チフユ「おまえたちにやってもらいたいことがある。シルヴァリオ・ゴスペル・・・通称『福音』が、制御下を離れて暴走。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった。この機体は、超音速飛行を続けている。アプローチは、一回が限界だ」
ヤマダ「一回きりのチャンス。ということはやはり・・・一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」
オルガ「なるほど・・・イチカァ!」
イチカ「おう!」
「ミカァ!」
「うん」
「やってくれるか!」
「いいよー」
「あぁ!・・・やります!俺達が!鉄華団がやってみせます!」
チフユ「よし。それでは・・・」
タバネ「待った待った──!その作戦は、ちょっと待ったなんだよー!」
「む・・・」
オルガ「勘弁してくれよ・・・」
シャル「オルガ!変なのが来る、気を付け──」
「とぉう!!」
「ぐぅうぅうっ!!」
キボーノーハナー♪
「オルガーっ!!」
「だからよ・・・ふざけんじゃねぇぞ・・・」
チフユ「出ていけ」
「聞いて聞いてー!此処はだーんぜん!紅椿の出番なんだよー!!」
三日月「・・・」
「ねーミカくん!ミカくんもそう思うよね~!」
「・・・あんたじゃないの?」
「?」
「これ、あんたの仕業じゃないの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・なんのこと~?うさぎさんわかんなーい!」
「ふーん。ならいいや」
ラウラ「ミカ、何処に?」
「準備。ラウラは、待ってて」
ラウラ「う、うむ。・・・では、『また後で』な」
「うん」
「・・・ねーミカくーん」
「?」
「耳かして耳かしてー」
「・・・」
(──そろそろ死んでいいよ、君)
「・・・」
「ばいばーい・頑張ってねー!」
~
キラ「無茶苦茶だ!紅椿のデモンストレーションの為に、福音をハッキングさせて暴走させるなんて!」
マクギリス「全く、困った女だ・・・」
(私を殺せば、バエルのブラックボックスからモビルスーツの情報が世界中に散布されると釘を刺し、命を拾いはしたが・・・天災の頭は、やはり常人では読めない、か)
「あの、大丈夫ですか?」
「バエルを手に入れた私は、ダインスレイブに撃ち落とされる存在ではない」
午前十一時三十分、暴走と飛行を続けるIS『銀の福音』──そう呼称されし対象の静止に選抜されし三人の作戦実行担当者が顔を合わせる
「・・・時間だな」
決意と揺らぎなき真っ直ぐな視線を送り、海を睨むはオリムラ・イチカ。突撃と攻撃を担当し、『銀の福音』に止めを刺す役割を請け負った彼は、傍にいる──頼もしい仲間であり、誰よりも強く優しい悪魔に声をかける
「ん。モップももうすぐ来ると思うよ」
風紀委員、三日月・オーガス。作戦成功祈願たるラウラの差し入れあんパンを食べながら、ぼんやりと波のさざめきを聞き、イチカに相槌を打つ
今回の作戦は、高速で移動を続ける『銀の福音』に、第4世代であるホウキの『紅椿』の先導、誘導にてイチカが高速接近。バルバトスの遊撃、援護を受けながら太刀の一撃にて止めを刺す電撃作戦が考案されたのだ。タバネという天才の入れ知恵はあったものの、作戦は理に叶っており・・・機動力と攻撃力に優れているイチカ・ミカ・そしてホウキが選抜されることとなったのだ
「よく食うなぁ、あんパン。腹下すなよ?」
「ラウラが用意してくれた。腹ごしらえして必ず帰ってこいって。──大袈裟だね」
そう言いながら、静かに微笑む三日月。純粋な心配と配慮であることを、彼はしっかり受け止めている。解っている。その気持ちを裏切ることはしないし、したくない。だからこそのあんパン消化であり、実食に勤しんでいるのである。流石に7個めは胸焼けしそうだけど、と漏らしながらも手は止まっていない。そんな仲良しぶりに、イチカも笑みをこぼしてしまう
「──必ず成功させような、ミカ」
「当たり前じゃん。風紀委員の活動は始まったばかりだから。帰って掃除しなきゃ」
変わらぬ会話。変わらぬ気概。それでも──大丈夫だと確信させてくれるその小さなやりとり。無言で拳を合わせ、やってきたホウキと頷き合う
「──二人とも、よろしく頼む。戦闘経験は少ないが、必ずやってみせる。水先案内人は、この私が引き受けた」
ホウキも決意を露に、三日月とイチカに声をかける。その触れれば切れるがごとき臨戦の気迫に頼もしさを覚えるイチカ、そして三日月は・・・
「ん、二人とも。あんパン」
戦友の証、仲間の証であるあんパンを二人に渡す。彼なりの気遣いであり、また、言葉少ない彼の誓いの合図でもあるのだ
「い、いいのか?」
「緊張しないで。俺達なら出来るよ。モップも、ちゃんとフォローするから」
「──すまない、助かる。三日月がいるならば百人力だ。イチカと共に、必ず作戦を成功させよう!」
『必ず帰ってこよう』そういった──言葉なき号令。激励でもあるその振る舞いに、僅かな不安も吹き飛ばされる
「──よし!来い、白式!」
腕輪に待機されていたイチカのIS、純白の近接格闘型たる『白式』が展開される。その闘志を形とし、鉄華団としての意地と面子、自らの為すべき事を為すための力を、此処に示す
「行くぞ、『紅椿』」
静かに、左手に待機させていた鈴付きの腕輪を展開する。姉より押し付けられた、或いは託された第4世代なるIS。・・・身内人事で手に入れた最強の力に、思うところが無いわけではない。だがこの力が、たった今必要とされている。ならばこそ、躊躇ってはいられない。仲間を、命を、イチカを助けられるなら。──今がその時なのだ
「──バルバトス」
必ず皆の、オルガの、ラウラの下へと帰る。それのみを考え、任務とやるべき事を終わらせる。風紀委員としての決意、そして学園生活を護りたいと願う一人の人間としての意志。──悪魔は、ISはその願いに応え、バルバトスのフォルムを、かつて学年別トーナメントにて現出させた『バルバトス・ルプス』として展開させた。それは、想いと願いを懐いた三日月が、新たなステージに立った事に他ならない
『聴こえるか』
空中へと飛び立った三人に、鋭い音声が飛ぶ。オペレーターたるオリムラ・チフユのナビゲーションだ。彼女もまた、監督と指揮を担当しているのである
「はい」
「ん」
「はい。よく聞こえています」
『良し。──今回の作戦の要は、一撃必殺だ。短時間での決着を心掛けろ。討つべきは、シルヴァリオ・ゴスペル。以降『福音』と呼称する』
「「了解」」
「解った」
『心配すんな。鉄華団のお前らならやれる。俺らは皆信じてるからよ。・・・派手に前を向いて、暴走してるISに一発かましてやれ!』
オルガの激励に、一層気を引き閉める三人。団長として奮戦してきた彼に、無様な真似は見せられない。彼は死んでも死んでも立ち上がった。弱小なるISだろうと奮闘してきた。死地においても足掻くことを示してきた。なればこそ──足を止めず、困難にも立ち向かなくては
『ミカ』
そんな中、三日月に秘匿回線を送るものがある。彼と、『彼女』のみが知る回線。それを利用するものなど、一人しかいない
『ラウラ、どしたの?』
ラウラ・ボーデヴィッヒ。死地に赴く彼に、嫁たる三日月に。こっそりと通信を繋げたのだ
『・・・心配するな。私は心配していない。お前は私の嫁だ。いつものように、必ず凱旋し勝つと信じている』
『うん。俺も帰るよ。ラウラの隣に。嫁ってそういうんでしょ?』
『あぁ、その通りだ。──ミカ』
『ん?』
『武運を祈る。──信じているぞ』
『ん。ありがとね』
言葉数は少なくとも、心は確かに繋がっている。その事実に──三日月は、素直な笑顔を浮かべる
「じゃあ、行こっか。三人とも。──バルバトス。三日月・オーガス。出るよ」
「掴まれ、イチカ。──私がお前を導こう」
「おう!帰ろうぜ、皆で!」
起動する、第4世代。──刹那の内に空中へと飛来し、遥か青い空の彼方へ駆け抜ける紅白の三機体。期待を背負い、不安を切り裂く飛翔が執り行われ、現場へ急行、作戦開始の合図となる
「くぅうぅうっ──!!」
第4世代である紅椿の加速は尋常でないものだ。目すら開けられず、肩にかけた手を離さぬようにするのに精一杯な有り様であるイチカが、なんとか片目を開け飛来し続ける紅椿を、心から称賛する
「すげぇよ・・・紅椿・・・!」
「オルガの真似?凄いね、モップ」
「姉の腕前は確かだ。腕前は、な・・・舌を噛むなよ、二人とも!」
言葉少なく、猛進を続ける紅椿。単純な速度ではやや勝るバルバトスだが、高速の切り替えによる、瞬発力を活かした跳躍飛行、つまり技術にて最新のISを擁する紅椿に追従を果たす。センスと腕前は、ISの世代差すら覆している。イチカはその姿にも、心から感嘆を表す
「すげぇよ、ミカも・・・!」
「別に、普通でしょ」
「無駄話は終わりだ。暫時衛生リンク確立。情報照合完了。目標の現在位置、確認」
『福音』の飛来速度、移動位置、距離を算出し、その機体を制止させる準備に入る。更に加速を進めるホウキ、射撃武器を展開し、迎撃を行う三日月、そして──
「──行くぞ、二人とも」
「解った」
「頼む、ホウキ!」
猛烈に加速を行い、福音を目視の距離にまでとらえ込む三人。──目の当たりにする、銀色にて高速飛行を行うターゲット。見間違うはずもない。あれが──
「あれが、『シルヴァリオ・ゴスペル』か・・・!」
「ふーん・・・無人かな、あれ」
殺気のようなものは感じない。どうやら本当に暴走しているだけのようだ。ならばこそ、容赦も加減も必要はないと三日月は判断する。やり易くていい、と
「更に加速するぞ、接触は十秒後だ!」
いよいよ以て最高速に達する赤椿。体を起こし、自らの武器たる光剣を展開し一撃の下切り捨てんと決意するイチカ。白銀の機体に肉薄、必殺の一撃を叩き込む。作戦の本懐を果たさんがため、彼は気迫の咆哮と共に構えを取る
「うぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉお!!!」
あと一息にて、一刀両断──なれど、福音の対処、行動もまた凄まじいものであり、一筋縄では行かぬ対抗と機動手段を執り行う
身体全体で振り返り、猛烈な加速にて太刀の間合いから離脱。激烈な加速にて、戦闘危険領域より離脱する
「逃げたよ、どうする?」
「勿論、止まらないで押しきる!ホウキ!!」
「任された!」
紅椿ならば追い縋れる。一度は気付かれ逃げられようと次はない。最大出力、白式、紅椿が共に白銀を落とさんと翻り二の太刀を叩き込む
「はぁあぁあぁあぁぁあぁ!!!!」
[──]
そのIS──福音はその行動を予測し、把握し、計算し、理解した。機動を読み、出力を上げ、再び危険な間合いから離脱し反転飛行し距離を離す
「またかわした!?」
「任された」
三日月のバルバトス・ルプスが逃がさず、すれ違い様に一撃を与える。初のクリーンヒット、だが浅い。身を捻り、致命傷を避けたのだ。だが──態勢は、確実に崩れた。瞬間の空白を、三日月がマッチメイクにてお膳立てを行う
「イチカ!今だ!!」
「おう!!──ッ!?」
止めを刺さんとしたイチカの目に──海に浮かぶ物体が映り込む。それは船──この場にいるべきではない筈の、しかし人が必ず乗っている・・・
銀の福音が反転し、無数の青き弾幕にて攻撃に転ずる。それらは問題なく弾き落とせるモノだが・・・イチカは、そこから動く訳にはいかぬ理由が出来てしまった
「はっ!ふっ!!」
太刀にて、流れ弾と危うい機動の弾幕を叩き落とし受け流す。なぜ此処にあるか、封鎖した海域に何故船が進んでいるのか──そんな事は、イチカにはどうでもいいことだった
「何をしている!?折角のチャンスを!?」
「密漁船がある!海域封鎖した場所に船なんてそれくらいしか考えられない!」
「──死んでいい奴等なの?」
猛烈に攻勢に転じる福音。今度はこちらが足並みを崩される事となる。無数に放たれる青い弾幕を三日月が射撃にて叩き落とし、福音に追従し二人を護り抜きながら状況を好転させる為に奮闘を行う
「奴等は犯罪者だ!構うなイチカ!!」
「いや!!どんな奴だろうと、命を見殺しにするのは筋が通らない!」
放たれる福音の弾幕。それらを直撃コースから護り続ける白式。その行為は断じて効率的に非ず、その行為は犯罪を幇助する事にすらなりかねない行為だ。それでも──
「筋と義理だけは、鉄華団に恥じない筋は通さなきゃ・・・!命を見捨てて作戦を優先だなんて、オルガは絶対にしないはずだ!」
その気高くも愚直、そして無鉄砲な振る舞いは──生命の無事と共に、残酷な現実を突きつける
「ッッ!エネルギーが・・・!」
太刀の光が消えていく。むやみやたらと振り回した英雄的自己犠牲のツケが此処に払われる。丸腰となり、福音の攻撃に対応できぬ致命的な隙をイチカは晒してしまう
[──]
その隙を見逃す存在では無かった。更に放たれる弾幕。冷静に残酷に、勇敢なる愚者を海の藻屑にせんと放たれ撃ち込まれる無数の弾幕
「イチカ──!!!」
福音に吹き飛ばされていた紅椿は、フォローが叶わない。明確にやってくる死の予感。イチカの身に、一秒先に振りかかる非情なる結末。ホウキを絶望が、イチカに真っ白な光景が飛び込んでくる。──それは全ての終幕。致命的な終焉。訪れし、生命の断絶。誰も、それを覆すことは出来ない。人間の手では、定まった運命は覆せない
──そう。人間の手では
「イチカ!!」
その結末を良しとせぬ者が一人いた。その未来を許せぬと叫んだ者がいた。誰よりも強く、誰よりも優しき一人の──悪魔がいた
「なっ──!!」
突き飛ばされる白式。イチカの視点が反転する。直撃コースから弾き飛ばされる。目の前が明滅する。乱回転しながら、それでも眼に映った、イチカの眼に焼き付いた光景
「──オルガに言っといて。ごめんって」
「ミ──」
瞬間、巻き起こる大爆発。直撃を示す衝撃。空に浮かび上がる大輪の華、生命を散らす、目映き花火
「三日月ッッ!!!」
ホウキの加速も届かない。爆散し、装甲を弾き飛ばしフレームを剥き出しにしながら、落下していく悪魔
──悪魔は、人の運命を左右する。契約にしたがい、良き方にも、悪い方にも
「・・・うそだ、そんな──」
悪魔は──三日月は契約した。IS学園の皆を必ず護ると。その契約に従い──
上がる水飛沫、沈んでいくバルバトス。そして、悪魔と命運を共にする──心優しき風紀委員
「──なに、やってんだよ!!ミカァアァアァアァーーーッッッッ!!!!!」
慟哭と、絶望に絶叫するイチカ。放心し、愕然とするホウキ。そんな中──
『・・・・・・良かった。イチカもモップも、無事みたいだ』
激痛も虚無感も脇にやり、無事であった二人を最期まで案じながら──悪魔は己の身を引き換えに・・・友の運命をねじ曲げたのだ
『・・・──風紀委員として、少しは役に立てたかな・・・』
運命を覆した代償を、余さず肩代わりし、背負いながら──三日月は、水に漂うな浮遊感と虚脱感に身を委ねた──
ラウラ「そんな、嘘だ・・・!!三日月が、ミカが、そんな──!」
チフユ「すぐに回収だ!急げ!何をしている!三日月を救助しろ!説教も後だ!!」
オルガ「──・・・ミカ、お前・・・!!」
ラウラ「ミカ!!ミカ!!返事をしろ!返事をしてくれ!!」
チフユ「ボーデヴィッヒ・・・」
「何をしている!大丈夫だと、問題ないと言ってみろ!いつもみたいに、私を安心させてくれ!頼む、頼む・・・!お願いだ、返事をしてくれ!」
シャル「ラウラちゃん、落ち着いて・・・!」
ヤマダ「三日月の生体反応、微弱で掴めません!周辺地域を探索してください二人とも!予想地点を送ります!」
「何をしている・・・!最強だろう、無敵の風紀委員だろう・・・!私の嫁だろう・・・!夫を残して先立つ嫁など、何処にいる・・・!」
オルガ「・・・・・・」
「返事をしろ・・・!私の!夫の言うことが聞けないのかぁっ!!ミカあぁあぁあぁっ!!」
『・・・・・・・・・』
「うぅ、っ、うぅ・・・嫌だ、嫌だ・・・頼む・・・返事を・・・声を、聞かせてくれ・・・」
『・・・・・・──それ・・・』
「!!」
『・・・どめすてぃっく、ばいおれんすって・・・言うんだよ、ラウラ・・・・・・』
「!!ミカ!!」
「通信、生体反応掴めました!!二人とも!急行してください!!」
『・・・・・・──────』
「ミカ!ミカ!!しっかりしろ!今、今救う!死ぬな、死ぬな、死ぬな・・・!!」
「・・・・・・すまねぇ、ミカ。・・・おんぶにだっこのツケを・・・お前に・・・背負わせちまった・・・」