アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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鹿角理亞ルート 18

 私、絢瀬絵里という人間が形作られたのは――

 自分のことよりも他の人のことを優先してしまい、

 困り果てて自縄自縛に陥った結果、助けた誰かからフォローをされてしまう

 そんなポンコツなどと呼称されたところで仕方のない人間へと成長をしたのは、

 祖母の影響がずいぶんと大きい――

 などというと、祖母が育て方を間違えて私という人間が生まれたとしまいがちだけども、

 もちろんそんなことはまったくなく。

 私という人間が祖母のアドバイスのもとで間違って成長しただけの話。 

 幸か不幸かツバサとか希あたりの仲の良いメンバーから私がよしとされる部分は、

 祖母がきちんと成長せずにアホっぷりを発揮し続けた私にもめげず、

 一生懸命に根気よく律してくれたからである。

 チューニングがなっていないのではないかという指摘は、

 徹頭徹尾私に責があるので、間違っても祖母に文句を言ったりなどしないように。

 近いうちにおばあさまと声をかけた瞬間に烈火のごとく怒られてしまうのは、

 間違いなく私――いや、若くして亡くなっている時点で、

 きっと恐ろしく怒られてしまうのは確実ではあるんだけどね。

 

 私がまだ中学二年生だったとき、

 その時分を過ごしてきた人間には多少の自覚はあるかもしれないけど、

 反抗期であるとか、思春期真っ只中にあった私にとって、

 世界というのは忌むべき敵くらいに思っていた時期がある。

 自己を中心に考えていたからこそ、

 世界から疎まれているのは自分であるにもかかわらず、

 他者を嫌える自分格好良いみたいに悦に入っていたのは、

 本当にネタにならないレベルで黒歴史。

 嫌われる理由しかないけど、かなり能力も高かった私を切ることも出来ず、

 周囲の人達は本当に苦労を重ねていたと思われる。

 いかんせん祖母譲りの金髪がいい方面でも悪い方面でも目立っており、

 人の上に立って仕事をするのが好きな部分も兼ね備え、

 誰しもから嫌われるカラスみたいな人間を矯正した祖母の手腕を振り返ってみたい。

 

「本当にダメね」

 

 他者の不備を指摘するのが好きという人間として欠陥があるとしか思えない――

 しかもそれが指摘された当人のためになると疑っていない――

 性格面でも能力面でも極めてポンコツであった自身を振り返るのは心が痛い。

 生徒会の面々から総スカンを食らっているにもかかわらず、

 その面々から仕事を押し付けられている自覚もなく、

 体よく使われているのを勘違いしたままで、ほかのやつよりも自分はできていると思いこむ。

 書類の作成から、要望の実現まで――

 夏休みにもかかわらず、友人と遊ぶ暇もないほど、

 それは健全な学生生活であったのかたいへん疑わしい。

 妹が出来たばかりの友人と遊びに行くのを見送り、

 冷房が利いた室内で文句ばかり言いながら仕事をしているのを見た祖母が

 何をしているのかと問いかけてきたので、

 

「仕事です」

 

 自身に理由が大いにあれど、自分の不備は認めたくないお年頃。

 イライラばかりが募り、大好きなおばあさま相手であれど

 取り繕って笑みすら浮かべることが出来なかった私に――

 

「エリチカ、もし、今私が死んだらどう思うかい?」

 

 書類を作成する手を止めて、

 何を言っているのだろう――? というより、

 年を召されたから構って欲しいのかな?

 などという思い上がりも甚だしい身勝手な感想を抱いた。

 構って欲しいとしているのは自分の本心の方であり、

 誰かに自分を認めてもらいたい衝動は絶えず心の中に巣食っており――

 自覚がないというのは滑稽な自分の目を曇らせて、

 本当に笑ってしまうほどアホっぷりを増加させる。

 

「おばあさまが亡くなられたらとても悲しいと思います」

 

 とても白々しく――

 実際どうでも良いことのように思い、恐ろしく事務的に反応をしたのを覚えている。

 覚えていると言うより、今まで忘れていたのだから思い出したと表現するのが正しい。

 おばあさまのことをロクに覚えていなかったのは――

 それを忘れさせられていたというのはもちろんあるんだけども、

 忘れたいほど目を背けたい思い出も数多いのである。

 誰しも、事実を自覚するっていうのは苦しいものだからね。

 

「エリチカ、お前にはきちんと教育をしたことはなかったね」

 

 すごくムッとしたんだと思う。

 おばあさまから直接バカだと言われたことはないんだけども、

 教育を受けたことのないサルレベルだと表現された気がして、

 非があるにもかかわらず認めることをしなかった。

 正論をぶち当てられれば反論するくらいしか脳のない野猿みたいな反応で、

 年若いとは言え、ずいぶんとアホっぷりを発揮できたものだ。

 

「言いたいことははっきりと仰っていただけると助かります」

 

 なにか理由があってというわけではないけれど、

 基本的にはいまと変わらず鈍感な人間だったのだと思う。

 おばあさまがフォローを重ねてらっしゃるにもかかわらず、

 それに気づかない自身を棚に上げ、相手の不備を指摘する。

 こういう人間を他の人は畜生と呼ぶのかななんて苦笑しつつ振り返っている。

 

「でははっきりと告げてやるが、

 エリチカ、お前はいま自分一人で何でもできると勘違いしているね?」

 

 何を言われているのか、なんて思ったの。

 とても恥ずかしいことに学校生活というものがすべてだった私にとって、

 学校で生活さえできていれば何でもできるのだと思い上がっていたし、

 おおかたの仕事は社会に出れば何の役にも立たないことを言葉でしか知らなかった。

 上辺だけで学校で教えられることは社会で役に立たないとか吹聴し、

 ろくにすっぽも優秀でもないのに自身の権利ばかり主張する。

 いまでも確かにロクな人間ではないんだけども、

 いまよりも数倍はろくでなしであったんだと思う。

 なにせ勘違いした挙げ句に思い込むのが私の得意技――

 現在の自分が割とマシではないかと思ったけど

 過去に比べれば多少優れている程度の違いしかないのかも知れない。

 

「仕事はできますが」

「ほう?」

 

 おばあさまが目を細くして睨むような表情を浮かべる。

 気圧されて挙動不審になりそうなほど怖かったけれど、

 そんなことは露にも出さないように虚勢ばかりを張り。

 

「では、店で仕事をしてみるかい?」

 

 おばあさまがロシア料理の店を営んでいて、

 私たち姉妹がお手伝いに駆り出されることもしばしばあった。

 能力がそれほどでもないのに、能力が高いと勘違いしていた私も、

 ”お手伝い”レベルの仕事しか貰えないことに多少の不満はあったし、

 お小遣いに多少のプラスしか貰えないことよりも、

 妹の亜里沙と同じコトをさせられていることのほうが不満だった。

 いまでこそ多少はお姉ちゃんのフリができている自覚はあるけど、

 あの時期の自分というのは亜里沙のことなんて使えない子扱いをしていた。

 ――いや、その数年後にはその亜里沙から使えないヤツ扱いをされるのだから、

 因果応報という言葉が痛切に身にしみるのである。

 

「構いません。

 今いる従業員の方よりも断然優秀さを発揮してみせます」

「何も教わらずともいいっていう事かい?」

「おばあさまやほかの方の仕事ぶりは――よく見ていますので」

 

 近い未来μ'sに所属して以降も、その前の薄汚い野良犬みたいに荒れていたころも、

 人を観察して自身の能力に付加するという作業を身に着けたのは、

 このときの経験がひじょうに大きかったんだと思う。

 大口を叩いて困り果てるのはご愛嬌だけども、

 それでもなお、おばあさまの教育が未来に活かされたことは、

 本当に何よりなんだと思う――そろそろ、おばあさまのお墓参りにも行かないといけない。

 

 

 自身の散々な仕事ぶりを思い返しつつ、

 私がニート時代に体験したとある出来事を思い出した。

 希には苦労を掛けさせられたとばかり思っていたけれど、

 それどころかむしろ逆に負担しか掛けていなかったことを自覚する。

 ヒナのことで色々悩ませてしまったのもそうであるし

 問題を抱えて凹みきった際にはいつだって助けてくれた親友。

 私自身が希の助けになっているかと問われると、

 え、あ、はい、おそらく、ええ、ちかいうちに機会があれば――

 と、平身低頭、五体投地、それとも土下座で許しを乞うしか――

 

「海未の家にでも行こうかな」

 

 亜里沙が数日家をあけていたことにより、

 家での仕事もなく、ニートを満喫するしかなかった暇人の私が、

 穂むらに行ってお饅頭でも買おうと思いいたり、見事休業で空振りに終わった結果。

 海未の家で憂さを晴らそうとしたのは、何の運命のお導きだったんだろう?

 しばらく歩いていると、祖母の知り合いだった女性が怪訝そうな表情で私を見るので、

 仕事もなく平日に遊び歩いている私を見てそんな表情を浮かべていると勘違いをし、

 今日はたまたまオフでと嘘八百を述べようと口を開くと、

 

「絵里ちゃんがプータロしているっていうのは知ってたけど……」

 

 先回りされ、妹のスネカジリしていることを相手が把握していることを察し、

 苦笑を浮かべるしかなかった私は、

 その方がそれでもなお自分に気を使っていらしたことに気が付かず、

 亜里沙ちゃんは何をしているのかと尋ねられたので、

 

「亜里沙なら、数日家を空けると書き置きがありましたけど」

「もしかして絵里ちゃんは何も知らないの?」

「妹の仕事なら何をしているのかは把握してませんが」

「――おばあさまはいま何をされてる?」

 

 祖母が入院をして、

 一時かなり厳しい状態に陥ったけれど、

 現在は小康状態を保っている――

 ただ、現在は面会に赴くには大変だということで、

 私はなにかできることは無いかと思い悩んだ挙げ句、

 妹に何もしないでくださいと冷たく告げられてふてくされた。

 そんなことを思い出し、多少の憤りも覚えつつ。

 

「祖母なら先日入院されて、今は小康状態を保たれているとか」

 

 たしかに何も知らない私にもある程度は誹りを受ける部分はある。

 祖母の死を受け入れられる精神状態ではなかったというのは、

 私の不徳の致すところではあるのかも知れない。

 自身がある程度問題を抱えていたというのは、

 今振り返れば身から出た錆の側面もある。

 大切な人が困っていると知れば、何かにつけて手助けに励む性分も手伝い、

 真姫やらことりやらのトラブルに顔を出していたのは――

 やっぱり自業自得なのではないのかと。

 

「絵里ちゃん、彼女は最期まであなたの心配をしていたわ

 亜里沙ちゃんの頭を撫でながら、エリチカのことをよろしく

 それが最期の言葉だったそうよ」

 

 何を言われているのかと認めたくない要素も多分にあって。

 でも、思い返して見るならばいくらでもその事実を察せられる自身も居て。

 いつになく焦燥したふうな妹に、ことりの問題を解決しようと努力に励んでいることを

 指摘などされないように極めて明るく振る舞い。

 隠そうとしたところで既に私が余計なトラブルを抱えて奮闘していることなど、

 とうにお察しだった妹に「しばらく家から出ないでください」と冷酷な口調で言われ、

 バレることはないだろうと高をくくり、平然と行動した結果知りたくもない現実を知る。

 自身の迂闊さもそうであるし、

 私に知られないように行動をしていた亜里沙やおばあさまの行動を無に帰すような、

 無神経に伝えられた言葉もそうであるし。 

 ――とにかくどのような経緯かは分からないけれど、

 園田海未の家に行くという目的だけは覚えていたらしい私は、

 顔面蒼白で来訪をし、彼女の家でしばらく過ごしたという事実だけはなんとなく認識している。

 食事をしばらくしていなかったという記憶はあるけど、

 なんとなく無難に園田家に馴染んでいたような気もする。

 よく覚えているのは、迎えに来た亜里沙と希に念入りに暗示をかけられたことだけ。

 滑稽にもその行為により私は元の生活を取り戻し、

 今はその行為の結果、体調不良を抱えているという――


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