アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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鹿角理亞ルート 11

(エリチカスレイヤー亜里沙)

 

 亜里沙が訥々と語ることには、

 表向きはエニワプロに喧嘩を売られて困っている体ではあるけれど、

 水面下で手を取り合って甘い汁を吸いましょうかみたいな動きが上層部にあり。

 甘い汁を吸う面々にハニワプロで一番稼いでいるであろうツバサや、

 プロデューサーとしてV字回復に貢献してきた妹や南條さんが入っていないのは、

 人の上に立ってええかっこしく過ごそうという魂胆がないからだと思う。

 亜里沙を取り立ててくれた徳丸社長、少し前まで社長職に携わっていた大塚社長には義理も恩もあるけれど――

 という妹であっても、今のこの世は全てお金! みたいな島津社長にはついていけないと。

 

「売られた喧嘩は買うつもりはないですが、

 飛びかかる火の粉は払わなければなりません

 ――手のかかる子どももいますからね」

 

 亜里沙は所属するアイドルのことを語っていると思いきや、

 最近では金銭面でも負担をかけつつある絢瀬絵里を指しているみたい。

 その事に気がつかなった私は「そうなの大変ね」みたいな反応をしてしまい、

 ツバサと一緒くたになっていかに自分の稼ぎがないか語ってくれた。

 そういえばエトワールの管理人としての仕事は私に代わってヒナが務めつつある――

 

「ECHOがいずれイベントを開くことになります

 表面上では成功という体で動くと思いますが、反応は芳しくないでしょう

 芸能関係者しか入れない動きすらありますからね」

 

 突貫工事で実力を身に着けてからイベントを開いても

 お金の取れそうな私たちとは違い――

 あ、私がその中に含まれるかは分からないんだけども。

 アイドルとしての知名度や実力ともに有しているとは思えない彼女たちは、

 やはり急ごしらえでレッスンやトレーニングを重ねているらしい。

 亜里沙と繋がりがありそうな面々がエニワプロに行ったところで門前払いを食らうので、

 私の友人でもあり亜里沙とも関係の深い芸能記者の清瀬千沙に動向を確かめてもらい教えて貰った事実。

 彼女は絢瀬絵里の単独インタビューで華々しく私のことをフォローしたいと言ったみたいだけど、

 会社としてはツバサや理亞ちゃんといった記事の閲覧数を向上させてくれそうなアイドルの記事を持ってきて欲しいみたいで。

 もう既に原稿は上がっているらしいけれど、私はどこでインタビューされたの?

 

「下馬評ではECHOとOrdinary Daysとエス・ディー・エスがいずれが

 飛び抜けて名を挙げてトップになることはないとされています

 結局ツバサさんがトップにいるオチになるとは思いますけど」

 

 その発言を聞いて頭が痛そうなツバサ。

 実力が未知数どころか若干のネタバレを含めれば、

 アイドルグループとしては下位の知名度と実力しか有していないECHOや、

 デビューイベントは無難にこなせそうであっても、いつの間にかに空中崩壊してそうなOrdinary Daysや、

 理亞ちゃんのアイドルとしての評価は揺るぎないけれど、 

 絢瀬絵里っていうよく分からないコマがいるせいでどうなるか判断つかないエス・ディー・エス。

 華々しくデビューしたところでいつの間にかツバサがそいつらの代わりに仕事してそう――

 などという亜里沙の判断は何ら間違ってない。

 エトワールにおいて私やヒナのフォローをしていてテレビの仕事をセーブしているツバサに代わり、多くのアイドルがその枠を競っているそうだけれど。

 番組スタッフ間では凛くらいしか使えるのがいねえともっぱらの評判。

 凛はまた絵里ちゃんのせいで仕事が増えたと投げやりだそうだけど、どこで私が凛の仕事を増やしたのか問いかけたい。

 

「私も又聞きでしかないけれど、人気や実力において

 当時のアイドルやタレントが手も足も出なかった天才子役がいた」

「ん?」

「それほどの存在なれれば、どれかのアイドルグループが覇権を取れるかも」

 

 ツバサが遠い目をしながらそんなことを語り。

 アイドルとしての活動は楽しいけれど、仕事はぶっちゃけ面白くないと笑いながら、

 私にえらい真剣な眼差しを向ける。

 いつの間にやら正座しているのが私一人になってしまっているのはツッコむべき問題ではないとしても。

 

「亜里沙さんのプロデュースや千沙みたいな記者に上手く扱ってもらって

 ――それが理亞さんになるか、あなたになるか。

 Ordinary Daysのみんなもポジションのおさまるポテンシャルはあるけれど、

 長くアイドルをしてくれそうなのって朝日さんくらいしかいないし」

 

 ツバサの発言を聞いて亜里沙も考え込む。

 私一人蚊帳の外で「えーなにー? 何の話題なのー?」と中にいる雪姫ちゃんに問いかけ、

 「天才子役って私のことじゃないですよね?」と逆に質問されてしまった。

 生前の彼女がどういう仕事をしていたのか尋ねたことなかったし、

 いかんせん高校時代は芸能活動に一つも興味がなかったものであるから、

 過去の記憶を反芻したところで天才子役西園寺雪姫がどんな仕事をしていたのか考えもつかなかったりする。

 一回だけ雪姫ちゃんの出演しているドラマとか無いの? って聞いたら、

 「やめてください恥ずかしいです! 見ないでください!」と拒否されてしまい、

 気になる素振りをしてからかってみたら通りかかったエヴァちゃんに

 「あんまりからかうのはやめたほうがいいです」と忠告をされてしまった。

 突然だったから何のこと? とすっとぼける事もできずに「アッハイ」と頷いちゃった。

 

「エリー、西園寺雪姫って子役の人を知ってる?」

「……え、えーっと、し、知らないですか?」

「なんで疑問形なのお姉ちゃん」

 

 ちなみに中では「黒歴史が露出されてしまいます!」

 と、その西園寺雪姫ちゃんが騒ぎ倒してしまっているけれど。

 過去って大抵が黒歴史だよね、

 私なんか振り返りたくない過去ばっかりだもん。

 「わかる、分かるわその気持ち、消したい過去ってたくさんある!」

 と同調して雪姫ちゃんも「やっぱりこの気持ちがわかりますか! さすが絵里お姉さんです!」

 などと、本当の姉妹のように交流を果たした。

 慌てふためいているのが多少なりともツバサや妹に伝わっているのか、

 彼女たちはお互いの顔を見合いながら口を開く。

 

(天才子役西園寺雪姫)

 

 二人とも雪姫ちゃんの全盛期は聞いた話でしか知らない様子なので、

 中の人の補足説明をふまえてまとめてみる。

 天才子役として持て囃されたのは彼女が5歳のとき。

 とある連続テレビ小説の主人公の子役時代を演じて注目を集め、

 拘束時間が少ないという利点も手伝い、さまざまなドラマの――彼女いわく端っこの方で、

 出演作を多く重ねた。

 雪姫ちゃんが言うには言われたことを言われたようにやっていただけ、

 ではあるそうなんだけども、有名監督やらスタッフやらに評判が良かったので、

 演技をすることが好き嫌いという以前に期待に応えるのが好きという”性癖”も手伝い、

 学業を優先しつつ仕事をしていた様子。

 テレビ視聴者の注目の的となったのは、

 10月くらいに撮影されたという夏を舞台にした恋愛ドラマで「また主人公の子ども時代でした」

 とのコメント――そりゃ子どもなんだから子ども時代を演じるほかはないのでは?

 なんて考えたけれど、コナ○君みたいなキャラもいることだし、

 役によっては大人びた人物も演じる機会はあったのかも知れない。

 そんな彼女の要望が叶えられたのは、あるアニメの中学生の女の子役。

 キャラが日本語が不得手で、基本的に発言がスケッチブックに手書きされることも手伝い、

 実際に喋った回数は少なく「マイサムライマスター!」くらいしか印象に残ってないとか。

 

「性格も明るくて素直でとっても良い子だったそうね」

「そ、そうなんだ……あはは……」

「なんでお姉ちゃんが照れてるの?」

 

 亜里沙のツッコミより我に返る。

 いかんせん中の人がわーきゃー言いながら慌てふためいているものだから、

 一緒になってきゃーきゃー言っているせいで少し外見にまで影響が。

 ともあれ活動時期は雪姫ちゃんの言う通り長くは続かず、

 最終的にはμ'sのフルメンバーが幼くして亡くなった彼女を見送ることになる。

 ――そういえばその時に朱音ちゃんとも会った。

 靄がかかった記憶が鮮明になっていき、エヴァちゃんことリリーちゃんとも会っていると認識している。

 交流期間は長くは続かなかったけれど、その時に身も蓋もないアドバイスを送ってしまったようなそうであるような。

 

「そう――とある先輩が言ってた。

 私たちが売れてないときに彼女の爪の垢でも煎じて飲めって」

「ツバサさんに煎じて飲ませるような爪の垢なんてありませんからっ!」

「お姉ちゃん?」

 

 パニックになった末に絢瀬絵里から西園寺雪姫ちゃんが漏れる。

 怪訝そうな目で二人が見てくるけれど、

 「いつものことだからだいじょうぶ!」とフォローを入れると、

 まあ、絵里だから仕方ないわねっていう反応――

 もしかして泣いていい場面だった?

 

「花陽さんからのアドバイス――

 アイドルとして駆け出しで売れていなかったころにはまったく分からなかった。

 ”自分の実力”を発揮さえすれば”他の人”は受け入れてくれると思っていたし。

 

 でも違うのよ。

 人間我を通したところでうまくいくのは一握り。

 西園寺雪姫ちゃんのように”人が何を求めているのか分かる能力”が、

 私には根本的に足りていなかった」

「いえ、そのような大仰なものでなくてですね!

 ちょっと空気を読んで、人の顔色を窺うことでしか上手く立ち回ることが出来なかったと言いますか!」

「お姉ちゃん落ち着いて」

 

 亜里沙がどうどうと馬を落ち着かせるみたいに肩を揺さぶり、

 そのショックで雪姫ちゃんも冷静さを取り戻したのか、

 意識を手放している私を引っ張り込んで絢瀬絵里にエリチカの魂が吸収される。

 彼女の中でも綺羅ツバサの優れている点は認識しているらしく、

 絵里お姉さんのほうが上です! とフォローはしてくれるけれども、

 客観的に評価をしてみればツバサのほうが私よりも上なのは確実。

 そのツバサが言うのであれば、仮に私たちが売れて評価をされ、

 ECHOに絶対的に勝利をするために必要な要素であることなんでしょう。

 かといって私がちゃんと空気を読み、相手の行動を理解し要望を叶えて、

 さらには人の顔色を窺って上手く立ち回るという行動ができるかどうか。

 どのような行動をすればそれが実行可能であるのか、まったくコレッポチも想像できないというのは私の能力値が低いから?

 

(問い詰め)

 

 来訪者が増えると地下のレッスン場において寝袋に入り就寝する。

 自分より年下の相手に同じことをさせるのは心苦しいし、

 同じ年の英玲奈やツバサにはきっちり役目がある。

 誰か一人部屋を提供して寝床とし、地下の味気ない場所で睡眠を取るとなれば、

 オチを付けなくても自分がその立場になるというのは言われずとも分かっていた。

 最初のうちはちょっと寂しいとか、寝るときにだけなにか置こうかな?

 とか考えてみたりもしたけど、人間は慣れる動物である。

 ちょっと気合い入れて寝よう! って思うとこてんと意識を失うように寝てしまい、

 朝になると絢瀬絵里が死んでるんじゃないかと思って誰かしら様子を見に来て、

 ぐっすり寝ている私に憤慨する思いを抱え、色んな所を蹴り飛ばされて起床する。

 

(雪姫ちゃんはすごいっていうか……ええと)

(能力があったわけではなく、大人から見て使いやすかったんでしょう

 仕事上都合がいいと言うだけで、才能にあふれていたわけではありません)

 

 雪姫ちゃんは自嘲をするように笑い。

 その大人びた悔恨入り交じる老成された溜め息の吐きっぷりに、

 よもや私が苦労を掛けてこの状態になっているのかと不安が生じる結果になった。

 彼女の私への評価は先ほどからうなぎのぼりを重ねているけれど、

 私から雪姫ちゃんへの評価もまた同様の行為を続けている。

 なにせ空気を読まずに行動すること多く、

 また余計に才能を発揮することも手伝ってか、

 仕事はできていても評価に直結しないことはままある。

 アルバイトレベルなら人間関係で悩むことは正社員ほどでもないから、

 大学時代には私って結構できるのかもと思ったりもしたけれども。

 雪姫ちゃんは多くの大人が体よく使えるという才能を微塵も感じていない様子だけれども、

 仮に私に仕事の才能が溢れていたとして、雪姫ちゃんの能力よりも優れていても、

 結局人気が出て多くの人から親しまれるのは雪姫ちゃんの方である。

 誰かからの評価を基準として生きるか、自己評価を信じるのかはその人次第ではあるけど、

 あんまり自信がない私としては誰かからの評価に自身の価値をおもねるのも悪くない選択だと思っている。

 

 エトワールの邸宅から地下のレッスン場までは階段を使うんだけれども、

 材質が硬いものであるせいか、足音が結構高く響き渡って耳に届く。

 起床する時間には熟睡してしまっているために感じることは少ないんだけども、

 寝る前のちょっとだけ寝ているんだか、起きているんだか分からない状態の時には甲高く聞こえることもある。

 その人物は自分が来たことをアピールしているのか、

 寝ている私を意識せずにまったく遠慮せず階段を降りてきて、

 ああこれは綺羅ツバサであるなって一発で分かった。

 腐れ縁で今の今まで付き合いがあり、お互いにしょうがないやつだなって思ってはいるんだろうけれども離れる機会はなかった。

 友人と呼称しても構わないと思うし、親友と表現されることもやぶさかではない。

 

「ツバ……ぐへぇ!?」

「ああごめんなさい、膝が滑ったわ」

 

 何という新感覚の言い訳。

 私のお腹の辺りにニードロップを叩き込んだそいつは、

 自分は悪くありませんどころか、非があるのはあなたみたいな表情でこちら見ている。

 寝袋の中に入っていなければ即死だったかも知れない、ふうやれやれと思いながらもぞもぞと動いて寝袋から抜け出す。

 

「あなた……絢瀬絵里よね?」

「二次元世界では桜井綾乃という名前で活躍しているかも知れないわ」

「ヒナもいい加減私をダイヤモンドプリンセスワークスに出すべきだと思うの」

 

 統堂英玲奈と優木あんじゅの両名はダイプリに出演を果たしているのに、

 A-RISEのリーダーである綺羅ツバサだけは徹頭徹尾触れられていない。

 ちまたでは創り手と仲が悪いとかエロシーンが嫌いだとか囁かれているけれど、

 そんなやつが自身をモデルにしたキャラのエロ同人を見てゲラゲラ笑ったりはしない。

 ヒナと仲が悪いかって言うとそんな訳もなく、お互いに絢瀬絵里よりは使えるという抜群の評価をしあっていたりもする。

 私を顎で使いにくい尊さがあるんだと思う、きっと。

 

「問いかけるけれど、あなたは誰かに取り憑かれてはいない?」

「むしろ取り憑いていたらその人って不幸じゃない?」

「否定はしないのね」

「隠し通せると思ってないもの」

 

 「また面倒事に巻き込まれて」などとため息をつくツバサ。

 ニートになる少し前に面倒事が列を作って訪れてくる時代があり、

 椎名伊織の件もそうであり、気に食わない企業に連れて行かれて「仕事はできるけど評価できない」というクソみたいな反応で嫌がらせにあった時もそう。

 μ'sが持て囃されていた時期には、高校時代は優秀なのに就職活動もうまくいかないと後ろ指さされた時期もあったし、買い物に行けば誰かが私を見ている。

 フォローを入れるなら、私の3倍くらい穂乃果は嫌な目に遭っているけれど、

 誰のせいでそうなったのかは問いかける気もしない。

 

「あー……もしかして入れ替われるの?」

「ええ」

「腑に落ちたわ、出なければこの私が絢瀬絵里如きに上手く使われるわけないもの」

「使う気がないということで一つ」

 

 何のどの場面を指してツバサを上手に使ったのかは定かではないけれど。

 私が人から上手く使われないということに対しては、後日記憶がすっ飛ぶほどに酔っ払ってしまった花陽に言われた台詞から察している。

 

「絵里ちゃんって人から上手く使われようとすると反発するし、

 仮に上手く使えたところでそこまで役に立つ人じゃないよね」

 

 ことりんぱなという面々との飲み会で、

 遠慮なく事実を指摘(主に罵倒を持って)されていてからしばらく、

 花陽がちびちびとお酒を飲みながら不意に黙ってしまったので、

 「だいじょうぶ?」と声を掛けたら唐突に言われた台詞。

 私に恐ろしく辛辣な凛やことりでさえ「かよちん!?」「かよちゃん!?」と白目をむかんばかりに驚き、慌てふためき。

 無防備な状態でボディーブローを受けたみたいにダメージを受けた私に「だいじょうぶだから、ね、飲み会の代金払うから!」とことりはフォローを重ね、

 凛は「違うから、かよちんは誰かと絵里ちゃんを間違えているだけだから!」と、本当に申し訳なさそうな表情で私に謝罪の言葉を述べた。

 なお、その事実は行われた飲み会と共に封印され、

 飲み会の現場に絢瀬絵里はいなかったと記憶がすっ飛んだ花陽には説明された。

 どこまで真実味がある発言だったかは、後日ネタ交じりにツバサに上記の発言を伝えたら、

 「ああ、あなたの話?」と返答をされてしまったのでいろいろと察している。

 

「何故そのようなことに?」

「空よりも青い、星よりも明るい事情がありまして」

「腹に膝蹴りでもして意識を失えば中の人も出てくるかしらね?」

「え、なんで助走付けようとするの? ガンジーなの?」

 

 懇親の説得は見事に空を切り、

 話をごまかそうとしたところで最後には強制的に吐かせよう(夕食と一緒に)とするから、

 絢瀬絵里がこれ以上言葉を重ねたところで綺羅ツバサは動かない。

 年下の女の子を盾にするような真似には躊躇いも生じようものだけれど、

 このままでは本当に膝蹴りが腹部に直撃しかねないので。

 

「僭越ながら絵里お姉さんと同居しております、西園寺雪姫と申します」

「恋人の父親に会いに行く彼氏みたいな台詞どうもありがとう。

 ――でもそうか、やけに上手く立ち回るなって時があったから。

 凹んだ理亞さんを元気づけたのもあなたなの?」

「敵いませんね、察せられたとおりです」

 

 なるほど、妙に理亞さんの好感度がだだ上がりした出来事があったなと、

 自分のことなのに自分の記憶になかったものだから、そんなこともあるかなくらいにしか認識をしていなかったんだけど。

 

「理亞さんが言っていたの、聖良さんと同じことを言って

 でも自分はそばに居てくれるって、聖良さんとは違うって言ったって

 よもや絵里が人の動向を把握して励ましの言葉を送るとか

 天地がひっくり返ってもありえないから

 誰かがアドバイスを送ったか、誰かにいいように使われているのかなって思ったの」

「ツバサさんの中で絵里お姉さんの評価というのが高いのか低いのか大変判断に困りますが。

 察せられる通りにしゃしゃり出てしまいました」

「中の人は自由に入れ替わることができるの? たとえ”絵里の意思”でも?」

「――ツバサさんが察するとおりです」

 

 何回か意識を刈り取られる経験はしたけど、

 私が雪姫ちゃんに頼んだことはなくて、雪姫ちゃんがなにがしかの事情でそうせざるを得なかった際にはそうなってるんだなーくらいにしか認識せず。

 なお、雪姫ちゃんの言葉を聞いたツバサは不満そうに口をとがらせたあと、

 バカじゃないの? と、中の人化している私に言い、

 その後何事か口を開いて述べようとしたんだけども、言葉にならないのか、

 それとも適切な言葉を探しているのかは定かではないけれど。

 もどかしい想いを抱えたかのような憂鬱そうな表情を浮かべ、

 こめかみを押さえながらため息をついた。

 

「確認するけれど、害意はないのね?」

「敵対する意思はありません」

「わかった、それ以上は聞かない。

 でも覚えておいて、そこの金髪を一番上手に扱えるのは私だから

 ここではないどこかの絢瀬絵里を知っていようとも

 そいつはそこの絢瀬絵里とは違う人間だってことを把握しておいたほうが良いわ」

「肝に銘じます」

「絵里、お人好しは程々にしておきなさいよ?

 椎名伊織の時みたいに情けを掛けて後ろから刺されるなんて経験は

 私も亜里沙さんもフォローできないんだからね?」

「刺すような方がいるんですか?」

「高海さんには気をつけたほうが良いと、私は認識している

 理亞さんが言ってた楠原雅という人よりもよっぽど

 

 仮定だけど、海未さんが警戒しているのは――

 あえて彼女の味方のふりをしているのは、もう既に高海千歌という人が

 精神的に保たないと察しているからかも」

 

 真剣な口調で語るツバサ。

 あと、後ろから刺してきたという椎名伊織氏は亜里沙に地獄に叩き落とされたので、

 刺してきたというのは比喩だけど、落としたのは比喩じゃない。

 そしてツバサは地上に戻って寝るのかと思いきや、 

 私の寝袋にもぞもぞと入りさっさと寝息を立て始めてしまった。

 いかんせん寝袋は私の分くらいしか用意がなく、

 庭にある物置にはなぜかテントがあるけれど、そこで寝るのは寂しい。

 寂しいんだけども、スマホを眺めながらえっちらおっちらとテントを張り、

 完成した瞬間に空を見上げたら星空が煌々と輝いていて、

 テンションが跳ね上がった私はタオルケットを身体に巻きそのまま就寝した。

 その日私はリヤカーを引っ張り喜界島を一周しテントで寝た4人組の夢を見た。


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