死を告げる剣士は光を知る   作:ナナシの作者
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Hope in your Heart

 

「「シャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」」

「アリスッ! アリスッ!」

 

 

 襲い来る二本の首を避けながら《魂導龍》に取り込まれてしまった主の名を叫ぶが、彼女からの応答は一切なく、代わりにミデンの耳障りな高笑いが聞こえてきた。

 

 

「いくら呼び掛けても無駄だッ! アリスの魂は《魂導龍》に喰われ、完全に消滅しているッ! 貴様がどれほど彼女を求めても、彼女がそれに答えることはないッ!」

「……ッ! それでも、それでも俺はッ!」

 

 

 黄金の首から放たれた火炎ブレスを避けると、右側から包帯を巻かれた首がその鋭い牙で噛みつこうとしてくる。それも避けた俺がその頭に乗ってそのまま胴体へ向かおうとするが、《魂導龍》が大きく身震いしたことでバランスを崩してしまい、尻餅をつく。そこへすかさず《魂導龍》の巨体が迫り、押し潰される寸前になんとか抜け出すが、それを待っていたかのように頭上から毒々しい色をしたブレスが吐かれる。それも間一髪で龍人化して張った龍脈の障壁で防いで飛び退く。飛び退いた俺が見たのは、さっきまで俺が居た場所を除いた、毒液がかかった地面が鼻が曲がるような悪臭を放ちながら溶けていく光景だった。

 

 

「シュウウゥゥゥ…………」

「シャアアァァァ…………!」

 

 

 毒液に含まれるあり得ないほどの毒素に驚愕しながらも警戒を怠らない俺を見ながら、チロチロと舌を覗かせながらコブラに酷似した太古の龍はその二つの首を絶え間なく動かしながら攻撃を仕掛けるチャンスを伺ってくる。

 

 

「そいつの吐く毒液に含まれる毒素はあの《棘白竜》エスピナス希少種の数倍の威力を誇る。直撃はおろか、掠っただけでも即死だぞ? さぁ、恐怖を抱いて逃げ惑え。それとも、その恐怖を振り払ってこいつを狩るか? 尤も、そうしたところでアリスは助けられないがな」

 

 

 逃げ続けていればいずれ疲労が襲いかかり、俺はアリスを救えなかったという絶望を抱いてこの命を終える。もし討伐したとしても、その拍子にアリスもその命を終え、同じ絶望を抱くことになる。しかもそれは、生きている限りずっと続くもの。どちらへ転んでも、《魂導龍》の奥に居る男の目的は果たされてしまう。まさに、八方塞がりだ。

 

 いったいどうすればと動きを止めた瞬間、双頭が俺を殺すべくその首を伸ばしてきた。

 

 左右からの挟み撃ち。避けようもしても、この距離では間に合わない。

 

 一瞬でも気を抜いてしまったことに後悔している間にも、牙は迫り……

 

 

「「ガァアアアッ!?」」

「……ッ!?」

 

 

 俺の目の前で左右の頭が激突し、攻撃が失敗した双頭は素早く俺から距離を取った。

 

 

(俺を殺し損ねた……? いや、俺に反撃されたと勘違いしたんだ。でも、空中衝突……しかも自分の頭同士で?)

 

 

 違和感を覚えた俺は、すかさず繰り出される攻撃を受け流しながら頭を回転させていく。

 

 二つの頭を持つ生物はそれぞれの頭にれっきとした脳を持っており、それぞれの考えることを行動に反映させる。それによって互いの頭で喧嘩することがあるらしいが、目の前の龍は竜大戦の時代から生きているのだから、そんなことは決して起こることはないだろう。ならば、なぜ俺を仕留め損ねたのか……?

 

 答えはもちろん、『脳の統率が出来ていない』だ。だが、先も言った通り、竜大戦時代から生きているのだから、そんなことは起こるはずがないのだ。となると、なぜ空中衝突が起きたのか、答えはたった一つ。

 

 

「アリスは……生きてる……!」

 

 

 いくらミデンでも、アリスの内部に埋め込んでいたであろう《魂導龍》の魂を操ることは出来ても、逆に龍の内部に取り込まれたアリスの魂を感知することは出来ないはずだ。『アリスの魂は喰われた』とは、俺の心を折れやすくするための嘘。

 

 《魂導龍》から溢れ出る力の奔流を遡っていき、核となったアリスの存在を探す。

 

 それから数秒と経たずに、俺はアリスを見つけた。

 

 俺に攻撃してくる双頭の根本。その間に位置する微かな隙間から、アリスの存在を感じる。

 

 

「見つけた! 後は……!」

 

 

 俺は龍人化したことで変異した双剣を引き抜く。それを見たミデンが息を呑み、《魂導龍》に命令を飛ばす。

 

 

「《魂導龍》ッ! 貴様の核である少女を護れッ! いいか、それがなくなれば、貴様は今度こそ死ぬぞッ!」

「「シャァアアアアアアアアアアッッッ!!!」」

 

 

 龍もアリスの存在が自分にとってどれほど大切なものかを自負しているようで、俺をアリスの元へたどり着かせまいと毒液を吐いてきた。それを俺は強く輝いた双剣を振るって弾き飛ばし、翼を広げる。

 

 

「アリス……もう少しだけ待っててくれ。必ず、お前からそいつを引き剥がしてやるッ!」

 

 

 天井近くまで飛んだ俺目掛けて迫る黄金の首を受け流し、片方から迫ってくる包帯の首を斬りつけた。

 






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