三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
<< 前の話 次の話 >>

98 / 108
鹿角理亞ルート 23

 以前に一度ニコが言っていた言葉を思い出す。

 人間関係に比較的ドライな彼女ではあるけれど、

 人当たりの良さと誰かとの交流の器用さで比較的に敵は少ない。

 そんなニコが真姫にアドバイスをしたことというのは――

 高校時代と比べるとずいぶんと少なくなってしまったらしいけれど、

 真姫は頭が良いから自分がアドバイスしなくても器用に生きていける――

 というのが理由ではあるみたい。

 ちなみに私に対してアドバイスが少ないのは、

 したところで意味がないからではあるらしい、いちおう褒め言葉として受け取っておきたい。

 とある出来事の末に関係を切った人と仕事上付き合いがあるから、

 ある程度ヨリは戻すべきかとなった際に、やめるように言ったのが最後――

 使えないと判断すれば容赦なく縁も切るニコにしても、

 厳しさを露出させて勧告しているあたり、

 腹に据えかねる相手ではあったみたい。

 ニコに対して話を聞いても深く考えなかった私は、

 真姫が怒るなんてよっぽどのことを言ったのねと深い関心示さずに、

 そんな私を見た彼女があなたにとってはそんなものなのよね、

 とえらいがっかりした表情で言ったのを思い出す。

 ニコが回りくどい方法でわざわざそのエピソードを伝えてきたということは、

 そいつが私のことを悪しざまに告げたということであり、

 経緯は分からないけれど、一部から評判悪いよ特に意味もなく、

 というニコのアドバイスでもあったんだと思う。

 今となってはそうなんだへーで済ませてしまったことを後悔すると同時に、

 彼女の言葉を今一度思い出すことにしたい。

 

「その人のことを知りもしないのに、

 その人の友人である人間にそいつの悪口をいうのは罪深い

 縁もゆかりもない人間の悪くいうのは往々にしてあることではあるけど、

 その言葉を相手に伝わる可能性を考慮せずに言うのは、

 なおさらひどいことだと私は思う。

 

 もし絵里が相手を悪く言う機会があるとしたら、

 絶対に相手に伝わらないように言うのが良いと思うわ、

 今後の人間関係の改善のためにも」

 

 起床してしばらくしたら

 相手を深く傷つける意図で悪しざまに言葉を告げることを

 私はいつかニコに謝罪をしなければならないと思う。

 寝ている時に胸が重くてという希の怖い話をニコに振ってしまったこともついでに。

 

 

 時間の感覚が少々飛んでしまったけれども、

 なんとか私の読みどおりにその日のうちには目覚めることはできた。

 体力をそれほど消費しなかったことも手伝ってか、

 日々熱に浮かされたような生活を送っていてもなんとかなるものである。

 何もしていなくても疲弊していることにはずいぶんと慣れ親しんでしまった。

 身体が重くてやる気がしなくても、ある程度行動を伴えばそのうち調子は取り戻すもの。

 仮に目を覚まさなかったときは――それはその時に考えよう。

 

「……しかしながら、ここは」

 

 想定していた場所とはずいぶんと趣が違う。

 高級リゾートホテルに寝ていたい! というわけではなかったけれども、

 肉体を沈ませるベッドはオリンピックアスリートが愛用していそうな、

 身体をあずけるだけで一眠りしてしまいそうな抜群の気持ちよさ。

 寝袋で寝ている時とは雲泥の差であるなあなんて感想を抱きながら、

 掛け布団は通信販売の人が大げさに驚きそうな軽くて暖かくてフカフカなもの。

 和風建築の中であるのか、落ち着いた雰囲気でありクラシックなデザインな装飾品であるとか家具が備え付けてある。

 これが誰かの自室であるのならば贅沢至極。

 近くに置かれている自分の荷物が安物のように思えたけれど、

 確かに値段は安いのかも知れないけど、

 これは私が大学時代にバイトに励んでいた頃にこのまま就職をするのもありかも――

 なんて高望みをして、それを鵜呑みにした亜里沙が

 社会人として恥ずかしくない格好セットを購入。

 それをベースにして多少代替わりは果たしているけれども、

 社会人として活用される機会がそれほどなかったというのも妹には申し訳ないけども、

 愛着を持っているので、安物と称するのは失礼だったなと反省。

 身体を起こしてからしばらくしてもそれほど変調も感じないので、

 部屋から抜け出して、人がいればここがどこであるのか尋ねたいところ。

 実は監禁をされていて、お屋敷みたいな場所から抜け出られないとすれば

 しょんぼり極まりないではあるんだけども。

 

 深夜なのであたりはしんと静まり返っていた。

 外界から遮断されているかのように物音一つ聞こえない。

 耳に届くのは多少緊張したふうである自身の呼吸音だけ。

 そういえば雪姫ちゃんは現在リリーちゃんと一緒に遠征中であり、

 よっちゃん卒業後にトークできるのが朝日ちゃんだけという状況では

 仮にアイドルとして優れていても売れないという判断から雪姫ちゃんの手助けを借りているんだけど。

 リリーちゃんは優しい子ではあるんだけども、私が関わらない相手にはそもそも興味が無いので言うことも多少辛辣。

 カツラ疑惑のある司会者相手だろうが、禿げてますよね! 頑張ってくださいって励ましますよハゲだけに! とか言っちゃう。

 それではやばいということで、いざとなれば入れ替われ!

 という亜里沙の指示の下で仕事の際には同行するケースが増えた。

 私と入れ替わるのでさえ、苦渋の選択として仕方ないと思っていた彼女は、

 親友の意志を無視するかのように入れ替わることもためらったし、

 私もあんまり無茶ぶりは良くないんじゃない? とは言ったんだけど、

 仕事に関して私に発言権はないし、最終的には私のためだからっていう理亞ちゃんの言葉に二人が折れた。

 しかしながら何が私のためかまでは理亞ちゃん自身も首をひねっていたし、

 了承した雪姫ちゃんも何故了承したのか疑問みたいだった。

 何故そうであるのか考えずに発言してしまい、

 思いのほか盛り上がるけど、よく分からない言葉ってあるものよね。

 瞬間移動するではあるまいし、

 呼びかけたら雪姫ちゃんも来るかな? それとも寝てるかな?

 なんてことを考えつつ、おいでーおいでーと目の前の壁に向かって手を振ってみたら

 

(西園寺雪姫! 絵里お姉さんの呼びかけに馳せ参じ候です!)

(……なんでもありなのね)

(お倒れになったと聞いて仕事を早々に終わらせてこちらに一足先に!

 ――あまり無茶はしないでください! 後で亜里沙さんも来ます!)

(怒ってた?)

(すごく怒ってました! だから、亜里沙さんが合流したら私はリリーと逃げます!)

(……どんな感じ?)

(そうですね――昔見たアニメで言うなら、クリリンのことかー! とか言って超サイヤ人になっちゃうくらいでした! 怖かったです!)

(……逃げたい)

(もし逃げようとしたら入れ替わってその場にとどまれって脅迫されてるので!)

(ふふ……あはは……はは……)

 

「……はあ」

 

 和風建築と言う言葉が似合う、そんな木の香りがする廊下には

 私の大きな溜め息の音が響いた。

 なんとも言えない憂鬱な心持ちがした。

 

 

 雪姫ちゃん先導のもと、人の気配がするという場所へと歩き出す私たち。

 いつの間にかに拉致監禁されている疑惑は払拭されたにせよ、

 自分の目的はルビィちゃんに偉そうに説教をかますである。

 やられたらやり返す! 倍返しだ!

 とか言って、私の今までのニート生活を建前に仕返しされる――

 という可能性があるにせよ、そこまでひどいことにはならない、

 ――ならないと期待したい。

 立会人としてダイヤちゃんが同席するけど、よもや反旗を翻されることはないと踏んでいる。

 仮に彼女がルビィちゃんと同調するようなことがあれば、私が倫理的に間違っているのでそれは反省せねばならない。

 冷静沈着であり、人間関係にも比較的ドライでありながら

 情に厚い人なのでたまにやらかすという彼女を思い出しつつ、

 意外と似た者同士であるのかもしれないなって思った。

 しかしながらだいたいやっていることと発言が、

 優木せつ菜さん(芸名)をたびたび彷彿させるんだけども、

 それを口にしたところで誰も得しない結果になりそうだから胸に秘めておく。

 

(ここ?)

(はい! この先から人の気配が来てます!)

(仕事先でマリックさんとかいたの?)

 

 芸能界を引退するちょっと前の仕事で共演し、

 運命のイタズラか再会に至ったマリックさんというのは、

 普段は陽気で気さくな人であるらしい。

 私ともさり気なくニアミスをした経験もあるようで、

 私にとっての二大エンターテイナーです! と褒めてくれるんだけども。

 おかしいな、なんていうか褒められている気がしないんだけど。

 来てます! 来てます! と、一昔前の子どもみたいに特徴的な口調を真似している雪姫ちゃんにほのぼのしつつ。

 この危機感のなさならさほどシリアスにはならないだろうと結論づけて、

 

「御用改でござる!」

(さすが絵里お姉さんノリノリです!)

 

 そんなに褒め称えないでよと雪姫ちゃんと盛り上がりながら、

 視界の先に移った光景を確認し、

 女の子が女の子を押し倒しているという、

 え、あ、もしかしてここはダイヤモンドプリンセスワークスの世界?

 しかし、私自身はいいとしても18歳未満(少し疑わしい)な雪姫ちゃんに見せるにはちょっと過激過ぎるので、

 私はなんとしても目の前の光景を観ないように手で目を覆い、

 違いますから! わたくしは演技指導のつもりで! という叫び声や

 これがのんちゃん先輩の言ってたラッキースケベなんですねえ……

 という静かな声が私の耳に届いた。

 会うたびにはじめましてと言ってしまう気がするけれど、

 希の世話をしているケースが稀な希のマネージャー姫ちゃんちーっす。

 

 

 くっすんって呼んだり姫ちゃんって呼んだり呼称が安定しないけど、

 彼女が以前理亞ちゃんにネタにされたこともある楠原雅さんのお姉さん、

 楠原静香さんその人である模様。

 以前海未から聞いていた、姫という名前の人が付いている

 本名由来のあだ名という話を聞いていて、てっきり姫が本名とかぶっているのかと思ったら、

 楠川という苗字の方が本名由来であるらしい。

 なんで姫って名前にしたかと問いかけたらあだ名が御前だからみたい。

 すごいあだ名を名付けられたわねって言ったら、

 隣にいた硬度10っぽい名前の人(本名)がそっと目をそらした。

 中にいる雪姫ちゃんがポロッと、命名センスの無さは父親譲りなんですかね?

 と言ってはいけないことをいってしまったため、私は悶絶しそうなほど笑ってしまって怪訝そうに観られた。

 

「それで、なぜここに?」

 

 名門高校の会長として優秀かつ、

 希の右腕として一手に事務作業をこなし、

 頼まれれば外に出て監視する仕事も難なくやり遂げ、

 好きなことややり続けたいことだけが上手くいかないと苦笑しながら色々なことを教えてくれた。

 声優として食べていけないくらいに仕事が無くなった時に、

 なんかやれないかなーってフラフラしているところを希に誘われ

 声優として活動しているときより声の仕事が増えたじゃん! 

 というのが最近の彼女の悩み。

 仕事をしているくせに暇だからという理由でダイヤちゃんにも声を掛け、

 絢瀬絵里へのドッキリ計画にも参加することに相成る。

 ちなみに御前は本当に大ベテランの声優さんで、

 今回のイベントへの参加の際に何が欲しいのかと問いかけられたら「金と休み」と豪胆に答え、

 真姫を連れて新しい仕事の現場へと赴いたそう。

 しかしながら超人気声優の真姫を差し置いて御前がメインヒロインをやっているというゲームはちょっと興味がある。

 

「まあ、ぶっちゃけ、絵里さんが倒れるたびにのんちゃん先輩は

 生気を失っていきまして」

「やっぱり一度ぶん殴ってやらないとダメね?」

「私が許可しますのでやってください」

 

 止めるかと思いきや、少しばかり憤りも感じる要素もあるらしく背中を押してくれたので容赦なくやってしまおうと思う。

 希が責任を感じたところでどうしようもないという身も蓋もない意見は

 私自身も頷ける側面はあるけど、頷いてはいけない気もするのでスルー。

 

「ところでルビィちゃんは?」

「エッチなことをしないと出られない部屋に入れました」

「御前は嘘をつかないでくださいます?」

 

 鍵をかけて外には出られない状態にしてあるのは事実だけども、

 体感的にはお泊りにやってきて修学旅行な一夜を過ごしているくらいの緊張感しか持っていないのではないか。

 と、姉二人は語る。

 私は認識していなかったけども、ルビィちゃんのパートナーとして活躍中の雅さんもいたらしく、

 会場から逃げ出そうとしたみたいだけど配下の人がたんまりいる場所で、

 絶対に逃がすなと厳命を受けた手駒の人からは逃げられなかった模様。

 少しばかり同情する要素があるのかと思いきや、

 二人がホイホイやってきた理由と言うのが、私を笑いものにするっていうのと、

 ダイヤちゃんが自分が悪かったので謝らせて欲しいと下手に出たからだと聞いてしまい、私は苦笑しかできなかった。

 いちおう、そうすれば来るんじゃないかという淡い期待を持ったそうだけど、

 普段はスルーされるメールがすぐさま返信があったと聞いて、

 なんとも言えない心持ちがした。

 

「どうあれ、あまり興奮をなさらず。

 倒れたりなどしたらわたくしが亜里沙に罵倒されます」

「そういうのも好きだったり?」

「いいえ、わたくしは罵倒するほうが好きです」

 

 隣にいる姫ちゃんがんなわけないみたいな顔をしたので、

 今度興味本位で罵倒キャラになってみようかと思う。

 こう、妹やことりを参考にしてちょっと凛要素を加えてみると最強のキャラが生まれそう。

 そうね……罵倒する相手のイメージは……なんとなく他の子だと可哀想であるので、私を罵る感じで行こう。

 

(……おかしいわね? なんだかそのままダイヤちゃんにも当てはまりそうな罵倒が)

(絵里お姉さんは自虐に走らなければとてもいいエンターテイナーです)

 

 雪姫ちゃんの忠告はあえて右から左に流しておく。

 

 

 夜も深い時間であったというのと、

 忠告を承る相手が二人して熟睡していたのも手伝い、

 アルコールは後日に差し支えるので控え、

 ではのんびりと風呂にでも浸かろう! ということになった。

 なんでもここは、黒澤ダイヤさんが顎で使える旅館であったみたいで

 貸し切りにしてありますから貸し切りに! 

 と、いくらかかったんだろうとか考えると苦笑しか浮かばないことをいわれ、

 胸がないから嫌という姫ちゃんを強制的に湯船へと連行して、

 無いと言うわりには楠原静香>黒澤ダイヤであったんだけども、

 その辺の事情を突っつくと味方が一人撃沈するので控える。

 私専用の部屋があるというので、

 また罰ゲームみたいな場所なんでしょ? みたいに期待もせずに行ったら

 めずらしく何ら痛い目を観ずに快適な時間を過ごし、

 備え付きの家具として黒澤ダイヤちゃんが抱きまくら代わりになります!

 なんて出来事もあったけども、眠かったので本当に抱きついて寝た。

 翌日起こしに来た姫ちゃんがこんなに幸せそうなダイヤは見たことがない――

 としみじみ言っていたので、良かったんじゃないかなって思う。

 なお、亜里沙はすでに旅館に到着しており、

 刑の執行はルビィちゃんとのイベント以降ということになっている。

 なんとかして懐柔できないかと訴えたところ、

 美味しい食べ物と美味しい温泉に浸かればリフレッシュするのでは?

 という姫ちゃんのアドバイスも有り、ダイヤちゃんに是非に是非にとお願いしておいた。

「お姫様を扱う感じでお願い! 何なら私がメイドになるし!」

「では、絵里さんにはメイド服になってもらいましょうか」

「いいですね、金髪のクラシカルなメイドは目の保養にもなります」

 などという会話もあって、ちょっとだけゴネたけど、

 綺麗とか美人だと煽てられ調子に乗ってしまったのと、

 亜里沙の接待のグレードが上がると言われたので、

 これから説教をするというのにクラシカルなメイド服を着用し、

 対象の二人が多少緊張していたにも関わらず、私の衣装を見てちょっと安堵した表情を浮かべたのは良かったのか悪かったのか。

 

 

「ルビィ、そして雅、本日呼ばれた理由はわかっていますね?」  

 

 当初からの台本通り、お説教はあくまでダイヤちゃんを中心にし、

 二人には色々現実を見て貰おうというのが目的。

 この二人がタッグを組んで理亞ちゃんに喧嘩を売ったという話は私も知っている。

 だけども、歌唱力や演技力その他アイドルとして評価される要素から考えて、

 理亞ちゃんに喧嘩を売ったというのであれば、

 そのへんのアイドルがツバサにあんたはアイドルとして優れてないと言っているようなものであり、現実がおおよそ見えてない。

 実力で売れる売れないという世界ではないけれど、

 理亞ちゃんには仕事があるのに二人にはないということから察するに、

 エニワプロがECHOのデビューを延期したことや、最近ホームページの更新がない点から考えても、 

 立場が最初に比べて悪くなっているのは事実なんだろうと思う。

 にこりんぱなの三人にレッスンを受けていて喜んでいるのも危機感がないように思える。

 彼女たちと繋がりがある私や亜里沙に自分たちの情報が行く可能性があるとすれば喜んでばかりではいられないはずだから。

 

「絢瀬絵里さんを晒し上げるイベントをするという話でした」

「晒し上げたのは事実です」

 

 普通なら晒し上げるという言葉を聞けば、当人にとってネガティブなイベントになると推察するのはおかしくない。

 だけども、ダイヤちゃんがルビィちゃんの敵に回ると言ったのは事実であるし、

 その敵から「嫌いなやつを晒し上げるから来て!」といわれてホイホイ来てしまうのはちょっと改めてもらわないと。

 私自身が嫌われていることに関しては個人の事情だから良いのだけれど、

 その結果、私の大切な人が迷惑を被るというのは許せないものだから。

 

「ルビィ、凛さんに絵里さんを悪く言ったことがあるそうですね?」

「事実の列挙です」

「ルビィの言っていることは何ら間違ってません」

 

 ルビィちゃんの言葉に雅さんも同調。

 昔から芸能活動をしているわけではない雅さんが

 ルビィちゃんが語る私のネガティブな批評を知っているということは、

 ある程度普段から二人して槍玉に挙げている可能性があるみたい。

 その対象はどうやら私一人ではないみたいで、姉であるダイヤちゃんであるとか、

 相方だった理亞ちゃんのことも含まれるみたい――報われないわね、お互い。

 

「でも、亜里沙の前で私を悪く言うのは自殺行為だと思うわ」

「理亞ちゃんから聞いたんですか?」

「事実だということに驚いてしまったわ……」

 

 雅さんの最後のセリフに頭痛を覚えたのかダイヤちゃんが黙ってしまったので、

 私がちょっとした興味本位でカマをかけてみると見事に引っかかってくれた。

 その言葉を聞いたダイヤちゃんも姫ちゃんも頭を抱えて悩みだしたし、

 私自身もどう反応をすれば良いのか戸惑うほどだった。

 自分を悪く言われるのは身から出た錆ではあるから構わないんだけども、

 それを亜里沙が聞くとどんな反応をするかを知っている私としては、

 理亞ちゃんの苦労を察して余りある。

 ちなみに妹の親友の雪穂ちゃんが大したことない私の悪口で、

 顔を合わせても無視だとか、LINEをスルーというのが1週間続いたことから、

 意外とこどもっぽいところもあるプロデューサーがルビィちゃんに

 どのような行為で報復したのか――できれば考えたくもない。

 アンリアルが多少不遇な時期を過ごしていたという事実が、

 もしかしたら私の認識違いな側面があるのかもしれないとため息をつきそうになった。

 

「私達を槍玉に挙げて憂さ晴らしをするために呼んだんですか?」

「否定はしません」

「最低です、お姉ちゃんがそんな人だと思ってもみなかった」

「それはお互い様です」

 

 姉妹間の亀裂がもうすでに修復しそうにもない。

 

「絵里さんは――愛されていますよね」

 

 黒澤姉妹の二人が互いを睨みつけて黙ってしまったので、

 雅さんも姉である姫ちゃんに何事か意見を貰おうとするもそっけなく無視され、

 多少憂さ晴らしの側面はあるにせよ私に会話を投げかけた。

 

「あいにく、とても愛されているわね」

「それはとても分かります、私やルビィは運命とか世界から愛されてないから」

 

 私の中にいる雪姫ちゃんがめずらしく怒気を膨らませて怒りのオーラを発したので、

 今は我慢して欲しいと言っておいた。

 自分が世界から愛されているかと言われれば疑問に思う点も数多いんだけども、

 客観的に見て優遇されているかというとそうではないかとも思う。

 運動能力であったり、スタイルであるとか、ボディーバランですであるとか、

 私をよく知らない人から見れば、世界から愛されてます! って言っても、

 疑問は抱かないんだろうと思う。

 

「絵里さんはどうして周りの人からの評判がいいんですか?」

「私が言っても嫌味っぽいかもしれないから、ダイヤちゃんお願い」

「……誰が言ったところで嫌味にしかならないとは思いますが」

 

 そりゃそうだ。

 私が評判のいい理由を私が語っても角が立つし、

 私を好きなダイヤちゃんが語ってもやっぱり角が立つ。

 意識的に相手が困る言葉を選んでいるのなら、

 雅さんはきっともうちょっと上手く立ち回っているんだと思う。

 姫ちゃんがもうすでに勘弁してほしいみたいな顔をして俯いたし。

 

「ええと、できうるかぎり言葉は選びましたが――

 自分本位ではないからでは?」

 

 表現として適切かどうかは分からないけど、

 自分を中心にして物事に取り組まないという点では

 私を的確に表現していると思う。

 だけども、その言葉にキョトンとしたのが聞いてきた当人とそのパートナー。

 おそらくだけど、私を自分本位で常に行動している人間なんだと

 思ってるんだと思う――ちょっとばかり傷つきそう。

 

「ええと、失礼ですが、昔働いていなかったんですよね?」

「亜里沙のヒモをしていたわね」

「……それは自分本位な行動なのでは?」

 

 おそらく亜里沙の分のお弁当を作ったりであるとか、

 休みの日には三食作り、はてにはマッサージなんかもし、

 かしずくメイドみたいな生活をしていたのは知らないんだと思う。

 一見しようがしまいが亜里沙のヒモであったのは確かだし、

 その点に関しては否定しないんだけども、

 私の言葉を聞いて自分たちよりもレベルが低いみたいな顔して安堵されてしまうと、

 そろそろ雪姫ちゃんが怒り心頭になってしまいそう。

 

「あまり苦労もされなかったとか?」

「苦労した経験はないわね、やると上手に行くし」

「子どもの頃からですか?」

「ええ、何故かしら、苦労を苦労に感じないのよ」

「どうしてですか?」

「自分が恵まれていることを実感しているから」

 

 幼少期の話題を振られてしまうと、

 それなりに苦労はしているんだと思う。

 慣れない国である程度時間を過ごしたというのもあるし、

 残念ながら愛情をかけて育てられるまで時間を要したというのもある。

 私がかなり表情を暗くして自嘲するように自身を恵まれていると称したのを聞いて、

 ある程度事情を把握しているダイヤちゃんは居た堪れないように視線を下にし、

 口を閉ざして表情を暗くさせ、姫ちゃんもそんな彼女に気がついて開こうとした口を真一文字にした。

 

「才能に溢れているからですか?」

「そうかもしれないわね」

「周囲にいる人は大変だったかもしれないですね?」

「私もそう思う」

 

 私を嫌いな人が私を称するときには苦労せずに欲しいものを手に入れるお姫様みたいな人という文句があるらしい。

 そんなことを穂乃果が聞けば「都落ちしてんじゃん」ってはっきり言うと思うし、

 凛なら「亜里沙ちゃんのほうがよっぽどお姫様してる」断言すると思う。

 ちなみにイベント後に穂乃果は司令の誘いで真姫の仕事の見学に行ったそうで、

 西木野真姫が声優の仕事をしている現場に初めて赴き、恐ろしく感動したらしいが真姫のダメージが心配、できればそのうちフォローに行きたい。

 収録が深夜だったと言う事情はあえてツッコまない。

 

「すごいですね、やっぱり世界から愛されている人は違う」

「周囲の人も絵里さんに好意的で羨ましいです」

「ちなみにだけど、真姫が言っていたことは事実よ」

 

 私の言葉に二人がキョトンとして可愛らしく首を傾げる。

 

「次の誕生日の話」

「でも、元気そうですよね?」

「元気なのよ、でも死ぬのよ私」

「そうは見えません」

「ええ、私もそう思う、でもね、周りの人がみんな――

 私を助けてくれようとしているのよ、死なないように

 そんな行動を見たら、あ、死ぬのかなって、分かってしまうものじゃない?」

 

 μ'sやA-RISE……そうではないヒナとか周囲のみんな。

 私に好意的な感情を寄せる人たちは、私のことをなんとかしてくれようとしている。

 希なんかは”今までの東條希としての生活の全て”をなげうっても私を助けようとしている。

 それが効果が見られないからこそ、今は意気消沈しているようだから、

 近いうちに顔を出して殴ってやらないといけない。

 私のことなど忘れて幸せになって欲しい。

 それが希にできる、親友である絢瀬絵里ができる最高のこと。

 嫌われてしまうようなことがあればいいけども、

 希が私を嫌うようなことは無いと見ている。

 

「確かに私は愛されている、友人にも恵まれた。μ’sという大切な存在もある。

 でも、私はあの子達を置いて逝かなければいけない

 

 ――少し昔話をしましょうか」

 

 口を滑らせたことに気がついた二人は互いに姉の方を見やり助けを求めるように表情を崩したけど。

 仮にダイヤちゃんたちが私を止めたとしても、おそらく雪姫ちゃんを通じて私の口は動いてしまうんだと思う。

 

「私が妹と日本に来たときに日本語はある程度披露できたわ

 でも、妹はロシア語以外は不慣れだった。

 

 そうね、少なくともプライドの高い父が、日本語が不慣れな外国人であることを理由に外出させない程度には不慣れね」

 

 妹たち二人には意味が分からないと言った表情をされる。

 そのまま直接的に表現すれば、監視のもと部屋から抜け出られないようにされていたんだけど、そこまで語る気はない。

 恥ずかしい話を披露すれば、亜里沙を監視していたのは姉である私自身であり、

 排泄物の処理なんかも私がしていたんだけど。

 有り体に言えば、あの出来事のおかげで苦労を苦労と厭わなくなったのである。

 

「世界から愛されていない、結構だと思うわ

 それでも強く生きるのも――私は憧れる

 でも、卑屈になって愛されてないから、愛されている人を羨み、

 その人の悪口を言うというのは頷けない」

「妹さんは……どんな生活を送ったんですか?」

「聞きたい? じゃあ、当人から語ってもらうと良いわ」

 

 私が気配のするドアの方を見やり、

 観念したと言わんばかりに静かに戸が開いた。

 亜里沙のいないところで亜里沙の話をするのは別に良いんだけど、

 事実誤認とかがあると後で私が殴られちゃうしね? 痛くないけど。

 

「そんなに歓迎しないでください、照れます」

 

 元自分の上司である妹を見てルビィちゃんはあからさまにおびえた表情を見せ、

 おそらく彼女の怖い話しか聞かなかったんだろうなあっていう雅さんは及び腰。

 Mっぽいけど、基本的にドSな亜里沙は二人の恐怖の表情を気持ちよさそうに眺め、

 ガチで恐怖を感じて逃げ出そうとするダイヤちゃんを目で静止させた。

 

「取るに足らない話です。

 自身の評判を高めるために、自身に都合の悪い存在を消そうとした

 たったそれだけ」

 

 それから亜里沙はとても楽しそうに自身の悲痛とも思える経験を話した。

 部屋から抜け出すこともできず、トイレとかも部屋でしていたこと。

 その処理は姉である私だったこと、ろくに運動もしていなかったから動けるようになるまで時間を要したこと、

 人間を信用できるようになるまで数年間かかったこと。

 

「世界から愛されていない二人は、一体過去にどんな辛い境遇にあったのかは

 私は想像することしかできません、

 おおよそ私よりも恐怖を感じる出来事があったのでしょう?」

「別に、不幸は不幸の度合いで幸不幸を決めることではありません」

「ならば、姉が仮に世界から愛されているのも、あなた方よりもたまたま愛されていたというだけで、上下を決めることではありませんね?」

「それは違……!?」

「あなた方が不幸面しているのも構いませんし、甘ったれて”愛される”努力をしないのも勝手ですが、

 私の部下である姉や理亞に喧嘩を売るというのならば、全身全霊を持ってあなた方を地獄に叩き落とすくらいはやりますよ?

 ああ――でも? 私が見てきた地獄はもしかしたら、あなた方が見た地獄よりも、生ぬるいのかもしれませんね?」

 

 私一人がしょうがないなあ、みたいな顔をして妹を見ているけど。

 ダイヤちゃんや姫ちゃんの巻き込まれ組の二人は、

 絢瀬姉妹の闇を見たような気がしたのか、これ以降ちょっと距離が遠くなった。

 が、本来の目的であるルビィちゃんたちを何とかする、と言う目標は

 理亞ちゃんのなんにも分かってない! ていうコメントから察するに達成できなかった模様ではある。



※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。