三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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鹿角理亞ルート 17

 高校を卒業して10年は経過しようとしているメンバーがいるALSTROEMERIAが、

 スクールアイドルを名乗っていることに関してふと疑問に思えど、

 すでにステージ裏に集結している二人に私って参加しても良いのかな?

 と、空気を読まずに問いかけることはできなかった。

 ここからちらりと見えるステージの上では高校生女子たちが輝きを放ち、

 ちょっとくらいアンチエイジングに効果がないかなと思ってまじまじと眺めてたら、

 観客の中のエアーポケットのような、特等席に私の知り合いが集結しているのが見えた。

 ありていに言えば、ツバサとか真姫とかエマちゃんであるとか、

 私を見捨てて撤退していた面々が何食わぬ顔をして騒ぎ散らしている。

 あまりにもテンション高く大きな声で応援しているみたいであるので、

 ステージから返ってくる一部のアイドルたちが、

 怪訝そうな表情で会場をあとにしている様子が散見された。

 すごく迷惑だと思いますが、このあと私が登場したら

 もっと大きな声で騒ぎ出すから、誰あのツバサさんに似た人っていうのは、

 おそらくそいつは綺羅ツバサっていう私の知り合いなので。

 

「……ステージに立つ時は一つも悔いは残さないようにしています」

 

 先ほど自身をボコボコに殴りつけた相手が

 何食わぬ顔をして観客席にいることを察知した彼女も緊張を隠せない。

 エヴァちゃんの痛そうな膝蹴りの連打にもめげず、

 徐々にステージに立つアイドルの顔になっていく姿には感動すら覚えたのに。

 キリっていう表情から、なんだかなーみたいな感じに変貌しつつあるので、

 今一度緊張感を高めてもらうためにもコメントを求めることにした。

 ネタに走らないようにと重ね重ね警告したのできちんとやってくれるはず。

 

「お客様にお金を支払って頂き見てもらう以上、

 みっともない姿は見せられません。

 その人が最後に見たスクールアイドルが優木せつ菜の失敗した姿では

 申し訳が立たないというものです」

 

 5分くらい前までシリアスな表情をしながら目にものを見せると息巻いていたのに、

 3分くらい前からエヴァちゃんにバストアップのコツを教え始めるというポカをやらかす。

 なんでもっと大きくならないんですか、手を抜いているんですかという名言は、

 是非にも矢澤にこ氏に伝えておきたいと思う。

 

「エヴァリーナさんでしたか、私なんぞいくらでも嫌って頂いても構いません。

 でも、ステージでみっともない姿を見せるようなら、

 そこから蹴り落としますから」

「上等です、何もしなくてもステージから蹴り落とすから覚えておいてください」

「……何故そこまで恨みを買ってしまったのでしょう?」

 

 なお、着脱可能と判明した雪姫ちゃんは都合上エヴァちゃんの中に入ってもらってる。

 いざという時は静止してくれるようにお願いしているけれど、

 きしゃーきしゃー言ってた彼女がどこまで作戦を実行してくれるかは怪しい。

 胸に手を当てて考えてくださいという言葉で、私に手を伸ばしたので、

 小ボケはダメですと忠告した。

 すごく残念そうに自分の胸をわっしわっしと掴んでる。

 そのゴムまりを扱うみたいな扱いはどうなの?

 

「エヴァちゃん、せつ菜ちゃん……いまはまだ私たちはイロモノでしかない」

「絵里?」

「応援や声援を私たちの力で驚きや憧れに変えてしまいましょう」

「……絵里さん?」

「なんだろう、二人にはねメッセージを残しておきたくなっちゃった」

 

 このままなんだかなーみたいな空気のまま曲へ突入されても、

 二人のモチベーションであったり未来のこの子達にいい影響が見られないので、

 ちょっと空気を読まずにシリアスさを取り戻すことに努力を重ねた。

 多少なりとも真剣な態度であったのか、

 エヴァちゃんは調子を切り替えて真剣な面持ちを浮かべ、

 せつ菜ちゃんもそんな彼女に引っ張られるようにシリアスに頷いてくれた。

 

「絵里お姉さんのお願い事なら聞くしかありません」

 

 けっこう気軽に入れ替われるみたいだけど、

 ダンスのスキルに関してはエヴァちゃんに利があるので、

 状況によっては元に戻って欲しいと心の中で願うことにする。

 

 

 会場のお客さんが誰を目的にして来場されたかは私が知る由もないけれど、

 乱入するように参加したグループのことを知っている面々っていうのは、

 おそらく特等席みたいな所でこちらをまんじりともせず眺めている人たち。

 彼女たちは私がポニーテールにしてステージに立っている時点で騒ぐのをやめ、

 近くに居た上原歩夢さんと、黒髪で私は地味ですと言わんばかりの見慣れない子と、

 エマ・ヴェルデちゃんがぎょっとしている。

 

「会場の皆様こんにちは、”μ's”の絢瀬絵里です」

 

 穂乃果がμ'sを終わらせてしまった手前、

 本来は元と名乗るべきではあるだろうけれど、

 たまにはこんな日もあって良いかなって思う。

 スクールアイドルμ'sの一員ではなく、μ'sと名乗って勝負をかけるという私の意気込みは、

 水面に雫が落ちたときに見える波紋のように会場に広まりまわった。

 何だこいつらと見ていた人たちも、スクールアイドルのイベントに来ているだけあって、

 μ'sのことくらいは知識として存在するみたい。

 いまの私がμ'sを名乗りどのあたりまで信じて貰えるかは不明瞭ではあるけど。

 

「主役を一番最初に名乗らせておいて、ただUTXでスクールアイドルをしている

 優木せつ菜という人間の知名度がいかほどかは分かりませんが」

 

 余計なことを話す前にせつ菜ちゃんにマイクを渡しておいた。

 本気でパフォーマンスをしますという意志だけは一部を除いた観客の皆様に浸透すればいいと思う。

 

「現在UTXのトップである以上、過去にラブライブを優勝したという方に負けるつもりはありません。

 いまのスクールアイドルがどれほどレベルが向上したか披露するいい機会だと思います」

 

 スクールアイドルとしてのプライドを持って、

 化石はそのまま埋まってろと言わんばかりだけど。

 当人のA-RISEやμ'sのリスペクトっぷりから察するに、

 いまのキャラでコメントを引き伸ばしすると途端に弱気になってしまいそうなので、

 エヴァリーナちゃんにマイクが渡された。

 が、トークスキルが根本的にない彼女が全面に出てくるわけもないので、

 

「みなさんこんにちはー! 西園寺雪姫でーす!」

 

 何を言うかと思ったら最初から中の人のフルネームを披露してくれた。

 が、そんなこともつゆも知らない大半の観客は、

 知名度がないから西園寺雪姫を名乗ってる痛いやつみたいな感じで見てる。

 子役として一時代を築いた彼女の知名度はアイドルオタだけではなく、

 一般にも浸透しているので、彼女に比べたら絢瀬絵里(笑)だし、優木せつ菜(笑)である。

 だから彼女をリスペクトした風な自己紹介がある程度観客の耳に入るのは、

 後にどのような反応を示されるのか考えなければ効果は抜群。

 

「その人芸能界引退しちゃったし、時間も経っているので時効だと思うんですけど、

 昔アイドルで〇〇〇〇さんっていう人がいまして、何回か仕事で共演した時に、

 スクールアイドルはアイドルとは違うって頑なに強硬姿勢を示してて、

 実力と主張が見合ってればよかったんですけど、

 結局ニコさんとか、ツバサさんに蹴り落とされちゃって、

 で、後輩のスクールアイドル上がりの子を脅迫して引退して、万引きで捕まって――」

「では、聞いてくださいsoldier game!」

 

 時間が限られている中、

 雪姫ちゃんの芸能界暴露話で私たちの出番が終わってしまいそうなので、

 強制的にトークは終了することとなった。

 オチがつくようにお願いはしておいたんだけど、

 オチではなくケチがつきそうなトークは控えて貰いたい。

 

 ちなみにこのsoldier gameは、

 西木野真姫、絢瀬絵里、園田海未の三名が歌い、期待されたほど人気が出なかった。

 ことりや花陽のポワポワコンビと穂乃果と凛の元気な二人が飛び抜けていて、

 希とにこが私らに比べれば多少注目が集まった程度。

 真姫がフラグのように「私たちが一番最初に握手券とCDがハケちゃったらごめんなさい」

 みたいなことを言って、海未も「私たちの進む道はいつだって青信号ですね」と自身の髪色を

 例えたネタまで披露し、私もなんとなくニコと希には勝てそうと淡い期待を抱いた。

 が、いつまで経っても売れずに残った自主制作CDを前に、

 「いつになったら青信号になるの?」という凛のコメントに涙する一同だった。

 

「ありがとうございますー! soldier gameでしたー!」

 

 経緯はどうあれ”soldier game”の評価はμ's解散以降に高まり、

 まきうみえりの三人組は人気があるというコメントを残す人間もいるけど、

 海未が未だにソルゲ組ではトリオを組まないと言っている通り、

 彼女に生じた傷は海よりも深い、海未だけに。

 

「一つのグループに付き最大10分しか時間がないので、

 次がラストの曲になります」

 

 どのような反応が来るかと思ったけど、

 だいたいの観客の目は好意的な”何この人たち”だった。

 イベントではお約束として終わりを宣言すればブーイングみたいな

 拒絶する反応が来るんだけども。

 それすらも忘れて私たちをひたすらに見上げていた。

 おそらく、虹ヶ咲学園のイベントにおいてお客の方が拍手を忘れて

 ステージの人間が次の曲を歌おうとする状況下はなかったんだと思う。

 真姫やツバサといった私だったりせつ菜ちゃんにわりあい辛辣な人間だけが、

 こちらを見上げながらもっと頑張れと目で応援を続けてくれている。

 彼女たちが求めるパフォーマンスを示していないのは反応から見ても明らかで、

 私も本調子ではないということを自覚しつつある。

 自分がやる気になれば誰だって凌駕する実力を持っているとは思わないけど、

 あの二人が私を見て応援するなんてことは異常事態と言ってもいい。

 μ'sを名乗ってステージに立っている以上、

 真姫だってふざけたことはするなよみたいな心証は抱いているはずなのに、

 それでもなお、私を応援している――

 

「私たちはスクールアイドルです。

 だからこそ、スクールアイドルを皆が始めるきっかけとなった、

 A-RISEのことをリスペクトしないわけにはいきません」

「ですがA-RISE以降、UTXにおいてラブライブ出場を果たしたグループすら少数。

 そして、園田海未さん、西木野真姫さんの二人で作られた曲を使用していたオトノキを

 破ることはついぞ叶うことがありませんでした」

「確かにμ'sはアメリカや秋葉原での路上ライブ等、目玉になるイベントの先頭に立ってきました

 ですがそれは、はじまりとなったA-RISEがいたからです。

 一番最初に何かを始める、それは大変難しいことです。

 でも、今日ステージを見上げて下さる皆様にはぜひ覚えていて頂きたいんです

 何かをなすことよりも、何かを始めることのほうがよほど尊く

 たとえ失敗したとしても、周囲の方は笑わないでいて欲しいと」

 

 ツバサなんかは初期のA-RISEで披露した曲はレベルが低いとか、

 とても観せらんないと笑いながら言うけれど。

 でも、そのクオリティは当時のアイドルと同レベルかそれより上。

 A-RISEを見てスクールアイドル部という部活を作り始めた各校の動向から分かる通り、

 彼女たちが優れていたからこそ、憧れや理想を持って追える存在だったからこそ、

 いまの私たちがあるのだ。

 ――あと、最後にコメントを発した雪姫ちゃんがオチをつけるのではないかとエリチカ戦々恐々としてたけど空気は読んでくれてよかった。

 

「A-RISEの始まりの歌を当人の前で歌います。では聞いてください!!」

 

 どれほどのパフォーマンスが発揮できるかはわからない。

 でも、いまが最高と歌ったμ'sのメンバーである私が、

 自分たちが憧れたグループの歌を歌う以上は全力を尽くさないわけにはいかない。

 ツバサのパートを自分が歌うことに対して彼女がどう思うかは分からないけど――

 今まで出演したグループよりも断然大きい大歓声が耳に届いたのを聞き届け、

 ごめんなさい、ちょっと休ませてとかすれた声で言ったのを最後に私の意識は途絶えた。



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