三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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鹿角理亞ルート 20

 てんやわんやの騒ぎの末、

 無駄に入院期間が長引いたのを利用し、

 亜里沙やツバサとシリアスに会話したいとの旨を相手に伝えたところ、

 すごく面倒くさいという表情をされつつもなんとか了承を得る。

 個人面談のように二人きりで、雪姫ちゃんをリリーちゃんにキャストオフして

 準備は万端、病室に盗聴器を仕掛ける人は多分いない。

 二人きりという言葉の響きが良かったのか希望者は多数いたけれども、

 病院での性生活の参考にとエロ同人を持ってきたお嬢様には、

 わかったわかった後日実体験をふまえて教えるからと言ってその気にさせておいた。

 

「お姉ちゃんと呼べば良いのか、姉さんとシリアスに呼べばよいのか」

 

 最初の面談相手は妹である亜里沙。

 多少の記憶の混濁はありつつも、基本的に記憶は持ち越してないので、

 変だとは気づきつつも関係ないこととして仕事に取り組む見事なキャリアウーマン。

 私自身が生きることに執着しているのも可愛い可愛い亜里沙の存在があるからで、

 彼女を安心させるか、限界が来て寿命が尽きるかどちらが先か分からないけれど、

 ひとまずお姉ちゃんとしての仕事は取り組みたい所存。

 

「紅薔薇さま相手みたいな感じにしても構わないのよ?」

「最後に(笑)が付く感じでも良ければいいですよ」

 

 白薔薇さまのつぼみの妹(笑)とかだと本当に敬意が感じられない。

 ちなみにこれでロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンのプティ・スール・かっこわらいと読むんだと思う。

 真面目に会話がしたいと言った手前、妹もそれなりの緊張感を持って

 この場に臨んでいるんだと思うけれど。

 まずはそれを和らげてあげないと。

 

「シリアスに会話をしたいという話でしたが」

 

 多少の憤りと解せない部分は感じているのか。

 表情を多少曇らせつつも、相手が病人であることも把握していて、

 あまり強気にはでられないみたい。

 こちらが相手に時間をとってもらいつつ伝えたい事柄があることは、

 亜里沙のストレスにもなっているは分かっているので、

 私としても用事は手早く済ませておきたい。

 

「希は元気にしてる?」

 

 今回、私が倒れたことによって必要以上に責任を感じているのか、

 面会のメンバーに含まれていなかったので、

 とりあえず生きてるんなら顔を出せやくらいのニュアンスで

 エリチカがあなたを所望していると伝えてもらうことにする。

 まあ、退院すれば断られても会いに行くけど、

 大体の場所はリリーちゃんと雪姫ちゃんのスキルを頼る。

 

「一番に希さんの話をされると緊張が走りますが」

 

 希の暗示から解放されつつあることは、

 ツバサやヒナと言った相手への態度から察しているみたい。

 徐々に過去の記憶を取り戻していることもふまえて、

 キチンと伝えなければいけないことかも知れない。

 

「亜里沙、あなたには謝罪しなければいけないことがたくさんあるわ」

「……数えられる範囲ですかね?」

 

 具体的にどれほど謝罪すれば良いかはわからない。

 おそらく謝罪の折に腹を切れと言われれば、

 私の腹はシックスパックどころでは済まない。

 腹部みじん切り事件としてミステリラノベで話題になりそう。

 

「本当はね、もうちょっと――長生きをしたかったなって」

「殺しても死ななそうな姉さんにしては珍しく弱気です」

「あいにくと死ぬのよ、私けっこう死にやすいみたいよ?」

「星の巡りですかね?」

 

 亜里沙がもう既に私の方をまっすぐ見ずに、

 やけに遠くの方を見ているのが辛い。

 星の巡りで死にやすいとすると言うより、

 面倒事を抱えた結果、事故が多発的に発生するのが正解であり。

 半分くらいは自業自得、いつも残してばかりの亜里沙には

 大変申し訳はないんだけども。

 ただ、そんな面倒くさいこの現象もおそらくこれで終わり。

 雪姫ちゃんも最後と言ったくらいだから、

 おそらくリリーちゃんも最後という認識のもと行動に移っているはず。

 残念ながら私はハッピーエンドを迎えられ無さそうではあるけれど、

 それでも、もう既にたった一人になってしまった血の繋がりのある家族を

 最期まで大切にしたいと思うのは、責任感からではない。

 

「おばあさまのことも謝らないといけない」

「そのことは謝罪をされても仕方ないのです」

「全部あなたに任せてしまった、辛いことも苦しいことも、

 私一人が何も知らなかった、何もせずに過ごしてしまった」

「私は謝罪を求めてません」

「亜里沙には、本当に何も出来なかった

 μ'sやA-RISEのみんなは喜び勇んで助けに行くのに

 妹を、たった一人の家族には何も」

「謝らないでって言ってるでしょう!?」

 

 久方ぶりに聞いた妹の金切り声。

 感情を露出させることでさえ稀な妹が、

 迷わず私にそれをぶつけてくるということ。

 想定通りではあるんだけども、自分で恨みを買うような行為に

 なんとも言えず胸が痛い。

 亜里沙が仕事内容を告げていなかったことも、

 トラブルを抱えれば私が喜び勇んでしゃしゃり出るからであり、

 今回アイドルなんてことになったのも、

 姉妹でできる仕事っていうのがそれしかなかったっていうのが大きい。

 ニート時代が長くてスキルを身につける鍛錬をしなかったことは不覚だったけど。

 

「なんで! 別に私はお姉ちゃんをダメだなんて思ったことなんてないよ!

 謝って貰う必要なんてない! 自慢のお姉ちゃんだよ!

 今まで色々たくさんのものをくれた! 感謝してるよ!

 なんで! なんでそんな自分を卑下するようなことばっかり言うの!」

「それはね亜里沙、

 妹に弱みを見せて貰えなかった情けないお姉ちゃんだから」

「……っ!?」

「甘えて欲しかったのよ、亜里沙には幸せになって欲しかった

 私にいつまでも構ってないで、いい人と幸せな日々を送って欲しかったの

 それを自分が足を引っ張り続けていたと自覚できた今、

 あえて言わなくちゃいけない

 

 私が死んだとしても、私の遺してきた思いと一緒に生きてほしい」

「……なにを、残すつもりなんです?」

 

 声色が涙声だし、

 私自身も視界が揺らいでいる自覚があるけれど、

 お互いにそれを指摘しないまま――

 目覚めてからしばらく、

 自身に蘇りつつある過去の記憶と一緒に、

 どうでも良いスキルまで扱えるようになってきた。

 これが異世界創世記みたいな話ならチートスキルになるんだろうけど。

 

「計画書? なんですかご丁寧に」

「アイドル育成計画書まで見て」

「見ましたがあまりにくだらなくて目に入れたくなかったんです」

 

 確かにB級バラエティがネタに困った時に、

 芸人を使って体を張る計画のようではある。

 今更ながらに子育てなど出来ないし、

 子どもを妊娠することも出来やしないので、

 生憎ながらある程度育った面々に絢瀬絵里要素を育んでもらう。

 私の要素を入れた所でと思うことはあったんだけども、

 歌詞作りなどの作品を残しても黒歴史にしかならなそうではあるので。

 良いタイトルが思いつかないけど、花陽に歌って貰おうかなって曲の歌詞は

 凛には好評だったりする。

 「かよちんが歌うにはいい曲」「作ったのが絵里ちゃんていうのが腹立つ」

 という言葉をどこまで評価と断じて良いのかはわからないけど。

 

「理亞と……ええと……」

「彼女と言えば良いのか、彼と言えば良いのか」

 

 苦笑しつつツバサの弟さんの顔を思い浮かべる。

 基本的に顔はノーメイクなので、ふだんから顔面は優木せつ菜さんではあるんだけども、活動形態は男性のそれなのでなんとも言えない。

 亜里沙もそのあたりは把握しているようで、

 本当に女性であったのならスカウトに挨拶させるのにと残念そう。

 ただ外見こそは美少女であるものの、

 オカマさんみたいに女性を模して活動をしているわけではないので、

 見る人が見ればすぐに判断されてしまうほどの危うさはあるらしい。

 気づかなかった私への当てつけのようなセリフではあれど。

 

「何かを残す……ついに男性を妊娠させることに」

「計画にはそんなことは書いてないはずよ」

「そもそもの前提が二人の了承を得るなんですが、

 穴だらけではないですかこの計画」

 

 計画に興味がなければ読まずに捨てられてしまうので、

 コメントを頂ける程度には出来は良かったものと思われる。

 全体的に目を通して頂き、

 実現できる可能性が多少低いことを除けば、

 妹の満足感はあったものであるみたい。

 お見舞いに来るみんなの乱痴気騒ぎのあと、静かになった深夜の病室で、

 実際にキャリアウーマン化していた過去の私のスキルを引っ張り出し、

 そこに絢瀬絵里要素を加えた力作。

 自分の要素が高評価の不確定な部分に直結してしまうのは、

 ちょっとあれなんだけども。

 

「……私へのメッセージはないのですか」

「歌を作るの」

「歌? 作詞だけではなくですか?」

「ええ、まあ、亜里沙は怒るかもしれないけど、

 私にとって10人目のメンバーは亜里沙だから、

 そのことをふまえた曲かな」

「雪穂を差し置いてファン代表ですか――まあ、良いでしょう」

 

 雪穂ちゃんがファンである自分を止めて亜里沙も同調したけど、

 なんやかんや言ってアイドルに関わっている自分がいる以上、

 ネタに含んでも問題はないような気がした。

 仮にこっぴどく叱られでもすれば、

 私の涙と一緒に棺にでも入れて欲しい、できれば大量のボツと燃やして欲しい。

 

「そうそう、お姉ちゃんの部屋にあった歌詞だけど」

「……鍵かけてたでしょ?」

 

 ちなみに管理人室ではあるけど、だいたい客の誰かの宿泊施設と化していて、

 管理の仕事をしているはずの私は、エトワール内のどこかしらで寝ている。

 ことりの意見以降様々な子が一緒に寝ますかと誘ってくれたけど、

 朱音ちゃんは英玲奈の反対があって頓挫し、

 他アイドルたちは亜里沙の反対があって機会はない。

 せっかく知名度が上がっているのに絢瀬絵里要素を入れるなんて!

 という判断の元、誰も否定してくれなかったのが悲しい。

 

「にこにこナースっていうのはもしかして、にこさんに歌わせるつもりですか」

「……似合いそうじゃない?」

「海未さん……あ、いえ、詩衣さんも、

 見るに値するのは1割に満たないという話でした」

 

 おそらくパソコンの中にデータとして残してあるものに関しては、

 ノータッチであると思われる。

 手書きで書くという作業もそれなりにクオリティを保てるけど、

 それでは量を作成できないので、本当に見るに耐えないものを制作する 

 デメリットは生じても、メイキングスキルは磨かれる気がした。

 

「データのロックは外しました」

「!?!?!?」

「正直もっとエッチな方面でのファイルを期待しましたが、

 なんで創作物に関しては真面目なんですか」

 

 ……念には念を重ねて、絶対にバレないようなパスワードにしたつもりが。

 雪姫ちゃんと相談を重ね、これならオッケーですと太鼓判も頂いたと言うに。

 

(絵里お姉さん、今だから白状しますが。

 私への相談は基本的にリリーに筒抜けです)

 

 そうなんじゃないかなーとは思ったけど、

 そうであったという事実はちょっと私にとってダメージが大きかった。

 

 

 少し話の方向性がズレてしまったけれども、

 これからもうちょっとがんばりましょう(笑)レベルの歌詞ではなく、

 目を覚ましてからしばらくちょっとばかり能力が上がったであろう私の歌詞を妹に見せてみる。

 とんでもないものを見せられて時間の無駄なのではないかと疑問を浮かべてそうな彼女も、

 ある程度の出来であると察せられたのか、紙をめくる手が進んでいく。

 さすがに病室にパソコンは持ってこれなかったので、

 手書きでの作品になるわけだけども、

 なんとなく過去の名作詞家みたいにも見えて、

 絢瀬絵里的には大変満足行く結果を得た。

 ただ、出来不出来にはまったく関係がない。

 

「……まあ、叩き台にはなるレベルにはあるようです」

 

 こんなの全然ダメレベルから多少上昇。

 人に見せて出来を判断させてもいいよレベルには至っていたみたいで、

 多少の満足は寄せられたみたい。

 とは言え、今回の目的は作詞をして妹の感動を得よう!

 ではなく、これからの協力を求めること。

 私が仮にいなくなってしまった後にも、

 姉のことなんて忘れてまっすぐ生きてくれるようにお願いすること。

 そのためには仕事をしてくれている方が気分もまぎれると思うし。

 でも、亜里沙はそれを事前に察知していて、

 私のあとは任せたのでよろしくみたいなコメントを許してくれない。

 さっきから口を開こうとすれば、恐ろしいにらみっぷりが披露される。

 大相撲で待ったの連続で立ち会いがうまくいかないときみたいな

 そんな微妙に弛緩した空気が流れ込み始めたあと、

 埒が明かないと判断したのか、用事でもあったのか分からないけど、

 ツバサが部屋に入ってきて、何か言うのかと思ったら、

 いきなりベッドの下を覗き込んで手を突っ込んでいる。

 その挙動に驚いた絢瀬姉妹だけど、

 下からズルズルと引きずられるように出されたのは、

 ハニワプロ所属のアイドルのエヴァリーナちゃん(本名リリーちゃん)

 何故そんなところにいたのかと問いかけたいけど、

 裁きを言い渡されたあとの悪代官みたいに肩をがっくり落とし、

 なんとなく同情を誘うような小動物みたいな目をして

 ちらっ、ちらっ、とこちらを見るので、雪姫ちゃんを預かってくれるよしみもあり、

 その場で待機して口出ししないようにすればいても良いという事にしておいた。

 

「私に出て行けって言うつもり?」

 

 リリーちゃんをその場に残しつつ、

 ツバサを退場させるわけには行かなかったので、

 アイコンタクトで協力を求め(首を横に振られた)たあとで、

 言おうと思っていたコメントを追加する。

 

「ええと、空気読めないみたいな発言ではあるけど、

 おそらく私はもう長くないと思う」

 

 南ことりのお肩がコッティーというダジャレも受けそうな空気の中、

 それでもシリアスに軌道修正をしつつ、

 妹に伝えなければいけないことを伝える。

 亜里沙も私の台詞は聞きたくなかったのか、

 空気を弛緩させてしまった、ツバサやリリーちゃんを睨むようにしているけど、

 やがて力なく肩を落とし、少しだけ潤んだ瞳で私を見上げた。

 

「お姉ちゃんがいなくなってしまうっていうのは、分かってるの」

 

 なんとも言い切れない思いを抱えて、

 それでも私に強く意見を言うことも出来ず、

 かといってツバサやリリーちゃんに当たることも出来ずに

 我慢を重ねている亜里沙に声を掛けたい。

 かと言って、残念でしたドッキリです! 

 みたいな結果にはなろうはずもなく、睡眠を取れば

 次は目を覚ますことはないかもしれないと不安にもなっている。

 私一人が不安におびえて強がっているなら、

 誰かに責任をなすりつけることもできようけど、

 誰もがこいつ死ぬんだろうなっていうのを分かりつつ、

 私にそれを告げることがなかったことに関して、自分はどのように反応すれば良いんだろう。 

 いっその事話してくれればなんて開き直った所で結果は変わらない、

 かと言って嘆いたところで死が待つばかりの状況下で、

 かろうじて現状維持を保つことによってみんな精神の安寧を保ってる。

 それこそご都合主義的な奇跡でも起こりえれば、

 私も助かるかもわからない。

 でももう、その奇跡すら誰かの犠牲によってしかなしえないのなら、

 もういっそのこと諦めてしまうほかない――それはきっと正しくない。

 

「本当に諦めるほかないの? もう、これでお別れなの?」

 

 私に向けていった言葉なのか、

 それともここにいない神様にでも言った言葉なのか、

 胸が苦しく、今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られた私を制したのは、

 ツバサだった。

 

「亜里沙さん、私や絵里の愚痴は聞いてくれないけど

 英玲奈が良い反応をくれるはずよ」

 

 解せないことを言う。

 確かに彼女より年下の亜里沙が、

 英玲奈にとっての妹扱いされるのは……うーん。

 予想外の台詞だったのか亜里沙もキョトンとした表情を浮かべて、

 何故その人にみたいな反応をしている。

 

「もともとね、朱音ちゃん育成計画の第一候補が亜里沙さんだったし」

 

 なんでも、可愛い可愛い妹よりも可愛い妹キャラが亜里沙だったらしく、

 英玲奈にとって、羨ましい姉が私だったらしい。

 過去に微妙に辛辣な態度を取られていたのは、

 あんな可愛らしい妹の方向性が!

 であった模様。

 怒れば良いのか、同情の視線でも向ければ良いのか。

 なお、育成計画は3人目の妹キャラで頓挫したらしい、よくそこまで保ったな。

 

「だからね、遠慮なく愚痴っていいわよ、悦ぶから」

「……私はまだ諦める気はないから」

 

 仕事を任せる云々は後日改めてお願いしたいと思う。

 亜里沙には理亞ちゃんと雪菜クンのプロデューサーとして

 取りまとめてくれれば、下地は私がなんとかするつもり。

 二人して亜里沙を見送り、

 ツバサの方は誰も見てないのを確認してどこかから酒を取り出す。

 さ、さすがに病室で酒盛りをするのはと怯える私に、

 どうぞどうぞ許可は取ってあるから、としきりに勧めるトップアイドル(笑)

 あ、ツバサはガチのトップだから(笑)必要ないか。

 

「で、私にシリアスに話したい内容って?」

 

 まずは一杯を気兼ねなく飲み干し、

 どうぞどうぞと言われている間に3杯目まで。

 お互いにお酒が強いからこの程度では酔わない。

 まるでノンアルコールのビールを飲んでいるかのよう。

 

「本当は、ツバサに後を託したくってさ」

「……さすがに絢瀬絵里の後枠は荷が重いわ」

「μ'sのこととか、スクールアイドルのこと、いろいろ任せるには

 ツバサしかいないって」

 

 珍しくつらそうに表情を歪めた後、

 酒を一杯勢いよく飲み干し、一息大きく吐いて、

 彼女は天井を見上げたのち、言葉を促す。

 

「でもね、ツバサに任せると、ツバサがやっちゃうから

 絢瀬絵里(笑)みたいになっちゃうかなって」

「……私は、どういう立場になればいいの?」

「二人を叩き潰してくれればそれで」

 

 ツバサは目を細くして、私を見る。

 興味深く面白いものを見つけたときの表情。

 リーダーシップがあって、極めて能力の高い彼女は、

 挑戦することに対して消極的な態度を示すことがある。

 上手く行ってしまうことをやるのは面白くない――というのが理由。

 

「つまり、絢瀬姉妹プロデュースのアイドルを

 私がひねり潰せばいいの?」

「無敵の横綱みたいな態度で一つ」

「……面白い相手でなければダメよ」

 

 了承というわけではないけれど、

 私のすることを止めやしないといったばかりの反応だ。

 あれこれ条件をつけるのは、

 話にダメ出しをするときの彼女の態度ではある。

 けれども、ダメ出しをするということは、

 ある程度付き合ってくれるということ。

 

「ま、私に付き合えるヤツって言ったら、あなたしかいないわ」

「ただ、私の育成スキルって微妙じゃない?」

「私は好きよ、効果もあると思う。

 でも、万人に受けない、なんでかしらね?」

 

 雪菜クンに関しては分からないけれど、

 理亞ちゃんに関してはある程度ついてきてくれると思う。

 ただ、まだ私を師と仰いてくれるには理由付けが足りないので、

 彼女の心に影響を与える聖良さんにも会いに行きたい。

 でも、私一人ではそっぽ向かれるので、

 ツバサか穂乃果あたりにも付き合いが欲しい、

 どちらも誘うには難易度が高いというのが難点ではあるけど。

 

「……どこまで指摘して良いのかわからないけど」

「うん?」

 

 お互いにお酒の酌み交わしが二桁の回数を突破し、

 病室には似つかない空の酒瓶が辺りを支配する。

 どこから取り出しているのかなと思ったら、

 以前に希を通じてベルちゃんと顔なじみになったらしく、

 けっこう顎で使えるようになったらしい、あの人本当に歴史書とかで出てくる悪魔なんですけど?

 酒をくれって言うとデリバリーしてくれるような人ではないような気がするですが。

 

「その、胸を揉ませたのは……かなりチョンボかと」

「……年頃の男の子には刺激が強かったかしらね?」

「おっぱいの感想がやたらリアルになったわ……辛い……」

「……矯正するから。頑張るから」

 

 弟に関してかなり好感度の高いツバサでさえ、

 軽く引いてしまうレベルの感想をコメントしてしまうとは……。

 そして聞いたところによれば、彼女の手元に置きたいからと言うワガママで、

 エトワールで寝泊まりを繰り返しているみたいだけど。

 その、エトワールの住人が彼にどういう態度を取っているか、

 私は気になって仕方ない。

 あと、ツバサさんはエトワールの住人ではないんだけども、

 やっぱりあそこに帰還してもなお、テント暮らしか、

 もしくは住居のどこかしらで睡眠を取るということになるのでは?

 

 ――なお、やっぱりというかなんと言うか。

 酒盛りに許可を出すような病院はないので、看護師さんからしこたま叱られた。



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