ヤンデルモンスト〜書いたら出るを添えて〜   作:千銀

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卑弥呼に同族加撃厳選してたら最強になりました。

同族加速特L
速必殺特L
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焼き尽くすほどの愛と凍てつくほどの責任(卑弥呼)

 

子供の頃、ニュースで笑顔で手を振る有名人や世界的アーティストを見て『有名ってことは幸せなことなんだろうなぁ』と思った。

 

だが違った。有名ということはそれだけ辛いことでもある。

 

だから俺は普通の人間になろうとした。特に有名にもならない平凡な一般人に。

 

でも…それでも有名になってしまうことがある。

 

 

 

 

 

それは……

 

 

 

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冷水のシャワーを浴びて体を冷やす。冷たい水が肌に沁みた。水風呂に浸かってさらに体を冷やした。

 

ゆっくり浸かっている中、愛しい彼女のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて彼女を……卑弥呼という人を見たとき、俺は少し拍子抜けした。

 

 

「こんにちは!」

 

昔教科書でよく見た写真とは違い、彼女は意外にも明るく、意外にも無邪気で、意外にもよく人と関わっていた。

 

卑弥呼という人は、鬼道、つまり呪術を使い国を作り支配し、弟以外の人間と関わりを持たなかったことで有名な人だ。

 

神のお告げを聞き、気象を当て、占いをして結果を民に教えた。

 

だが違った。呪術を使う事は正しかったが、彼女はとても人とよく関わり、優しく、そしてよく笑った。

 

おそらく本来の彼女の性格はこんなにも明るかったのだろう。国がそれらを禁じ、今の印象を持たせたのだ。

 

 

「これはなんですか?」

 

「ああ、これは釣竿です。これで魚を釣るんですよ。」

 

「これでお魚が釣れるんですか⁉︎」

 

「……やってみます?」

 

「はい!やりたいです!」

 

彼女は何にでも興味を持った。野山を駆け回り虫を沢山採ってきたり、プールに行ってウォータースライダーを何回も滑ったりしていた。

 

彼女の『やってみたい』で俺の休みの日の予定は全て決まっていた。その日は川で魚釣りをした。

 

 

「かかってますよ。」

 

「えっ⁉︎ど…どうすれば……。」

 

「竿をあげて魚を寄せてください。」

 

「は…はいっ!う〜〜〜ん。」

 

「よし………はい。釣れましたよ。」

 

「やった!お魚ってこんなに力が強かったんですね!」

 

「ハハァ…。」

 

彼女のお陰で家にこもってばっかりだった俺も次第に外へ行くのが楽しみになって行った。

 

そして、きっかけは彼女からだった。

 

 

 

 

 

 

「最近、あなたといるととっても嬉しい気持ちになるんです………。」

 

「弟といる時よりも、沢山の供物を貰った時よりも、比べられないくらいのこの気持ち……。これはなんでしょうか?」

 

それは、今思えば彼女に教えるべきではなかったのだろう。その時の俺は考えてもいなかった。なぜなら……

 

 

「それは恋ですね。一緒にいると嬉しくなったり、1人でいると寂しくなったり、そしてそれは、同じ気持ちの2人でならもっと強くなる。」

 

俺も同じ気持ちだったからだ。彼女は頬を赤く染めて笑った。

 

 

 

 

 

「じゃあ……私は…………あなたに恋をしています。一緒にいると嬉しくて、1人になると寂しくて、だから……一緒にいてくれますか?」

 

俺の答えはすぐだった。

 

 

 

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水風呂から出て、優しく肌を拭く。夜も遅いため眠ろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ…ぁぁぁあああああああああああ‼︎」

 

(あぁ……始まった。)

 

彼女の叫び声を聞いて飛び上がった。急いで彼女がいる部屋へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女と正式な恋人となって半年ほど過ぎた頃、彼女は様子がおかしくなった。

 

彼女曰く、俺を見るとどうしても体に傷をつけたくなってしまうらしい。

 

それを言った彼女は、嫌われると思ったのか急に泣き出してしまった。

 

俺は彼女に大丈夫だと、嫌いになったりはしないと彼女を慰めた。

 

それでも彼女の欲求は治まることがなく、それでも嫌われると思い我慢し続けた。彼女の中で俺を自分のものにしたいという欲求と、俺を傷つけてはいけない責任感が生まれた。

 

有名な人は有名になる程責任が伴うようになる。街を歩くサラリーマンが政治を批判しても聞き流されるが、有名人が政治を批判すれば、それはテレビに流され全国に知れ渡る。

 

卑弥呼は太古の昔に君臨した邪馬台国の王だ。つまるところ一番責任感を感じやすい。民を傷つければ信頼を失う。そして国は崩壊する。そんな太古の昔の、周囲から見られているという凍てつく刃のような責任感が今の彼女を蝕んでいた。

 

 

 

 

そんな彼女が『恋』のさらに上、『愛』を知ってしまったら。

 

 

 

 

おそらく彼女の愛はとても重い。彼女にとって愛は自分と愛する対象以外の人の一切を排除し、縛り、傷つけ、永遠を誓い、完全に自分のものにするものだ。

 

そんな自分の欲望と責任感が波のように押し寄せ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに彼女は発狂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、舐めないでほしい。俺だって生半可な気持ちで彼女の思いに応えたわけではない。

 

だから俺は彼女を受け入れた。彼女の愛を、彼女の欲望を。結果、彼女が寂しくないように右目をくれてやり、背中は彼女の爪痕が黒く焦げた傷跡になって残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の部屋を開けると、肌を焼くような熱風が襲った。

 

卑弥呼。現代の字で正せば日巫女。その名の通り太陽の巫女。恐らく天照大神の神性を持ったであろう彼女のいる部屋は、難燃性の素材を以ってしても黒く焦げ付いていた。

 

 

「あ………あ……。」

 

彼女が虚ろな目で俺の方に手を伸ばす。抱きしめてほしいのだ。

 

 

「……………おいで…。」

 

彼女が抱きついてきた、その灼熱を帯びた手で俺の背中を焼いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はたくさん泣いた。愛するものを傷つける辛さと、傷をつけている責任を感じながら。いつしか彼女は泣き疲れて眠ってしまった。

 

 

「ふぅ……。」

 

部屋の空気を入れ替え、焦げを落とせるだけ落として眠る彼女に布団をかけた。

 

 

 

神よ、天照大神よ、もういいだろう。彼女は普通の女の子だったはずだ。もう……放してやってくれ。

 

昇る太陽が、俺を皮肉るように一層輝いた気がした。

 

 

 

 

 




獣神化の首もとの襟のモコモコが好きです。

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