その意気です! あと、ファイトだよ禁止)

(ぐはぁ!?)

 

 最初の言葉は理亞ちゃんファイトだよ! だっただけにダメージが大きい。

 ほのまげを再現しようとした手は空を切り、がくっとorzみたいなポーズになったけれど。

 それを不審なものを見るような目で理亞ちゃんが眺めているのに気が付きながらも、

 これくらいのダメージではまだへこたれるわけにはいかない。

 

「理亞ちゃん」

「絵里先輩は先程から百面相を繰り返したり、

 なにかしようとして失敗をしたりしていますが……

 その、疲れているならゆっくり休んでも良いんですよ? 

 なんならマッサージとかしましょうか? やったことないですけど」

 

 おずおずと不安そうな面持ちをした理亞ちゃんが私を見上げ、

 ここからは頼りになるお姉さんとして彼女の前に立たねばならないと思い直し、

 二度とこのような表情をさせるものかと決意を改める。

 心の中の雪姫ちゃんがファイトだよ! とか、GOGOエリチカ! と応援してくれるけど――

 それはともかく、穂乃果みたいに、穂乃果みたい――

 

「……理亞ちゃん」

「ど、どうしました、そのように深刻そうな顔を見せて」

「大きいお風呂に入ろう!」

「お風呂!?」

「裸の付き合いしよう! 背中流してあげる!」

「うぇぇぇぇ!?」

 

 真姫みたいな悲鳴をあげて、ズササササ! っと距離を取る理亞ちゃん。

 処女ビッチに襲いかかられてうろたえる童貞主人公みたいに、

 手を顔の前に差し出し、ブンブンと勢いよく振り、

 顔を真っ赤にしながら慌てふためく姿に、

 まるで奴隷ヒロインにマウントポジションを取って粋がってるなろう読……じゃなくて、

 主人公みたいに性的興奮のような精神の昂揚を覚えた私は、

 うひひひ、うひひひと笑いながら――

 

「ふふ、ごめんなさいね、慌てる理亞ちゃんがおかしくて

 ついついからかってしまったわ」

 

 雪姫ちゃんに意識を乗っ取られる。

 どうやら鹿角理亞ちゃんルートの攻略は一度頓挫したものであるらしい。

 おかしい、真姫が深刻な表情でイヤホンを付けられた時の穂乃果の事を話し、

 それを思いっきり再現をしたつもりであったのに。

 彼女はああいう強く行くとつい頷きたくなってしまうと言うから、

 てっきり理亞ちゃんもその系統の人かと思ったのに。

 

「だいじょうぶよ、取って食べたりしないから。 

 ふふ、それとも、私に美味しく食べられたかったかな?」

「いやいやいやいや!? そんなことないですから!? 女同士ですから!?」

「冗談よ冗談、本気にしちゃダメ。

 ああでも、期待してしまっているのなら応えないといけないかしら?」

「違いますからね!? 私はノーマルですから! ええ、ノーマルですとも!」

 

 かなり年上の鹿角理亞ちゃんを手玉に取る幼女雪姫ちゃんを見て、

 ちょっと意識してなかったお色気ムンムンお姉さま系キャラになってみると、

 もしかしたら別の相手でもマウント取れるかも知れないと学ぶ。

 今度機会があれば他の誰かに試してみよう――。

 そんなことを思いながら、顔を真っ赤にして退散する理亞ちゃんを見送り。

 

(絵里お姉さん今回は失敗してしまいましたが

 次の機会があります――頑張りましょう!)

(そ、そうよね! 穂乃果の一面を再現したに限らないものね!

 だいじょうぶ安心して、私の穂乃果フォルダは256まであるから!)

(穂乃果さんを再現するのはやめましょう、もっとこうなんかないですか、

 スケコマシみたいなフォルダは)

(……え、もしかして絢瀬絵里に女の子の攻略を望んでる?)

 

 いくら男性経験がない私でも女の子に手を出すようになると。

 誰一人自分のことをフォローできないのではないか疑惑が――。


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