インフィニット・オルフェンズ!   作:札切 龍哦

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仕事の深夜帯が終わったので初投稿です


旅館

ミカ「・・・・・・」

イチカ「・・・・・・ミカ。──俺は・・・」

「・・・」

「・・・俺は、どうすればいい。今まであんだけかっこつけてたくせに、招いた結果がこれだ。こんなザマで・・・俺に何ができるんだ・・・」

「・・・・・・──」

「俺は・・・次は、何をすればいいのか・・・わからなくなっちまった・・・・・・」

「────決まってるでしょ」

「!?ミカ!?」

「──大事な、この世界の仲間を・・・護る。友達を・・・護る。そのために、止まれない・・・止まっちゃいけない」

「ミカ!動くな、傷が──ピギュッ!?」

「──・・・・・・」

「・・・ねぇ、イチカ。此処が、イチカの場所なの?」

「・・・ミカ・・・」

「──ここが、オリムラ・イチカの場所なの」

「──・・・・・・いや」

「・・・・・・」

「・・・違う。きっと・・・いや、絶対に違う!」

「・・・そっか。なら・・・行かなくちゃ。先に行ってていいよ」

「!」

「すぐに・・・追い付く」

「──あぁ・・・!じゃあ・・・先に行く!必ず来いよ!待ってるからな!」

「うん・・・」




マクギリス「さて、禁忌の力、どう使うのやら。見せてみろ、君達の可能性を」

タバネ「ミッキーはくたばってるし、マッキーも負傷してるし、イチカの活躍は決まったようなもの!フフー、気分イー!」

マクギリス「さて、そう上手くいくかな?」

キラ「・・・マクギリスさん?」

「悪魔は義理堅いものだ。一度交わした契約を、途中で投げ出したりなどすまい、という事だよ──」

「何それ、ポエミー!」


反撃開始と行こうか!

暴走し、何者の制止も意に介さず単独行動を続け飛来し飛行する無人IS『銀の福音』。その脅威と圧倒的性能の前に、三日月・オーガス、そして精神に強烈なショックを受けたオリムラ・イチカが戦線離脱を余儀無くされ、大幅な戦力ダウンと共に、任命された討伐、破壊指令は失敗した。だが、討伐の命令はまだ取り下げられてはいない。必ず、断固とした作戦の完遂を上層部は求めている。それ故に──

 

いや、それは最早彼等にはどうでも良かったのだ。そもそもの話、それはあくまで他人のものであり、命令であり、そして伝えられたものだ。それを遂行する事に異論は無くとも、遵守するつもりも、素直に従う賢さも。──仲間の受けた借りを叩きつけ返すという理屈の前に、全ては二の次となっているのだ

 

(当然、防がれるか・・・!)

 

ラウラ・ボーデヴィッヒの放った遠距離射撃の一撃を難なくフィールド、絶対防御で防ぎきり、同時に外敵、脅威を認識した『福音』は、その銀のフォルムを展開し迎撃、そして殲滅の構えを取る

 

臨むところだ。ラウラは決意と使命に燃え、続けて砲撃を行う。その胸の感情を、弾丸に乗せるが如く連続にて間断無く

 

(何としてでも、貴様を倒す・・・!)

 

あの時、自分は致命的な失策を犯した。命令に、そして作戦という規律に阻まれ、嫁を単独で死地に送り込ませるという愚策を取ってしまった。あまつさえ、夫である自分はあろうことか殊勝にも『無事を祈る』等という甘ったれた女々しい手段にて夫の本懐を果たしたと思い上がっていた

 

償えぬ失態だ。愚かにも程がある選択だ。あの時自分は決定的に間違えた。何を差し置いてでも、何を犠牲にしてでも『共に往く』事を選ぶべきだったというのに。──夫の不甲斐なさの報いを、嫁たる三日月に押し付けた。それは決して、赦されざる失態である。何より自分が、自分自信を許せない

 

自らの怒りが、福音の機動性が射撃を無効化させていく。回避を繰り返し、猛烈に接近する福音を前に──ラウラは、その禁忌の封印を解く

 

(排除する──。私の生命に懸けて、貴様を討つ)

 

左目の眼帯を解き、秘められたISの力と真価を完全に解放する。ヴァルキリー・トレース・システム。過去のとある操縦者のデータを完全再現する条約にて禁止されている切り札にして奥の手。それを、躊躇いなく使用する。今度こそ、今度こそ──

 

「どんな手を、使ってでも・・・!貴様が──」

 

フォルムすらも変化し、紅き単眼、漆黒の人型、装着式フルアーマーモードとなったラウラのIS。それは三日月達の世界、モビルスーツとされるフォルムであり──とある悪辣な存在が得たデータを適当な失敗作を捨て駒に試してみようという目論みにて変化した『グレイズアイン』と呼ばれる形態に変化する

 

「貴様がぁあぁあぁ!!」

 

其処からのラウラの動きは目を見張る──いや、目で追うことすら困難な程の駆動と機動性を誇り、福音と熾烈極まりない激突による空中戦を演出する。操縦者の限界を越えた機動にて、無人たる福音に追い縋る。人間の意地と気迫が、今こそ虚ろな福音を遮断せんと奮い起つ

 

「おおぉおっ!!」

 

左肩を福音に貫かせ、自らの肉体を囮に渾身の一撃を、ハンドアックスの一撃を顔面に叩き込み、頭突きにて距離を離し、空中回転カカト落としにて福音を墜落落下させる。黒き執念が、白き福音を放つ存在を地へと落としたのだ

 

「ナイス!かかった──行くよ、オルコットさん!」

 

「えぇ、三日月さんにイチカさんの無念を返してやりますわ!風紀委員──侮らないことですわね!」

 

オレンジと蒼のIS、セシリアとシャルロットの無数の弾幕が体勢を崩した福音に叩き込まれていく。効果は薄くとも、直撃をすればそれなりのダメージとなると判断した福音は即座に転身し、その場からの離脱を図り飛翔せんとする

 

「そう来ると思った!──オルガ!」

 

『おう。──ぶっ潰す!』

 

その行動は、シャルとオルガの事前の戦術、行動予測のパターンの一つに含まれたもの。数多ある行動予測から導きだしたもの。予測に予想を積み重ねた無人機の無味乾燥な機動は、血の通った人間の予測を上回れない

 

獅電のレールガンが、一直線に駆け抜けていく。皆が作ったチャンスに畳み掛けるための一撃を、勢いを止まらせぬ為の一発を。福音の身体に狙いをつけて叩き込んだのだ。それは──今まで辛酸を舐め続けたオルガの反撃。けして止まらない男の、気合いの一撃だった

 

大きく体勢を崩す福音、海上をスレスレに飛行していく。ダメージは確かに受けたと視認できる。致命的な損害を叩き込むことは出来たのかと固唾を飲みながらも連携を崩さない

 

「まだよ!でも、ここがチャンス!」

 

「うぅぉおぉおぉおぉおぉおぉお!!!」

 

龍咆にて回避に専念させ、その隙をラウラが追従し押し込む。援護射撃の最中、福音に真っ向から格闘を仕掛け、戦況を確定させていく

 

(無理はするんじゃねぇぞ、お前ら!俺達は負けちゃいけねぇし、死んじゃいけねぇんだ!)

 

オルガの願いが戦場に解けていく。閃光と軌跡が、絶え間無く夜空を彩っていく中──

 

その戦場に馳せ参じようとする、駆け抜ける一人の男が懸命に走っていた。先程まで、廃人寸前までに塞ぎ込んでいた者。しかして、今までの研鑽と奮闘、そして激励にて奮起し、折れようと、それでも──と立ち上がったもの

 

 

(そうだ、そうだよな。友達を・・・)

 

いや。そうじゃない。友達だから助けるとか助けないじゃない。友達だからとか、友達じゃないからとか、そんな取り決めや枠組みは関係ない

 

(いや、この世界で一緒に戦う・・・仲間を護るため。その為に、辿り着くまで止まれない、止まっちゃいけない。そうだよな、それが・・・)

 

鉄華団。それが、けして散らない鉄の華。自分が信じ、自分が憧れ、自分が目指した生き方。ならばこそ、立ち止まってはいられない。迷ってはいられない

 

『止まるんじゃねぇぞ・・・』

 

そうだ、醜態がなんだ。無様がなんだ。まだ死んだ訳じゃない、動けなくなった訳じゃない。このくらいの負傷、なんてことはない

 

自分は知っているはずだ。何度瀕死になろうと、死亡しようと、文句一つ言わずに戦い、皆を引っ張ってきたカッコいい男を。そんなアイツに憧れて、自分は立派な男になろうと決めたんだ

 

(悪い、ミカ!後で死ぬほど謝るし、撃ち殺してくれても構わない。だけど、今は・・・!)

 

そうだ、止まってはいられない。男がやることは、挫けて立ち止まることじゃない。皆が戦っている今、自分が成すべき事を成すんだ

 

己の、翼はまだ──折れていないのだから

 

「──白式!今までヘタレて悪かった!」

 

左手の腕輪に語りかけ、そして告げる。もう一度──

 

「もう一度──俺に力を貸せ!」

 

輝く翼が、今、再び光を取り戻し飛翔する・・・

 

 

──・・・・・・そして同時に。部屋の一室にて、蠢くものがある

 

「・・・・・・まだ」

 

這いずりながら、よろめきながら、自らの肉体を、心を、懸命に前に進ませる者がある

 

「まだ──生きてる。オルガの、命令・・・皆が、待ってる・・・」

 

火傷、脱臼、筋肉の損傷に骨折。瀕死の重症を負い絶対安静でありながら、それでも尚足掻く者がいる。這い上がり、懸命に這いずり続け、ミサンガに──自らの誓いの存在に、手を伸ばす

 

「──オルガ。俺達の、本当の居場所は、きっと・・・」

 

その消え入るような声音と、正反対の眼の輝き。同じ時刻にて、全く同じ様に。二人の少年は手を伸ばす

 

「・・・風紀、委員と・・・して。やること、がある。・・・ラウラ。今、行くから──」

 

翼が羽ばたく。悪魔が目覚める。戦慄の福音が鳴り響く中に、最後の決着を付けるために──

 

 




ホウキ「うぉおぉおぉぉおッ!!!」

福音[──]

斬りかかった刀を難なく掴まれ、そのまま高所へと離脱に巻き込まれんとするホウキ

ラウラ「ホウキ!武器を捨てて離脱しろ!」

「ちいっ──!」

光弾の追撃が目前に迫っている。撃墜と負傷は避けられない。──だが

オルガ「離しやがれ!!」

ラウラとオルガの援護、射撃と格闘の同時攻撃。渾身のハンドアックスの振り下ろしを受けた福音は、今度こそ撃墜、墜落する

オルガ「シノ!」

「・・・無事か?」

ホウキ「・・・私は、大丈夫だ」

オルガ「そうか。──此処までは順調ってこった」

・・・だが、その束の間の安堵は即座に覆される。水色の光球が、海の最中に生まれ出ずる。翼を展開し、極大のエネルギーを光線として放つ

オルガ「出てきたぞ!なんなんだありゃぁ!」

「まずい、セカンドシフトだ!!」

ホウキ「ッッ、ラウラ、オルガ!退けっ!」

咄嗟に突き飛ばし、オルガらを庇うホウキ。その極大の光線の直撃を受け、強烈に吹き飛ばされる

「シノォオぉお────ッ!!!!!」

セシリア「ホウキさん!!」

シャル「オルガ!足を止めちゃダメ!!」

追撃に走る福音。超高威力の光線に晒されんとするオルガの前に割って入り、その身をもって受け止める

シャル「くっ、うぅうっ──!!」

光線を放ちながら急速接近する福音。近接の構えにて、翼を展開しシャルを包まんと襲い来る

「あっ──!」

「──俺の仕事だ!!」

光線を受け止めたシャルを後ろに放り投げ、シャルが食らう翼の抱擁に、オルガが呑み込まれる。

「オルガっ!!」

「ヴうぅうぁああぁあぁあぁあ!!!」

その強烈な衝撃と猛烈なエネルギーに飲み込まれたオルガは、断末魔と共に希望の華を咲かせ墜落していく。ISを解除した、丸腰なままで

「このぉおぉっ!!」

シャルが捨て身の突撃で距離を離させ、素早くオルガを回収しホウキの下へと安否を確認しに飛翔する。とにかく下ろしてあげなければ、負担は尋常じゃない

「オルガ!しっかり、オルガ!」

「こんくれぇ・・・なんてこたぁねぇ・・・」


そして・・・ホウキもまた、朦朧とした意識にて、男の名前を呼ぶ

「・・・イチ、カ・・・」

イチカ「あぁ。悪い、ちょっとへたれてた。──待たせたな」

「・・・!?イチカ!?大丈夫なのか!?」

「おう!くよくよするなって、ケツを叩かれたからな!」

オルガ「──イチカァ!やれんだな!」

折れていた男、見習いのひよっこに発破をかける。その問いに、無言で頷くイチカを見て、一皮剥けたイチカを目の当たりにして──

「フッ──よぉしお前ら!!」

高らかに叫ぶオルガ。この場にて──最後の号令を告げる

「反撃開始と行こうかぁ!!」


「「「「了解!!」」」」


「よぉし、行くぞォ!!」

夜明けを間近にした戦い。最後の決戦。鉄華団の、最後の大一番が幕を開ける──!

イチカ「じゃ、行ってくる」

「イチカ・・・」

「もう大丈夫だ。俺を・・・鉄華団の平団員を信じろ!」

その白き翼も、獅電と共に飛翔していく。男のけじめを、つける為に──!

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