死を告げる剣士は光を知る   作:ナナシの作者
<< 前の話 次の話 >>

21 / 83
A person with the name of the goddess of the moon

 

「なぁクロウ、ナンパしに行こうぜ」

 

 

 アリアに母上として甘えさせてもらった翌日、朝食を取り終えた俺にハヤトが誘いをかけてきた。

 

 

「『なんぱ』……? なんだ、それは」

「これから城下町に繰り出して、可愛い女の子と一緒に遊ぶんだよ」

「興味ない。一人で、行け」

「つれねぇなぁ。俺とお前の仲だろ?」

「まだ、半月も、経っていない。それに、それを、して、俺に、なんの、メリットが、ある?」

「一緒に狩りに出て、同じ釜の飯を食ってんだから、俺はお前のこと、もう友達だと思ってるんだがな。メリットかぁ……。やっぱ、可愛い女の子と遊べるってこと?」

「ならば、一層、興味は、ない」

「そんなこと言わずに、とりあえず一回付き合えよ。それで決めてみようぜ?」

「……仕方ない」

 

 

 もしかしたらそれにも、人間の素晴らしさというものがあるのかもしれない。それに、昨日のことを思い出すと、今日一日は恥ずかしくてアリアと顔を合わせられない。自分でも意外なほどに、俺の精神は幼かったらしいが、それも仕方のないことだ。

 

 見た目こそはハヤトたちと歳が近い見た目であるが、俺はまだ生まれて一ヶ月も経っていないのだから、ああして甘えたくなってしまうのも納得のいくものだ。

 

 チラリと視線をハヤトの後ろへ動かすと、父親と話しているアリアが見えた。アリアの視線と俺の視線が交差すると、彼女は慈母のように温かな笑みを浮かべて手を振ってきた。その優しい笑みに、昨日の恥ずかしい記憶が蘇り、顔が真っ赤に染まるのを感じながら、こちらも手を振る。

 

 

「どうした? そんなに顔真っ赤にして」

「な、なんでも、ない」

 

 

 慌てて恥ずかしい気持ちをねじ伏せ、こほんと気分を入れ換えるために咳払いする。

 

 

(おかしい……。なんだ? この胸の高鳴りは……)

 

 

 胸に手を当てると、いつもより心臓の音が高く、そして早いのが感じ取れる。これまで一度も、こんなことは……いや、ある。

 

 ワクワクだ。これはワクワクと同じ胸の高鳴りだ。しかし、それとはどこか違う気がしないでもないが、今の俺にある知識には、それしか思い当たらない。

 

 

「行こう、ハヤト。ワクワク、してきた」

「よしきた! んじゃ、早速行こうぜ!」

 

 

 ぱあっと表情が明るくなったハヤトは、俺を引きずるようにして城下町へ繰り出した。

 

 

「ねぇ、お姉さん。もし暇なら、俺たちと遊ばないか?」

 

 

 さて、これで二十回目だ。女性たちの軽蔑の視線がハヤトに向けられるのは別に構わないが、付き添いできたとはいえ、それが俺にまで向くのは勘弁してもらえないだろうか。

 

 

「諦めろ、ハヤト。これ以上、しても、虚しい、だけだ」

「いいや! まだだ! 今日は上手くいかないだけだ! 成功する時は必ず来るッ!」

「やめろ、見苦しい」

 

 

 これまでの女性同様に軽蔑の視線を向けると、ハヤトは「やめろやめろ」と片手をひらひらとさせる。

 

 

「お前までそんな目すんなよ……。女はともかく、男にそんな目で見られたくはねぇ」

「女に、この目で、見られるのは、好きなのか?」

「あぁ、好きだね。かなりってわけじゃねぇが、軽くなら快感を得られる。少し前からそういう本を読んでてな。色んなジャンルがあって楽しいぞ?」

 

 

 お前も読むか? というハヤトの誘いを丁重にお断りし、近くにいる女性を指差す。

 

 

「あの、女は、どうだ?」

「ほぅ、中々の美人だな。お前、見る目あるじゃねぇか。後はその途切れ途切れの口調をなんとかすればいいな。そんじゃ……」

 

 

 陽気にハヤトがこちらに背を向けている女性に声をかけると、女性はそのポニーテールにまとめた銀髪を揺らして振り返った。

 

 

「私になにか用かしら?」

「綺麗な銀髪のお姉さん♪ 暇なら俺たちと遊ばないかい?」

「あら、ナンパ? 今時珍しいわね。……あら?」

「ん? なんだ?」

 

 

 ポニーテールの女性は俺を見ると、その緑色の瞳を細めた。

 

 

「……いえ、なんでもないわ。……それで? 貴方たちは何回失敗したの?」

「二十回目」

「そんなにも!? 根性あるわね……。いいわ! その誘い、乗ってあげる!」

「ま、マジか!?」

「えぇ、貴方たちのその根性を称賛してね。だけどその根性を見てると、アイツを思い出して仕方ないんだけど……。アイツったら年がら年中暑苦しくてうるさくて……、ほんっっとうにムカつくのよッ!」

「そ、そうなのか……」

「こほん。取り乱してごめんなさい。それじゃあ、どこに連れてってくれるの?」

「そんなもの、ノープランに決まってるだろ? 歩きながら決めるのさ」

「あら、自由なのね。お姉さん、そういう子好きよ」

「おや、そいつぁ嬉しいね。……そういえば、お姉さんの名前は?」

「私はルナよ。貴方たちは?」

「俺はハヤト! ここにいる間は違うが、ハンターだ。まだ新米だけどな」

「クロウ。……一応、新米」

「へぇ、貴方たち、ハンターなの。私もハンターなのよ。同じハンター同士、仲良くしましょ?」

「おう! よろしくな!」

 

 

 思わぬ幸運か、ナンパに成功した俺たちはルナを加えて、なにをしようかと話し合いながら歩き出すのだった。

 








※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。